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より豊かに、よりサステナブルに。
スキン&マインドケアブランド「BAUM」立ち上げメンバーが語るブランド創設の裏側

2021年09月29日

より豊かに、よりサステナブルに。スキン&マインドケアブランド「BAUM」立ち上げメンバーが語るブランド創設の裏側

2020年6月、プレステージ領域におけるグローバルスキンビューティーブランドとして、「BAUM(バウム)」がデビューしました。資生堂の企業理念「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」に基づく社会課題の解決や環境負荷軽減などへの取り組みを掲げ、古来より環境の変化に調和してきた「樹木の力」に着目。構想から実に約3年という年月を経て、「樹木との共生」をテーマとしたスキン&マインドケアブランドとして発売されました。サステナブル思想とビューティービジネスの両立、そして、このテーマを具現化するにあたり、パッケージに木材を使用するという化粧品の常識を打ち破る新たな試みに挑んだプロジェクトチームが抱く思いとは。「BAUM」ブランドマネージャー 西脇文美、グローバルイノベーションセンター外装設計担当 大越基喜、クリエイティブ本部パッケージデザイナー 山田みどりの3名に話を聞きました。

「サステナブルの押しつけ」ではなく、「本当に使いたい」と共感されるものづくりを

―BAUMの立ち上げの背景を教えてください。

「BAUM」ブランドマネージャー 西脇文美

「BAUM」ブランドマネージャー 西脇文美

西脇 新しくプレステージ領域のブランドを開発するにあたり、まずはこれからの時代に合ったプレステージ、つまりこれからの「豊かさ」ってどんなことだろう、というところから考え直しました。その過程で見えてきたのは、豊かさが「物質的」なものからより「精神的」なものに変容しているということでした。若い世代を中心に、物質的に満たされるより、自分の消費行動がどこかで社会とつながることで自己肯定感が高まり、心が充足する、そのような精神的な豊かさを重視する傾向にあると感じます。その中で「サステナブル」がキーワードとなったのは、ごく自然なことでした。日本企業である私たちがサステナブルを解釈したときに捉えたのが「自然との共生」でした。

「いただきます」という言葉に象徴されるように、日本人である私たちは昔から自然への畏敬や感謝の念を持ち、島国の限られた資源をうまく循環させて暮らしてきた歴史があります。ここを出発点に、価値開発を進めました。候補となるアイディアは多岐にわたりましたが、最終的に「樹木との共生」に決定しました。樹木は日本人にとって馴染み深い素材であると同時に、循環する資源の象徴でもあります。新たな時代のプレステージの在り方を表現するモチーフとして、最も適切だと感じました。

―サステナブルを意識されつつも、消費者にとって商品を選ぶ動機となる「使い心地の良さ」に注力されたそうですね。

西脇 はい、サステナブル思想を一方的に押しつけるものは、市場に長く根付かないのではないか、という疑念が強くありました。「地球環境によいことを」という全人類にとっての正解については誰も否定しないけれど、嗜好要素の高い「化粧品」の領域でそれをどこまで「自分ごと」にできるのだろうと。サステナブルをストイックに突き詰めると、究極的にはミニマルなものとなっていきますが、やはり化粧品は贅沢さを楽しむ側面もあり、使うときの気持ちの高揚を大切にしたかったんです。そういった意味で、デザイン性や品質面における情緒的要素はとても重要です。使用シーンの「快」の部分をいかに奪わずして、「新しい形の豊かさ」としてのサステナブル性を追求できるか、これが一番の肝であり、このブランドの成否を分けると考えていました。だからこそ、そのバランスにはとことんこだわりましたね。「使いたいと思って手に取ったものが、結果としてサステナブルだった!」。そう思える商品づくりを目指して、圧倒的に「かっこいい」もの、本心から欲しいと思えるものを目指し、妥協しませんでした。

「サステナブルの押しつけ」ではなく、「本当に使いたい」と共感されるものづくりを

五感が深く癒される。そんな「スキン&マインドケア」体験を提供したい

―「消費者の豊かな体験がサステナブル文脈に有機的につながる」というブランドストーリーの組み立てがしっかりとできていたからこそ、BAUMが実現したのでしょうね。

西脇 はい。気をつけたことは、サステナブルという概念的なものをいかに実体をもって消費者に伝えるかということ。だからこそ「樹木」という、私たちにとって身近でわかりやすい象徴を介在させることは、とても意味のあることでした。樹木は年輪を持ち、それは、時を重ねれば重ねるほど積み重なって価値となっていく。それが、私たちが目指したい「よりよい世界をつくっていく」という考え方と合致したので、これしかない!と思い、樹木を意味するBAUMをブランド名としました。

―BAUMが掲げる「スキン&マインドケア」とは、どんな体験を指すのでしょう。

西脇 今の時代を生きる人がビューティーケアに求めること、それを一番に考えました。現代人は日々膨大な情報にさらされ、恒常的に精神的な負荷がかかっているので、そんな方々に満足していただくには、単純にアウターにつける化粧品としてだけでなく、マインドにもアプローチしたいと考えました。今回樹木に着目したもう1つの理由がそこにあります。森林浴をした際に清々しい気持ちになる原因と言われる、樹木から出る「フィトンチッド」という揮発性物質の存在。その香気にインスピレーションを得ました。都会の自室に居ながらにして、森林浴をしたかのような体験を提供することで、局所の対処療法的なスキンケアを超えた、マインドフルな美容体験の実現を目指しました。そのため、BAUMの商品ラインナップにはキャンドルやルームスプレーなどもあります。空間の香りを演出した上でスキンケアをする新たな「リチュアル(体験)」を、ぜひ楽しんでいただけたらと思っています。

―次にパッケージデザインについて教えてください。「サステナブル」や「樹木」といったテーマを、どうデザインしていったのですか?

クリエイティブ本部パッケージデザイナー 山田みどり

クリエイティブ本部パッケージデザイナー 山田みどり

山田 「樹木との共生」がブランドのコンセプトなので、パッケージにも本物の木材を再生使用しています。世の中の化粧品のパッケージは主張するデザインが多かったりしますが、BAUMはあえてインテリアのような要素を意識し、家のどの空間に置いても違和感がないようなものを目指しました。

―パッケージの木材は、カリモク家具さんのアップサイクル木材を使われているんですよね。

山田 はい。パッケージに木材を採用することのハードルは山積みでしたので、専門家の方の知見なくしては実現しませんでした。そこで、木の特性を知り尽くす家具デザイナーの熊野亘さんをチームに迎えました。話を進めていく中で、家具作りの過程で大量に出る端材の存在を知り、「ぜひパッケージに活用したい!」と考え、歴史のある国内生産家具メーカーであるカリモク家具さんのご協力のもと、プロジェクトが始動しました。

―木材を化粧品のパッケージに使用するというのは、なかなか無い組み合わせですよね。

大越 そうですね。パッケージ担当としても、製品自体に木を使うというということはほとんど経験がなかったので、最初は不安もありました。というのも、木は自然のものなので、木屑が出たりするため、衛生管理の観点からも課題がたくさんあったんです。ですが、カリモクさんが木屑が出ないよう専用のクリーンルームを作って対策するなどものすごく尽力くださり、最終的にはハードルを越えることができました。その他にも工場のメンバーや、品質管理のメンバーとも力を合わせて、木屑の発生が無いこと、虫の混入が無いこと、微生物の汚染が無いことなど、1つ1つクリアしていきました。

木材を化粧品のパッケージに使用するというのは、なかなか無い組み合わせですよね。

―レフィル設計はサステナブルブランドを形づくる手段として、最初から決まっていたのですか?

西脇 はい、当初から構想にありました。一度購入すれば、レフィル交換だけでパッケージの木製パーツはずっと使っていただけます。レフィルにはバイオPET樹脂やリサイクルガラスなど環境負荷の少ない素材を採用しています。木製パーツはプレステージ品質のカリモク家具さんの端材を使っているからこそ、高級家具のように手に馴染み、長くご愛用いただけます。また、木目や端材の組み合わせ方には個体差があり、1つとして同じものが存在しないので、自分だけの木製パーツに愛着を感じていただけるのも特徴です。

―パッケージを実装化する上で、どのあたりが大変でしたか?

大越 温度や湿度によって膨張・収縮する木枠と、プラスチック素材のレフィルを嵌合(かんごう=はめ合わす)させることです。何度も試作を繰り返しました。緩衝材を入れる案も出ましたが、見た目の美しさからはやはりかけ離れていく。いかに木枠とレフィルだけで、シンプルに完結させるかにこだわりましたね。それが本当に難しかったです。最終的には、ごく小さな別パーツのストッパーを木枠の内底部分に据える案で決定しかけたのですが、でもやっぱり「いや、これはかっこよくない。どうにかしてストッパーはなくしたい」と踏ん張りました。サステナブルをテーマに掲げているからこそ、木は木だけ。何も付け足したくなかったんです。そこで木枠とボトルのクリアランス(隙間)をギリギリまで攻めて、細かい乗り上げや首元の形状などを0コンマ何ミリ単位の寸法で調整しました。もう、執念ですよね(笑)。スッと取り出せ、「カチッ」とはまる。そんな音まで含めた“心地よさを感じられる”詰め替え体験も、ぜひ多くの人に味わっていただきたいです!また、木枠は、使い続けることによって味が出てくる「経年美化」もあるので、その点も楽しんでいただけるといいなと思います。
外装設計担当 大越基喜

外装設計担当 大越基喜

何度も施策を重ねたという木枠

何度も施策を重ねたという木枠

発売から1年。多くのユーザーに多様な価値を感じていただけた喜び

―発売されて1年が経ちますが、お客さまや社会の反応からどんなことを感じられましたか?

西脇 サステナブルの押しつけにならないよう、デザインや体験価値の部分で共感が得られるものを作ったという自負はあったものの、真の意味で、「サステナブル」という思想やブランドストーリーが直接の購入動機になるにはまだ少し時間が必要かもしれないと思っていたのですが、BAUMが持つサステナブル思想に共感したことがきっかけで買ってくれた人が意外と多かったのです。開発時に想定していたよりさらに若い20代の購買者の割合がもっとも高く、発売直後から思想に共感いただけたのはうれしいサプライズでしたね。デザインに惚れてくださる方、香りを気に入ってくださる方、成分に興味を持ってくださる方、思想に共感してくださる方。「なぜ購入したのか」の理由がそれぞれで、多様な価値を感じていただけているのがBAUMの在り方であり、それを許容するブランドでありたいですね。
大越 化粧品はもちろん中味が大切ですが、BAUMをパケ買い(パッケージを気に入って購入)したという消費者の方が多くいらっしゃったのは、容器設計をした自分からするとうれしかったです。木枠のパッケージデザインや森林浴の香りというのもジェンダーニュートラルで、男女の軸というより思想の軸で買ってくださっている方が多いのも、私たちの目指していたところと合致したと思います。また、多くのデザイン賞などを獲得することができ、容器が評価されたことも嬉しかったです。
山田 デザイン賞って、単にデザインが美しいだけでなくストーリーがあるうえでデザインがされていることが重要なんです。ですから、「デザイン賞」と言えど、ブランドが獲得した賞だと感じています。ご協力いただいた外部の会社さんを含め、すごく多くの人が関わってチームプレーで作った商品なので、喜びも大きかったです。
デザイン賞

恵みを返し、循環させる。BAUMが見据えるこれからのサステナビリティ

―BAUMはこれからも進化させていくそうですね。

西脇 はい。中味もパッケージも今後さらに進化させていく予定です。現在パッケージに使用している木材は東北地方のオーク材を使っているのですが、ブランドの取り組みとして、その恩恵を循環させていきたい思いから、同じ樹種であるオークを中心に、店頭で苗木を育て、成長後に岩手県「BAUMオークの森」へ植樹するという活動を実施しています。住友林業さんのご協力のもと、2021年の秋に1回目の植樹を予定しています。

―前例がないプロジェクトを試行錯誤を重ねながら形にできたのは、みなさんの情熱があったからこそですね。

西脇 はい、ここまで到達するまでにはいろいろなハードルを越えてきました。ほとんどのことが前例のない初めての試みであり、毎回、四方八方から「できない理由」をたくさん突きつけられては背水の陣に陥るのですが、そのたびに「どうやったら実現できるか」をしぶとく追及し続けました。その思いが伝播して、少しずつ仲間が増えていき、社内外の多くの方の力添えを得て誕生したのがBAUMです。発売以来、日本のお客さまだけでなく、海外からもお問い合わせをいただいています。2021年の秋には中国でも発売を予定しています。これからも、より多くの人にBAUMと出会っていただけたらうれしいです。