資生堂の成長戦略
中長期戦略「VISION 2020」に取り組む中で、2020年の当初の売上目標1兆円を2017年に3年前倒しで達成しました。一方、市場のデマンドが拡大する中、サプライチェーンの強化が最も重要な経営課題の1つとなりました。この経営課題の解決に向けて、原材料サプライヤー、外部生産協力会社とともに市場への商品供給能力の向上を図ってきた結果、課題の1つである品切れは減少傾向にあります。さらに、刻々と変化する市場環境の中で、今後より重要となるのは、いかに「アジリティ(敏捷性)」を持った供給体制を構築できるかだと考えています。世界中の生活者のニーズを的確に把握しながら、取引先とのネットワークを強化し、スピードと柔軟性をもった供給体制を構築し、サプライチェーンをサプライネットワークへと進化させていきます。
私たちには4つの強みがあります。
1つ目は、お客さまから評価されている品質の高さです。これは、当社の高い品質基準をベースとする厳選された原材料の使用や厳しい検査工程などに裏打ちされています。
2つ目は、この日本で培った匠の技術とカルチャーを海外の生産拠点でも展開していることです。当社は、グローバルで生産拠点を有することで、適地生産とBCP(事業継続計画)を策定している点も強みです。グローバル生産体制により、地域ごとのニーズに対応した生産が可能となることに加え、非常時のBCPや大幅な需要変動が生じた際にも機動的かつ安定的に生産できることを目指しています。
3つ目は、サステナブルな社会に貢献する技術力です。私たちは1926年に当社として初となる詰め替え商品を発売して以来、環境に配慮したパッケージの生産を行うなど、特に環境の面で取り組みを進めてきました。これまで培ってきた技術力を基盤に、イノベーティブな原材料を確実に製品としてお客さまの手に届けるための技術開発も積極的に行っていきます。
最後に、人材です。私たちサプライネットワーク本部は、自社に高いロイヤリティーを持っており、資生堂で働くことや、自らが高品質な製品を生み出していることに非常に誇りを持っています。このような人材基盤が価値創出の源泉となっています。
供給能力向上に向けて国内への投資を進め、2019年末に那須工場が稼働開始しました。今後さらに、大阪茨木工場、福岡久留米工場も順次稼働し、国内は6工場体制となる計画です。世界各地の需要状況を見極めながら、中長期的に安定したグローバル生産体制を確立します。
一方で、アジリティを持った供給体制にするためには、供給リードタイムの短縮と需要予測精度の向上が必要不可欠です。原材料サプライヤーと連携しながら供給リードタイムの短縮を図るとともに、AIなどの最新技術を駆使し、需要予測精度をさらに向上させていきます。
こうした投資を強化することで、安定供給を実現しつつ、さらにアジリティを持った供給体制を構築していきます。これにより、在庫適正化と品切れによる機会損失解消を実現していきます。
私たちは、中長期視点でサプライネットワーク戦略の核となる6つの重点項目「私たちの果たすべき責任」「イノベーションの創出」「オペレーションの進化」「供給力の強化」「コストと在庫の最適化」「人材育成の強化」を定めました。将来実現したいサプライネットワークのビジョンに沿って、グローバルで共通して優先度の高い項目をこの6つの重点項目から抽出し、毎年実現していくことで、サプライネットワークを着実に進化させていきます。
また、それぞれの重点項目の実現のために地域間の連携を深化し、全地域にわたる横断的なコミュニケーションを強化していきます。海外売上高比率の高まりやグローバルなM&Aが加速する中、全世界で連携を強化し続けることで、さまざまな相乗効果が発揮されます。
不透明な経済環境の中、確実に成長を支えるために、6つの重点項目をスピードと柔軟性をもって取り組み、「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」を実現します。
2020年5月
取締役 常務
チーフサプライネットワークオフィサー直川 紀夫