設立50周年を迎えた「資生堂子ども財団」が描く未来
~大人がつながれば、子どもの未来を支えられる~
1972年に資生堂創業100周年記念事業として設立された、「公益財団法人 資生堂子ども財団(旧:公益財団法人 資生堂社会福祉事業財団、以下:子ども財団)」は、「すべての子どもが笑顔にあふれ、自分らしく輝く社会へ」をミッションとし、日々活動を行っています。設立50周年を迎えた今、誰もが自分らしく輝けることを目指し、どのような未来を描いているのか。その活動内容と未来へのビジョンについて、事務局長の白岩哲明、メンバーの井上千生、京奈都子、脇真理に話を聞きました。
子どもの未来をより輝かせる活動を
―子ども財団の設立背景を教えてください。
白岩 設立は今から50年前のことです。当時、資生堂は100周年の節目を迎えていました。資生堂がここまで持続できたのはお客さまや社会の支援があったからこそで次は私たちがお客さまと社会に還元する番だという思いから、社会貢献活動の一環として、子ども財団の発足にいたりました。
―なぜ「子ども」だったのでしょう?
白岩 資生堂は化粧品会社ですので、当時はまず世の女性に貢献したいという思いがありました。発足当時は女性の社会進出が増える一方で、働く母親を支える環境が整っていないのが社会課題でもあったため、未来を担う子どもたちを支援することに着目しました。
子ども財団が発足した1970年代は、ちょうど戦後の高度経済成長期の真っ只中でした。日本全体が経済的や物質的には恵まれてきた一方で、いろいろな事情により親と離れてしまった子どもの問題などが顕在化してきた時代でした。そういった時代背景のもと、資生堂では次代の担い手を育む女性および児童の福祉の向上と充実を見据えて、活動を開始しました。
―ここ数年のコロナ禍によっても、子どもたちを取り巻く環境はより厳しい状況になっていますよね。
白岩 そうなんです。社会的養護下にある子どもは日本に約42,000人おり、その多くが児童虐待や経済的事情など子ども自身ではコントロールできない理由によって、親と離れて施設や里親のもとで暮らしています。時代とともに核家族が多くなり、地域で子育てをするという概念が薄れてきていることに加え、コロナ禍によって各家庭が孤立していることも要因の一つと言えるでしょう。
―現代社会における、子ども財団の意義とは?
白岩 資生堂は「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方を持ち、どんなバックグラウンドの人でも、多様に活躍できる社会を目指しています。子ども財団の活動においても、子どもたちが置かれた環境によって将来の選択肢を制限されることがなく、夢と希望を持って自分らしい人生を歩めるように、各方面で支援しています。それこそが、現代社会における私たちの活動意義だと考えています。
資生堂子ども財団のロゴマーク。平和の象徴である「鳩」と、芽吹きや成長の象徴である「若葉」をモチーフにし、すべての子どもが健やかに育ってほしいという願いが込められています。
経済面や教育面など、多角的に子どもを支援する具体施策
―具体的にはどんな活動をしているのですか。
京 まず、現在の活動は、「⼦どもへの⽀援」「子どもを育む職員への支援」「情報発信・共有」の3つの柱にわかれています。そして、「子どもへの支援」の中のひとつとして奨学金制度による支援があります。
一般的に社会的養護下で暮らす子どもたちは、大学への進学率が低いというデータがあります。そこで2007年より、奨学金制度をスタートしました。大学、短大、専門学校に進学する子どもたちに、年50万円を返済不要の奨学金として給付しています。また、金銭的なサポート以外にも、定期的な交流会の実施や、化粧品や食品など生活用品の支給も行っています。これまで81名の奨学生を支援し、現在は奨学生が16名在籍していますが、一人でも多くの奨学生をサポートすることが、今の私たちの課題です。
―2022年にリニューアルされた公式サイトでは寄附も募集しているそうですね。
脇 はい。「奨学⽣応援サポーター」として、一般の方がWEB上で寄附を行えるようになりました。公式サイトやSNSなどを通じたデジタルコミュニケーションを強化することで、子どもたちのことを思ってくださる方々と繋がるきっかけをつくり、支援の輪をより大きく広げていけたらと考えています。
―自立支援セミナーについても教えてください。
井上 子どもたちが自立するにあたり必要な社会的知識を専門家から学ぶ機会として、いくつかのセミナーを開催しています。
株式会社AOKI、株式会社リクルート、特定非営利活動法人NPO
STARSなど、複数の企業・法人さまと連携しながら実施しているセミナーの内容は多岐にわたり、メイクアップ講座、スーツの着こなし講座、住まい探しの基本を知るための講座、自分の心身について理解を深めるためのワークショップなど様々です。今後も新しい企業と協業し、さらに輪を広げていきたいと思っています。
―セミナーに参加する子どもたちのリアクションはどうですか?
井上 学びがあるということももちろんなのですが、スーツに袖を通したり、普段とは違うやり方でメイクアップをしたりすることで、子どもたちの顔がパッと明るく、嬉しそうな表情になるのが印象的です。それを見ている私たちも、とても嬉しくなります。「美の力」を感じる瞬間です。
―次に、「子どもを育む職員への支援」の一環として行われ、財団発足当初から継続されている海外研修についても教えてください。
白岩 子ども財団が主催する海外研修は、福祉先進国の事例を学ぶ目的で1973年より始まり、修了者も700人ほどに上ります。この活動は厚生労働省に後援いただいているので、報告書は厚生労働省にも提出します。日本の子ども支援の施策に繋がっていくという側面でも、大きな意義のある活動だと思います。これまで海外研修に参加された方の多くは、現在、児童福祉の世界で活躍されています。
井上 私たちが発信している「そらまめガイド」というスマホ版情報サイトは、海外研修修了者の有志で立ち上げた特定非営利活動法人NPO STARSが制作に携わっています。そらまめガイドでは、子どもたちが抱えている課題などについて児童養護施設職員などの生の声をヒアリングした上で、子どもたちの自立に役立つ情報を発信しています。
―「子どもたちが抱えている課題」には、どういったことがあるのでしょうか。
井上 社会的養護下で暮らす子どもたちの中には、施設を出たあと小さなことをきっかけに挫折してしまう子も多くいます。例えば、無断欠勤を上司から強く叱られたことで会社に行きづらくなり、そのまま会社を辞め貧困問題に直面する、といった例もあります。そういった事例をヒアリングし、周囲の人に相談できないような場合でも、そらまめガイドを開けば何かの一助になるよう、情報発信をしています。
一人でも多くの子どもたちが手に取ることができるよう、漢字にふりがなを振ったり、なるべく平易な表現を心がけたり、細部にまでこだわっています。
子ども財団が見据えるこれからの未来
―最後にお一人ずつ、未来に向けて描くビジョンを教えてください。
白岩 これから先の子どもの未来を支えるためには、私たちの活動は時代に合わせて進化しなければなりません。私たちが、やるべきことは3つ。1つめは、より多くの企業と組んでよい支援をすること。2つめは、個人レベルでも寄附を通じて子どもたちを支援してもらえるよう、子ども財団の知名度を上げること。3つめは、児童福祉の関連で貢献する人や団体を助成し、関係機関が地域ごとにうまく連携して皆で子育てを支援するしくみをつくること。子ども財団をきっかけに、企業や個人、行政などの関係機関が関わり合い、未来の子どもたちへの支援をしていきたいです。
京 ある奨学生とずっとメールでやりとりした上で、オンラインの交流会で初めて顔を合わせてコミュニケーションを取りました。それ以来、何かあったときにメッセージをくれるようになりました。彼らにとって「連絡や相談をできる大人がいる」というふうに認識してもらえたのは、嬉しいこと。これから先も子どもたちとの交流活動を、積極的に行っていきたいです。
井上 血縁関係に関わらず、子どもたちが大人に頼れるような世の中になってほしいです。今の時代、いつどんな子どもが児童養護施設にお世話になってもおかしくない。遠い世界の出来事ではないという意識を持って、社会全体で子どもたちを気にかけてあげることが大切です。そのために私たちができることは、子ども財団の存在を知ってもらい、社会的養護下で暮らす子どもたちのことをより多くの人に知ってもらうことです。
脇 毎年、卒業する奨学生が自分らしく輝いた姿で社会へ巣立っていく姿を見ると、より多くの社会的養護下で暮らす子どもたちに奨学金制度を利用してもらいたいと願うばかりです。「高校時代、経済的な状況などから将来を前向きに考えられなかったけれど、奨学金が救いの手になった。今は念願の仕事に就き、日々をすごく楽しく過ごしている」という卒業生のコメントはずっと忘れられません。そんな子どもを一人でも増やせるよう、子ども財団の存在について知っていただくための活動をしていくべきだと思っています。
白岩 置かれた環境によって、子どもたちの選択肢が制限されることがない未来を描きたい。そのために、子どもたち一人ひとりが「こうなりたい」という夢を持って、自分の人生を歩んでいけるよう、支援をしていきます。どんな環境で育っても、例えば「ロケットを飛ばしたい」というような、大きな夢を持っていいんです。金額面の援助というところに留まらず、夢を持つ子どもたちの後押しができたらと思っています。そんな思いのもとに、私たちは日々活動に邁進しています。