異常気象などの気候変動の影響は、年々その深刻度を増しています。地球環境や生物多様性の保全などに加えて、持続的な社会や経済の発展と持続的な事業成長のために、資生堂は環境課題解決に対応した長期的目標達成に向けて、全社をあげてさまざまな活動に取り組んでいます。
資生堂は、環境課題解決の前提となる「環境方針」を掲げ、事業に伴う環境負荷を軽減するため、「CO₂排出量の削減」「水消費量の削減」「廃棄物の削減」を重点領域とし、バリューチェーン全体を通してさまざまなステークホルダーとともに推進しています。
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気候変動は、気温上昇による直接的な健康被害や、水資源不足、生物多様性喪失の加速など、多くの問題を引き起こしています。世界では「パリ協定」「グラスゴー気候合意」に基づき、地球の温度上昇を産業革命以前に比べ1.5℃未満に抑えることと、2050年までにネットゼロの実現へと向かう動きがあります。2023年11月にUAEで開催されたCOP28※1では、より実効性のある行動が重要視され、具体的な解決に向けての対話が進んでいます。
化粧品業界は他の業界に比べるとCO₂排出量は少ないですが、資生堂は「パリ協定」と「グラスゴー気候合意」に賛同し、気候変動対応を重要課題としてとらえ、2050年のネットゼロ、2030年に向けては1.5℃目標に則した科学的根拠に基づくCO₂※2排出量削減目標(Science Based Targets)※3を設定し、SBTiから認証を受けています。使用するエネルギー量を削減しエネルギー効率を上げること、再生可能エネルギーに切り替えることなどを通じてCO₂排出量削減を推進しています。
資生堂は、事業活動で使用される電力や燃料から排出されるCO₂排出量の削減に取り組んでいます。その一環として、工場やオフィスなどの施設では再生可能エネルギーを使用し、常にエネルギー効率の向上を推進しています。
資生堂の工場では、建物の断熱設計や、省エネルギーにつながる効率的な設備の選定や、環境マネジメントシステムISO 14001に基づく環境対策などを通じてエネルギー効率の向上に努めています。工場とディストリビューションセンターでは、毎年CO₂削減の数値目標を設定しており、2024年度は前年比3%のCO₂削減を目標としてエネルギー消費量削減に取り組んでいます。また、目標に対する進捗・達成状況を月次で評価し、状況に応じて対策を検討・実行しています。
具体的には、工場照明のLED化による消費電力の低減、EMS(エネルギーマネジメントシステム)※1を導入し、電気や蒸気、圧縮空気の関連設備ごとのエネルギー消費量やCO₂排出量の情報を可視化し最適化しています。また、生産物流拠点の大阪茨木工場および隣接する西日本物流センターにおいて、建物の外壁に軽量で断熱性能に優れたサンドイッチパネルを採用し建物内の断熱性能を向上させるなど、エネルギー消費量削減につなげています。掛川工場では、これまで給湯用熱源は中央エネルギー棟から各生産棟へ蒸気の送気を行っていましたが、EMSデータ分析の結果、送気の距離が長く熱の損失が大きいことがわかったため、各生産棟にヒートポンプを設置して熱の損失を減らし、エネルギー効率を高めることに成功しました。
フランスのジアン工場では、工場の窓ガラスに断熱フィルムを貼り、夏期の工場内の温度上昇を抑え、空調に使われる電気の消費量を下げることで、省エネに貢献しています。
資生堂では、工場だけでなくオフィスや事業所でも再生可能エネルギーの利用を進めています。2023年には全11工場・自社ディストリビューションセンターにおける再生可能電力への切り替えを100%完了しました。加えて、オフィスで電力を100%再生可能エネルギーに切り替えるなど、グローバルの全サイトで再生エネルギーの使用を促進しています。
中国地域では全拠点で100%切り替えを完了しました。さらに、中国・資生堂麗源化粧品有限公司(SLC)の工場を含む北京事業所ではカーボンニュートラル認証コード(PAS2060-2014)の要件を満たし、カーボンニュートラル認証を取得しました。
2022年の日本の汐留オフィス・銀座オフィスにおける電力の100%再生可能エネルギー切り替え完了に続き、2023年は資生堂ジャパンの全自社ビルにおいても電力を100%再生可能エネルギーへ切り替えました。資生堂グローバルイノベーションセンター(横浜)や、欧州各国や国内の事業所を中心に電力の再生可能エネルギー化を促進しています。
再生可能エネルギーの利用だけでなく、世界各国・各地域の工場や研究所の敷地内や建物に太陽光パネルの設置を積極的に推進し、資生堂全体で各国・地域の8工場※に太陽光発電設備が設置されています。これらの結果、全社の電力における再生可能エネルギー比率は85%となりました。
また、資生堂は、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブRE100に加盟しています。引き続き、化石資源由来エネルギーから再生可能エネルギーへの移行をより加速させていきます。
福岡久留米工場
2023年に福岡久留米工場では太陽光発電設備の増設(拡張)を行い、福岡久留米工場における太陽光発電設備の合計容量は1.9MWとなり、資生堂の全工場で合計容量は6.8MWに達しています。
原材料の製造や出荷輸送、販売した製品の使用時など、製品・サービスのバリューチェーンに関わるさまざまな場面でもエネルギーが消費され、CO₂が排出されています。こうしたバリューチェーンからの間接的なCO₂排出量についても科学的根拠に基づいた長期の削減目標を設定し、ステークホルダーと協働しながら削減活動に取り組んでいます。
資生堂は、グリーンケミストリーの原則を踏まえ※1、特に環境負荷の軽減に対応した原材料の選定を進めています。パーム油、紙の調達においてはNDPE(No Deforestation, No Peat, No Exploitation:森林破壊ゼロ・泥炭地開発ゼロ・搾取ゼロ)を支持し、森林破壊に関与しない原材料の調達を行っています。また、容器に関しても、リサイクル樹脂の採用を推進するなど開発に伴うCO₂排出量の削減に努めています。
また、当社はバリューチェーンからの間接的なCO₂排出量のうち40%以上を占めるサプライチェーン上流のCO₂排出量削減を目指し、資生堂は2022年にCDPが実施する「CDPサプライチェーンプログラム」※2のメンバー企業となりました。2023年は、サプライヤーの取引量や重要性に応じてプログラムの参加対象を決定し、グローバルで50社にCO₂の排出量や削減目標などの報告を依頼しました。これらの情報は、今後資生堂のScope 3の算定と削減のため活用していく予定です。
Scope 3の算定と削減にはサプライヤーの理解が欠かせないことから、一般社団法人 CDP Worldwide-Japanとともに、日本のサプライヤーに向けてCDP・Scope 3に関する説明会を2023年に開催しました。今後もサプライヤーの支援を継続し、目標の達成に向けて連携に努めていきます。
資生堂は、世界中に製品を輸送していますが、出荷に関しては輸送ルートの最適化や積載効率の改善を図るため、例えば日本国内においては他企業との共同配送を行っています。2023年2月に物流時のCO₂排出量削減のためにEVトラックを日本で導入し、1台当たり年間1トンのCO₂排出量削減を見込み、今後随時拡大導入していく予定です。中国の北京工場では従業員通勤用のシャトルバスをガソリン車から電気自動車(EV)に更新し、シャトルバスから排出されるCO₂の削減に取り組んでいます。
納入頻度の多い容器サプライヤーを中心に、輸送用の包装材を製品形状や物量に合わせて適正化することや輸送保護材の再利用なども実施し、これにより廃棄物の削減およびCO₂排出量削減に努めています。また、国内では工場から各販売店に製品を輸送する過程で使用される包装材も、廃棄物やCO₂排出量に影響を及ぼすため計画的な削減に取り組んでいます。さらに、容器調達時におけるCO₂排出量の削減を目指し、複数の生産拠点を有する容器サプライヤーと連携し、当社の生産拠点と最も近い拠点で生産を行う取り組みも行っています。
日本からの海外向け輸出では、2022年より開始したパレットの段積みが可能となるパレタイズ※により、2023年は積載効率がさらに向上しました。
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カテゴリー | 説明 | 内部データ | 排出係数 |
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1.購入した製品・サービス | 原材料、包装資材、宣伝広告サービス、パーム由来原料の生産に伴う土地利用転換などサプライチェーン上流からの排出 | 原材料調達量 POSM調達量 メディア宣伝広告費 パーム・紙関連の原材料調達量 | IDEA v3.1 Ecoinvent 3.9 Reference-1 Reference-2 |
2.資本財 | 資本財を製造する際に発生する排出 | 設備投資額 | Reference-1 |
3.Scope 1・ 2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動 | エネルギー・燃料の採掘、採取、精製、輸送の過程で発生する排出 | エネルギー消費量 | IDEA v3.1 |
4.輸送・配送(上流) | 調達輸送、出荷輸送による排出 | 原材料調達量 製品重量(輸送量) 工場-販売店間の距離 移動手段 | IDEA v3.1 Ecoinvent 3.9 |
5.事業から出る廃棄物 | 事業活動から排出される輸送および廃棄物処理の過程で発生する排出 | 素材別・廃棄処理方法別の廃棄物発生量 | IDEA v3.1 |
6.出張 | 従業員の出張・外出移動に伴う排出 | 移動費 行先別移動回数 移動距離 | IDEA v3.1 Reference-1 |
7.雇用者の通勤 | 従業員の通勤に伴う排出 | 通勤費 | IDEA v3.1 Reference-1 |
8.リース資産(上流) | 該当なし |
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9.輸送・配送(下流) | 販売や保管による排出 | 販売数量 製品の底面積 | Reference-4 |
10.販売した製品の加工 | 販売製品は、加工の必要がないため該当なし |
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11.販売した製品の使用 | 製品使用時に発生する排出 | 製品使用時のエネルギー、水、消耗品の使用量 | IDEA v3.1 |
12.販売した製品の廃棄 | 内容物成分の分解に伴う排出および製品廃棄物の輸送や廃棄物処理の過程で発生する排出 | 成分および容器素材の分子を構成する化石資源由来炭素の量 素材別の廃棄物発生量 | IDEA v3.1 |
13.リース資産(下流) | 該当なし |
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14.フランチャイズ | 該当なし |
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15.投資 | 非連結関連会社および株式投資先からの排出 | 非連結関連会社および株式投資先からのScope 1およびScope 2排出量 株式の保有割合 | - |
1) サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース v3.2
3) 地球温暖化対策推進法 算定・報告・公表制度における算定⽅法・排出係数⼀覧
資生堂は、気候変動問題による事業成長や社会の持続性に与える影響の重大性を踏まえ、TCFD/TNFDおよびISSBのフレームワークを参照して情報開示を行っています。脱炭素社会への移行、および気候変動に伴う自然環境の変化によって引き起こされる長期的なリスク/機会について、1.5/2℃シナリオと4℃シナリオ、それぞれの短期・中期・長期の定性的・定量的な分析を試みました。自然に関しては、生物多様性の喪失や水資源の動態を考慮した定量的な長期リスクを特定し、「資生堂 気候/自然関連財務情報開示レポート」として開示しました。
資生堂では、ブランド・地域事業を通じて全社横断でサステナビリティの推進に取り組んでいます。サステナビリティ関連業務においては、迅速な意思決定と全社的実行を確実に遂行するため、専門的に審議する「Sustainability Committee」 を設定し、2023年も定期的に開催しました。資生堂グループ全体のサステナビリティに関する戦略アクションや方針、気候変動と自然環境に関するリスクおよび機会や人権対応アクションなど具体的活動計画に関する意思決定、中長期目標の進捗状況についてモニタリングを行っています。出席者は代表執行役を含む経営戦略・研究開発・サプライネットワーク・広報、およびブランドホルダーなど各領域のエグゼクティブオフィサーで構成され、それぞれの専門領域の視点から活発に議論をしています。その他、特に業務執行における重要案件に関する決裁が必要な場合は「Global Strategy Committee」や取締役会に提案もしくは報告しています。
確実な業務執行・推進を行うため、「Sustainability Committee」の下部に、主要関連部門の責任者から構成される「Sustainability TASKFORCE」を設定し、長期的な目標達成に向けての推進方法やサステナビリティに関連した課題解決について議論し、その他関連部門や地域本社・現地法人を巻き込んだ活動を行っています。
気候関連リスクおよび機会については1.5/2℃から4℃の範囲で気温上昇を想定し、RCP-SSP シナリオに沿って分析を実施しました。移行リスクについては、脱炭素社会への移行に伴う政策、規制、技術、市場、消費者意識の変化による要因を、物理的リスクについては、気温上昇に伴う洪水の発生や気象条件など急性/慢性的な変化要因について、各シナリオ条件における影響を分析しました。
2030年時点における移行リスクとして、炭素税によって約0.5~8.7億円規模の財務影響が発生する可能性を予測しています。物理リスクについては、洪水により約9億円、水不足により約35億円の潜在的なリスクを見込んでいます。機会に関しては、1.5/2℃シナリオにおいて、消費者の環境意識の高まりに伴い、サステナビリティに対応したブランドや製品への支持が高まると予想されます。4℃シナリオにおいては、気温上昇に対応した製品の販売機会が拡大すると予想されます。イノベーションによる新たなソリューションの開発により、サステナブルな製品を提供していくことで、リスクの緩和と新たな機会の創出を目指しています。
| リスク | 機会 | |
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移行リスク (主に1.5/2℃) |
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物理的リスク (主に4℃) | 急性 |
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慢性 |
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自然関連リスク/機会に関しては、ライフサイクルアセスメントによってバリューチェーンを通じた生物多様性への影響側面の定量分析を行い、特に原材料調達における影響が大きいことを明らかにしました。そこで、TNFDが推奨するLEAPアプローチに沿って、生物多様性への依存度の高い化粧品原材料について原産地を推定し、依存側面における物理リスク分析としてミツバチなどの花粉媒介者による生態系サービスの金額化を行いました。同時に、移行リスクとして、サステナビリティ関連規制に関わるリスク分析を、気候変動問題とあわせて実施しています。
資生堂 気候/自然関連財務情報開示レポートは、企業情報サイトで公開しています
資生堂は、中長期の事業戦略の実現に影響を及ぼす可能性のあるリスクを総合的・多面的な手法を用いて抽出し、特定しています。そのなかには、「環境対応(気候変動・生物多様性など)」「自然災害・感染症・テロ」といったサステナビリティ領域のリスクも含まれています。気候変動や生物多様性に関連するリスクも、事業継続や戦略に影響を及ぼす要因の1つとして科学的または社会経済的なデータに基づいて分析され、気候変動や自然災害に関わるリスクとして全社のリスクマネジメントに統合されます。特定されたリスクは、重要度に応じて「Global Risk Management & Compliance Committee」にて対応策などが審議されています。また、必要に応じて取締役会に提案もしくは報告される体制となっています。
資生堂は、CO₂排出量削減を目標として設定し、また定期的に気候変動に伴う状況をモニタリングし、対応策を講じることで、リスクの緩和に貢献しています。特にScope 1およびScope 2のCO₂排出量については2026年までにカーボンニュートラル※1を達成することを目標として設定しました。また、バリューチェーン全体におけるCO₂排出量削減目標に関しては、1.5℃経路に整合した2030年目標に対して、SBTイニシアティブ(SBTi)※2の認証を取得し、CO₂排出量削減に取り組んでいます。
生物多様性に関しては、環境への影響の大きな紙やパーム由来原料について、認証原材料への切り替えを進めています。
Scope 1・2のCO₂排出量削減のため、インターナルカーボンプライシング(ICP)制度の導入を決定し、2024年から省エネ設備や再生可能エネルギー設備などの脱炭素投資判断への活用を始めました。※3
資生堂 気候/自然関連財務情報開示レポートは、企業情報サイトで公開しています
資生堂は、国際的な非営利団体であるCDPより、「気候変動」および「フォレスト」分野の透明性とパフォーマンスにおけるリーダーシップが認められ、2023年度のAリスト企業に選定されました。「気候変動」分野では2年連続、「フォレスト」分野では初の選定となり、当社として初のダブルA企業選定となりました。
資生堂は、2024年1月「第20回LCA日本フォーラム表彰」において、「LCAを活用した気候/自然関連リスク分析 ― TCFD/TNFD レポートへの応用」の活動で、「奨励賞」を受賞しました。
地球上に存在する水のうち、人類が淡水資源として利用できるのは、わずか0.01%といわれています。途上国や新興国を中心として急速に進む産業構造変化や都市化による人口集中、気候変動に伴う気象条件の変化によって、世界では水不足の深刻化が懸念されています。大規模な台風や渇水といった気候災害による被害も、間接的に水問題の原因となっており、持続可能な水資源活用の重要性は今後ますます高まると予想されます。
気候や気象からの長期的な予測では、資生堂の主要工場が立地する日本では、今世紀末にかけての雨量は安定的に推移すると予想されており、また、他の産業セクターと比べて化粧品産業では水資源の消費量が多くないことからも、水不足による影響は限定的と考えられます。しかしながら、化粧水などに配合されている水はもちろんのこと、原材料となる植物の生育、生産現場における温度制御や設備洗浄、製品使用時のすすぎ、廃棄物の処理にいたるまで、化粧品は関わるさまざまな場面で水に支えられています。
資生堂は環境方針にも記載のとおり、製品の開発から生産、使用にいたるバリューチェーンの観点で、水に関する環境影響の把握と持続可能な水資源利用を重要な環境課題の1つと捉え、取り組みを進めています。工場においては原動力設備などで多くの水を使用していますが、一度使用した水を再利用することができれば水消費量を大きく削減することができます。資生堂の工場では排水放流水の一部を原動力設備補給水に利用する「排水再利用システム」を導入して水をリサイクルしています。オフィスや研究所などと比較して水の消費量が多い工場では、取水だけでなく排水の量や温度、排水処理後の水質について恒常的にモニタリングを実施するとともに、事業所の立地する流域の水環境調査を行い、関係するステークホルダーと協働した水資源管理(Water Stewardship)※に取り組んでいます。
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直接的な水資源の活用に関しては、資生堂自社サイトにおける水消費量の削減を目標に掲げ、さまざまな方法で水消費量の削減に取り組んでいます。例えば、工場においては、スキンケア、メイクアップ、サンケアなど工場ごとに異なるカテゴリーの製品を生産しており、各国・各地域の工場が製造設備にあわせた節水の取り組みを行っています。具体的には、製造設備における自動洗浄装置の導入による効率的な洗浄や設備部品の洗浄場所の集約などにより、水消費量の削減を行っています。また、工場において水消費量のモニタリングポイント(計測点)を増やすことで、水の消費が多い場所や設備の特定を行っています。全生産工場の水消費量は毎月報告されており、目標に対する進捗をトラッキングするとともに、目標達成のための対策を立てる仕組みを構築しています。
例えば、掛川工場では、計測点のデータを分析し、水消費量削減のための問題箇所の特定や解決策を見いだすトレーニングを各職場の環境担当者へ実施しています。この取り組みにより、社員の節水についての意識が向上し、水消費量の削減につながる有効な施策が立案・実行されています。
将来の雨量の減少が懸念される欧州に立地するフランスのバル・ド・ロワール工場では、従来の水消費量の削減に加えて洗浄設備のノズル形状を工夫することで1回の洗浄に使用する水の消費量を従来の30%削減しました。
中国の上海工場では、化粧品の製造に使用する純水を製造する際に発生する排水を収集・貯蔵・再利用するシステムを導入し、その排水をクーリングタワーの冷却水など、さまざまな用途に再利用しています。これらの削減活動を積極的に行うことで、上海工場全体の水の消費量は前年に対し2023年は20%以上削減されました。台湾の新竹工場では純水装置からの排水をクーリングタワーの冷却水に使用し、100%再利用しています。
また、使用した水を浄化し、再利用またはリサイクルする循環型の水利用にも注力しており、使用した水の水質が法令で定められた基準値未満になるように、浄化設備による処理および浄化された水の水質の定期的なモニタリングを行っています。掛川工場では、排水の放流水の一部をリサイクルして原動力設備の補給水に利用する「排水再利用システム」を2023年に導入し、水資源の活用と消費量削減に努めています。これにより、今まで製造工程で発生していた排水を循環利用することができるようになりました。この設備の稼働により年間約1万2,000トンの水を再利用することができます。この再利用水の量は、掛川工場の水使用量の約15.6%に相当する節水効果となります。大阪茨木工場では、製造釜の冷却時に一度使用した水を再利用して冷却する循環型にすることで年間約6万5,000㎥の水消費量の削減を可能にしました。那須工場では、全水消費量の約半分を使用している純水製造設備の稼働を最適化したことや、使用した水を再利用することで工場の年間水消費量の約1/3の年間約7万2,000㎥を削減しました。
その他の取り組みとして、フランスのジアン工場ではフレグランス製品の製造設備と輸送のための部品洗浄を水洗浄からアルコール洗浄に変更し、かつ使用したアルコールはリサイクルしています。
資生堂は、水資源を有効に活用するために、地域と連携した2次利用など流域の共有財産としての資源管理を進めています。
日本の主要工場の1つである那須工場は、透水性の高い礫層が堆積してできた広大な扇状地(那須野が原)に立地しています。降った雨が地下にしみこみやすく、表層水(河川水)の利用が困難なため、那須工場では地下150mの深層帯水層からくみ上げた地下水を利用しています。このような地域では使い終わった水も貴重な資源であることから、適切に処理を施し、管轄する地域の条例の基準を上回る厳しい自社基準に合格した排水を地域の用水に放流することで、農業用水として2次利用されています。このような地域的な特徴から、那須工場では、流域全体での水環境の理解が持続可能な水資源利用にとって重要と考え、那須野が原一帯の水環境調査を進めています。工場で採水する地下水の調査を、那須野が原一帯の水の流れをコンピュータ上に再現する水文モデルシミュレーションと周辺水域の実地調査をあわせて行いました。工場からの排水が地域の田畑をうるおし河川に注ぎ込む過程で、周辺地域のさまざまな生物を育んでいることが調査の結果からわかってきました。
水ストレス※が高い中国の上海工場では地元の環境保護協会に参画し、環境法令を含む環境関連情報(廃水処理、中水リサイクルを含む)などを積極的に取得し、工場の節水活動に活用しています。また、節水を推進している政府に対して、毎月の水消費量を報告し、水利用率向上と節水管理強化に取り組んでいます。将来の雨量の減少が懸念される欧州に立地するフランスのバル・ド・ロワール工場では、年に数回、地域の他の業種の方々と好事例や法規制に関する情報共有を行っています。
水スチュワードシップの取り組みについては、資生堂の調査によって明らかになった那須工場が位置する那須野が原一帯の水環境に関する科学的な理解をもとに、流域の自治体や関係団体とのエンゲージメントを重ねています。また、調査結果や取り組みの方向性について、社外の学識経験者のレビューを受けています。資生堂はより包括的で持続可能な水資源利用に向けて、さらには流域の生物多様性保全に向けて、ステークホルダーと協働した水スチュワードシップの構築を目指しています。また、サプライヤーに対しては、Sedex、SAQといったセルフアセスメント(評価)の設問などを通して水消費量を把握し、バリューチェーン全体での水に関連する環境保護に努めています。
世界規模での人口増加や人々の所得水準の上昇、購買力の向上に伴い、資源消費量・廃棄物量はともに増加し続けています。
資生堂は限りある資源を大切に使うために、使い捨ての直線型の経済モデルから、資源を繰り返し有効に使うサーキュラーエコノミー(循環型経済モデル)への転換が重要だと捉えています。国や地域ごとに定められた廃棄物管理に関わる法令や規制の遵守に努めるとともに、バリューチェーン全体を通して資源の使用を最適化し、廃棄物の発生を抑制しています。
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資生堂は、自社で発生する廃棄物の抑制、再利用、再資源化に長期にわたり取り組んできました。2003年には国内工場でゼロエミッション※1を達成し、現在に至るまで廃棄物の分別と資源化の活動を継続しています。各工場で排出される廃棄物の量と種類に関して、本社と工場で月次の相互確認を行い、それらの削減とリサイクル化に向けた取り組みを行っています。国内工場では、電子マニフェストに基づく廃棄物量管理データの運用を行っており、リアルタイムで廃棄物の処理状況を確認することで、データの透明性確保と、法令遵守の徹底に努めています。工場での具体的な廃棄物発生量の抑制策として、排水処理の過程で発生する汚泥量を削減するため、脱水機や乾燥機を導入しています。その他にも那須工場では、一部液体原料の納品方法をドラム缶による納品からタンクローリー車に変更することで廃ドラム缶の発生を抑制し、廃棄物の発生量を削減しました。また、輸送箱の再利用や、廃棄物を素材別に厳密に分別管理して資源化するなど、リユース・リサイクルを推進しています。2023年には最外装削減プロジェクトを通じて、製品の輸送時に使用していた段ボールやプラスチック包装などの容器包装を全面的に見直し、製品の品質保証を担保しつつ使用する資源を最小限にする取り組みを進めています。また、輸送時に使用した段ボールや紙はもちろん、廃プラスチックについても圧縮・溶融により減容化し、リサイクル資源として有価化しています。これらの活動の結果、2022年までに資生堂における世界全工場で埋め立て廃棄物ゼロ※2の達成を目指すというコミットメントに対して、2020年に前倒しで達成し、現在も埋め立て廃棄物ゼロを継続しています。
その他、自社事業所以外から発生する廃棄物についても最小限に抑えるため、包装材の削減、容器包装の簡素化、能書の廃止、段ボールの軽量化などさまざまな取り組みを実施しています。加えて、需要予測精度の向上および生産調達リードタイム短縮によって余剰在庫を最小化することで、製品廃棄物の発生防止を図っています。
日本国内では、資生堂グループ会社の廃棄物処理実務の担当管理職および担当者に対して、廃棄物処理法の理解促進のためのオンライン講習会を開催しています。工場や事務所から排出される廃棄物の処理を処理業者に委託する場合、処理業者のアセスメントを行うこと、廃棄物が適切に処理されていること、産業廃棄物管理票(マニフェスト)の徹底、実地確認の重要性を伝えています。受講者は資生堂独自のチェックリストをもとに遵法の徹底に努めています。
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