気候変動や生物多様性などの環境課題や人口増加に加えて、地球の受容力や回復力の限界を超える経済活動が引き金となり、私たちは資源の有限性の危機に直面しています。資源を有効活用し製品のライフサイクルを通じて環境負荷を軽減させること、資源を循環させていくことを前提としたサーキュラーエコノミーの実現に向けてグリーンケミストリーを原則としたものづくりが期待されています。
資生堂は、2030年に向けた資生堂R&D戦略の3つの柱の1つの戦略として「Sustainability
INNOVATION」を重要な研究領域として位置づけています。その実現に向け、100年以上受け継がれてきた高い安全性と品質基準の遵守をベースに、独自の研究開発の理念「DYNAMIC HARMONY」の研究アプローチとして「Premium/Sustainability」を設定しています。製品の効果や上質なデザインや感触などから得られる満足感と、人や社会、環境への尊重・共生を両立させる、サステナブルなイノベーションの創出を目指しています。
資生堂は、皮膚科学やマテリアルサイエンスに関する100年以上にわたる広範な研究知見を応用して、安全で高品質な製品やサービスを開発し、社会に提供してきました。人々の健康と環境に対して真摯に向き合うため、製品開発(処方・容器包装)や社会的に疑義のある成分の使用についてまとめた製品開発ポリシーを公表しています。また、EUでのPPWR※1やESPR※2などの製品に関する規制動向を踏まえて製品を開発しています。
化粧品には自然由来原料が処方されていることから、サステナブルで責任ある原材料調達と使用は環境保全の観点で重要課題です。製品ライフサイクル思考に基づき、
限りある資源の有効利用や環境配慮、気候変動の対応、さらには生態系への影響の最小化に向けた処方/成分、容器包装、循環型のリサイクルモデルの開発に注力しています。
製品開発ポリシー/処方・成分についてはこちら
資生堂は、グリーンケミストリーの原則に対応し、原料・成分の選定や処方開発を進めており、人体への安心・安全、環境負荷の最小化、自然由来原料やアップサイクル素材の活用、倫理的な調達に取り組んでいます。成分については、国や地域ごとの規制を遵守することに加え、原料における厳格な安全性だけでなく、環境への配慮や倫理的視点も含めた自社基準を設定し、選定しています。
現在、資生堂グローバルイノベーションセンター(横浜)をはじめとした世界6カ所の研究拠点で研究開発を推進し、安全性や機能性だけではなく環境にも配慮した原料調達や処方開発などに取り組んでいます。
化学物質に対する考え方についてはこちら
資生堂のScope 3におけるCO₂排出量は、原料調達の割合も多く、原料選定によるCO₂排出量削減が重要となっています。化粧品には自然由来原料が処方されていますが、資生堂は、サプライヤーと協力してCO₂排出量の削減に取り組み、グリーンケミストリーの原則に対応しバイオ原料への切り替えを促進していきます。
資生堂は、ちとせグループが主導する石油産業に代わる藻類産業の社会実装を目指す世界初の企業連携型プロジェクトMATSURI(まつり)に2022年より参画しています。光合成によりCO₂を吸収しながらタンパク質・脂質・炭水化物などを生成する藻類の活用は、CO₂の有効活用や排出量削減への貢献も期待されます。2023年、資生堂は藻類を利用した化粧品原料および化粧品容器にかかる原料開発および量産化、さらには食品産業に活用できる原料開発などを視野に、ちとせグループに10億円を投資し、研究開発を中心とした戦略協業契約を締結しました。資生堂は藻類が持つポテンシャルを最大化するために、パートナー企業間で連係して化粧品の脱化石資源を推し進めていきます。
MATSURIに関するリリースはこちら
人と生態系、そして地球環境との共生のため、資生堂はサンケア領域でのイノベーションを加速させています。気候変動などの環境変化によって、人が受ける紫外線量は増加すると予測され※1、また、紫外線を長時間浴びるとシミやしわなどの「光老化」の原因となることが知られています。美しい肌を守るために紫外線に対応したイノベーションが重要と捉え、新たな価値をもつ製品やサービスの提供を目指し、さらなる研究を進めていきます。
サンケア製品は海で使用されることもあり、環境への影響に関して企業として適切に対応する必要があると考えています。
資生堂は、大学や研究機関と共同で実施している紫外線防御剤によるサンゴ※2への生態影響に関わる研究と、海洋中での紫外線防御剤の濃度分布をシミュレーションした結果※3を組み合わせ、製品中の紫外線防御剤によるサンゴへの影響を精査しています。これらの結果は成分選定や、サンゴへの影響に配慮した処方設計へと活用され、「SHISEIDO」や「アネッサ」などのサンケア製品にも応用されています。
2023年には、化粧品成分が海洋生態系に対して与える影響を評価するため、任意の生態系を水槽内に再現する独自技術を持つスタートアップ企業の株式会社イノカとの連携協定を締結しました。海洋生物に甚大な影響をもたらすことが予測される「海水温の上昇」をはじめ、想定される未来の環境変化のシナリオを水槽に再現することにより、日焼け止めなどで使用している化粧品のさまざまな成分が、サンゴやその他の生物を含めた海洋環境全体に与える影響を評価しています。
資生堂は、動物愛護の理念への理解と尊重を前提に、化粧品に関する法規制を遵守し、安全で効果的な製品をお客さまに提供することを使命としています。1963年に安全性の研究部門を設立して以来、40年以上にわたり、動物を用いない代替試験法の研究に継続的に取り組んできました。2013年には、動物実験を完全に廃止し※、動物を用いない安全性保証体系へと移行しました。当社は、独自の厳格な基準を設けた安全性保証体系を確立し、社外のステークホルダーとも連携を図りながら、独自または共同開発した代替法の公定化に向けた取り組みを進めています。
2023年2月には、各国の化粧品メーカー、サプライヤー、業界団体、動物保護団体が参画して動物実験を行わない安全性保証の普及・実装を目的として発足した国際プロジェクトICCS((International Collaboration on Cosmetics Safety)に、資生堂は発足メンバーとして参画しています。
資生堂は動物実験代替法に関する技術・知見の共有や、関連企業・団体との議論や連携、各国・各地域レギュレーションへの働きかけを通じて、動物実験を行わない化粧品安全性保証の普及・実装を推進していきます。
動物を用いない安全性保証に対する取り組みはこちら
資生堂は、環境に配慮した、持続可能な原料の調達に取り組んでいます。特に、保湿剤や油分など、さまざまな用途で化粧品や日用品にも使用されているパーム油は、環境への影響も甚大といわれている成分です。資生堂は、パーム油の調達について中長期的な目標を開示し、サステナブルな原料への切り替えを進めています。
サステナブルで責任ある調達の推進はこちら
急激な地球環境や社会の変化に伴い、企業の社会的責任や環境対応、原材料に対する企業姿勢を重視するお客さまが増えています。資生堂は安全性に関する企業ポリシーの開示に加えて、環境や社会課題に配慮したブランドの製品開発・原材料対応を進めています。
アメリカで誕生し、40カ国で展開する「Drunk Elephant(ドランク エレファント)」は、持続可能で責任ある原材料の調達や、サステナブルなアクションを積極的かつ継続的に推進するクリーンビューティー市場において世界をリードする存在であり、ミレニアル世代やZ世代と呼ばれる若年層から高い支持を得ています。
2022年には、体の内外から健やかな美しさを目指す植物由来成分配合のスキンケアブランド「Ulé(ウレ)」をフランスで発売しました。「責任ある調達」「製品の有効性・安全性」「環境負荷の軽減」「透明性」を重視し、原料のトレーサビリティの明確化と輸送による環境負荷軽減のため、原料の自国調達と製品のすべての生産をフランス国内で行うとともに、原材料名や産地などをブランドサイトで公開しています。
気候変動や海洋プラスチックごみ問題などは、グローバルで喫緊に解決すべき環境課題です。世界では、国際的なプラスチック汚染を2040年までに解決するための「国際プラスチック条約(2022年にナイロビ国連環境総会で175カ国以上が承認)」の2024年内の締結が予定されています。資生堂は、使用する資源も元に戻し、資源循環させることで生態系への影響を少なくしていく循環型のものづくりを目指しています。生活者をはじめステークホルダーの気候変動や環境問題に対する関心はこれまで以上に高まると予想され、製品開発などを通じて社会の意識の変化に対応していくことは、当社の事業の持続可能性にとって非常に重要です。
資生堂は、独自の容器包装開発ポリシー「資生堂5Rs」※1に基づき、環境負荷を軽減し、サーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいます。
2025年までに100%サステナブルな容器※2を実現するという目標達成に向け、リサイクル可能・リユース可能な設計や、バイオマス由来素材・リサイクル素材の利用をはじめ、容器の軽量化、「つめかえ・つけかえ」容器によるリユースの促進、プラスチック以外の素材への切り替えを通じたバージン・石油由来プラスチック量の削減、単一素材容器の展開によるリサイクル適性の向上などの取り組みを行っています。※3加えて、生活者や外部パートナーと協働し、使用済みの容器を資源として循環させる資生堂のサーキュラービジネスモデルを構築していきます。
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資生堂は地球の資源が有限であるという前提に立ち、「資生堂5Rs」のポリシーに沿って、製品に応じた容器サイズの適正化、容器の軽量化や「つめかえ・つけかえ」容器によるプラスチック使用量の削減や環境負荷軽減を推進しています。1個当たりのプラスチック容器の平均重量は2019年と比較し、2023年は18%減少しました。
「つめかえ・つけかえ」容器は、使用する資源を削減するとともに、本体容器の再使用を促すことで、容器に使われるプラスチック総量を減らすことができます。LCAによる評価の結果でも、本体容器を使い捨てする場合と比較して「つめかえ・つけかえ」容器によって資源の投入量や廃棄物量が減り、CO₂排出量が大幅に削減されることが示されています。このように環境負荷軽減に大きく寄与する取り組みのため、資生堂は日本だけではなく、グローバルへの展開を広く推し進めることを目指しています。
資生堂は1926年に初のつめかえ用製品を発売して以来、スキンケア・メイクアップなど幅広いカテゴリーで「つめかえ・つけかえ」が可能な容器を開発してきました。2023年は、グローバルで31ブランド、約740SKUの「つめかえ・つけかえ」容器を提供し、プラスチック使用量削減による環境負荷軽減に取り組みました。例えば、プレステージスキンケアブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」では「つめかえ・つけかえ」容器の展開を拡大し、クリーム「ラ・クレーム」の「つけかえ」容器は、本体容器と比較して95%※1のプラスチック使用量削減になります。2023年は新たに「セラムラフェルミサンS n」をはじめ5品の「つめかえ・つけかえ」容器を発売しました。2023年の同ブランドの「つめかえ・つけかえ」容器の全体の売上は、2022年比で約23%増加しています。
2023年に発売した「IPSA(イプサ)」のルースパウダーでは、新たにレフィルを追加するにあたり、本体容器の耐久性を向上させ繰り返し使用が可能な容器設計を行っています。
また、環境負荷を軽減する製品のイノベーションにも取り組んでいます。世界88の国と地域で展開するブランド「SHISEIDO」から、2023年には、ボトル製造と中味液充填をワンステップで実現する技術LiquiForm®(リキフォーム)※2を世界で初めて化粧品に採用しました。LiquiForm®を活用した化粧品の「つけかえ」容器により、容器単体のプラスチック使用量※3を削減することができます。加えて、原材料調達・生産・使用・廃棄のサプライチェーン全体では、当社の標準的な従来の「つけかえ」容器(同容量)に対してワンステップ化によるエネルギー消費量の削減を含め、約70%のCO₂排出量を削減※4しています。日本だけでなく、中国などアジアの国と地域に広く発売することで、「つけかえ」の啓発と生活者の協力を伴った循環型社会へ向けた活動を強化していきます。
体の内外から健やかな美しさを目指すスキンケアブランド「Ulé(ウレ)」から2024年には「クレンジングジェルドリームオブピュア」の100%リサイクル可能な素材を使用した「つめかえ用」製品を発売しました。ボトルにつめかえることで、新しい同製品を購入するよりプラスチック使用量を23%、アルミニウム使用量を100%削減できます。
ラグジュアリーブランド「セルジュ・ルタンス」は2023年、サステナビリティとラグジュアリーを追求したフレグランスを発売しました。容器包装が環境に及ぼす影響に配慮し、レフィルは100%リサイクルアルミニウムでつくられています。
サーキュラーエコノミーの実現のためには、資源の再利用を想定した素材選択、製品設計が重要です。
資生堂は使い捨てプラスチックを削減するため、資源の再利用が容易な材料の使用と、デザイン性を損なうことなく簡単に分別ができる容器包装の開発を同時に推進しています。
「SHISEIDO」「クレ・ド・ポー ボーテ」などさまざまなブランドから、再生利用が容易な材料を使用した製品が発売されています。
資生堂では、気候変動や海洋プラスチックごみ問題の対応策として、リサイクル素材(PCR)やプラスチック代替素材、環境負荷の低いバイオマス由来素材の研究に加え、積極的な使用推進にも注力しています。例えば「クレ・ド・ポー ボーテ」と「エリクシール」においては一部の製品でリサイクル樹脂を使用しています。
「エリクシール」では、化粧水・乳液のボトル容器に、リサイクルPET 72%以上を使用しています。2023年にはグローバルサステナビリティ活動の一環として「肌も地球も、時を超えて美しくあってほしい」という願いを込めて、同じくリサイクルPET 72%以上を使用した「ドラえもん限定デザイン」の化粧水・乳液を発売しました。化粧水・乳液のつめかえ用を本体ボトルにつめかえて使用することで、85%以上のプラスチック使用量※1および、85%のCO₂※2排出量の削減につながります。
また、サンケアブランド「アネッサ」の外袋には植物由来のバイオプラスチック原料を一部使用しています。「樹木との共生」をテーマに掲げる「BAUM(バウム)」の容器には、家具の端材をアップサイクルした木製パーツを用い、一部容器への植物由来または再生プラスチック素材やリサイクルガラスなどを採用し、レフィル製品を配置するなど環境に配慮した製品を展開しています。
製品の2次包装の素材に関しても、プラスチック製を紙製に切り替えています。またドラッグストアなどをはじめとした小売店の店頭や売場で設置する、販促物に使用する素材もプラスチック製から紙製へ順次変更し、プラスチック使用量削減の取り組みを推進しています。2022年には、約70%の紙化※3を実現しました。
店頭ディスプレイツールやショッピングバッグなどの販促物ライフサイクルにわる環境負荷軽減に対応するため、資生堂は2023年に社内において「POSMエコデザインガイド」を発行し、資生堂5Rs※に沿った開発を推進しています。当社では、商品だけではなく販促物の製造においても、ステークホルダーと協業し、環境負荷軽減を推進していきます。
資生堂は2022年より、世界で共通となっているプラスチック課題の解決に貢献するために、株式会社アールプラスジャパンに資本参加し、使用済みプラスチックの再資源化の実現に取り組んでいます。回収プラスチックの選別処理、モノマー製造、ポリマー製造、容器包装製造、商社、飲料・食品メーカーなど業界を超えた連携により、2030年の実用化を目指しています。
株式会社アールプラスジャパンとの取り組みのリリースはこちら
資生堂は、2020年3月に化粧品業界からパートナー企業として世界で初めて「WIPO GREEN」※に参画し、2021年には、「WIPO GREEN」データベースに掲載している「低エネルギー製造技術」を東洋大学に使用許諾しました。2022年、同大学は群馬県館林市の名産品であるボイセンベリーからの抽出物を配合した、環境負荷軽減に配慮した製品の試作開発を行い、2023年にはクラウドファンディングでの販売を開始しました。
資生堂は、生活者や取引先との幅広い接点を活用し、店頭を通じて使用済みプラスチック製化粧品容器の回収スキームを構築します。循環モデルの定着には、スキームの構築だけではなく生活者の意識や行動変容が必要となります。「使用済み容器=資源」であるという意識醸成にも努めるとともに将来的には同業他社や他業界への拡大など、サーキュラーエコノミーの実現に向けて社会全体の行動変容を目指します。
資生堂は使用済み化粧品容器の店頭回収を実施し、廃棄後の容器を新たな素材としてリサイクルしています。リサイクルを確実に進めるには、企業1社だけではなく、製品を使用するお客さまや回収に携わる企業、同業他社など複数の関係者の協働が不可欠です。
2023年、日本ではイオンリテール株式会社(以下、イオン)とテラサイクルジャパン合同会社※1、ならびに同業他社とも協働し、イオン88店舗の店頭で使用済み容器を約4万9,000本※2回収しました。
化粧品容器は、中味の保護、使いやすさ、デザイン性が重視されるため、多種多様な素材からつくられています。それらの分別は難しく、プラスチック資源として循環利用する際の課題となっています。2022年に、資生堂は、積水化学工業株式会社と住友化学株式会社と協働し、プラスチック製化粧品容器を回収し、分別することなく容器の素材として再生する循環モデル構築に向けた取り組みを開始しました。今後は資生堂が回収した使用済み化粧品容器を用いて再生素材を製造し、化粧品容器に活用することを計画しています。3社が連携するとともに、関連する業界や企業にも参加を働きかけ、サーキュラーエコノミーの実現を目指します。
3社協業による新たな循環モデル構築に向けた取り組みのリリースはこちら
2023年4月には、循環モデル実現の取り組みとして、使用済みプラスチック製化粧品容器を新たな化粧品容器に再生することを目指した循環型プロジェクト「BeauRing®(ビューリング)」を立ち上げました。プロジェクトの試験的な取り組みとして横浜市内の一部の資生堂化粧品販売店、資生堂グローバルイノベーションセンター(横浜)に加え、株式会社ポーラ・オルビスホールディングスと連携し、店舗において使用済み化粧品プラスチック製容器の収集を行っています。この取り組みは当社以外の企業の参画を呼びかけることで資源循環の輪が広がり、お客さまがより前向きに化粧品を使うことができるサステナブルな社会に貢献していくことを目指しています。
新循環モデル「BeauRing®」のリリースはこちら
2023年、資生堂は中国で展開するブランド「AUPRES」において、材料サプライヤーと協業し、化粧品の使用済みプラスチック製ボトルをリサイクルする取り組みを開始しました。ボトルはサプライヤーのリサイクル技術により机や椅子に作り変えられ、四川省の希望小学校に寄付されました。
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