使用済みプラスチックを、
再び化粧品容器へ。
三社とお客さまと共に創る
「資源循環型リサイクルモデル」
資生堂は、独自の容器包装開発ポリシー「資生堂5Rs(Respect・Reduce・Reuse・Recycle・Replace)に基づき、プラスチック容器において、2025年までに100%サステナブルな容器を実現するというミッションを掲げています。2022年7月、その目標達成へと大きく一歩踏み出したのが、積水化学工業株式会社(以下積水化学) と住友化学株式会社(以下住友化学) と三社協働の新たな取り組み「化粧品容器の資源循環型リサイクルモデル構築」プロジェクトです。多種多様な材質が組み合わさったプラスチック製化粧品容器のリサイクルは難しいとされていた中、それを可能にする新たな技術と未来に向けた実行プロセスについて、ブランド価値開発研究所サステナブル開発推進グループマネージャー熊坂欽典、研究担当者 伊藤健司の2名に話を聞きました。
リサイクル困難な化粧品容器を再生する新たな技術との出会い
―今回のプロジェクトの立ち上げ背景について教えてください。
化粧品容器にはいろいろなプラスチック
が組み合わさっている
熊坂 今から3年ほど前、世界的にサステナブルの潮流が強まるなか、パッケージ素材に関連する技術開発を担当する部門として外装素材開発グループが新設されました。私たちは社内の様々な部門と協議しながら2025年までにプラスチック容器において100%サステナブルな容器を実現しようという目標を定めました。とはいえ当時2025年まであと6年という中で、道筋もなく途方に暮れていました。というのも、化粧品容器というのは中味の保護や意匠性を保つなどの目的で、いろいろなプラスチックが複雑に組み合わされています。そういった理由から、分別・再生というリサイクルがほとんどできません。さあ、やるぞ!と言った矢先に前途多難な現実を突きつけられ、愕然としました。
―そんな中、協働という発想にいたったきっかけは?
熊坂 次々と湧き上がる課題に日々悩みながらも、解決の糸口を求めて社外へのアンテナを張り巡らせ、いろいろな講演会に足を運びました。そんなとき、積水化学の「BR エタノール技術※1」を目にしました。その技術はどんなプラスチックでも、分別せずにリサイクルが可能というもの。これを目の当たりにした瞬間「この技術で我々外装設計者が救われる!」と、興奮しました。この技術があれば、化粧品容器設計の制約がなくなるからです。スクリーンに映し出されるプレゼン内容を夢中で記録し、すぐさま積水化学にアポイントを取りました。これをきっかけに、当プロジェクトが進み始めました。
- ※ 家庭から一般廃棄物として収集された可燃性ごみを一切分別することなくガス化し、このガスを微生物により、熱・圧力を用いることなくエタノールに変換する技術。BRはバイオリファイナリーの略。
ブランド価値開発研究所サステナブル開発推進グループマネージャー熊坂欽典
三社協働の「資源循環型リサイクルモデル」への第一歩
―積水化学のリサイクルとはどのような仕組みだったのですか?
熊坂 全てのプラスチックを微生物による変換でエタノールに変え、それを原料にエチレンを経てポリオレフィン(新たなプラスチック)を生み出すというものです。
―従来のリサイクルとは違う部分はどこだったのでしょうか。
熊坂 実は現在実施されているリサイクルには様々な種類があります。「カスケードリサイクル」といって、回収した資源が違うカタチとして生まれ変わる技術は今までありました。それとは違い、私たちが今回のプロジェクトで注目したのは、「水平リサイクル」であること。回収した化粧品容器(資源)が再び化粧品容器となる原料に生まれ変わる技術です。しかも単一のプラスチックからではなく、複合されたプラを分別することなく、容器の原料に再生される技術は世界初の試みになります。お客さまが今まで不要なものとして捨てていた容器を資生堂が回収し、再生したプラスチックで新たな化粧品容器に生まれ変わらせ、お客さまの手元に再び渡る……という、循環の姿が浮かびあがりました。これこそが、一人ひとりがリサイクルに参加している意義を感じられる仕組みなのだ!と、確信しました。
できることからクリアに。計画を進める上での困難と向き合う
―この技術はすぐにでも実装できるものだったのでしょうか。
熊坂 実は私がこの技術に出会った段階では、プラスチックをエタノールにする技術はあるものの、その先のエタノールからポリエチレン樹脂への転換方法はまだ確立できていない状態でした。そこで私は、三つの野望を掲げました。
- 1. エタノールからポリエチレン樹脂へ転換する手段を見つける
- 2. 資生堂製品容器に再生ポリエチレンを採用し使用する
- 3. 資生堂が店頭回収し当プロジェクトを後押しする
この三つをクリアすれば、プラスチック製化粧品容器の資源循環が成立します。これに向けて動き出したのが、2019年7月のことでした。
―三つの野望を掲げ、実際にどのようなアクションを起こされましたか?
熊坂 一番目に掲げた「エタノールをポリエチレンに変える技術を見つける」については、積水化学が住友化学と提携し、可能な技術を開発しました。
―そこから企業の垣根を超えて積水化学・住友化学との三社協働がスタートするわけですね。
熊坂 はい。当プロジェクトは、社会的規模の非常に大きな「輪」です。私たちの力だけでは到底成り立ちません。
伊藤 積水化学・住友化学は基本的にはB to Bの企業ですが、私たち資生堂は商品と店頭というお客さまとの接点があります。だからこそ私たちが二社とお客さまとの「輪」をつなげることで、プラスチック容器の新たな循環モデル構築の可能性がひろがると思いました。
熊坂 私たちがやるべきは、残り二つの「回収する」「再利用する」ことです。中でも大きな課題は店頭回収フローの設計です。
―そのために社内でも他部署と連携を取りながら行っているそうですね。
ブランド価値開発研究所
サステナブル開発推進グループ 伊藤健司
伊藤 研究所では基礎研究、商品開発はしますが、店頭でのオペレーションについてのノウハウは全くありません。そのため、実際に店頭活動を担っている資生堂ジャパンの営業やロジスティクスなどの担当者と議論、連携して進めています。プロジェクト体制を構築するまでは苦労の連続でした。どうしてもコストのかかる取り組みですし、店頭での新たなオペレーションも発生します。ただそういったネガティブな側面よりも、循環型社会への貢献やリードを資生堂が行うことで、業界におけるサステナブルな活動をリードしているイメージやお客さまの購買意欲の向上に繋がるということを丁寧に説明し、社内理解を深めました。いろいろな立場において「知の融合」を行い、困難を突破していく。それも、当プロジェクトのやりがいある点です。
―各部署によって視点や課題感の違いもあるのでしょうか。
熊坂 はい。例えば、容器回収実施のテスト展開スキームひとつとっても、実施地域選定の考え方、コストの考え方が異なったりします。だからこそ、互いの意見を出し合い着地点を見つけるしかない。それを今、まさに行っている最中です。
―店頭回収に向け、具体的に動いていることはありますか。
伊藤 お客さまが使用し終わった化粧品容器は、これまで捨てられていました。廃棄物の取り扱いについては法規的な制約がさまざまあるため、まずはその知識をつけ、制約をクリアにするために適宜行政とやりとりしながら進めています。ゆくゆくは資生堂が委託した店舗、運搬業者、処理業者で回収を運用するスキームを実現するべく、今は一つひとつクリアにしている段階です。
熊坂 将来的には行政と手を組んで当プロジェクトへの思いをPRし、その意義を知ってもらうことで、お客さまの行動変容にも繋げていきたいと思っています。
近い未来、このプロジェクトが地球とひとを変える
―このプロジェクトが実現したら社会がどう変わると考えていますか。
熊坂 化粧品とは、美しくすこやかになるために使うもの。その化粧品の使用済み容器が地球に負荷を与えているとしたら、それは悲しい現実です。私たちも地球も美しくすこやかでありたい。私たちの部門では「地球もひとも美しく」というビジョンを掲げ、資生堂がリードして容器回収プロジェクトを国内、ひいては世界に広め、リサイクルモデルを構築し、循環型の社会インフラとして定着することを目指します。
伊藤 今まで捨てていた化粧品容器を「生まれ変わるための資源」という意識に変えていけるような仕組みを率先して私たちが考え、お客さまにも伝えていきたい。地球や環境にとって、子供たちの未来にとってそれが必要であることをお客さまにも理解いただき、意識と行動を変えていけるかが大切です。きっかけは小さな活動ですが、これが大きな環境への配慮に繋がると思っています。
―最後に、この活動の意義をどう考えますか。お二人自身の思いを教えてください。
熊坂 当プロジェクトが成功したら、技術者が自由に容器を設計できるようになります。意匠性や使いやすさ、中味の安定を目指す容器とリサイクルが両立すれば、お客さまにとってより満足して使っていただける化粧品を提供することができます。この循環をリードする資生堂の姿を見て、ますます資生堂のファンになっていただけたら嬉しいです。そこに意義があり、私のモチベーションにもなっています。
伊藤 今回の取り組みで地球環境を少しでも守ることに繋がれば、きっとそれはたくさんの方の喜びに繋がり、これこそがプロジェクトの意義であると考えます。いち研究員として研究・商品開発活動だけを行うのではなく、社会全体を動かすようなダイナミックな取り組みにも参加できます。それは自由な風土がある資生堂だからこそ。私にとっては、サステナブルな未来へという世の中の潮流の最先端を追いかけながら研究できることが意義であり、活力になっています。