KEY FIGURES
2023年 19年対比 原価率
2pts改善
2023年 在庫回転日数(DSI)
200日以下
大阪茨木工場 CO₂排出量を
約30%削減
Q1.資生堂の生産体制は、どのような特徴と課題がありますか。
資生堂は、2022年5月に稼働を開始する久留米工場を含め、国内6工場と海外7工場、世界全体で13カ所の生産拠点から全世界のお客さまへ商品を供給しています。
このいずれの工場でも、「モノづくり精神」に裏付けられた最高水準の資生堂品質は、お客さまからも高く評価され、当社の強みとなっています。最高水準の品質を実現するため、海外工場においても、当社の「モノづくり精神」と技術を受け継ぐとともに、国内工場と同じルール、システム、品質テストを導入しています。
加えて、グローバルな生産体制を整備することで、地域ごとのニーズに対応した柔軟な生産が可能となっています。各地域の生産拠点では、その地域で展開するブランドの商品を主に生産し、柔軟かつ機動的な生産・供給を実現するとともに、原材料調達の現地化によるリードタイムの短縮のほか、費用効率の最大化、非常時のBCP対応を実現しています。
一方、2017年頃から商品需要に対して、供給能力がひっ迫し、大きな機会損失を発生させてしまったことに加え、適正水準を超える在庫を不必要に抱えてしまっていたことが課題でした。2020年から2021年にかけて、新型コロナウイルス感染症の影響で生産数量は減少しましたが、今後の回復に向けて、成長機会を逃すことなく、お客さまに資生堂商品を安定的かつタイムリーにお届けするために供給能力の強化に取り組んできました。
今後の継続的な課題としては、先行きが不透明な環境下においても、常にお客さまのニーズに迅速に応えた商品供給を行うことです。その実現に向け、グローバルで統一したシステム「FOCUS」の導入によるリアルタイムオペレーションへの進化、オペレーションレベルのさらなる向上を図っていきます。
生産拠点MAP
Q2.「WIN 2023 and Beyond」におけるサプライネットワーク戦略のポイントを教えてください。
中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」の達成に向けて、戦略の核となる6つの重点戦略(下図)と、各項目での優先アクションをグローバル共通で定め、これを着実に毎年実現するよう活動しています。
まず「成長基盤の再構築」に向け、品質・安全・サステナビリティを重視した体制の構築に注力していきます。また「スキンビューティー領域への注力」に伴うさまざまな構造改革と連動した供給体制の強化、そして「高収益構造への転換」に大きく寄与するサプライネットワーク領域でのコスト効率化を図っていきます。
次に、創業150周年を迎えた2022年を新たなスタート時点と位置づけ、妥協しない品質・安全性を担保するためにあらゆるプロセスを再点検・新鋭化するとともに、地球環境と共生し続けるサステナブルなサプライネットワークの構築を目指しています。また、ブランドポートフォリオの再構築に合わせてさまざまなM&A、調達・生産・供給をグローバルレベルで最適化しながら、機動性が高く、効率的かつ確実に安定供給ができる体制を構築していきます。
最後に、サプライネットワーク領域での費用低減により、全社目標である2023年営業利益率15%の達成に貢献します。具体的には、工場でのAI、IoTなどの最先端技術の活用による需要予測の精度向上に加え、原材料サプライヤー様との協働による調達価格の最適化、偏在在庫の極少化、FOCUS導入による供給計画の見える化、システム・プロセスの標準化・合理化による間接部門の効率化をグローバルのサプライヤーネットワーク全メンバーがOne Teamとなることで実現していきます。
「WIN 2023」グローバルサプライネットワーク戦略
Q3.大阪茨木工場をはじめ新設の国内工場についてご説明ください。
2019年以降立ち上げた国内3工場には、それぞれの役割と期待があります。那須工場は、36年ぶりの国内新工場となりましたが、供給課題の解決のために迅速な竣工・始動に努めました。大阪茨木工場は、最新の物流センターを併設するとともに、敷地内にコンシューマーセンターを設置することで、よりお客さまに近い生産拠点として稼働を開始しました。福岡久留米工場は、将来さらなる成長に備え、メイド・イン・ジャパンのプレミアムスキンケアを確実に供給する役割に加え、最先端デジタル技術を導入した工場として稼働します。3工場いずれも、最高水準の品質をお届けする体制とともに、地域と環境との共生を目指した製造設備を導入しており、お客さまに直接モノづくりの現場を見ていただけるよう、工場見学を充実させています。
2020年から2021年にかけて稼働を開始した大阪茨木工場と西日本物流センターについて、詳細をご説明します。このサプライネットワーク拠点は、「100年先の未来を見据えて資生堂の高品質なモノづくりを発信する拠点をつくる」というビジョンのもと、生産・物流・配送の各機能を統合しました。また、人に優しい働きやすい生産現場を目指し、従業員の6割以上を占める女性目線で職場を整え、業務内容に応じて効率的に働く場所を選ぶABW(Activity Based Working)の考え方に基づいたオフィス環境を導入しています。さらに、材料等の自動搬送や各種帳票類のデジタル化を進め、生産性向上と作業負荷軽減を図っています。
併設する西日本物流センターは生産拠点に隣接しているというメリットを活かし、効率性の向上と商品供給リードタイムの短縮、輸送コストの削減を可能とします。また、国内最大規模の自動倉庫を介し、大阪茨木工場で生産された商品の入庫を自動化・受注準備をするほか、独自の次世代型マルチシャトルを活用した世界初のGP3(Goods to Person for Pick and Pack)と呼ばれる出荷システムを採用しました。商品のピッキングから梱包、荷札のラベリングまでを同時に行うこの出荷システムの導入に加え、受注管理プロセスの自動化が、徹底した省人化と最高品質の提供につながっています。
Q4.サプライネットワーク領域におけるサステナビリティの取り組みについて教えてください。
サプライネットワークにおけるあらゆる活動がサステナビリティに関連しており、サプライネットワーク戦略の中で重要な柱の1つです。
私たちは、地球環境への負荷をゼロにすることを目指しています。その実現に向け、世界各地域のサプライネットワークチームがさまざまなコミュニティやイニシアティブと協力し、サステナビリティに関する具体的なロードマップを構築しました。水力や太陽光発電由来の再生可能エネルギーの使用、水の消費量削減、原材料廃棄削減、埋め立て廃棄物のゼロ化、サステナブルな原材料の調達や容器包装などの取り組みが世界中の工場・物流拠点で進んでいます。
大阪茨木工場においては、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)のA評価を取得したほか、外壁材や設備の工夫によりCO₂排出量を通常の設計に比べ約30%削減しています。製造時に使用する冷却水については、循環水の再利用により年間 65,000トンの水消費量の削減効果を生み出しています。
また、こうした環境負荷軽減の取り組みに加え、人権の尊重についても、調達からお客さまに商品をお届けするまでのサプライネットワーク全体で取り組んでいくことが不可欠です。資生堂では、資生堂グループサプライヤー行動基準にて、法令等の遵守、腐敗防止、人権の尊重、安全かつ健康的な労働環境、環境保全などを重視することを明示するとともに、サプライヤー評価を進め、エシカルなサプライネットワークの実現を図っています。
そして、働く人がやりがいを感じる環境も重要な項目です。私たちの商品でお客さまに幸せになっていただくためには、商品をつくる社員も笑顔でなければなりません。社員が快適に働くことができる環境を整えることで、より品質や効率性を追及することができるようになりました。またLGBTQ をはじめダイバーシティに配慮した労働環境も整備が進んでいます。すでに導入している那須工場をはじめとした新工場に加え、既存工場でも随時、人材に関する投資を続け、働きやすい職場の実現を行っていきます。
Q5.チーフサプライネットワークオフィサーとして、今後の抱負を聞かせてください。
私は、2021年1月にチーフサプライネットワークオフィサーに就任しました。
他のグローバルビューティーカンパニーでも約30年間、調達からお客さまに商品をお届けするまでの業務に従事した経験がありますが、資生堂がこれまでの歴史で築き上げてきたDNAと企業文化には感銘を受けています。
私の役割は、企業使命である「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」および中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」の実現に向け、資生堂の文化と、現代的で革新的で責任あるサプライネットワーク戦略を結び付け、当社のサプライネットワーク改革をリードすることです。地球環境と共生しつつ、お客さまの期待に応え、高効率で機動性、信頼性の高い、かつ包括的なサプライネットワークへの改革に挑戦し続けていきます。
企業の価値を生み出すのは、人財です。ダイバーシティ&インクルージョンを加速させ、メンバーの成長をうながし、快適に働けるようにサポートし、積極的なコミュニケーションとイノベーションを創出することで、素晴らしいチームをつくり上げていきたいと思います。
2022年4月