2021年10月28日
「資生堂 女性研究者サイエンスグラント」は、資生堂が日本において2007年より実施している、女性研究者の優秀な研究を支援する活動です。この活動では、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)領域でのジェンダー間格差がいまだ大きいという社会課題を解決するべく「次世代の指導的役割を担う女性研究者を支援することが科学技術の発展につながる」という考えのもと、自然科学分野全般において功績を残している女性研究者を幅広く対象としています。
毎年該当する10名を選出し、受賞者には各100万円の研究助成金を贈呈しています。この助成金は研究費用としてだけではなく、出産育児をはじめとした女性のライフイベントに関わる研究サポート費用としても使用でき、それがこの活動の大きな特長でもあります。
今回、第15回目という節目を迎えるにあたり、資生堂が2030年のゴールとしている「世界中の人々が、美の力を通じて、生涯にわたってより自分らしく、心の充足や幸福感を実感できるサステナブルな世界の実現」へその研究がどう貢献するか、という視点が審査に加わりました。そんな本グラントのこれまでの歩み、そして、これからの展望とは。
今回、第1回の受賞者である松下祥子先生(現:東京工業大学 物質理工学院准教授)をゲストに迎え、審査委員長である当社エグゼクティブオフィサー 吉田克典、全体の企画運営を担うアカデミックリレーショングループマネージャー 藤原留美子の3名に話を聞きました。
―「資生堂 女性研究者サイエンスグラント」が発足した背景を教えてください。
吉田 私は現在のポジションについて3年ほどのため発足には関わっていませんが、2007年発足当時は、今ほどダイバーシティ&インクルージョンが唱えられていた時代ではありませんでした。そういった時代背景で女性研究者にクローズアップした支援を行うことは、大きなチャレンジだったのではないかと思います。
当時、日本全体の女性研究者の割合はわずか12%ほどと決して多くない状況でした。そこで当社は「未来のリーダーとなる女性研究者を支援し、次世代への裾野を広げる」ことが、これからの社会には必要不可欠と考えました。私たちがそう考える背景には、資生堂が「美」を創造する企業であり、お客さまをはじめ各ステークホルダーにおける女性の比率が比較的多かったことも、大いにあるのではないかと思います。
―発足から15年目を迎え、女性研究者の割合は増えましたか?
―これまで15年間続いていますが、サイエンスグラントに参加される研究者の方々はどういった価値を見出しているとお考えですか?
吉田 15年もの間、毎年欠かさずに実施していることが、応募者および受賞者の方の力になっている、という話を耳にします。そう言っていただけるのはもちろん助成金の存在もあると思いますが、それ以上に、受賞者の先生方は研究の過程と結果を認められる場があることに、価値を感じてくださっているようです。
「今後研究を続ける上で背中を押してもらえた」と言ってくださることで、私たちはこの活動の意義を感じます。関わっている私も、純粋に嬉しいです。
―それは、プライスレスな価値ですね。15年間の社会の変化に伴って、女性研究者が抱える課題は変わりましたか?
藤原 受賞者の方々とコミュニケーションをする中で見えてきた課題に、研究という手間暇がかかる仕事と女性のライフイベントの両立の問題がありました。最近でこそ社会の風潮としてダイバーシティ&インクルージョンが叫ばれていますが、アカデミアの現場では、その観点があまり浸透していないのが現状です。
だからこそこの活動では、研究助成金を研究費用としてだけでなく、ライフイベント中の研究をサポートする費用などにも使っていただけるよう、よりフレキシブルに捉えるようにしてきました。例えば妊娠・出産に伴う周辺のフォロー体制を整える雇用費用、ベビーシッター費用、学生さんの育成に関わる費用など、研究に関わる費用という概念を、より広く捉えるようにシフトさせています。
―そのほかに、課題解決に向けて行っていることはありますか?
―15回目より、審査に新たな視点が加わったそうですね。
―それでは、第1回目の受賞者である松下祥子先生にもお話をお伺いしていけたらと思います。応募当時の研究と応募動機などもお伺いできますか。
松下先生 「コロイド結晶内の近接場共鳴を利用した機能性材料開発の試み」という研究をしていました。これはコロイド結晶が、光の半導体といわれる新しい光学材料フォトニック結晶に応用できる可能性を研究したもので、コロイド化学を物理応用する先駆け的な研究であったと自負しています。
受賞をいただいたのは2009年6月のことでしたが、私はその1年ほど前の2008年の2月に出産し、産後2ヵ月で研究室に復帰しました。当時は研究室長として日本大学に在籍しており、フォローのスタッフをつけていただいたのですが、やはり対応しきれないことが多くありました。ありがたいことに私に師事したいといってくれる学生がたくさんいましたが、研究をするにもお金がかかりますし、大学として何か成果を出さなくては、という状況でした。
そんな折、女性科学者の会のつながりで、この活動について知りました。「私の今の状況でも研究を続けられるかもしれない、応募してみるしかない!」と、運命的なものを感じました。
―実際に受賞された後の心境はどうでしたか?
松下先生 サイエンスグラント受賞という形をもって研究活動が具体的に認められたので、小さな娘を子育てしながらの研究活動を、より頑張っていかなければと奮い立たせられました。
受賞前は「このままこの研究を続けていいのだろうか」という葛藤が常にありました。というのも、当時私を一番必要としていたのは、他ならぬ4ヵ月の小さなわが娘。自分がそれを一番よくわかっていましたが、研究は続けたい…。誰に何を言われたわけでもなく、常にその部分での葛藤がありました。
そんな折の受賞は、資生堂さんが「私が研究を続ける」ことを認めてくださったように感じ、研究へのモチベーションは受賞前とは比べものにならないくらいアップしました。
藤原 研究者の方にお話をお伺いしていると、女性だからこそ感じる苦悩もあるようです。だからこそ研究成果についてだけでなく、研究過程でのハードルについても話し合えるコミュニティのハブとなれるよう、この活動を盛り上げていけたらと思います。
例えば、研究とライフイベントとの両立で思い悩んだときに、先輩受賞者に相談をしやすい環境を作るなど……。グラントとしてだけでなく、研究者同士の出会いの場や支え合う場として活用していただけるような仕組み作りが課題だと思っています。
―最後に、サイエンスグラントの今後の展望についてお聞かせください。
現在、第15回 資生堂 女性研究者サイエンスグラントを募集しています。応募期限は、2021年11月16日まで。詳しくは下記サイトをご覧ください。
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