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「泡立たない洗顔料」で、洗顔の「当たり前」に挑む。
「肌グミ」の誕生の舞台裏

2026年10月30日

資生堂社員の釣谷が、資生堂汐留オフィスのロビーを背景に、洗顔料である肌グミパッケージを手にして笑顔で立っている

若年層の価値観やライフスタイルが変化する中、2025年9月に発売した洗顔料「肌グミ」。泡立てず、肌をなでるように使う商品を開発し、これまでにない新しい洗顔習慣を提案しています。

開発の背景には、「洗顔キャンセル界隈」という生活者のインサイトと、独自の技術との出会いがありました。洗顔の常識にとらわれない発想と、資生堂が培ってきた品質や使い心地へのこだわりは、どのように一つの商品になったのでしょうか。

「肌グミ」の開発を手掛けた資生堂ジャパン 新価値マネジメント部 新価値プロダクトグループの釣谷麻実に、商品誕生の舞台裏やマーケターとしての信念、そして新たな化粧文化を生み出す挑戦について聞きました。

INDEX

「洗顔キャンセル界隈」に着目。若年層の変化から、新しい洗顔習慣を考える

釣谷「『肌グミ』は、泡立てず、肌の上をなでるだけで皮脂汚れや古い角質を落とす、美容液生まれのグミ状洗顔料です。」

商品開発の出発点となったのは、洗顔料を使わず水だけで顔を洗う、Z世代を中心としたいわゆる「洗顔キャンセル界隈」への着目でした。「なぜ洗顔料を使わないのか」。その背景を深掘りすると、単に「面倒だから」ではない理由が見えてきました。

釣谷がテーブルに着席し、肌グミを前に置いて真剣な表情で説明する様子

資生堂ジャパン株式会社
新価値マネジメント部
新価値プロダクトグループ
釣谷 麻実(つりや あさみ)

釣谷「今の若い世代は、ソーシャルメディアを通じて日々たくさんの情報に触れています。『水洗顔が肌に良い』という情報もあれば、『洗顔料を使ったほうがいい』という情報もある。何が正解かわからない中で、肌のためを思って、あえて洗顔料を使わない選択をしている人が一定数いることがわかりました。」

美容への関心が高く、情報に敏感だからこそ、あえて水洗顔を選ぶ人たちがいる、ということ。一方で、洗顔料を使わない背景としてもう一つ見えてきたのが、日々の行動に効率を求めるタイムパフォーマンスへの強い意識でした。

釣谷「私たちが興味深いなと思ったのは、『暇なのに忙しい現象』です。スマホを見る時間が長い分、ほかの行動は効率良く済ませたい。若い世代には、そうしたタイムパフォーマンスを高めたいという意識がとても強いことがわかりました。」

こうした二つの背景のうち、開発チームが特に注目したのは、「肌のために、あえて洗顔料を使わない」人たちでした。

釣谷「水洗顔も選択肢の一つですが、自分に合う洗顔料を使ってもらえれば、もっと肌が整えられる。そのことを、あえて使っていない人たちに伝えたかったんです。」

「洗顔キャンセル」という行動の奥にある意識を捉え、洗顔料を使っていない人も取り入れたくなる、新しい価値や習慣をつくれないか。その可能性を探る中で出会ったのが、これまでにない「ぷるぷるとした新しい感覚の洗顔」でした。

「泡立たない」を「泡立てなくていい」へ。技術との出会いから生まれた逆転の発想

「洗顔料を使っていない人にも、使いたくなる洗顔を届けたい」。その答えにつながったのが、2024年1月頃、新しいアイデアを探すために訪れた展示会での出会いでした。

釣谷「見つけた瞬間、『これは何なんだろう』とびっくりしました。ぷるぷるとした感触で、洗顔料だとはまったく想像ができない見た目で。」

そのユニークな感触は、見た目の面白さを狙ったものではありません。このシーズを生み出した資生堂ホネケーキ工業株式会社(以下、ホネケーキ社)が目指していたのは、洗顔後のうるおいに着目した洗顔料。うるおい成分を多く配合し、約40日間熟成させる独自の技術から生まれたものでした。

釣谷「展示会後すぐにチームでディスカッションしたときに、全員が『このぷるぷるした洗顔料を、絶対に商品化したい』と。あらためてお話を伺うために、大阪のホネケーキ社へ飛んでいきました。」

ホネケーキ社でこの技術を開発した仁科さんから聞いたのが、意外な「弱点」でした。

釣谷「仁科さんから『これはすごくうるおう。でも一つ欠点があって、全然泡立たない』と言われたんです。それを聞いて、私がすぐに『肌にうるおいを与えられるのであれば、泡立たなくても問題ありません!』と伝えました。」

洗顔料である肌グミを手の甲に滑らせて洗っている様子

水にぬらすだけで肌に密着する
なめらかな撫で心地

「洗顔料は泡立てるもの」という常識に合わせるのではなく、泡立てずに使う。その発想から、「なでるだけ」という使い方が生まれました。

釣谷「毎日の生活に自然に取り入れてもらうには、面倒じゃないほうがいい。だから『なでる』という使い方がいいのではないかと考え、開発を進めていきました。」

一方、手軽さや楽しさだけでなく、洗顔料としての機能も譲れないポイントでした。

釣谷「汚れはしっかり取りたい。でも、そのために必ずしも泡で落とさなくてもいい。『肌グミ』は、水にぬらすと表面にとろみが生まれ、肌に密着し、肌の上をなでることで汚れを浮かせ、洗い流すことができます。

さらに、水切れしやすいケースや、小さくなっても取り出しやすい設計、浴室でも溶けにくくするための熟成技術など、使いやすさまで細部を詰めました。

単に面白いだけの商品ではなく、洗顔料としての機能をきちんと果たす。その点は、資生堂のこだわりとして、絶対に妥協せず、大切にしています。」

長年培われた技術に新しい意味を与え、「泡立たない」という課題を「泡立てなくていい」という価値へ。その発想の転換が、「肌グミ」ならではの洗顔体験を生み出しました。

ホネケーキ社の仁科さんがテーブルに着席し、肌グミを前に置いて笑顔を向けている

ホネケーキ社 仁科さん

ホネケーキ社の社員の皆さまが会議室に集まり、カメラに向かって笑顔で並んでいる様子

ホネケーキ社の皆さま

「優等生」から抜け出す。新しい価値を届けるための“Do”

商品化に向けて、次の壁となったのがパッケージでした。

当初提案したのは、洗顔料であることが伝わる洗練されたデザイン。しかし、販売先のお取引先さまのご担当者から返ってきたのは、意外な言葉でした。

釣谷「『優等生だね』と言われました。そのときは、『資生堂の枠を超えていない』という意味だと理解しました。品が良く、きれいにまとまっているけど、市場を新しくつくれるものとは思われなかった。非常に悔しかったです。」

そこでまず開発チームが向かったのは、会議室ではなく、実際の売り場でした。

釣谷「商談の帰りに作戦会議をして、その後それぞれ分かれて、1人複数の店舗を回ったんです。『何がダメだったのか』を知りたくて。

売り場を見て気づいたのは、デザイン単体では美しくても、棚に並ぶと多くの商品に埋もれてしまうこと。そこでパッケージの色やデザインを大胆に見直し、カラーが際立つような遊び心を加え、約1カ月で全面的に刷新しました。

新しいパッケージを持って再びプレゼンをしたとき、ご担当者がしばらく黙っていて。また失敗したかも…とドキドキしていたら、『資生堂さんらしくないですね』と。後になって、それがすごい褒め言葉だったんだと気づきました。」

肌グミ3種類がテーブルに並んでいる

肌グミ3種類、左から「ぴかぴか」・「ぷりぷり」・「そよそよ」

「優等生」から「資生堂らしくない」へ。釣谷は、この言葉に「枠を抜けられた」と手応えを感じたといいます。一方で、変えなかったものもありました。

釣谷「中味の品質には、資生堂らしさを貫きました。そして、もう一つ大切にしたのが『美意識』です。商品を手にしたときの姿や、使うときの所作まで美しく見えるようにこだわったところも、資生堂らしさだと思っています。」

確かな品質や美意識を守りながら、発想や届け方では枠を越える。その根底には、釣谷が大切にする二つの信念があります。

釣谷「一つは、『自分がいいと思えないと、人には伝わらない』ということ。自分の熱意や愛情を絶やさないことです。もう一つは、『Do(行動)できること』。自分が新しい道を切り開いている姿を後輩や周りにも見せ、良い影響を与えられたらと考えており、行動をすごく重視しています。」

その“Do”は商品開発にとどまりません。

釣谷が笑顔で語っている様子

釣谷「コネクションがない中でも、自分たちから日本グミ協会さんにアプローチして仲間に入れてもらったり、他業界と知り合って一緒に施策を打ったり。新しいことにチャレンジするための行動を大切にしています。」

「自分がいい」と信じられる価値をつくり、自ら動いて届ける。その姿勢が、「肌グミ」の開発とマーケティングを支えています。

洗顔を「義務」から「楽しみ」へ。発売後に見えた新しい可能性

肌グミ3種類のパッケージと、中味がテーブルに並んでいる

2025年9月に発売された「肌グミ」は、開発チームの想像を超える反響を呼びました。

新価値プロダクトグループの立ち上げ時、チームで「何を成し遂げたら、新しい価値を生み出したと言えるのか」を話し合い、そこで目標の一つに掲げたのが、「日経トレンディ」や「日経MJ」のヒット商品企画でランクインすることでした。

釣谷「『それほどの反響を起こせたら目標達成だね』とチームで話していたんです。その後、『肌グミ』は、日経MJの『2025年ヒット商品番付』※1で<東の前頭>に、「日経トレンディ」では『2026年ヒット予測』で<美容・アパレル部門 ヒット予測>と『2026年上半期ヒット大賞&下半期ブレイク予測』で<美容部門 上半期ヒット>に選出いただきました※2。夢のまた夢だと思っていた目標が実現して、大きな手応えを感じました。

当初はZ世代を意識していましたが、実際には他の世代のユーザーや、男性や親子で使う人も。当初の想定を超えたニーズが見えてきました。」

  1. ※1 日経MJが消費動向や世相を踏まえ、売れ行き、開発の着眼点、生活者心理に与えた影響等を総合的に判断して作成しているランキングです。
  2. ※2 『日経トレンディ』2026年6月号「2026年上半期ヒット大賞&下半期ブレイク予測」において、美容部門「上半期ヒット」に選出。

なかでも釣谷がうれしかったのは、生活者から寄せられた声でした。

釣谷「『洗顔が楽しくなった』という声は、本当にうれしい褒め言葉でした。身だしなみという義務的な行為から一歩抜けて、洗顔そのものを楽しみにしてもらえる時間を提供できた。それは大きな喜びでした。」

「洗顔は面倒。でも、肌はきれいに保ちたい」。そんな気持ちに、手間を省くだけでなく、思わず触れたくなる感触や、「なでるだけ」という使い方で応える。肌グミが目指したのは、洗顔そのものを楽しい時間へと変えることでした。

「泡立てる」という当たり前を変えることで、洗顔料を使っていなかった人にも新たな選択肢を届ける。そして、義務だった洗顔を、楽しみに変えていく。そこに、「肌グミ」が生み出した新しい価値があります。

「次はこう来たか、資生堂」と言われる挑戦を続けたい

「肌グミ」の挑戦は、商品をヒットさせることがゴールではありません。生活者の変化を捉え、資生堂が培ってきた技術や品質と掛け合わせ、これまでにない価値へ変えていく。その先に、新しい化粧文化をつくることを目指しています。

釣谷は、資生堂だからこそできる価値づくりについてこう語ります。

釣谷「単なる可愛さで終わらせず、背景にあるストーリーや技術を重ねて『価値づくり』ができるのが私たちの強みだと思います。

今回、テストマーケティングとして小規模で取り組んできた中でも、こだわり抜いたものづくりや価値づくりをすると、世の中に大きな反響を生み出すことができるんだなと実感しました。

新しい価値の種を見つけるため、チームでは積極的に社外へ出て、美術館や異業種の展示会を訪れたり、街を歩いたりしながら、心が動いたものに対して『なぜ?』を繰り返していく。データを見るだけではなく、人の声を聞きに行ったり、チームでディスカッションをすることも大事にしています。

『次はこう来たか、資生堂』と驚かれるような開発や企画を続けていきたいです。」

釣谷が肌グミの商品パッケージを手に持って説明し、テーブル上にも複数の商品が並んでいる様子

生活者の変化を捉え、確かな技術や品質を土台に、常識にとらわれない発想を形にする。「肌グミ」は、そんな資生堂のものづくりを体現する挑戦の一つです。

資生堂の新たな価値づくりへの挑戦は、これからも続きます。

資生堂社員の釣谷が、資生堂汐留オフィスのロビーを背景に、洗顔料である肌グミパッケージを手にして笑顔で立っている