MESSAGE

創業150周年、
新たな未来を切り開くための「希望」の年へ。
「美」の力を通じて人々を勇気づけ、
一人ひとりが自分らしく輝き、
幸福を実感できる社会を実現していきます。

代表取締役 社長 CEO

魚谷 雅彦

CEOメッセージ

2022年、資生堂は創業150周年を迎えました。150年事業を継続することができたのは、ひとえにお客さまをはじめ、株主・投資家、ステークホルダーの皆さまのこれまでのご支援の賜物であり、心から感謝しています。「美しさとは、人のしあわせを願うこと。」という創業以来変わらない想いを大切に、2022年は、さらに新たな未来を切り開くための第一歩を踏み出します。次の100年、150年も輝き続ける資生堂を創るため、これからも社員とともに強力に推進いたします。

2030年、真のグローバルカンパニーを目指します。

資生堂は、2030年のビジョン「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」を掲げ、現在のコロナ禍の難局に対応する中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」を2021年に策定しました。資生堂はスキンビューティーカンパニーとして、2030年にこの領域における世界No.1となり、さらに社会から最も信頼されるビューティー企業を目指します。売上規模としては2兆円、営業利益率はグローバル競合他社と比肩する水準である18%を目標とします。

「WIN 2023 and Beyond」の中では、新型コロナウイルス感染症拡大により急激に変化する外部環境に対応すべく、当社の強みを活かしたスキンビューティー領域への注力、事業ポートフォリオの再構築や欧米事業を中心とした収益性改善などを通じて、より収益性とキャッシュフローを重視した抜本的な経営改革を進めています。また、ブランド・イノベーション・サプライチェーン・DX・人財への積極的な投資を継続し、スキンビューティーカンパニーとしての成長基盤を一層強化していきます。

中期経営戦略の初年度である2021年は、前年からの確実な業績の回復や、DXの加速に加え、最大の成果として、事業ポートフォリオの再構築を実行しました。困難な決断も先送りすることなく、短期間で事業規模2,000億円を超える構造改革を果たしました。

構造改革は、地域責任者のオーナーシップが鍵となります。

「危機を機会と捉える」、「構造的転換」、「トランスフォーメーション」。言葉にすることは簡単ですが、対処すべきは事業の譲渡や撤退、人の雇用・処遇にかかわる改革であり、実態は多面的な検討と厳しい意思決定を必要とする取り組みです。
そのため、改革の実行部隊は、信念を持ってこの困難な課題に対峙し続けることが必要であり、各地域責任者のオーナーシップが鍵となります。

改めて、この構造改革の背景や意思決定プロセスをご説明します。
2020年はじめの新型コロナウイルス感染症の急拡大によって、売上が前年に対して30%減少するという、過去に経験したことのない日々が続き、会社の存続自体にも危機感を持つ状況となりました。
こうした状況下、経営者が執り得る選択肢として、「嵐が過ぎるまで耐える」もしくは「以前よりも強くなるための変革を行う」の2つがあると思います。前者で事足りればよかったのですが、コロナ影響収束の時間軸は不透明です。だからこそ、私は後者を選択しました。「Build Back Better」を掲げ、ブランド・稼ぐ力・企業文化、いずれの面でもコロナ前よりも強い会社となるため、経営課題に正面から取り組んだ改革を行いました。

2020年5月、各地域CEOにこの危機感を共有し、事業改革の立案を求めました。翌6月に各地域から、ブランド売却をはじめ、拠点統合、費用削減など、自分たちの事業構造やビジネスモデルを根底から見直した、想像以上に思い切った提案を受けました。彼らは、全社利益を守り、ひいてはグループとしてさらなる成長を確かなものとするために、あえて厳しい選択をする覚悟を持っていました。それらの方向性をもとに、私が委員長を務めるグローバルトランスフォーメーション委員会でさまざまな議論・検討を行い、取締役会の承認を経て強い推進体制を整え、実行しました。
事業改革を進める上では、各地域主導で、現地の士気と実行力を高く保ち続けることができました。以後、グローバルトランスフォーメーション委員会は、百数十回にのぼる会議を重ね、取締役会にも定期的に報告、最終承認を得ながら、財務や人財などの観点から各種シミュレーションを行い、直面する困難への対策を講じていきました。

最大のこだわりは、雇用・処遇の条件でした。

ブランド・事業の譲渡や撤退にあたり、私がなによりもこだわったのは、社員への対応です。資生堂は、「PEOPLE FIRST」を経営理念としています。これまでブランド・事業を育ててきた社員たちの雇用と処遇、やりがいのある職場は、何としても確保したいと考えました。

2021年7月に譲渡・合弁事業化したパーソナルケア事業では、社員のやりがい、キャリアを特に重視しました。非常に辛い判断でしたが、事業譲渡の主要因は、ビジネスモデルの違いです。資生堂の事業構造上、パーソナルケア事業を社内にとどめておくことが、社員にとっても最善の未来を創っていくことにはなりません。この事業・ブランドを心から愛している社員たちが、一層輝ける機会を提供したいという考えから、譲渡先のCVC Capital Partnersとは、特に処遇やキャリア開発の面で交渉を重ねました。
2021年12月に譲渡した「bareMinerals」をはじめとする3つの米国発のプレステージメイクアップブランドにおいては、関連社員全員の雇用確保を最優先事項にしました。米国では、こうした受け入れ体制を求める条件が稀なことから、交渉に時間がかかりましたが、結果、ほとんどの社員が譲渡先で勤務することになりました。
2021年末をもってグローバルライセンス契約を解消した「Dolce&Gabbana」についても、私たちが注力したのは、社員に対して再就職の支援を含めた最大限の配慮をすることでした。多少時間や費用がかかったとしても、資生堂がとるべき対応を真摯に行うこととしました。
2022年2月に公表したプロフェッショナル事業の譲渡についても、ビジネスモデルが異なり、中核事業に位置付けられないことが理由です。ここでも、譲渡先との交渉では、積極的な投資と事業育成により、社員の雇用とキャリアを広げてもらえることを重視しました。

収益性改善に向けた事業構造転換を実現し、財務基盤を強化しました。

これらの構造改革をやり遂げたことで、強靭な事業体質へと大きく前進しました。まさに、当初掲げていた「Build Back Better」を確実に進めています。
低採算事業の解消、商品アイテム数(SKU)の削減と生産性向上に加え、利益率の高いスキンビューティー領域の構成比が高まることにより、筋肉質な収益構造になります。さらに、キャッシュフローが大きく改善し、有利子負債の圧縮などにより、自己資本比率は46%となりました。このように財務基盤を強化したことにより、今後、積極的な新規事業開発やM&Aなど、さらなる成長を実現するための投資が可能となりました。

「WIN 2023」では、2023年に原価率21%、販管費64%、営業利益率15%を収益性のターゲットとしています。2019年比では、それぞれ2pts、3pts、5pts改善という意欲的な目標ですが、グローバルの競合企業と戦うためには、こうした水準の収益性と、持続的に再投資できる力が不可欠です。
構造改革に終わりはありません。2022年は、構造転換を成果につなげ、再び成長軌道に踏み出していくことが重点課題となります。高い収益性を持つスキンビューティーブランドを成長させるため、DXの加速やさらなる事業基盤の進化を図り、常に環境変化に応じた取り組みを進めていきます。

「美」の力で、一人ひとりが自分らしく輝いて生きることに貢献します。

「WIN 2023 and Beyond」のロードマップを進化させるべく、現在、2030年に向けた具体的な戦略を策定中です。ここでは、2030年のありたい姿として、その方向性を2つご説明します。私たちは、「美」の力による社会価値の創出が、価値創造の根幹であると考えています。経済価値と社会価値は「両立」や「融合」ではなく、「一体化」が必要です。企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、お客さま一人ひとりに合った高付加価値の提供をさらに極めていきたいと考えています。

資生堂はこれまで一人ひとりのお客さまに寄り添うビジネスを展開してきました。その先に私たちが実現したいのは、「美のデジタルプラットフォーム」です。お客さまの日々の肌や体調の状態を示すデータを把握・分析し、肌を美しくするために必要なスキンケアだけでなく、食事の栄養や睡眠の取り方などを総合的に提案し、店頭またはECサイトを通じてお客さま接点を拡大していきます。このプラットフォームで一番重要なことは、当社の美容部員が、店頭やデジタルのコミュニケーションを通じて、お客さまといつも繋がり、信頼されるパートナーとなることです。美と健康について気軽に相談できる、資生堂ならではの顧客体験とデジタルを組み合わせた包括的なプラットフォームを構築していきます。これが、資生堂が掲げる「PERSONAL BEAUTY WELLNESS COMPANY」という、2030年のビジョンです。

私が就任当時に掲げた、資生堂を「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」にするという考えは今も変わることはありません。
これまで、グローバルカンパニーとなるための第1段階として、6つの地域とブランドカテゴリーを掛け合わせたマトリクス型組織を整備し、経営体制の現地化を実現することができました。第2段階は、価値創造の現地化がテーマになります。
先ほどご説明した高付加価値の提供を可能にするためには、日本の技術、丁寧さ、安心・安全へのこだわりなどは堅持しつつ、世界各地で革新的な事業創造・商品開発が行われることが必要です。それぞれの地域で、文化や風土が異なる以上、価値創造は、各地域を起点とする流れも必要不可欠です。現在、当社では、各地域のマネジメントが強化されたことにより、多様性豊かで有能な人財がそろっており、新たな人財を引きつける企業になってきたと自負しています。彼らの能力を活かし、それぞれの地域だからこそ生まれるアイデア・取り組みを具現化していきたいと考えています。
例えば、5月から欧州で販売開始予定のプレステージスキンケアブランド「Ulé」は、ブランドコンセプト・名前・商品設計・パッケージなどの策定を、欧州地域本社のフランスおよびスペイン⼈の⼥性チームが担いました。欧州地域におけるサステナビリティへの感度は高く、彼女たちの信念とアイデアを活かすことで、これからの社会を反映した先進的なブランドになりました。

欧州発のプレステージスキンケアブランド「Ulé」

また、ビジョン達成に向け、2021年末に、中長期にわたる価値創出に向けた全社員参加型の未来プロジェクトとして「Project Phoenix(プロジェクト・フェニックス)」を始動しました。2030年に向けた新たな活動を、全世界の社員たち自身が議論・提案するもので、すでに実現性の高い提案が数多くあがっています。2022年中には、それぞれを戦略としてまとめていく計画です。

サステナビリティ戦略やガバナンスも、もう一段の進化を図ります。

こうした価値創造に向けては、サステナビリティ戦略の進化も重要です。
2030年に目指す「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会」とは、一人ひとりが尊重され、誰もが活躍できる多様性に富んだ社会であり、持続的に「美」を楽しめる地球環境が必要となります。「美」の力によるポジティブな影響を発揮するとともに、事業活動によるネガティブな影響を低減・回避していかなければなりません。

この考え方に基づき、サステナビリティを経営戦略の中核に据え、事業戦略とサステナビリティ戦略を一体化させた活動を全社員で推進しています。環境面では、CO₂排出量、水、廃棄物、容器包装、パーム油、紙に対し、中期目標を設定し、全バリューチェーンを通じて、「地球環境の負荷軽減」、「サステナブルな製品の開発」、環境や人権に配慮した「サステナブルで責任ある調達の推進」の3つの戦略アクションを実行しています。
社会に対する影響として、当社が特に注力しているのはダイバーシティ&インクルージョン(D&I)です。ビューティービジネスを通じた包摂性豊かな社会(インクルーシブな社会)づくりとともに、私が会長を務める「30% Club Japan」や経団連などでの活動を通じ、日本社会や経済界の変革に貢献していきます。同時に、当社が先行事例として成果を出し続けることも不可欠になるため、自社の取り組みは手を緩めず、一層加速させていきます。

こうした企業経営を行う上で、今後、コーポレートガバナンスは一層重要になってきます。
コーポレートガバナンスについては学ぶことが多く、とりわけ重視していることは透明性です。社外取締役に機動的かつ柔軟に情報共有することで適切な意思決定が可能となり、社外取締役の理解・納得が進めば、信頼し、全力で背中を押してくれます。
そのため、先にご説明した事業譲渡等の構造改革なども、随時、社外取締役へ情報・課題認識の共有を行いました。株主・投資家とのミーティング後も、彼らの課題認識や議論内容をレポートにまとめ、直接、メール発信しています。こうした継続的な情報更新に加え、毎年のCEOレビューでは、1年間の注力事項、成果、積み残した課題、新たなリスクなどを報告しています。
さらなるガバナンスの進化に向けて、2022年より、レイク氏と得能氏に社外取締役として新たに就任いただきました。加えて、社外取締役には、担ってもらう時間・質・責任に対して期待している内容を事前に明示し、相互に確認するプロセスを取り入れました。信頼関係をしっかりと築き、今後の委員会のあり方、議論の内容、戦略的な議題への時間配分増加など、さらに有効に機能するための仕組み構築も進めていきます。
また、CEOのサクセッションプランは重要な経営課題だと認識しています。株主・投資家との対話の中でも質問が多く、関心の高さも認識しています。後任となる人財の探索、育成などに、私の多くの時間を配分し、社外取締役と常に議論・検討していきます。

150年先も輝くための基盤をつくります。

創業150周年というこの大きな節目に、社長 CEOとして舵取りを担っていることは、非常に光栄であり、喜びを感じています。
世界を見渡しても、このような長い歴史を持つ企業は多くありません。また、化粧品は、水や食料、エネルギー、インフラなどと異なり、人の生死を左右する必需品ではありません。それにもかかわらず、これだけの長い年月、社会に価値を提供し続けています。人が人として幸せを享受するため、ビューティービジネスは不可欠な産業であり、その創出価値は、将来にわたってますます重要になるはずです。

私は、2013年12月の社長就任会見で「100年先も輝く資生堂の原型をつくる」と申し上げました。そして150周年の今、次の150年先の未来に向けた基盤をつくると、覚悟を新たにしました。今後、「あの時の改革が転換点」と言われるような経営を行っていきたいと考えます。
300周年を当社と未来の株主・投資家のみなさまとともに祝えるよう、対話を続けていきたいと思います。
今後とも、株主・投資家の皆さまの一層のご理解・ご支援をお願いいたします。

2022年4月

代表取締役 社長 CEO

魚谷 雅彦