私は2019年1月より、資生堂の最高財務責任者に就任しました。私の使命は、資生堂の財務機能を、より高度で柔軟性を持ち、会社全体に変化を促す組織へと進化させることで、当社の変革を進めていくことです。常に事業の機会を見極め、成長を推進し、当社のグローバル事業の価値を向上させていきます。また、M&A(事業の吸収・合併)をはじめとする成長戦略の策定や支援を適切に行うことで、持続的成長に貢献していきます。当社の成長を実現していくためには、最新のテクノロジーや業界最先端の知見を活用しながら、最新の情報や見識を、迅速かつ的確に共有していくことが必要不可欠です。コミュニケーションを支えるITシステムへ投資を行うことで、部門や地域を超えて、すべての責任者に即時に伝達できる体制を整えてまいります。
企業価値の向上も大変重要です。グループ全体の事業構造を最適なものへと変えていくこと、同時にグローバル全体で好事例を水平展開することで、各事業をより良い方向に導き、企業価値の向上を実現してまいります。また、事業セグメントをそれぞれの特性を踏まえて適切に把握し、業績を多様な視点で分析することで、財務戦略の提案力を向上させていきます。
投資家のみなさまとの建設的な対話を重ねながら、ROICなど資本効率の向上にも注力していきます。なお、事業から生まれるキャッシュは、持続的成長を支える投資を最優先としながら、配当などの株主還元の拡充、有利子負債の圧縮と合わせて、引き続き適正なキャッシュバランスを維持していきます。
執行役員 最高財務責任者マイケル クームス
好調な業績伸長により当社の資本効率は大きく向上しました。
ROICは、2020年の目標12%に対して2018年は13.1%に、またROEは同じく14%に対し14.1%の実績となるなど、いずれも計画を2年前倒しで達成しました。一方、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、品切れの極小化を目指し、製品や原材料の在庫を確保したことにより、126日と前年より増加しました。2020年に向けては、引き続きSKU削減や柔軟な生産供給体制を構築しながら、目標の100日を目指していきます。
当社は、持続的な売上成長を通じた利益の最大化に最優先で取り組んでいます。2018年は、マーケティング投資やブランド・研究開発投資など成長に向けた投資を引き続き強化しました。事業ポートフォリオの見直しに加え、収益性やリピート率の高いプレステージブランドやスキンケアカテゴリーを中心に売上が拡大したことで、原価率を大きく改善することができました。人件費・経費は、適切にコントロールしており、収益性改善に確実に貢献しています。
2019年も、重点領域への投資を緩めることなく、売上高の成長と収益性の向上を同時に実現していきます。
持続的な成長を実現するためには、販売事業で確実に売上成長を遂げ、収益性を高めていく必要があります。米州、欧州ともに、通常の販売事業では収益が出ています(①)。一方で、米州では「NARS」、「bareMinerals」、「LAURA MERCIER」、欧州では「Dolce&Gabbana」やその他のデザイナーズフレグランスブランドなど、ブランドホルダーとしての費用負担が大きく(②)、販売事業と合わせると、まだ収益が出ていない状況です。2019年は、この販売事業の利益とブランドホルダーコストを合わせて(①+②計)、それぞれの地域で黒字化することを目指します。
また、さらなる世界展開の拡大に向け、ブランドホルダーとしてブランド開発やクリエイティブなどへの投資を強化する一方、デジタルマーケティングへの投資シフトやブランド単位の損益管理を強化しながらROIを確実に向上していきます。同時に、米州では「bareMinerals」の構造改革を進めていきます。
さらに、両地域本社で発生する固定費を徹底的に管理強化することにより強固なコスト構造を実現し、2020年は、両地域ともにのれん等償却費用、本社機能として負担する「センター・オブ・エクセレンス」コストなどを除いた利益で2桁の営業利益率を目指します。
3カ年累計で4,000億円超の投資を計画しています。特に、サプライチェーンマネジメントへの投資を重点的に強化し、今後も拡大が見込まれる需要に対して、適時に適切な量を供給できる体制を構築します。これらの投資の大半は、事業から創出されるキャッシュ・イン・フローと、これまで改善を続けてきた財務体質を生かした有利子負債調達により充足します。
当社は持続的成長に向けて、必要と判断されるタイミングで迅速・果断に投資を行うため、株主資本の水準保持に努めます。その上で、フリー・キャッシュ・フローやキャッシュ・コンバージョン・サイクルを重視して、キャッシュ・フローとバランスシートのマネジメントの強化により、資本効率を意識した経営を実行します。
今後の成長投資を支える資金調達は、有利な条件で資金調達が可能となる格付シングルAレベルを維持すべく、デット・エクイティ・レシオ0.3、EBITDA有利子負債倍率1.0倍を目安としながら、市場環境などを勘案して最適な方法でタイムリーに実施します。ただし、今後の収益力およびキャッシュ・フロー創出力を考慮した上で、上記指標は株主還元方針と合わせて、さらなる資本効率の向上に資する最適資本構成になるよう、適宜見直します。
当社は、株主のみなさまへの利益還元について、直接的な利益還元と中長期的な株価上昇による「株式トータルリターンの実現」を目指しています。この考え方に基づき、持続的な成長のための戦略投資を最優先とし、企業価値の最大化を目指す一方で、資本コストを意識しながら投下資本効率を高め、中長期的に配当の増加と株価上昇につなげていくことを基本方針としています。配当金の決定にあたっては、連結業績、フリー・キャッシュ・フローの状況を重視し、資本政策を反映する指標の一つとして自己資本配当率(DOE)2.5%以上を目安とした長期安定的かつ継続的な還元拡充を実現します。なお、自己株式取得については、市場環境を踏まえ、機動的に行う方針としています。上記方針のもと、2019年は年間としては過去最高となる1株当たり60円へ増配し、配当を通じた株主還元の拡充を実現します。