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2023年04月18日

発行元:(株)資生堂

研究・サプライネットワーク

サステナビリティ

資生堂、株式会社イノカとの共同研究に向けた連携協定を締結

~琉球大学との共同研究に続き、環境評価研究を加速し、さらなる環境影響の低減へ~

資生堂は、企業使命である「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、人々の肌とともに、自然環境を美しく維持する、人にも地球にも優しい化粧品開発に取り組んでいます。今回、「人と自然が共生する世界をつくる」をビジョンに掲げ、従来の実海域からのアプローチではなく、任意の海洋環境をモデル化し、ラボレベルでの環境解析を可能にする「環境移送技術※1」を有するスタートアップ企業、株式会社イノカ(本社:東京都港区、代表者:高倉葉太、以下「イノカ」)と、連携協定を締結しました。化粧品成分が海洋生態系に対して与える影響を評価するための今回の連携では、海洋生物に甚大な影響をもたらすことが予測される「海水温の上昇」をはじめ、想定される未来の環境変化のシナリオをラボ内の水槽に再現することにより、日焼け止めで使用している成分など、化粧品の様々な成分が、サンゴ礁さらにはその他生物を含めた海洋環境全体に与える影響を評価します。
資生堂はこれまでにも、海洋中での紫外線防御剤の濃度分布をシミュレーション※2した結果と、琉球大学理学部 中村崇准教授との共同研究にて実施した紫外線防御剤のサンゴ群体※3への影響評価を組み合わせ、当社が使用する各種紫外線防御剤について、実際の日焼け止めの使用状況に近い条件でのサンゴ群体への影響評価を実施し、サンゴ群体への影響懸念が極めて低いことを確認しています。
両者との共同研究で得られた結果は、刻々と変化し続ける未来の海洋環境を見据え、次代においても人にも地球にも優しい商品開発につなげていくとともに、グローバルな環境評価手法の開発にも着手し、多くの企業での活用を目指します。

※1環境移送技術:天然海水を使わず、水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係性など、多岐にわたる要素を考慮しながら、自社で開発したIoTデバイスを用いて、任意の生態系を水槽内に再現するイノカ独自の技術
※2シミュレーション:国立研究開発法人産業技術総合研究所が開発した東京湾リスク評価モデルを活用
※3サンゴ群体:浮遊幼生期や稚サンゴ群体期を除いた、産卵可能サイズの群体

【イノカが開発した環境移送技術を用いて水槽中に再現した人工海洋生態系】[実験写真]

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イノカとの連携が目指すビジョン

イノカは、独自の「環境移送技術」を用いて構築した実験環境や、複数の業界との幅広い環境評価経験が強みです。それらの強みに、当社のグローバルな研究ネットワーク、環境評価技術を融合させることで、変化が著しいサンゴ礁生態系の複雑な状況を正確にとらえた環境評価を実施し、人にも地球にも優しい商品開発を目指します。
また、商品開発にとどまらず、将来的には、共同研究によりグローバルな環境評価手法の開発に着手し、多くの企業での活用を目標とします。さらに、TNFD※4の発足など、企業活動と自然環境との関係性(依存・影響)に関わる透明性・客観性のある情報開示が求められている状況を踏まえ、企業活動が海洋生物多様性に与える影響やリスク/機会分析に用いることのできる新指標開発への応用等も目指します。
※4 TNFD: 「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:以下「TNFD」)」。世界的な脱炭素の世論形成と枠組み作りを牽引してきた「気候関連財務情報開示タスクフォース:TCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures)」の流れを汲み、企業や金融機関などの市場参加者が自然関連のリスクと機会を管理し、情報開示するための枠組みを構築することを目指し、2021年6月に発足した国際的なイニシアティブ。イノカは、ステークホルダーの集合体であるTNFDフォーラムにも加盟

共同研究への想い

株式会社イノカ 高倉葉太CEO 
今回の協働が実現したことを大変嬉しく思います。日本は世界の造礁サンゴ種のうち半数以上が分布するサンゴ大国です。サンゴは自然資本という観点で重要である一方、2040年には大部分が死滅すると予測されています。環境移送技術により、海洋生物多様性の重要性を日本から世界に掲げるべく、両社で尽力してまいります。

株式会社資生堂 東條洋介CTO
四方に海が広がる日本において先んじて海洋生物多様性に着目し、デジタル制御による独自の海洋環境再現技術でチャレンジを続けるイノカとの連携が実現しました。資生堂と琉球大学の協働に本連携が加わり、日本の海洋生態系影響評価の技術基盤確立と実装が大きく進むとともに、当社のサステナブルなものづくりを加速させてまいります。グローバルな評価手法としての応用も視野に入れ、生活者の皆さまの美を実現するとともに、地球環境にも優しい化粧品をお届けします。

【イノカ 高倉CEO(左)、資生堂 東條CTO(右)】

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琉球大学とのこれまでの取り組み

資生堂は、造礁サンゴ類やサンゴ礁生物に関する研究に取り組む琉球大学理学部の中村崇准教授との共同研究で、サンゴ群体の状態変化とサンゴに共生する褐虫藻の光合成効率※5に着目し、ソフトコーラル(ウミトサカ目)とハードコーラル(イシサンゴ目)に含まれる2種類のサンゴ※6を対象とした紫外線防御剤の影響評価を実施しました。さらに、当社は国立研究開発法人産業技術総合研究所が開発した東京湾リスク評価モデルを活用し、実際に資生堂のレジャー用日焼け止めを海で使用したときの海洋中の紫外線防御剤の存在状態(濃度)を検証しました。また真夏の海水浴客が最も多い場面を想定した条件※7でもシミュレーションを行いました。
これらの検証・評価結果を掛け合わせることで、より実際の日焼け止めの使用条件に近い形で、海洋への影響を評価することに取り組んできました。この評価結果を基に、サンゴ群体への影響懸念が極めて低い当社のレジャー用日焼け止めの開発を進めています。

※5光合成効率:生物がある条件で光合成をおこなう場合の、最も光エネルギーを効率的に利用できている時の値(光合成最大量子収率)
※6サンゴ:実験で使用するサンゴの採取は、沖縄県の規則に基づいた、県知事からの特別採捕許可を受けて採捕されています
※7条件:日焼け止めの使用部位、使用量、過去の海水浴客数などの情報から算出

【サンゴ群体と共生褐虫藻への影響評価実験】

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【東京湾における紫外線防御剤の濃度分布例】

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【琉球大学理学部 中村崇准教授】

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【参考】

株式会社イノカ
イノカは「人と自然が共生する世界をつくる」をビジョンとし、国内有数のサンゴ飼育技術を持つアクアリスト(水棲生物の飼育者)と、東京大学でAI研究を行っていたエンジニアがタッグを組み、2019年に創業したベンチャー企業です。飼育者の職人知にIoT・AI技術を組み合わせることで、任意の生態系を水槽内に再現する「環境移送技術」の研究開発を推進しており、「海の見える化」をミッションに掲げ、海洋生物多様性に関するラボ研究や教育プログラム「サンゴ礁ラボ」など、独自性の高い事業を展開しています。

琉球大学
近年、世界のサンゴ礁生態系は大規模かつ壊滅的な打撃を受け、今後も繰り返し大規模な攪乱を受け続けると考えられています。
中村研究室では、サンゴ礁域を主なフィールドとして、サンゴ礁での実地調査やサンゴ礁生物を飼育しながらの実験などを組み合わせた研究を行っています。また、室内実験や野外調査等から得られた結果を合わせて、それぞれ単独ではわかり得なかったことを明らかにする点も重要視しています。


資生堂のサステナビリティ
資生堂は、企業使命である「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、2030年に向けて「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」を目指しています。環境領域では、社名の由来でもある「万物資生」※8の考えに基づき、環境負荷を軽減し、使い捨てではなくサーキュラーエコノミーを実現できる技術やビジネスモデルの構築を目指して取り組んでいます。全バリューチェーンを通じて、「地球環境の負荷軽減」、「サステナブルな製品の開発」、環境や人権に配慮した「サステナブルで責任ある調達の推進」の3つの戦略アクションを実行しています。なお、環境領域以外にも、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を中心に社会課題の解決に取り組んでいます。ビューティーカンパニーとしての特性を活かした「ジェンダー平等」、自分らしく輝くことに貢献する「美の力によるエンパワーメント」、そして、すべての活動の根底となる「人権尊重の推進」の3つの戦略アクションを実行しています。

※8 中国の古典「易経」の一節、「至哉坤元 万物資生(大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか、すべてのものはここから生まれる)」の一部 

※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。