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ジェンダー平等に向け、STEAM教育を通し女性のエンパワーメントを

~クレ・ド・ポー ボーテが社会貢献活動に込める想い~

2025年11月27日

橋本 美月 中島さち子

世界中の女性たちの輝きを解き放ちたいという想いを持ち、ラグジュアリーとサイエンスを極めるクレ・ド・ポー ボーテは、STEAM教育を通して女性をエンパワーメントする社会貢献活動を行っています。
その一環として2019年に創設された「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」では、STEAM分野で社会にポジティブな変化をもたらす女性を毎年表彰し、ブランドのベストセラー「ル・セラム」のグローバル売上の一部を原資とする寄付金を通じて、その活動を支援しています。
今回は、本アワードの2025年受賞者の中島さち子さんと、クレ・ド・ポー ボーテのチーフブランドオフィサーである橋本美月による対談をお届けします。

クレ・ド・ポー ボーテ

資生堂初のグローバルラグジュアリーブランドとして1982年に誕生。 創設から肌細胞科学の新たな領域を確立するという使命を持ち、モダンで魅惑的、ダイナミックな効果を持つ商品を、世界27※1の国と地域で展開。

  1. ※1 2025年10月時点

STEAM

科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術/リベラルアーツ(Art)、数学(Mathematics)の5つの学問領域の英語の頭文字をとった教育概念。2000年代に米国で始まる。当初は科学技術(STEM)にフォーカスされていたが、AIの時代が到来し、マニュアル思考ではない創造力や共感力を加速させる必要があり、のちにArtが加わる。

プロフィール

橋本 美月(はしもと みづき)

資生堂に1997年に入社、国際事業部に配属。入社3年目にヨーロッパ地域本社に異動、パリ駐在を経験。20年以上にわたり、化粧品販売とマーケティングの国際業務に携わる。その後、2012年に資生堂シンガポールの社長に就任、資生堂グループの海外子会社を率いた初の日本人女性となる。2015年クレ・ド・ポー ボーテのブランドに帰任、プロモーションや事業戦略の責任者を経て、2022年1月よりチーフブランドオフィサーに就任。

中島 さち子(なかじま さちこ)

音楽家・数学者・STEAM教育者、メディアアーティスト。株式会社steAm CEO、一般社団法人steAm BAND 代表理事。2025年日本国際博覧会テーマ事業プロデューサー(シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」)。 2025年、「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」を日本人として初めて受賞。
国際数学オリンピックで、日本人女性として初めて金メダルを獲得。19歳の娘を持つ母親。

輝きがあふれる未来を創造するために。
社会にポジティブな変化をもたらす女性を支援

―クレ・ド・ポー ボーテは、どのような想いで社会貢献活動を行っているのでしょうか。

橋本 クレ・ド・ポー ボーテはフランス語で「肌の美しさへの鍵」という意味があります。そして、ブランドミッションは「UNLOCK THE POWER OF YOUR RADIANCE (輝きの力を解き放つ)」です。女性の肌に備わった可能性を解放し輝かせるだけでなく、内面から輝く存在として自己実現し活躍していただきたいと考えています。そして、輝く人が増えることで社会にも良い影響を与えたい。その実現のために女性の地位向上を目指した活動に取り組んでいます。

クレ・ド・ポー ボーテ チーフブランドオフィサー 橋本 美月

―具体的には、どのような活動があるのでしょうか。

橋本 私たちが2019年より独自に始めた活動として、女子の社会的地位向上、女性のエンパワーメントを目的としたグローバルチャリティプログラム「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」があります。現在はSTEAM教育に特化し、この分野に貢献する女性たちを支援しています。もうひとつの活動として、ユニセフとのグローバル・パートナーシップがあります。ジェンダー平等プログラムを通し、少女たちにSTEMスキルを身に着ける機会を提供しています。これまでに世界中で延べ1,240万人以上の少女たちを支援してきました。ユニセフのジェンダー平等プログラムに対し、民間企業としては世界最大規模となる1,740万米ドル※2の拠出をお約束しています。
  1. ※2 2019年のクレ・ド・ポー ボーテとユニセフのパートナーシップ開始以来

―「教育」を切り口にした活動に重きを置いているのはなぜでしょう?

橋本 公平性のある社会を実現するためには、女性の教育に力をいれることが必要だと考えるからです。世界に目を向けると、学校に通えない、さまざまな事情で勉強を続けることができない少女たちがいます。社会的、経済的に厳しい環境の地域では、教育を受けた母親の子どもほど、将来の生活環境が良くなるというデータもあります。つまり、女性の教育支援は、その女性本人だけでなく、次世代、次々世代に大きな影響を与えると考えます。
「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」初代受賞者のマズーン・メレハンさんはシリア出身の難民で、任命当時最年少でユニセフの親善大使となった方です。彼女は困難な状況にありながらも、「教育は、平等なチャンスをつかむための最も有効な手段」と語り、難民キャンプで子どもたちが学びを続けられるように尽力しました。彼女の行動は、困難な状況にある子どもたちに勇気を与え、教育の力が人生を変えることを世界に示しています。

―クレ・ド・ポー ボーテがSTEAM教育に取り組むようになった背景を教えてください。

橋本 クレ・ド・ポー ボーテは40年に渡り肌細胞研究を追求しています。新しい研究成果により独自のアプローチが可能となる「サイエンス」は私たちには重要です。教育分野の中で「サイエンス」とクレ・ド・ポー ボーテは親和性があります。テクノロジーの重要性が増し、現在、社会的ニーズが高まるSTEM領域は、自発性、創造性、判断力、問題解決力といったスキルが磨かれることが期待されています。STEM教育を広めることは、予測な困難な時代に次世代の少女たちが自立し成功するための投資になると考えました。
2025年からは、STEMに新たにArt(芸術/リベラルアーツ)を加えたSTEAMに支援を拡大しています。アートの思考はより柔軟な思考力・創造力を養い、イノベーションへの触発になり、AI時代には特に求められる資質です。時代にあった広がりを持ち、教育を通じて女性の可能性を引き出すことができると期待しています。

―中島さんは、STEAM教育を実践されていますが、STEAMの実情を教えてください。

中島 日本は2019年ごろから文科省や経産省がSTEAM教育に言及したことをきっかけに、注目されはじめました。各教科を横断的に学習することで、社会的な価値創造を育むことが期待されています。
世界の経済や社会環境が厳しい国々では、社会課題に取り組む問題解決能力や専門性を身につけることができるSTEM/STEAM教育が重要視されています。
そして、世界的に見てマイノリティな立場に置かれている女性の教育にSTEM/STEAMの要素を取り入れる国も増えています。
これから先、大切になるのは「どういう社会をつくりたいか」という想いです。その想いの実現に正解のルートはなく、豊かな発想力が必要になります。触れたことがない、試したことがないと発想は湧きません。実践して失敗してアプローチを変えて、という動きの中から解決の糸口が見つかったりします。自分の得意、不得意を決めつけずに、正解ありきではなく、わからないことを楽しんでみる、遊んでみてほしいです。

「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」2025年受賞者 中島さち子さん

日本人として初の受賞。
枠組みを解き放つ中島さんの取り組み

―中島さんは2025年の「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」を受賞されました。感想をお聞かせください。

中島 日本人として初の受賞だと伺い、とても光栄でした。同時に、今回の受賞は、機会をいただけただけでなく、責任を伴うと感じました。世界経済フォーラム※3の「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2024」によると、日本はジェンダー平等達成率が146か国中118位※4で、特にSTEM分野での男女格差が大きく、女性が少ないのが現状です。マイノリティであるがゆえに、自分がやりたいことの追求を諦めることがないように。誰もが夢や情熱を失うことなく、その思いをかたちにできる社会の実現が求められています。私は、その環境を整え、支援するための活動を続けています。
この1年はクレ・ド・ポー ボーテと一緒にどこまで踏み込んで日本社会を動かしていけるか——そんな想いがありました。
橋本 過去の受賞者は、先ほどご紹介したシリア難民のマズーンさん以外も、ネパール、カザフスタン、インドネシア、ベトナム、アメリカでSTEM活動に取り組む女性たちです。私たちの取り組みを日本のお客さまにも伝えていきたいという想いがありましたので、世界でご活躍されている中島さんにアワードをお贈りできたことは、とても意義深く感じております。今年は中島さんが大阪・関西万博の「シグネチャーパビリオン」のプロデュースもご担当され、STEAM教育を社会に広く興味を持っていただき、また、中島さんのSTEAM教育活動を知っていただく絶好のタイミングとなりました。
中島 日本では、中学生になる頃から、自分の得意な傾向で文系・理系に分けて進路を考えるようになります。それが結果的にジェンダーの固定観念に繋がってしまいます。
地方を中心に「女の子だから数学はできなくてもいい」と周りから言われて諦めてしまうというケースがまだ見受けられます。だからこそ、クレ・ド・ポー ボーテとご一緒に活動することで、「おしゃれな数学を楽しみましょう」と、魅力的に発信できるのが良いと思いました。
橋本 「おしゃれな数学」ですか。
中島 はい。数学好きな女の子は、「真面目そう、お堅そう」とレッテルを貼られがちです。でも、実際はファッションやアート、料理といったそれぞれの「好き」な領域で数学を楽しんでいます。数式や公式を柔らかな視点を持って問題解決に繋げていけることをもっと知って欲しい。私は「数理女子」というサイトの運営に携わっていますが、彼女たちが多様な存在であることを啓発したいと考えています。
橋本 「リケジョ」という言葉も、理系の女性が注目されるきっかけになったことは良かったと思いますが、科学者になる女性が少ないというジェンダーバイアスが少なからず含まれているのではないでしょうか。私は女子高出身で文系でしたが数学が好きでした。学ぶことが楽しかったです。
中島 私も同じです。数学オリンピックに出場したので「ザ・理系」に見られがちですが、数学は独学でも学べるので、学校では文系の授業を多く取っていました。
橋本 そうでしたか。私も進路は最後まで悩み、結果的に文系大学に進みました。日本はまだ、どちらか一方を選ばなければならない風潮がありますよね。
中島 これまでは分けることで効率を上げてきたのだと思いますが、それが限界にきていると思います。
  1. ※3 グローバルな経済問題に取り組むために、政治、経済、学術などの各分野における指導者層の交流を目的とした、スイスに本部を置く独立・非営利団体
  2. ※4 「The Global Gender Gap Report 2024」内での、各国各地域における男女格差を図る指数。日本は146か国中118位。

場があれば、才能は開花する

―受賞後、中島さんとクレ・ド・ポー ボーテが共同で「STEAM Girls Award」を開催されました。いかがでしたか?

橋本 このアワードは日本国内の小学生から高校生までの女子を対象に、STEAM分野の知識や技術を活用した創造的な探究活動とその成果発表の機会を提供することを目的に実施しました。テーマが3つ用意され、応募者はその中から1つを選択してもらいました。
  1. 1.芸術家や哲学者になりきり、何かを生み出したり世界を新しいメガネで見る
  2. 2.科学者や数学者になりきり、自分だけの問いをみつけ、研究や深堀りを行う
  3. 3.発明家や起業家になりきり、いのち輝く未来社会のために何ができるか考える

たとえば「海をきれいにしたい」という大きなテーマで、海底を掃除する仕組みを考える提案から、身近な問題をテクノロジーでどう解決できるのかを探るアイディアなど、少女たちの発想の豊かさに触れることができました。

中島 「子どもが電子レンジでやけどしないためにはどうすればいいのか」、「廃棄されるだけのポテトチップスの袋から下敷きを作る」など、非常におもしろいものが多く、審査が難しかったです。アイディアだけではなく、プロトタイプも作るなど素晴らしい取り組みでした。
扱った問題は身近でしたが、発想は多様でしたね。「解決したい」「楽しくしたい」という想いから「形にしよう」と動いたことが、次につながっていくのだろうなと思いました。
入賞チームには大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンの一つ、私がプロデューサーを務めた「いのちの遊び場 クラゲ館」に招待しました。その中で交流が生まれ、新たなコラボレーションがここから生まれるのではないかという期待が持てました。
今回、「STEAM Girls Award」という舞台があったからこそ、その力を発揮してくれたと思います。普段は控えめな少女も、「Girls Award」と銘打ったことで行動が後押しされたのではないかと思います。
橋本 大阪・関西万博とあわせ、資生堂の大阪茨木工場も見学していただきました。ものづくりの現場を見て、触発されることがあれば良いなと思います。
世界と比較すると日本の女性は遠慮しがちで、それは美徳でもあるのですが、機会を失っているとも感じています。「私なんて」と一歩引くのではなく、「私らしく」と1歩、踏み出し、「私が」と歩みを進める女性たちが増えたらと感じています。

「STEAM Girls Award」受賞式の様子

「いのちの遊び場 クラゲ館」見学の様子

大阪茨木工場での体験の様子

社会はどうあるべきか。
多様な創造性が変化を促す。

―アワードの関連イベントとして、STEAM×ジェンダーパネル セッションも行われました。いかがでしたか?

橋本 私は8月1日に開催された「STEAMの醍醐味と多様性の価値」、というテーマの登壇が非常に興味深かったです。中島さん、私を含めて登壇者は4名でしたが、みなさん、ポジティブなエネルギーが溢れていました。特に印象に残っているのは、身体のさまざまな感覚を他者やロボットと共有する技術「ボディシェアリング」を開発した、琉球大学の教授で経営者の玉城絵美さんです。学生時代、長期の入院を余儀なくされたとき、あれもこれも体験したい、できないなら、他の人の体験を共有できればいいのに、と思ったことがきっかけで新しい研究に没頭し、人生における体験量を3倍に拡張できる開発に辿りついたという壮大な話でした。
中島 入院中のご自身を「引きこもり」と称しながら外を体験したいという一心で研究の空白領域だった「固有感覚」に着目したお話、発想が豊かで「こんな人もいるんだ!」と興味深かったですね。女性で工学の第一線で活躍する方の話を聞く機会自体が少ないので、貴重な機会でした。
橋本 困難をものともせず、思い描く未来社会の実現に向け邁進する方がロールモデルとしてたくさん出てきてくれれば後に続く女性たちは勇気をもらえますね。
中島 そうですね。いろいろなタイプの方に出てきてほしいなと思います。女性の数学者と出会ったことのない人が、実際に大学で話す機会を得たとき「ふつうの人だ」と感じたそうです。少数だと、「特別な人」というイメージが形成されがちです。今回、私がこのトークセッションのモデレーターとして携わりましたが、多様な人たちに登壇してもらい、等身大で話してもらうことが大切だなと思いました。登壇に慣れていなくていい。練習すれば自転車に乗れるようになるみたいに、話すことに慣れるための「場」をつくっていきたいですね。多種多様なロールモデルが登場することが何より大事です。
橋本 成功者やリーダーに対するステレオタイプが日本の社会には根深く残っているように思います。「きっとこういう人だろう」と想像が先走りがちですが、実際は多面的です。公の場では、その場にふさわしい振る舞いをしますが、いつも同じトーンでいるわけではありません。私もチームメンバーにはふだんの私を意識して見せるようにしています。メンバーには、最近はまっている趣味も知られています。
中島 人はどうしても表向きの自分を取り繕いたいところがあるのですが、自分の弱い部分も含めてシェアできることが大事です。昨年、アメリカで開催された「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」のイベントに参加したとき、高い志の女性たちが、みな自分の弱さについて語っていたのが印象的でした。境遇が恵まれていなかったこと、マイノリティだったこと、そこから何を学び、何を得て今があるのか。人生には波があり、人の気持ちも揺らぎます。諦めなかったことが次の扉を開けるのです。そのストーリーがとても励みになります。

―今後の展望についてお聞かせください。

中島 創造する喜びを知り、得意や興味が開花しやすい社会づくりを続けていきます。
先日、資生堂の社員向けにSTEAMについての講座を開催しました。皆さんの反応が良く、また、STEAMを楽しめる機会が提供できればうれしいです。今後もSTEAM教育の発展に向けてご一緒に活動ができたらと思います。
橋本 ラグジュアリーとサイエンスを極めるブランドとして、教育を通した女性のエンパワーメントを続け、社会に対して意義がある取り組みを通じて、この世界のより良い変化に貢献していきたいですね。化粧品ブランドとしての存在を超え輝きの輪を広げ、よりよい未来を美の力で実現させます。