資生堂は、今年3月に、化粧品の動物実験廃止を段階的にめざすことを決定し公表しました。まず2011年3月までに自社での動物実験を廃止するとともに、さまざまな立場の方々と動物実験廃止に向けた議論を重ねることとしました。
第一回円卓会議では、動物愛護・福祉団体、動物実験代替法や安全性研究の専門家、弁護士、マスコミなど7名のステークホルダーによる意見交換を行いました。
資生堂は本年3月、自社での動物実験施設を2011年3月までに閉鎖すること、ならびに2013年までに化粧品の動物実験廃止を目指す方針を広く社会に宣言しました。当社はこれまでも動物実験の廃止を視野に入れて代替法の開発などに積極的に取り組んできましたが、さらに実施計画と期限を公表することで、社会へのコミットメントとし、ご理解をいただきたいと考えます。
これまで動物実験は、原料や製品の安全性を確認する手段として社会的に位置づけられており、化学物質の使用においては法的に動物実験データが要求されるケースも多くあります。特に化粧品は、肌に直接触れるため、消費者からはさらに厳しい安全性の確保・評価が求められるようになったという経緯があります。
資生堂では、動物実験に関して2006年に改正施行された「動物愛護管理法」や日本学術会議の「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」などを参考に社内体制を整備し、3Rs(※)を基本としてきました。また、「動物実験指針」や「実験動物の取り扱いに関する基準」などを独自に策定し、「動物実験審議会」を社内に設置して厳正に実験計画を審査しています。実験実施者への適切な教育訓練や、動物供養・慰霊祭も実施しています。
資生堂は、動物実験を廃止するためには、安全性を保証する代替法の確立が必要条件だと考えています。今後、社内での研究推進はもちろん、業界団体や代替法評価機関との協力関係の構築、産官学との連携など、国内外で代替法の開発推進に努めてまいります。
岩井 恒彦 執行役員 技術企画・品質保証担当
浅野 明子氏 高木國雄法律事務所 弁護士・第一東京弁護士会環境保全対策委員会 副委員長・日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会委員・ペット法学会会員
【ご意見】私は、いわば社会的弱者保護という点から、実験動物は保護されるべきであり、実験は廃止の方向に進んで欲しいと考えています。しかし、安全性確保の面からも広い意味での動物実験はなくならないだろうと思います。ですから、廃止か存続かだけの議論ではなく、実効性のある手続きや実験内容の議論・整備も進めて欲しいと思います。動物実験については、動物愛護法をはじめとした法令や各省庁の指針、日本学術会議の動物実験のガイドラインはあるものの、飼育環境、研究者の安全、周辺地域の公衆衛生、情報開示、研究の後チェック・評価などさまざまな面で不十分です。動物実験廃止に向けては、国が法整備を進める必要もあるわけですが、現実と法律がきちんと噛み合うように働きかけることも、業界を牽引する資生堂の役割かと思います。また、一般的に消費者は新しい有効成分などが謳われている新製品を追い求める傾向がありますが、その意識を変えるには継続的な啓発・教育が必要なので、そのためにはさまざまな立場の人が知恵を出し合って進めていくことが良策だと思います。
亀倉 弘美氏 NPO法人 動物実験の廃止を求める会(JAVA) 理事
【ご意見】私たちの会は、動物実験の廃止・代替法確立を求める活動を世界各国のNGOと連携しながら行っています。2009年初頭からは「資生堂の動物実験反対キャンペーン」を実施し、消費者一人ひとりが動物実験反対の意志を資生堂に伝えるアクションを促したり、約46,000人の署名とともに公開質問状を届けたりする活動を展開しています。資生堂は国内はもとより欧米・中国などにも進出している日本の最大手の化粧品メーカーなので、動物実験を他社に先駆けて完全廃止すれば、国際社会からも高く評価され、他社も追って廃止することでしょう。その影響力はとても大きいです。「無抵抗な動物を苦しめてまで、美しくなりたいとは思わない」という消費者の気持ちを汲んで欲しいのです。廃止期日よりも先んじて外注も含めた速やかな完全廃止を実現されることを求めます。
田中 憲穂氏 日本動物実験代替法学会 元会長・国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 薬理部 新規試験法評価室(JaCVAM)評価会議委員
【ご意見】動物実験というと残虐なこととして受け止められがちですが、実際にはすべてがむごい実験だというわけではありません。1989年に日本動物実験代替法学会が設立されて以来、学会では3Rsに関連するさまざまな取り組みを行っています。研究は進んできていますが、特に発がん性、催奇形性、免疫毒性などは多くの動物と長期の試験で代替法開発が難しい実験ですが挑戦しております。動物実験に代えられるものは代替法以外にありません。また、とりわけ危険性の高い化学物質は確実にスクリーニングしなければなりません。資生堂には業界リーダーとしてさらなる代替法研究を促進していただきたいです。学会で進められている議論などは一般には伝えられていないので、今回の円卓会議などを通して、さまざまな関係者の相互理解が進むことを期待します。
中野 栄子氏 日経BPコンサルティング プロデューサー・厚生労働省、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の検討会、審議会などの委員
【ご意見】代替法で安全性が確認できる化学物質に関してはよいのですが、まだ動物実験でしか証明できないケースでは、実験はやむを得ないと考えます。消費者はさまざまな考えを持っており、科学的に安全性が確保された製品が欲しいという人もいます。尊重すべきは、消費者が「自身の考え方・判断によって製品を選べる」ことではないでしょうか。また、動物実験の廃止が企業の国際競争にどう影響するのか、新製品の開発力が減退しないかといった点が危惧されます。いずれにしても、例えば発がん性を検証する代替法があとどのくらいで確立される目処なのかといった進ちょく状況を適宜伝えていくことも、この問題を見定める材料となります。資生堂には、正しい情報を積極的に発信し、ステークホルダーと密にコミュニケーションを図りながら取り組みを進めてほしいと思います。
山口 千津子氏 社団法人 日本動物福祉協会 獣医師調査員・東京都動物愛護協議会 委員・日本獣医師会動物愛護福祉委員会 委員
【ご意見】今すぐに動物実験を廃止するのは無理でも、動物たちが人間のために引き受けさせられている苦痛は見逃せません。また、30年前と比べればその飼育環境は改善されたとはいえ、まだ不十分な状況です。日本における動物の福祉環境の早急な確立が望まれます。特に、化粧品業界は代替法確立のために努力を重ねているので、国が資金や制度面で支えることも必要ですし、そのために私たちもバックアップできることはしたいと考えています。化粧品メーカーは、これまでの良品を組み合わせた温故知新の製品づくりを進めることもできるのではないでしょうか。また、資生堂には動物実験の審議委員会があるとのことですが、社外から第三者委員を入れられたほうがよいと思います。
山崎 恵子氏 動物との共生を考える連絡会 幹事・農林水産省獣医事審議会委員・国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 薬理部 新規試験法評価室(JaCVAM)顧問会議委員
【ご意見】人間の事情によって辛い思いをさせられている動物が数多く存在する現実を、どうやって変えていけるのか、現実を広く見て、過剰に感情的になることなく、苦痛軽減と実験動物数の削減を進める道筋を冷静に検討すべきです。そういう意味で今回の円卓会議は画期的で、意見交換によって共通理解と協働のための基盤ができることを期待しています。動物実験廃止、あるいは動物の福祉の確立のために、市民が協力できることがあるなら言っていただければと思います。例えば、動物実験が法的に義務づけられている国に対して、世界の動物愛護・福祉団体や企業が連帯して理解を促す活動をすることも可能です。また、将来を担う学生に向けて、人間と動物の関わりへの理解を深めるための寄贈講座などもぜひ実施していただきたいです。資生堂が、これまで代替法の開発をはじめいろいろな試みを重ねてきていることを、もっと社会にアピールしていかれてはいかがですか。
吉田 武美氏 日本トキシコロジー学会 理事長・昭和大学薬学部教授(毒物学教室)
【ご意見】化学物質の細胞レベルでの毒性・安全性に関しては、未知なことが多いのが現状です。現存する化学物質は約3,000万種で、実際に使用されているのが約10万種といわれています。安全性の確保を第一に考えると、動物実験は万能ではないとはいえ、代替法が確立されていないものに関しては、しばらくは動物実験を避けて通れないと考えられます。いずれにしても、これまでの動物実験があったからこそ薬品や化粧品が安全になってきたことは事実です。そうした歴史を含めて、0か100かという二極の選択だけでなく、相対的な視点で化学物質について考えられるようになるための教育も広めていく必要があります。
「化粧品の成分の開発に動物実験が関わっている事実を今まで知らなかったことを悔やんでいる」という消費者も存在する一方で、「科学的に安全性が確保された製品を安心して使いたい」という消費者もいらっしゃいます。資生堂は、このように消費者にもさまざまなご意見があることを認識し、そのどちらのご要望・ご期待にも応えることが責務であると考えています。代替法研究に関わる専門家からは、「多くの化学物質の開発が進むなかで安全性を優先するなら、代替法が確立されるまでは動物実験の実施はやむを得ない」、動物福祉の専門家からは、「今すぐに動物実験を全面的に廃止できないのであれば、飼育環境や苦痛軽減に配慮しつつ、代替法をできるだけ早く開発すべき」といったご意見をいただきました。また、「動物実験が廃止されることで、商品開発力が減退するのではないか」「安全性の確保が十分に行えるのか」と危惧するお声もありました。さらに、動物実験に反対する市民団体からは、「すでに安全性が保証された原材料と製品を使うことで、動物実験の即廃止は可能ではないか」とのご意見もいただきました。
資生堂としては、動物実験廃止のために、すぐに取り組めることと長期的に取り組むべきことがあると考えています。すぐに取り組めることとしては、既に推進している3Rsの強化と情報開示の促進などです。特に参加者の複数の皆さまからのご意見でもある「動物実験審議会に社外から第三者を入れ、公正性・透明性を確保すること」については、早急に社内対応を検討することを皆さまにお約束しました。また、長期的に取り組むべきこととしては、動物実験に頼らない製品開発へのシフト、既存品の価値開発に軸足を移し、新しい価値を届けていく考えであることをお伝えしました。
「動物実験廃止も代替法確立も化粧品メーカー1社だけで実現できるものではないので、法整備に向けての意見提案や消費者への啓発活動に関しては、できることはバックアップしたい」という協力的なご提案をいただきました。
中でも、「消費者は動物実験について知らされていない」「(動物実験が必要とされる)新製品を追い求める消費者にどう気づきを与えるのか」などに加え、「以前、科学的に正しかったと考えられていたことが、現在では間違っていることが多々あり、″科学的″には不確実性があること」「0か100かという二極の選択だけでなく、相対的な視点を持つこと」など、消費者との情報共有の重要性から既存の概念や価値観の転換の必要性に及ぶ議論が展開されました。このように、安全性の確保と動物実験廃止について広く社会から認知されるためにも、一般の方々の理解が深まるような情報公開や共に考える機会の提供の重要性についてのご指摘がありました。さらに、関連する法規・制度整備について、「日本の法規・制度は、廃止に向けた国際的な動きに合っていない」「代替法開発のさらなる推進に向けて、資金の確保と実践的に活用するための制度整備が必要であり、社会的な理解を国内外で広めることも必要」とのご意見がありました。「資生堂には、業界団体や政府、あるいは国際社会に対して働きかけ、イニシアティブを取るような役割を担ってほしい」という期待の声も受け止めました。
参加者全員が、「動物実験廃止という社会的な課題に取り組むためには、さまざまなステークホルダーの理解と行動が必要である」という認識を、この円卓会議を通して共有することができました。資生堂としては、動物実験廃止に向けた動きを社会全体で加速することができるよう、ステークホルダーの皆さまとの協働を進めてまいります。
こうした円卓会議での議論を今後も進めつつ、皆さまからいただいた貴重なご提案をできることから実践し、ともに動物実験廃止に向けての取り組みを加速させていきたいと考えています。円卓会議は当然、この一回で終わりではなく、議論を深める機会として今後も継続してまいります。
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