美の力による自己効力感の醸成

資生堂は、戦禍によるやけど跡で苦しむ方に向けた日本初のメイクアップ製品の発売(1956年)をきっかけに、あざや傷跡などの外見の変化に対応する化粧品開発や美容技術の進化に取り組むなど、科学的なアプローチで「美には心を豊かにし、生きる喜びや幸せをもたらす力がある」ことを解明してきました。美の力を通じ、さまざまな悩みや困難を抱える人のwell-beingを実現する活動の総称を「資生堂 ライフクオリティー ビューティー」とし、各種支援団体をはじめ、医療機関、地方自治体などをパートナーとして継続的な取り組みを進めています。

がんとの共生を目指したがんサバイバーへの支援

がんになっても自分らしく生きることのできる社会を目指して、治療に伴う外見の変化に対する悩みを解決する活動をグローバル共通の活動として強化していきます。
資生堂は2008年から、がん治療の副作用に関する外見ケアを手がけてきました。2015年に発刊したがん患者の方向けの小冊子は改訂を重ね、2022年2月には、性別を問わず、がん治療による肌質や外見変化に対応した美容情報やテクニックをわかりやすくまとめた「外見ケアBOOK ~自分らしく、心地よく。~」を発刊し、日本国内133の医療機関に提供しました。

「外見ケアBOOK ~自分らしく、心地よく。~」
「外見ケアBOOK ~自分らしく、心地よく。~」

がんになっても笑顔でいられる社会を目指す「LAVENDER RING MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」をグローバルで展開

2017年から、がんになっても笑顔で過ごせる社会を目指す、をテーマに、がんサバイバーを支援する「LAVENDER RING」に参画しています。この活動において、資生堂は「MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」を主導し、ヘアメイクとポートレート撮影を通して、がんになっても自分らしく生きていけるよう、社会への復帰の一助となるように後押しをしています。この活動は、2021年11月に公益社団法人 企業メセナ協議会からメセナ優秀賞を受賞しました。

メセナ優秀賞 受賞
メセナ優秀賞 受賞

また、2021年2月4日世界がんデーに、LAVENDER RINGフォトブック「自分らしく、を生きていく。」を出版し、書店をはじめ、病院内の売店などで販売しました。がんサバイバー206名の方々のポスターやエピソードは、がんサバイバーご本人やそのご家族、サポーターの方々はもちろん一般の読者からも、「勇気や気づきを与えてくれた」「がんは誰にでも起こり得る身近なものだと感じられた」など多くの反響が寄せられました。

「自分らしく、を生きていく。」(ハースト婦人画報社出版)
「自分らしく、を生きていく。」(ハースト婦人画報社出版)

2022年には、「LAVENDER RING MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」を世界各国地域で展開しました。8月の中国と台湾に続き、10月シンガポール、12月タイでも開催し、4つの国と地域の合計107名のがんサバイバーと、120名の社員ボランティアが参加しました。協働した患者団体や医療機関からは「参加したがんサバイバーがポジティブな体験を通じ自信を高めました」「多くの人々に勇気を与えました。継続開催を期待しています」などの回答が寄せられました。

(左)シンガポールのメイクアップの様子
シンガポールのメイクアップの様子
(右)中国の撮影風景
中国の撮影風景

2022年7月、「LAVENDER RING MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」を愛知県がんセンターで実施。続く8月には、3年連続となるLAVENDER RINGのオンラインイベントを開催しました。
これに加え、国内4カ所(霞が関コモンゲート 東京、資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK 横浜)、愛知県がんセンター、練馬区役所(東京))にて、MAKE UP&PHOTOS WITH SMILES写真展を開催し、多くの方にサバイバーの笑顔とメッセージをご覧いただきました。

LAVENDER RING は、2017年の開始から、グローバルで延べ329名のがんサバイバーの方に参加いただいていています。

練馬区役所の様子
練馬区役所のイベントの様子
資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)の様子
資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)の様子

2022年、資生堂ジャパンは広島県に続く行政との取り組みとして、大阪府と「大阪府民の健康づくりに向けた連携協定」を締結しました。本協定は両者が相互に連携し、府民の健康づくりなどの推進に向けた取り組みを通じて、府民のより一層の健康的な生活の実現を図ることを目的として定めたものです。
これを契機に、がん拠点病院をはじめ、より多くの医療機関において外見ケアセミナーを実施するほか、小冊子「外見ケアBOOK ~自分らしく、心地よく。~」を提供します。
また、資生堂ジャパンでは、近畿エリアの化粧品専門店の一部、およびウェブサービスプラットフォーム「Omise+(オミセプラス)」の双方において、肌の深い悩みに対応する「パーフェクトカバー」シリーズを中心とした製品のアドバイスや美容情報の提供をさらに充実させていきます。

大阪府と資生堂ジャパンよる連携協定の締結式
大阪府と資生堂ジャパンよる連携協定の締結式

日本では、資生堂ジャパンに所属する8名のソーシャルエリアリーダーと36名のソーシャルエリアパートナーが中心となり、地域の特性とそれぞれの社会課題を見極め、地域に根付いた社会活動の企画、実行をリードしています。

2022年11月、資生堂は、特定非営利活動法人Japan Hair Donation & Charity(通称 JHD&C /ジャーダック)、株式会社アデランスと3社共同で、頭髪に悩みを持つ方に向けた医療用ウィッグを開発しました。同月より、JHD&C SATELLITE SALONのホームページにて販売し、順次生産を拡大します。本商品は、一人でも多くの方々にデザイン性と品質に優れたウィッグをリーズナブルな価格で提供するため、資生堂とアデランスがノウハウを無償提供しています。

医療用ウィッグ「wig+」
医療用ウィッグ「wig+」

2022年スペインでは、がん患者支援団体「Spanish Association Against Cancer」と連携し、オンラインでの外見ケアコースを5回実施し、62名のがん患者の方々が参加しました。また、イタリアでも、がん患者支援団体「La Forza e il Sorriso」と連携し、メイクアップ講座を実施するなど、日本で得た知見を海外へと展開し貢献の輪を広げています。

「La Forza e il Sorriso 」と連携したメイクアップ講座
「La Forza e il Sorriso 」と連携したメイクアップ講座

深い肌悩みにお応えする「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」

60年以上の実績を持つ「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」は、戦禍によるやけど跡で苦しむ方への日本で初めてのメイクアップ製品をはじめ、生まれつきのあざ、やけど跡、がん治療の副作用による外見ケア研究、美容情報や専用製品の開発を行っています。現在では4つの国と地域で専用施設である「資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター」を拠点に展開しています。「資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター(日本)」では、新型コロナウイルス感染防止の観点から、2021年7月より、オンラインによる外見ケアカウンセリングを開始しました。同センターは、2022年9月に東京都銀座から資生堂グローバル本社 汐留オフィス(東京都港区東新橋)内に移転し、これまでの深い肌悩み対応に加え、新たに高齢者や障がい者の方々に向けた美容情報を発信しています。
プライバシーが保たれた空間での個別コンサルテーション対応の強化とともに、オンラインを活用したセミナーやイベント実施など、リアルとオンラインの特性をいかした機能の拡充を図っています。

オンラインによる外見ケアカウンセリング
オンラインによる外見ケアカウンセリング
資生堂グローバル本社 汐留オフィスへ移転した「資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター」
資生堂グローバル本社 汐留オフィスへ移転した「資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター」

2021年10月に全日本病院出版会から医療従事者向けに上梓された医学書「目もとの上手なエイジング―眼瞼下垂から非手術的美容医療、エイジング世代のメイクアップまで―」の1章で資生堂の美容技術者(ライフクオリティー メイクアップコンサルタント)が、術後の腫れや内出血を目立たなくするカバー方法を解説しました。

2022年1月に、レックリングハウゼン病の患者の方々のためのメイクアップワークショップを患者会の「To smile♯endnf」と共にオンラインで開催し、患者さんとそのご家族を中心に57名が参加しました。第1部は、「お子さんにメイクでカバーする前の心がまえ」、第2部は、「大人の患者さんへのメイク」として、「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」の専用製品「パーフェクトカバー」を使ったカバー方法を紹介しました。

中国では、2021年10月に「中国非公立医療皮膚専業委員会第5回学術会」に参加し、この活動の理念を医療従事者に発表しました。また、医師向け講座を11回実施し、380名の医師が参加しました。

アジアパシフィック地域本社は、「資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター」をはじめとするサステナビリティへの取り組みにより「模範的な社会貢献活動を行い、関係者の協力を得ながら活動を広げている組織」として「Champions of Good」を2020年に受賞しました。

IAUD国際デザイン賞金賞を受賞

多くの人が快適で暮らしやすいユニヴァーサルデザイン社会の実現に取り組む団体・個人を表彰する「IAUD国際デザイン賞」(主催:一般財団法人 国際ユニヴァーサルデザイン協議会)のソーシャルインクルージョン部門で「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」が2022年の金賞を受賞しました。
生まれつきのあざ、やけど跡や傷跡、病気や治療による外見の変化など、肌に深い悩みのある方々とともに開発した製品や、美容情報開発、無償のカウンセリングサービス提供などが、インクルーシブなデザインプロセスと思考による継続的な取り組みであると評価され、今回の受賞に至りました。

「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」の専用製品「パーフェクトカバー」

1995年、「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」の専用製品として、光の技術を応用し、青あざ(太田母斑)・赤あざ(血管腫)・濃いシミなどをカバーする「パーフェクトカバー」を発売しました。その後、傷跡などの凹凸、白斑など、幅広く深い肌悩みに対応できる製品に改良されました。
2022年3月、がん治療の副作用による外見上の変化(強いくすみや色素沈着など)へのカバー機能を強化しながら、リニューアルをしました。安全性に配慮するとともに、より使いやすく、自然な仕上がり感を実現しました。主力製品の「パーフェクトカバー ファンデーション MC」は、なめらかな感触で肌へフィットし、あらゆる色悩みや凹凸のカバーに対応。発売前のモニターテストでは、100%が「色のカバー力に優れている」「肌へのフィット感がある」、96%が「肌悩みをカバーしながら自然に仕上がる」「今後も継続して使用したい」と高い評価をいただきました。

深い肌悩みに対応する資生堂 ライフクオリティー メイクアップ
深い肌悩みに対応する資生堂 ライフクオリティー メイクアップ
リニューアルしたパーフェクトカバー商品(2022年発売)
リニューアルしたパーフェクトカバー製品(2022年発売)

リテールパートナーをはじめとした高齢の方に対する取り組み

現在、高齢化率29.1%を記録し、世界で最も高齢化が進む日本では、厚生労働省の指針により地域で住民の健康増進に資する取り組みが強化され、がんサバイバーや高齢者の方々を地域でサポートする体制づくりが進められています。
資生堂ジャパンは、高齢者の方々の心豊かな社会生活の支援を目指し、日本各地域でリテールパートナーと連携を深め、健康寿命の延伸につながる活動「高齢者向け美容講座」を展開しています。埼玉県では、地域包括支援センターとウエルシア薬局株式会社と協働し、同薬局が提供するコミュニティスペース「ウエルカフェ」にて高齢者の方々を対象に、12カ所24回の美容講座を開催しました。

ウエルカフェ川口領家店での講座の様子
ウエルカフェ川口領家店での講座の様子

さらに、資生堂は、高齢者の方々のための「資生堂化粧療法」の研究知見を取り入れた「化粧健康法プログラム」を開発し、全粧協加盟の化粧品専門店481店に導入しました。身近な場所で美容を通して健康を実現する機会づくりを始めています。

医療の分野では、新型コロナウイルス感染症の影響が継続し、高齢者のオーラルフレイルの問題が顕在化しています。「資生堂化粧療法」の研究によると、化粧をする動作は唾液腺に触れる動きが含まれ、口腔機能の向上にもつながることがわかっています。
このことに注目した神奈川県歯科医師会からの要請で、2022年6月には、資生堂の化粧療法リサーチャーによる「化粧療法を用いたオーラルフレイル予防の新たなアプローチ」をテーマとしたオンライン講演会が開催され、同医師会の歯科医師と診療所スタッフ103名が受講しました。これに続いて、同年7月と9月に、「ADL向上のための整容講座」が開催され、計38名の歯科医師、歯科助士、歯科衛生士が受講しました。

ADL向上のための整容講座
ADL向上のための整容講座

障がいのある方への取り組み

1980年代、資生堂は点字版美容テキスト、商品識別点字・墨字シール、使用量シールといった、視覚に障がいのある方をサポートするための美容教材の開発を始めました。2002年より、視覚障がい者の方々に向けた音声読み上げ美容情報サイト「資生堂リスナーズカフェ」を開設し、より多くの対象とする方に届けるために、2022年7月に全面的に改編しました。新しい動画のコンテンツを取り入れ、視覚に障がいのある社員が出演することで、実生活に役立つ美容情報を紹介しています。また、資生堂ジャパンのソーシャルエリアパートナーによる美容情報や、イベントの告知など、これまでと同様に音声読み上げソフトに対応しながら、日常生活の中で楽しく取り入れていただける内容を掲載しています。
2019年には当社独自の化粧法である「ガイドメイク」を開発し、全国各地の会場で講座を実施しています。
また、資生堂ジャパンでは、この他にもさまざまな立場の方に向けた美容講座「資生堂 ライフクオリティー ビューティーセミナー」を開催していますが、そのなかのひとつ、視覚障がい者向けオンライン講座として、2021年に肌や顔の「リフトアップコース」、2022年には「頭皮ケアコース」を拡充しました。リアルでもオンラインでも、視覚に障がいがある方が美容法を通して前向きな気持ちで日々を過ごしていただくことを応援する活動に積極的に取り組んでいます。

ガイドメイクポスター
ガイドメイクポスター
ガイドメイクポスター
社会福祉法人福岡光明会 盲養護老人ホーム松月園で開催したガイドメイク講座の様子
社会福祉法人福岡光明会 盲養護老人ホーム松月園で開催したガイドメイク講座の様子
「資生堂リスナーズカフェ」ロゴマーク
「資生堂リスナーズカフェ」ロゴマーク

また、資生堂は、聴覚障がい者や耳が不自由な方の視聴普及を目的に2018年よりテレビ番組における「字幕付きCMの放送を開始しました。段階的に拡大し、現在ではすべてのテレビCMで字幕対応が可能となっています。

紫外線過敏の難病「色素性乾皮症(XP)」患者への支援

資生堂は、2000年から日光に当たることができない紫外線過敏の難病「色素性乾皮症(以下、XP)」の患者の方々への支援策として、日焼け止め製品の寄付や、研究員・パーソナルビューティーパートナーによるセミナーなどを行っています。
セミナーでは、XP患者の方々も屋外活動を楽しむことができるように、日焼け止めを使って効果的に肌を保護する方法を伝えています。また、2005年から資生堂社員の給与積み立てによる募金「資生堂カメリアファンド」を利用した支援にも取り組んでいます。2022年は、昼の休憩時間を活用した社員向けオンラインセッション「Brown Bag」にて全国色素性乾皮症(XP)連絡会より、同会の活動内容、および募金の活用方法などを講演いただき、社員へのXPに関する理解促進および意識啓発を行いました。

紫外線過敏の難病「色素性乾皮症(XP)」患者への支援
紫外線過敏の難病「色素性乾皮症(XP)」患者への支援

「自分らしい美しさ」を制限する無意識の思い込みや偏見への取り組み

資生堂は、多様な美を提供するビューティーカンパニーとして、無意識の思い込みや偏見によって「自分らしい美しさ」が制限されるUnconscious Beauty Bias(以下、UBB)を払拭する活動をグローバルで展開しています。性別、年齢、国籍などにとらわれず、誰もが自分らしく人生を楽しみ、 個々の美しさに共鳴しあえる世界の実現に貢献していきます。

体験型ウェブサイトの開設、企業/団体向け「SEE, SAY, DO.」プログラム

資生堂が世界88の国と地域で展開しているブランド「SHISEIDO」は 持続可能な開発目標(SDGs)に取り組むグローバルプロジェクト「Sustainable Beauty Actions」の一環として、「SEE,SAY,DO.」プロジェクトを2022年9月より開始しました。「ありたい自分」へ向かえる社会をつくることを目的としたこのプロジェクトのもと、「UBB」を体感できる特設ウェブサイトを公開しました。また、企業や団体向けにUBBを考える、「SEE,SAY,DO.」プログラムを構築し、提供を開始しました。プログラムの導入企業からは、「ふだんの何気ないコミュニケーションがUBBになり得るという気づきと学びのある体験ができた」、などの好評をいただいています。今後は教育機関における展開も予定しており、プロジェクトの拡大を目指します。

SEE,SAY,DO.