資生堂では、化粧品における動物実験廃止を目指し、2010年よりさまざまなステークホルダーの方々とともに円卓会議を継続的に開催してきました。
第四回となる今回も、これまでにご参加いただいた皆さまにお集まりいただき、資生堂から2011年度の取り組み成果を報告すると同時に、各ステークホルダーの皆さまからは、関連する最新動向や廃止に向けて取り組まれてきた成果や進捗をご案内いただき、共有しました。
後半の議論では、今後に向けた課題や解決に向けて、各ステークホルダーが何をすべきか、協働の可能性などについても熱心な意見交換が行われました。
資生堂より、2011年度の活動実績と今後の取り組みについて報告しました。
主な内容は以下のとおりです。
2011年度の実績は、2001年度比9%です。 [PDF:78.9KB]当初予測は32%でしたが、東日本大震災による原料開発の遅れの影響もあり、低めの実績となりました。2012年度は2001年度比で22%となる見込みです。
動物実験審議会 [PDF:74.4KB]は、2011年度より皮膚科医師、獣医師、弁護士の計3名を外部委員とし、体制を強化しました。審議会は、資生堂の本社社員と研究員7名を加えた、合計10名で構成され、2011年度は計5回開催しました。
社内における安全性保証 [PDF:75.2KB]については、「情報による保証」、「代替法による保証」、「ヒトによる最終確認」という体系構築を行い、2013年スタートを目指して検討を進めています。
特に代替法については、細胞を用いて安全性を調べる試験法(in vitro)、コンピュータによるシミュレーションを利用した試験法(in silico)を組み合わせて開発を進めています [PDF:90.8KB]。社内で行なっている安全性保証11項目のうち、すでに5項目は開発済み、5項目についても最終段階に近づいていますが、光感作性(光との複合作用により引き起こされるアレルギーなど)については継続研究中で、今後の課題となっています。
一方で、社内で開発したこの安全性保証体系に対して、科学的に妥当であると社会から認められること [PDF:76.6KB]も体系確立のためには重要であると考えています。日本化粧品工業連合会におけるワーキンググループでの理解・普及、活用を進めるための活動に加え、科学的観点やヒト倫理の観点から社外有識者からの意見聴取を行なってきました。今後、社外有識者による討論会を開催し、より高い信頼性を目指して取り組んでいきます。
脱動物実験を進めるためにも新たな価値創造に力を入れて取り組みました。従来重視してきた高い効果感を訴求する「機能価値」だけではなく、感性やこだわりといった「情緒価値」やお客さまの嗜好を汲んだ「使用感価値」をあわせた、トータルな価値を提供していくために、日本だけではなくグローバルな視野で、お客さまのニーズやウォンツを見極め、すでに私たちが持つ技術をより有効に活かしていこうと考えています。
開発した代替法の公定化(各国・地域の法制度において正式な実験方法と認可されること)に向けた取り組みも進めています。2011年度も感作性試験代替法と眼刺激性試験代替法の2つの代替法の公定化に向け推進しました。今後も引き続き取り組んでいきます。
また、「 医薬部外品等の安全性試験法に関する代替法ガイダンス検討会 [PDF:75.1KB] 」に日本化粧品工業連合会のメンバーとして参画し、代替法の利用促進に向けた活動を推進しました。
動物実験廃止の取り組みへの認知度を高めるために、他企業への働きかけとして、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム主催の「ステークホルダーエンゲージメント勉強会」(2011年12月)に岩井がパネリストとして参加し、本円卓会議の取り組みなどについて発表しました。動物実験廃止という社会問題の解決に向けて、複数のステークホルダーと協働で取り組むエンゲージメントの重要性をお伝えし、他業種の企業からも大きな反響を受けました。
ご参加の皆さまからは、動物愛護法改正に関する状況や代替法研究開発の最新動向についての情報提供のほか、特に市民団体が中心となって実施した、動物実験廃止に関する院内集会や政府への申し入れについても報告いただき、情報の共有を図りました。
浅野 明子氏/高木國雄法律事務所 弁護士、第一東京弁護士会環境保全対策委員会 副委員長、日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会委員、ペット法学会会員
【ご意見】現在、動物愛護法改正に向けての審議が国会で進められており、今回の改正ではないとしても、今後、動物実験施設等の届出制が導入される流れが強まると考えています。しかし現時点では、実験施設の数や動物の飼育数などの情報の公表は任意となっており、動物愛護法にある実験動物基準に加えどういった自主基準が設けられているのかについても、第三者による検証は困難です。その意味で、資生堂の動物実験審議会への外部委員参加は高く評価できると思います。
また、動物実験が許されるのは、その目的や行為の内容が社会的に相当と考えられる場合に限定されると思います。つまり、社会的に見て、動物実験の必要性があり、その実験内容に許容性がある場合にのみ、正当行為として許されると考えられます。必要性と許容性という、この2点に関するさらなる検証を進めて、ぜひ法律よりも先んじた仕組みづくりをお願いしたいと思います。
板垣 宏氏/横浜国立大学大学院工学研究院 教授、元資生堂代替法開発研究所長、日本動物実験代替法学会元会長、元日本化粧品工業連合会技術委員会動物実験代替専門委員会委員長
【ご意見】動物実験の廃止を実現するためには、当然ながら製品の安全性確保が大前提となります。そのためには包括・概念的な議論とともに、研究者がより専門性を高めるための、個別・具体的で実践的な討論の場が必要だと感じます。以前、他社の石鹸製品によるアレルギー発症問題がありましたが、そうした問題も、安全性分野における専門家がきちんと目を配っていれば防げたのではないかという気がしてなりません。また、こうした事故が起こった場合、「動物実験なしでも安全性を確保できる」という前進事例が他になければ、「やはり動物実験を廃止するのは危険だ」という「揺り戻し」が起こりかねません。その意味でも、資生堂の安全性保証体系の構築について、外部専門家の意見を取り入れ、検証するプロセスは非常に重要だと思います。同時に、取り組みの進捗状況について積極的に情報の発信・共有を進めていっていただきたいと思います。
亀倉 弘美氏/NPO法人 動物実験の廃止を求める会(JAVA)理事
【ご意見】今年4月に、NPO6団体と1企業の連名による「化粧品の動物実験廃止および動物実験の代替に関する総合的施策を求める要請」を与党民主党及び環境省、厚生労働省に提出しました。同月の厚生労働省の事務連絡「皮膚感作性試験代替法及び光毒性試験代替法を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンスについて」の公布につながるなど成果をあげることができました。
また、5月にはNPO6団体で「化粧品の動物実験を考える院内集会」を開催し、超党派の議員35名、一般60名以上の参加を得ました。化粧品の動物実験の実態を説明し、その廃止に向けて代替法開発・公定化への取り組みが遅れている現状を改善すべきだと訴えましたが、今後も議員に対してさらに働きかけていく必要性があると感じています。
資生堂がこのチャレンジングな課題に取り組んでこられたのは、「動物を犠牲にしたくない」という消費者の倫理的価値を重視していただいたからこそだと理解しています。
4回の会議を経て、この円卓会議としても、2013年の期限に向けて新たな一歩を踏み出す必要があるのではないのでしょうか。
河口 真理子氏/株式会社大和総研 調査本部 主席研究員、社会的責任投資フォーラム理事&運営委員、東京都環境審議会委員
【ご意見】動物実験廃止に向けて、資生堂という一企業がこれだけ経営資源を投入して取り組まれているのに、行政がそれに十分応えられていない現状なのは、日本社会において、動物実験はなくすべきというコンセンサスがないからだと感じました。まずはそもそも動物実験とは何か、何のために必要か、代替法とは何かという構図への理解を広げ、「動物実験廃止」が社会的コストを投ずるに足る意義ある取り組みだというコンセンサスを確立する必要があるのではないでしょうか。それも、一社だけではなく化粧に関わるさまざまな人たちを巻き込んでいくことです。例えば、いわゆるコスメフリークに「これは自分たちにも関係する問題だ」という意識を持ってもらうために著名なメイクアップアーティストに協力してもらう、あるいは消費者関係のNGOなどとの協働を強化することなど。また既存のメディア以外にもインターネットやSNSの活用も効果的だと思います。
田中 憲穂氏/鳥取大学染色体工学研究センター 客員教授、(財)食品薬品安全センター秦野研究所 研究顧問、日本動物実験代替法学会元会長
【ご意見】私はこれまで30年間、代替法の開発一筋に取り組んできましたが、純粋に科学的な観点から言えば、動物実験は代替法の開発においても、動物個体における現象や毒性発現のメカニズムを熟知するためにも必要です。最近の研究について報告しますと、これまで5年間取り組んできた新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)での試験法開発プロジェクトが終了し、現在、その開発した試験法の検証を行っています。また、化学物質の安全性を規制するための「化学物質審査規制法(化審法)」で定められている28日間反復投与試験について、経済産業省が代替法研究をスタートさせることを決定し、私もメンバーに加わっています。ただ、開発した試験法の客観的評価のための資金が圧倒的に不足していることが最大の問題です。なんとか社会全体を広く巻き込んで、金銭面だけではなくさまざまな形のサポートを得ながら、さらに代替法の開発を推進していきたいと思います。
中野 栄子氏/株式会社日経BPコンサルティング プロデューサー、農林水産省農林水産技術会議評価専門委員会・東京都食品安全情報評価委員会・東京都港区食品衛生推進会議等の委員
【ご意見】動物実験の廃止は重要な課題ですが、それは代替法の確立による十分な安全性確保があってこそでしょう。その意味でも、資生堂が社内の安全性保証体系に拙速に走るのではなく、慎重な姿勢で取り組みを進めていることをまず高く評価したいと思います。
また、「メディアが取り上げないから社会の認知度が高まらない」というご意見もありましたが、やはり時間や紙面の制約、インパクトを考えると、「よくやっている」取り組みは、残念ながら、不祥事などに比べてなかなか扱われにくいのが現状ですし、記者の知識不足という問題もあるかもしれません。一方で、情報を受け取る側も、黒か白か、と言った単純な受け止め方では問題の本質は理解できません。取り組みの背景も含めて理解してもらえるよう、私たちメディア関係者の努力が必要だと感じました。基礎的なリテラシーを高めるために、例えばメディア向けの勉強会を開催するなども一案ではないでしょうか。
藤井 敏彦氏/埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授
【ご意見】資生堂の取り組みはこの1年で大きく前進し、JAVAの活動も非常に素晴らしいと感じました。この動きが、いろいろな意見を吸収しながら日本におけるいい前例になればと感じました。一方で、日本社会は「ゼロリスク」を求める傾向が強く、リスクが顕在化したときには過度に感情的な反応が起こりやすい特質があります。動物実験の場合でも、何か一つ事故などが起これば、事故を起こした企業への制裁にとどまらず、動物実験廃止という流れそのものがストップしてしまう恐れがあり、その意味で、社会的受容性を重視することは必須です。
先日注目を集めた「コンプガチャ」問題では、業界内での自主規制の対応が間に合わず、ひとつのビジネスモデルが廃止に追い込まれました。この例を見ても、業界内での足並みを揃えることも重要です。資生堂が業界を取りまとめてさまざまな活動を進めていることは、その点で大きな意義があるのではないでしょうか。
山﨑 恵子氏/動物との共生を考える連絡会 幹事・農林水産省獣医事審議会元委員・国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター薬理部 新規試験法評価室(JaCVAM)顧問会議委員
【ご意見】環境省が動物愛護法改正に向けて設置した検討小委員会でも、動物実験が議題として取り上げられましたが、議論がそもそもかみ合っていないと感じました。廃止が望ましいのですが、医薬品開発なども含めた全廃には、現実にはまだまだ時間がかかります。まずは取り扱い施設の届出制導入や飼育現場の環境改善などをファーストステップとして実現していくなど、二段階の取り組みが必要だと考えます。
また、JaCVAMなど代替法の研究・開発の促進に向けて重要な役割を担う組織、個別プロジェクトでは資金面での課題を抱えています。企業や動物愛護団体などが集まって、「代替法サポートファンド」のようなものを作れないか、また、企業が大学で専門家育成のための寄附講座を開催できないか、など、垣根を越えたステークホルダー間での協働がますます必要になってきていると感じます。
(司会)川北 秀人氏/IIHOE 人と組織と地球のための国際研究所 代表
【ご意見】これまでも「社会的な認知の向上が必須」というご意見が皆さまから出ていましたが、社会に向けて、この問題の構図をわかりやすく伝えることと、その構図に有効な働きかけをすることの、二つの動きを同時に進めることが非常に重要です。「構図をわかりやすく伝える」ためには、私たちが続けてきたこの対話のプロセスを社会に伝える機会が重要だと感じます。それも、専門家向けだけではなく、「動物実験はなぜ、どんな場面で行われているか」「化粧品開発はどういったプロセスで進められるのか」といったレベルからの情報を広く一般の人にも理解してもらえるよう開示することが大事です。賛成・反対という二項で是非を問うのではなく、理解と啓発の基盤となる情報共有の場が必要です。メディアの注目を集める仕掛けにもなるでしょう。この円卓会議での議論も、第一回以来、ずいぶん深化してきました。その動きを開示する意義は大きいと思います。
これまでの円卓会議の過程で出された課題として、
① 代替法の開発と実用化の推進
② 他社への働きかけ
③ 行政への働きかけ
④ 消費者への働きかけ
4つの項目を確認してきました。
さまざまな立場にあるステークホルダーがどう連携し、どのような取り組みをしていくのか、という議論を続けてきました。今回、代替法の開発と実用化の推進、あるいは行政への働きかけという課題に対して、一つの成果が見られたと感じています。それは、「代替法活用に関するガイダンス」が厚生労働省から発出されたことです。
資生堂が業界団体とともに省庁に働きかけ、また動物愛護・福祉団体が政治家に働きかけたことが、大きな後押しになったのではないでしょうか。これは、この円卓会議を通じて共通の課題に向き合ってきたひとつの成果だと思います。
EU化粧品指令の動向は依然として不透明な状態ですが、報告しましたとおり、資生堂は今後も廃止に向けた取り組みを推進していきます。2012年度は、代替法の開発に加え、新たな安全性保証体系に対する社会的認知の拡大にも注力していきます。
その上で、ステークホルダーエンゲージメント、つまり外部の皆さまの力を借りて一緒に課題解決に取り組もうという姿勢はますます重要になってくると認識しています。今回いただいた示唆に富むご意見やご提案などを受け止め、どのように実現していくことができるか積極的に検討していきたいと思います。
執行役員 岩井 恒彦
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