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太陽と、ひとと、アネッサと

前編:「お客さまからの信頼こそが価値」その伝統を力に変えて

2024年6月25日

深澤圭 榎本歩

アネッサグローバルブランドユニット プロダクトイノベーショングループ グループマネージャー 深澤圭(写真左)

ブランド価値開発研究所 グローバルブランド価値開発センター R&Dグループ コンダクター 榎本歩(写真右)

1992年に誕生した、アネッサ。誕生から30年を超え、いまやアジアで売上No.1のサンケアブランドとなった。アネッサはなぜ進化し続けるのか。なぜ進化し続けなければならないのか。そしてアネッサが目指すより良い世界とは?前後編の前編は、研究開発とブランドのコミュニケーションを担当するふたりに聞いた。

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―はじめに、アネッサでのおふたりの役割についてお話いただけますか?

榎本 学生時代は薬学系の研究をしていました。2018年に資生堂に入社し、最初はサンケアグループでSPFに関わる開発を担当しました。その時はまだアネッサの「製品」は作ったことがなかったですが、SPF というサンスクリーンに欠かせない価値開発を通して、アネッサにも関わっていました。2021年からアネッサ専属の研究員になって、商品の中味、パッケージに書いてある情報の開発、プロジェクトマネジメントなどをして現在に至っています。

深澤 私はアネッサのマーケターとしては、実は今年着任したばかりの新人です。でも、ブランドとの関わりは長いんです。入社する前からずっと、大好きな信頼できる日焼け止めとして愛用してきました。大学生の頃友達と海に行ったりする時にも必ず使っていましたし…そういった意味ではウン十年の付き合い、ということになります。

―個人としての愛着が強いブランドに関わることになるのは、どんな気持ちでしょうか

深澤 嬉しかったです! あのアネッサに携わる機会が自分に回ってきたっていうのが、光栄だと思いました。さらに、アネッサのチームに入って、ブランドの歴史を学んで、商品を学んで、これまでのクリエイティブを学んで…知識を得ていけばいくほど、資生堂の中でも特別な、ブランドキャラクターがしっかり強くできているブランドだな、と実感しています。

ブランドそのものが突き抜けて「明るい」

―どんなところが特別でしょうか?

深澤 アネッサは、突き抜けて「明るい」んです。ブランドとしても、それをつくるチームのパーソナリティーもです。アウトドアで使うものだから、ということだけじゃなくて、世界に対して開かれている印象です。太陽が与えてくれる暖かい光とかエネルギーはいっぱい受け取りたい、でも紫外線というものも存在していて…そんな世界で、どうひとが心地よく幸せに生きていくのか、ということを常に考えるのがサンケアだと。だからこそ外に意識が向いていて、開かれている、そこが特別です。

―榎本さんも頷いています

榎本 サンスクリーンというカテゴリーって特殊なんです。というのは、機能としてSPF とかUV防御力という定量的な軸が絶対的にあるので、研究とマーケティングがすごく密接です。ほかの商材ですと、こういう商品がつくりたいというマーケティング側からの企画があって、それと技術を掛け合わせていくのが基本スタイルですが、アネッサの場合は企画の最初に研究から逆提案をするんです。特にサンスクリーンという商材においては、これは開発のあるべき姿かなと思っています。
深澤 そもそもサンスクリーンに期待されている紫外線をブロックする機能には、ほぼ全世界で SPF50+・PA ++++という上限があって、その数字の上限を正しく満たすことと、その先の、数字で測れない環境に適応した防御力という創意工夫をするところが他のカテゴリーの化粧品にはない特色です。技術のアイデアを研究者とマーケッターが一緒に練って、お客さまに伝わり、かつ実感していただける「本当の価値」にしていくというのが、知恵の出しどころだと思っています。

―なんだか、フィギュアスケートのようです。技術力と表現力が両方ずばぬけて高いときに、世界一になれるというような…そんななか、主力の商品に関しては数年おきに中味をアップデートしてお客さまに届けています。どんなことがモチベーションになりますか?

榎本 マーケティング的にも、研究所的にも、前回の自己ベストを超えて、連続的に進化をしなきゃいけないっていうプレッシャーが、むしろいいモチベーションになります。昔の研究員の報告書にも、同じ思いが書いてあるのを見ました。やっぱりいい意味で期待、別な言い方でプレッシャー、が常にあるのがアネッサの開発ですし、それによってお客さまの期待にも応えられていると思います。余談ですが私はアネッサと同い年なんですよ。1992年生まれで。

―プレッシャーをエネルギーに変えながら、どんなプロセスで開発は進むのでしょうか

榎本 「何がおもしろくなりそうか」「次どうする?」という、アイディエーションの会話が大事ですね。今回の進化については、「次はどの環境への適応を目指そうか」という話の中で、誰かが「重力はどうだろう?」と言ったんです。肌に塗った膜が重力に反して自然に動いたら面白いんじゃないか?という発想ですね。突飛なようですが、何ができたら面白いんだろう、というところから研究は始まっています。

―空想的なところを発端にした今回の進化を一言で言うと?

深澤 日常、様々な表情の変化や動きによってサンスクリーンの膜には「よれ」が発生してきます。例えば目の周りでいうと、瞬きする回数は一時間に約1200回と言われています。SPF50+ の表示があるものでも、よれてしまうとその効果が保たれにくくなるわけですが、そこに着想を得た新しいオートリペア技術は、動きによってできる日焼け止めのよれや隙間を自動修復します。目の周りでサンスクリーンがどのくらいよれているかは、使っている方ご自身では気が付かない部分です。そういった、実感がなくて目に見えない不具合も先回りして研究し、より効果的に防御できるように進化させるのがアネッサです。

―お客さまがまだ感じていない部分まで先回りして工夫して、というのは、やっぱりトップブランドの責務ということですか

深澤 そうですね、その結果、「アネッサはやっぱり違う」というお声を昔から今に至るまで本当に多くいただきます。気づかれない工夫が、効果の実感に繋がっているというのがアネッサだな、って。私たちのひそかなプライドです。だからこそアジアで売上No.1のサンケアブランドになれていると思います。

「それはアネッサではやってはいけない」というプライド

―90年代、高いSPF値の競争が激化したことがありました。そのときに、資生堂はむやみなSPF競争には加わらないと宣言したエピソードが残っています。数値的競争だけではなく、お客さまに対して、防御力、使い心地など、必要十分な機能を備えたものを資生堂は作るのだ、と

榎本 そうですね。その矜持は受け継がれています。サンスクリーンは、基本的に紫外線を防御する、予防するアイテムです。価値がわかるのは、肌がやけなかった時、つまり、1日なにも起こらなかったときです。実感がわかりづらい。だからこそ、信頼がとても重要なんです。使っていただいて、やっぱりアネッサだな、と信頼が上書きされていくようにつくらなくてはならない。お客さまの信頼そのものが価値であるブランドなんです。

―お客さまの期待を超える、というのはよく聞きますが、信頼してもらえることが価値だ、と

深澤 先輩たちが長い間積み上げてきたからこそ、自然とそういったものづくりの文化、土壌があると思います。例えば、マーケティング側から訴求アイデアを相談する際に、それが言いきれない場合は榎本さんたちがバッサリ切ってくれます。「それは今回のアネッサでは言えません、なぜならこうこうで、噓になるから」と。キッパリ。

―90年代などの記録をみると、実際に研究者が海外の様々な紫外線環境の場所に出かけて紫外線と肌の関係を測定した、という資料があったりします

榎本 研究を進めるには、実際にひとの肌でどういうことが起きるのかの膨大なデータが必要です。その昔、先輩たちがネパールなどに出向いて紫外線と肌の実地研究をした記録とか、長きにわたって集めたさまざまなデータが残っている、これは資生堂の紫外線研究の100年の歴史のおかげです。膨大な肌データがあるからこそ、防御力の基準や目標が正しく定められるし、お客さまに信頼していただくための基準が設定できます。 チームに入ったころ上司に強く言われたことを覚えています。当時はやっぱり使い心地のいい、気持ちいいもの作りたい、という欲が自分にもあったりして。多少防御効果を譲っても、すぐわかる価値を出したいと思ったりしていました。でもそれではアネッサはダメなんだ、と上司に言われて。そうやって作ってきているからこそ、間違ってないな、と毎回思います。周りを見て焦ることはないです。

何かとの比較でいちばんになりたいわけじゃない

深澤 実は、私たちがいちばんでありたいポイントは、世界のひとたちの肌をいちばん守っていると思われる存在になりたいということです。そのひとが気付いてなくても、アネッサを使っていてくれたら、完璧に守ってあげられるようになりたい、という気持ちがあります。大げさですが、世界に対する責任のようなものが、処方に入っているのがわかるんです。

―資生堂という会社の成り立ちそのものが、そもそも洋風調剤薬局で、まだ日本にない良質なお薬を紹介する、ひとびとに新しい文化を紹介する、という使命からだったという歴史があり、それに少し似ているようです

深澤 アネッサが定義しているブランドパーパスは「Free to shine」。太陽のもと、すべてのひとが輝き続けられる世界を目指しています。言い方は変わっても、ブランドの立ち上げの時から考えは同じです。肌を守るのは当然。さらに健やかに美しくあるためには、どんなことができるんだろう? 太陽のもとでもっと幸せに暮らせるにはどうしたらいいのか? と常に考えているブランドです。

―そんな中、ナイトサンケアが登場しました。夜もアネッサを使わなくちゃいけない?と一瞬思いました

榎本 (笑)。資生堂の100年にわたる研究で当初から強かったのは、紫外線からどう守るか、紫外線が肌にどんな影響に与えるか、そのあたりはずっとトップを走ってきていると思っています。さらに、どうやったらダメージを早く回復できるのか、どう太陽と共生していくのか、つまり、紫外線に強い肌になっていけるのか、みたいなことを考えるわけです。紫外線を知り尽くしたアネッサだからこその、1日通してサンケアをする、という発想が起点になっています。

―逆説的に言うと、肌がそんなふうに進化したら、サンスクリーンがない世界もありえるんでしょうか

榎本 今後技術が進化して、ナイトケアだけで紫外線防御ができるようになったら、極論サンスクリーンがない未来もあるかもしれません。でもやっぱり、あのアネッサのボトルがカバンに入っているだけで、1日通して、太陽と共存して過ごせる、と思っていただきたいので、その思いが消えない以上は、アネッサは進化し続けると思います。

アネッサが叶えたい夢

―アネッサの夢はどこまで行ったら叶うのでしょうか?具体的な自分の実務で何か到達したい夢はありますか?

深澤 ことばで語り切れない、本当に肌のことを考えた効果効能の実現を、手間をかけて、追いかけ続けていることをやめないでいきたいです。それをやめたらアネッサではなくなるという大切なポイントがあって、ブランドのみんながそれを長年にわたって守っている。そこからしか、結局信頼って生まれないんだと思うんです。
榎本 お客さまに信頼され続けること。私はいつまでアネッサの仕事を続けていくかわかりません。私の後任のひとが出てくる時に、そのひとも迷わずにアネッサの考え方とか、私たちが大事にしてきたことを引き継いで、さらなる歴史を積んでいけるようになるといいと思います。