『花椿』第15代編集長が語る、アートブック形式で発信する新しいカルチャー提案とは
2024年11月28日
花椿編集長 塚田優子
資生堂の企業文化誌として、長年多くの読者に愛されてきた『花椿』は2024年11月にアートブックスタイルの新誌面に生まれ変わります。アートブックとは、作家やアーティストが写真や画像などを使い、世界観を表現したり、作品を発表したりするものとして広がりつつある出版物です。時代の変化にあわせてアプローチを変えながらも、「美」に軸足を置いて、その可能性を100年に渡り追求し続けてきた『花椿』。今回は『花椿』のこれまでを振り返りながら、資生堂や日本の「美」に与えてきた影響、そして未来への展望について、塚田編集長に話を聞きました。
INDEX
―まずは、これまでのキャリアについて教えてください
―『花椿』について簡単に教えてください
―前身となる『資生堂月報』から現在の『花椿』に至るまで、100年続く企業文化誌の変遷について教えてください
塚田 1924年、日本のみならず、当時は珍しかった海外の生活文化情報を伝えることを目的に『資生堂月報』が創刊。1933年には、その後継として『資生堂グラフ』へと名前を変え、写真やビジュアル表現を重視した冊子へと進化していきます。そして1937年に、愛用者組織「花椿会」の発足とともに、『花椿』が誕生します。創刊時のメッセージに「美しき贈り物」とあったように、情報が限られていた時代に、美容はファッション、西洋文化の生活スタイルや文芸など最先端の情報を伝えていました。
戦時中に休刊しますが1950年に復刊。高度経済成長期とともに部数は伸び続け、1960年代後半には655万部を超える国民的な冊子に成長しました。当時、『花椿』を輸送するためだけの列車が走っていたというエピソードもあるほどです。
1980年代にはアート・ディレクターの仲條正義さんや平山景子編集長のもと、「ビジュアルエンターテイメント」を編集方針に掲げ、先鋭的なカルチャー誌としてグラフィカルな誌面づくりが行われます。その後、2012年に企業文化誌として一度原点に帰り、資生堂らしさも表現できるようにリニューアル。2016年には月刊誌から季刊誌となり、Webもスタートし、現在に至ります。
―時代や表現方法が移り変わる中で、読者層に変化はあったのでしょうか?
―特集の決め方や誌面のつくり方はどのように変化していきましたか?
塚田 創刊当初は、例えばその季節のメイク特集だったりファッション写真の中にメイクの情報を入れたりと、美容にまつわる企画や記事が中心でした。1980年以降の仲條正義さんがアート・ディレクターをしていた約40年間は、美容、ビューティーを根底におきつつも、ビジュアル表現の優先順位が高くなっていき、仲條さんのインスピレーションを基に、それを具現化していくような誌面づくりが行われていきます。2012年以降は、編集長がテーマを決め、みんなで企画を出しあってつくるスタイルに変わりました。私もその方法を受け継ぎ、アート・ディレクターと一緒にテーマを考え、メンバーと共に企画を検討しながら進めています。
―今回のリニューアルのきっかけを教えてください
塚田 今の時代、さまざまな情報があふれていて、物質的にも豊かになりました。だからこそ「本当に大切なもの、美しいものとは何か」という本質的な部分に立ち戻る必要があると感じるようになったのです。『花椿』のバックナンバーを見ていると、60・70年代のものをあらためて読むと、美やエレガンスというものを真摯に追求し、表現しているように思います。ビジュアルはもちろんのこと、文章や小さなコラムに至るまで、資生堂の美意識や哲学が息づいています。そこで、今こそこうした豊かさの原点に立ち返ることが時代的にも求められているのではないかと考えるようになりました。この時代に立ち返りつつ、現代的なアップデートも加えながら1冊を編んでいきたいと思い、今回のリニューアルを進めていきました。
―『花椿』は創刊以来、「美」をテーマにしていますが、今回のリニューアルで挑戦していくのは「新しい美の開拓」ですね。その意図を伺えますか
―今回のクリエイティブ・ディレクターを海外メゾンのクリエイティブコンサルタントをメインにお仕事されている、フランス出身のクラリス・ドゥモリさんにお願いした理由を教えてください。
塚田 『花椿』は100年という歴史の中で多くの資産を積み重ねてきた一方、その歴史の長さゆえにアウトプットの仕方が画一的になっているとも感じていました。そこで、カルチャーの異なる海外の方を起用することで、新たな視点や解釈、編集方法が生まれ、資生堂が培ってきたものをより効果的に社会に発信できるのではないかと考えるようになりました。
そこで、クラリスさんに相談をした際、彼女がバックナンバーを見て「アール・ド・ヴィーヴル (art de vivre)」を感じると言ってくれました。美しく豊かな生活、暮らしの芸術といった意味のフランス語ですが、実は資生堂の2000年のコーポレートメッセージの一部にもあった言葉なんです。彼女はそれまで『花椿』を見たことがなかったですし、日本に来たことさえなかった。それでも、その言葉で『花椿』を表現してくれたことに驚き、深く感動して、この人となら一緒に『花椿』をつくっていけると確信したんです。
―リニューアル第1号のテーマは「ケア」ですが、どうやって決めていきましたか
―ビジュアル面では、アートブックスタイルに進化し見せ方が大幅に変わっています
―今回のリニューアルにあたり、誌面とWebの役割について、意識的に変えている点や工夫している点を教えてください。
―リニューアルをしていく中でも『花椿』が大切にし続けていることや、変わらない部分を教えてください
―社内に編集室があるということの価値にもつながりますね
―各企業や団体がオウンドメディアを発信している時代です。『花椿』が存在し続けている理由はどこにあると思いますか
塚田 私たちはアート&ヘリテージマネジメント部という部署で「資生堂ギャラリー」、「資生堂企業資料館」・「アートハウス」(ともに静岡県掛川市)なども運営しています。資生堂がこれまで培ってきた文化を重要な資産として考え、大切に守り続けてきました。
『花椿』も、資生堂の文化活動の1つとしてその中に含まれるんです。文化を守り、発信する活動が、会社の中にしっかりと根付いている。これが、他との大きな違いだと思います。『花椿』のことを分かりやすく説明するためにオウンドメディアと表現することもありますが、実際は現在の一般的なオウンドメディアとは役割が大きく異なり、資生堂にとっては必要不可欠な存在だと思っています。
―塚田さんご自身にとって『花椿』とはどのようなものなのでしょうか。また、リニューアルした『花椿』を手に取られての感想も伺えますか
―今後はどんな特集や誌面展開を考えていますか
―最後にメッセージをお願いします
―クリエイティブ・ディレクターのクラリス・ドゥモリさんからもメッセージをいただきました
私は「美しさこそが世界で最も大切なものだ」と信じています。美しさは愛をもたらし、愛こそが生命そのものだからです。とはいえ、美しさにはさまざまな形があり、特に健康や自然、健やかさと結びついている美しさが好きです。人々にインスピレーションを与えるのは、まさにそういう美しさであってほしいと願っています。ぜひ、リニューアルした『花椿』を手にとっていただけたらと思います。
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