資生堂は2021年、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指し、2030年に向けたビジョンと中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」を策定しました。2021年~2023年の3カ年は、その第1段階として中期戦略「WIN 2023」を推進しています。
本セクションでは、「WIN 2023 and Beyond」の概要と、戦略の進捗、2021年の実績、CFOによる財務戦略の解説を掲載しています。
KEY FIGURES
2023年
スキンケア売上構成比
80%
2023年
営業利益率
15%
2023年
フリーキャッシュフロー
1,000億円
戦略策定の背景
新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に事業環境が変化し、複数の経営課題が顕在化しました。生活者の価値観や購買行動の変化を踏まえたビジネスモデルの転換が不可欠であり、全社的に固定費が大きく、生産性・効率性も競合他社と比較すると低水準にとどまっているという収益構造も改革が必要でした。これまでのインバウンド需要への高い依存度や欧米の収益性改善に向けた構造改革も急務でした。加えて、DXによる成長基盤拡充、サプライチェーンや生産能力の効率化などもさらなる成長に向けての課題でした。
一方、市場環境については2030年までの予測・分析を行いました。生活者の健康や未病への関心が高まり、これらと密接に関係する「肌の健康」に対する意識がこれまで以上に高まるものと想定しており、グローバルのプレステージ・プレミアムビューティー市場は年平均5~6%程度の成長軌道へと回帰すると分析しています。特に、スキンケアやサンケアの機能性をはじめ、クリーン、ナチュラル、サステナブルといった新しいコンセプトや皮膚科学などのサイエンスによる裏付けがより重視され、美容機器、美容医療、インナービューティー市場なども拡大すると予測しています。また、デジタル技術の進展に伴い、Eコマースの拡大はもとより、データ分析に基づくマーケティングや、生活者一人ひとりの嗜好に合わせたアプローチが重要になると考えています。
中長期経営戦略WIN 2023 and Beyondの概要
こうした分析を踏まえ、2021年からは、2030年のビジョン達成に向けた第1段階の中期戦略「WIN 2023」をスタートしました。
資生堂は、2030年にスキンビューティー領域における世界No.1の企業を目指します。そして、2021年~2023年の3年間は、「Skin Beauty Company(スキンビューティーカンパニー)」としての基盤を構築するため、抜本的な経営改革を実行し、これまでの売上拡大による成長重視から、収益性とキャッシュフロー重視の経営へと転換します。
2021年を「変革と次への準備」の期間とし、With / Afterコロナへの対応・準備をしながら、事業ポートフォリオの再構築を中心とした構造転換、財務基盤の強化に集中しました。また、創業150周年を迎える2022年を「再び成長軌道へ」の年と位置づけ、グローバルブランドのさらなる成長およびDXの取り組みを加速させます。そして、最終年度となる2023年は「完全復活」の年と定め、「スキンビューティーカンパニー」として、売上高1兆円程度、営業利益率15%の達成を目指します。さらにブランド・イノベーション・サプライチェーン・DX・人財への積極的な投資を中長期的に継続し、強化していきます。
主要な戦略は、以下のとおりです。
戦略のポイントと進捗
「WIN 2023」では、資生堂が強みを持ち、かつ市場としても発展が期待されるスキンビューティーに経営資源を集中投下し、ブランドの育成とポートフォリオの拡充、新たな事業の開発を進めます。そして、2030年までにこの領域における世界No.1の企業になることを目指します。事業分野としては、スキンケアを中核に、サンケアやメンズ、メイクアップをはじめ、美容機器、さらにはサプリメントなどのインナービューティーなど、多面的な価値創出を目指します。外部が持つ知見・技術との融合も強化し、M&Aやオープンイノベーションも加速していきます。具体的な目標としては、グループ全体の売上高に占めるプレミアムスキンビューティー事業の構成比を、2019年の60%から、2023年には80%にまで高めることを目標に掲げています。現在、戦略投資や事業ポートフォリオ再構築が確実に進んでおり、2022年には75%を超える見込みです。
高収益構造への転換に向けては、スキンビューティーカンパニーとしての基盤を構築し、収益性とキャッシュフロー重視の戦略へと転換すべく、営業利益率15%実現に向けた事業構造改革を進めています。事業ポートフォリオの再構築を図るとともに、コスト競争力の強化、生産性・効率性の改善、中国を中心としたアジア圏での成長強化、さらにはDXといった課題に対し、全社でスピードを持った抜本的な改革を進めています。
2021年は、事業譲渡やライセンス契約解消など、事業規模2,000億円を超える構造改革を実行し、事業ポートフォリオの再構築を進めました。これにより、利益率の高いスキンビューティーブランドの割合が高まるとともに、在庫の削減、SKU数の削減に加え、工場稼働率の向上など、今後の成長に向けた収益基盤を確立することができました。
グローバルトランスフォーメーションのロードマップ
成長基盤の再構築に向けては、デジタル変革が重点戦略の1つとなります。データやビューティーテクノロジーによる診断のさらなる活用や、Eコマース・オムニチャネル化の加速、データ分析とデジタルマーケティングを強化するとともに、デジタル人財の獲得・育成、組織体制の強化とパートナー企業との協働を加速しています。
2021年は、各地域のDXが着実に前進し、プレステージブランドを中心に新たなプラットフォームへの導入拡大や、プロモーション強化により、Eコマース比率は2023年目標の35%に迫る34%(+20%超成長)を実現しました。デジタルマーケティングの強化については、200件超のライブストリーミングを行うなど生活者とのエンゲージメントを強化しており、2022年には独自のオンライン肌診断プログラムを展開する予定です。組織・人財面では、日本のDXを担うアクセンチュア社との合弁会社、資⽣堂インタラクティブビューティー株式会社が2021年7月から始動するとともに、2021年12月には、中国テクノロジー大手Tencent(テンセント)グループとの戦略的パートナーシップを締結しました。また、デジタル人財育成機関、Shiseido+ デジタルアカデミーの総受講者数は10,000名を超えました。
成長を支える研究開発とサプライチェーンの改革も進めています。研究開発分野では、2021年1月に刷新した研究開発体制のもと、R&D理念「DYNAMIC HARMONY」を制定し、イノベーション創出に向けた戦略に取り組んでいます。「WIN 2023」では売上高比率で3%程度の研究開発費を投下し、投資を拡大していきます。サプライネットワークでは、生産・物流体制を強化する大阪茨木工場および西日本物流センターが本格稼働しており、供給力拡充、内製化の進展と生産効率向上、さらには環境対応の強化を図ります。これらにより、2023年には原価率を2019年比で2ポイント改善させる計画です。
戦略の一部について下記ページにて詳細を解説しています。
2030年に向けたビジョン
資生堂の企業使命は「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」 です。美の力を通じて、「人々が幸福を実感できる」サステナブルな社会を実現していきたいと考えています。
プレミアムスキンビューティー事業を中核として成長を遂げ、世界2億人の人生に寄り添い、幸福を実感できる機会を提供していくことを2030年のゴールとします。この実現に向けては、東洋思想をベースに化粧品を中心としたビューティーウェルネス事業を展開し、2030年にスキンビューティー領域における世界No.1となること、そして、売上高2兆円、営業利益率18%の達成を目標としていきます。
こうした中、2030年、そしてその先の未来に向けて、資生堂では「PERSONAL BEAUTY WELLNESS COMPANY」というコンセプトを掲げました。これは、スキンビューティーとインナービューティーを融合し、お客さまの生涯を通じて、一人ひとりの自分らしい「健康美」を実現していきたいという想いに基づいています。さまざまなテクノロジーを駆使し、一人ひとりの肌や体内の状態把握とコンサルティングに基づく的確なソリューション提供、多様な購入方法、そして継続的なエンゲージメントといったサイクルを実現する、「健やかな美」のプラットフォームを構築し、生涯を通じたパートナーとなることを目指します。