お化粧のおはなし
みんなは、お化粧という言葉から、どんなことを想像しますか?お母さんやお姉さんが、鏡の前で手を動かしている姿?女の人にかぎらず、今は男の人もお化粧をして、なりたい自分を表現していますね。
でも、どうしてお化粧をするのでしょう?お化粧には、どんな力があるのでしょう?お化粧についていろいろ学びながら、いっしょに「いろんなキレイ、いろんな美しさ、いろんなかっこよさ」について探ってみましょう! 参考図書:石田かおり『お化粧大研究』(PHP研究所)
お化粧って何?
「お化粧」という言葉を聞くと、顔に肌色の粉をぬって、赤い口紅をつけて、まゆをかいて……と、
どうしても「顔に色をぬる」ことばかり考えてしまっていませんか。
もちろん、よく耳にする「メイク」というのは、
顔に色をぬることという意味の英語の「メーキャップ」「メイクアップ」を略した言葉。
「顔に色をぬる」のは、お化粧にとってはとても大事なことです。
でも、化粧品を使うことをお化粧というとしたら、
化粧水や乳液、クリームなどを使う肌のお手入れもお化粧。
これを「スキンケア」と呼んでいます。
「スキンケア」とは、肌をいたわる、お手入れをするという意味です。
ということは、洗顔フォームや化粧石けんで顔を洗うこともお化粧のひとつ。
さらに、シャンプーやリンスを使って髪を洗ったり、髪型をととのえることも、お化粧の仲間に入りますね。
からだにある毛は髪の毛のほかにもあって、
ひげをそったり、ひげをのばして形をととのえたりするのは、ひげのお化粧です。
香水やお香で、よい香りをまとうのもお化粧、反対にからだの悪いにおいを消すのもお化粧。
毎日の生活の中で、おふろに入り、歯をみがき、つめを切り、髪を切っていますね。
これらも広くお化粧ととらえるなら、みんな毎日お化粧しているといってもよいかもしれません。
生まれた赤ちゃんは、すぐにおふろに入れられてからだをキレイに洗ってもらいます。
また人が死んだときもからだをキレイに洗ったあとに「死化粧」というメイクをします。
人の一生は、お化粧にはじまりお化粧に終わるのです。
何のためにお化粧をするの?
メイクやスキンケアをするのは、キレイになるため?
髪にムースをつけてととのえるのは、かっこよく見せるため?
汗のにおいが気になるからわきの下にスプレーするのは、エチケットのため?
虫歯になるのを防ぐために歯みがきをするのは、健康のため?
そのほかにも、メイクをすることで自分に自信がもてたり明るく積極的になれる、という人もいます。
お化粧は、見た目をよくするだけではなく、心にはたらきかける効果もあるのです。
昔にさかのぼると、ある時代には魔よけのためだったり、
身分が高いことをしめすためにお化粧を使っていたこともあったそうです。
お化粧は、キレイに見せるためだけではなかったようですね。
お化粧のはじまり
お化粧は、いつごろからはじまったのでしょう?
今の私たちがするようなメイクがいつごろからはじまったのかは、じつはよくわかっていません。
髪にさすなどしていたアクセサリーは発掘されたものがありますが、
お化粧はなかなか残っていないのです。
日本人の場合、古くからお化粧だけでなく、キレイな肌をとても大事にしてきました。
「美白」という言葉が流行するのも、肌の美しさや白さを追求してきた日本人ならではの感覚。
だから、伝統的な日本のメイクは、おしろいをぬって、アクセントに口紅をぬり、
まゆをかく、というのがふつうでした。
その流れで、今でもファンデーションは欠かせないという人が多いようです。
目には神様、赤は魔よけ...
おおむかしの古代エジプトの絵には、目のまわりを真っ黒にぬった人の姿がたくさん描かれています。
これには、目を大きく見せるためのほかにも意味があったといわれています。
1つには、エジプトは日差しがとても強いため、太陽の光の反射を少しでも防ごうとしたこと。
2つめは、信仰のため。
古代エジプト人は「太陽は神様のシンボル」と考えていました。
その太陽が人のからだの中では「目」にあたり、目には神様がやどっていると信じていました。
だから目を大切にし、まわりを黒くぬっていたらしいのです。
黒のほかにもむかしのお化粧でよく使われていたのが赤色。
赤は、てりつける太陽や血液、燃えさかる炎、情熱の色など、
熱や生命力を感じさせるパワーをもった色です。
この赤をむかしの人は「魔よけの色」として使っていました。
むかしから、病気になったり死んでしまったりするのは、
だれかのねたみやうらみがこもった視線のせいだという考え方が世界中にありました。
その視線は、目、鼻、口など、からだの穴から入ってくるといわれていました。
そこでそんな悪い視線が入らないように、魔よけの赤を顔や目のまわりにぬったり口紅として使い、
鼻や耳にはピアスやイヤリングをしていました。
当時のお化粧には、魔よけをして病気や死を防ぐという意味もあったのです。
「お歯黒」って知ってる?!
今は残っていないむかしのお化粧のひとつに、歯を黒くする「お歯黒」というものがあります。
古くは、今から千年も前の平安時代に貴族の男女がしていたもの。
貴族たちは、成人式の日からお歯黒をはじめて死ぬまでし続けていました。
そののち武士の時代になると武士のあいだでも成人のあかしとして取り入れられました。
一度そめるともとの白い歯にもどれないお歯黒は、成人のあかしとしてだけでなく、
武士のあいだでは主君につかえる忠誠心のあかしとして、
また、女性のあいだでは結婚をしていることのあかしとしても使われました。
今では、ぶきみとしか思えないお歯黒ですが、
千年近くも続けられ、とても長い歴史があるお化粧なのです。
今の私たちにはすてきだとは思えないお歯黒が、こんなにも長いあいだ親しまれ、
女性の美しさにとってもとても重要なものだったというのは不思議ですね!
オトコもお化粧に夢中
今は、お化粧というと女性というイメージが強いのですが、
むかしは男性のほうがお化粧に積極的だったこともあるのです。
武士のお化粧は、戦いなどで死んだときの顔や姿が美しいこと、
家のはじにならないこと、といった死を意識したものでもありました。
うっすらとおしろいと口紅をつけ、かぶとにお香をしみこませるのが、
戦いにでかけるときの武士のお化粧でした。
敵に自分の首がとられたときに
「こんな老人まで戦いにかりださなくてはいけないくらい弱っているのか」と
笑われてしまうと考えて、白髪ぞめをしていた武士もいたそうです。
男性がお化粧に熱心だったのは日本だけではありません。
音楽室の肖像画でもおなじみのバッハやモーツァルトは、カールした白いロングヘアをしています。
実はこれはかつら。
当時、ヨーロッパの男性貴族のあいだではかつらをかぶらないと無礼とされていたのです。
そのほかにも、おしろいやほお紅、香水、つけボクロも流行。
ヨーロッパ中を征服しようとしたフランスのナポレオンは、香水にうるさかったことでも知られています。
男性のキレイへのこだわりも、たいへんなものがあったようですね。
キレイになるのも命がけ!
むかしの化粧品は、どんなものからできていたのでしょう。
世界中で使われていたおしろいは、鉛でできているものがほとんどでした。
でも鉛は人のからだにとっては有害なもの。
使いつづけると肌あれになり、中毒をおこし、ひどいときには死んでしまうこともあります。
日本には、鉛とならんで水銀から作られたおしろいがありました。
鉛のおしろいはぺったり白くしあがりますが、
水銀のおしろいは透明感とかがやきのあるきめ細かな白い肌にしあがるため、高級品とされていました。
しかし水銀は猛毒で、少しでも口に入ると死んでしまう危険があります。
むかしはお化粧するのも命がけだったのですね……。
表情を消すメイク
むかしの日本、女性たちのお化粧の特徴は、表情を消すメイク。
白ぬり、まゆなし、おちょぼ口、お歯黒など、いずれも顔色をかくし、
顔にあらわれるびみょうな表情をあえて消し、おおってしまうものでした。
まゆをなくすと表情がうまくあらわすことができなくなり、
ひたいの上のほうにまゆをかいても、まゆに動きがなくなり表情がかくされます。
くちびるの半分くらいをおしろいでぬって小さくすると、口元の表情がほとんどなくなります。
なぜ、このようなメイクが続いていたのでしょうか。
それは「表情をあまりあらわさないのが上品」という考え方が長いあいだあったから。
お化粧の歴史って不思議ですね。
髪は女の命
髪型にもいろいろな変化がありました。
今から千年ほど前の平安時代には、それまでゆいあげていた髪を下におろすようになりました。
この髪型の変化は「髪は女の命」という意識をうみだしました。
平安美人のいちばんの条件は髪の美しさで、
長いこと・黒いこと・まっすぐなことの3つのことが求められました。
髪を長く美しくたもつために平安女性は苦労しました。
身長よりも長いので、洗って乾かすのもたいへんです。
夜、寝るときには髪がよれてへんなくせがつかないように、まくらのそばに箱をおき、
その中に長い髪をうずをまくようにしておさめて眠ったそうです。
今のように茶色にしたり、パーマやウェーブをかけたり、ショートヘアにしたりするなんて、
当時の女性たちにとっては考えられないことだったのですね。
お化粧の力
むかしにさかのぼってお化粧の歴史をみてみると、
いかに「人間はお化粧をする動物である」かがわかりますね。
それほどまでに人がお化粧をしてきたのは、
お化粧には何か大切な役割や力があるからではないでしょうか。
お化粧は見た目だけのことではありません。
人の気持ちにも大きな変化をもたらします。
メイクをすると、気持ちが明るくなって元気がでたり、自信がもてるようになったり。
すすんでほかの人と会ったり、もっと外にでかけるようになったり。
またスキンケアは、リラックスしてゆったりしたり、ストレスをやわらげたり。
香りも、気分を明るくしたり、ほどよい緊張感をもたらしたり、反対にリラックスできたり、
上手に使うといろいろな変化をあたえてくれます。
お化粧は、顔やからだの表面をかざりお手入れをして、
自分のからだをさわらないとできません。
美容室のように、ほかの人にしてもらう場合もあります。
自分で自分のからだにふれることや、信頼している人にからだをふれてもらうことは、
大きな安心感をあたえられて、気持ちのよいものですね。
キレイは人をつくる
お化粧は、服と同じように人の見た目を変え、人の内面にも変化をもたらします。
キレイになりたいと思ったり、いろいろなことをやってみるのは、
人の外見と中身の両方を変えていくのです。
「キレイは人をつくる」ということがいえますね。
「外見だけキレイにしても中身がなければダメ」とか
「おしゃれしているひまがあったらべんきょうしなさい」などと、よくいわれます。
でも内面をみがくことも大切なことだけれど、
外見から自分を変えて、なりたい自分をめざすほうがもしかしたら近道かもしれません。
キレイになることによって自分を育てることもできるのです。
むかしの人はこのことをよく知っていて、
お化粧することが礼儀作法にかなったことでした。
よき大人の女性はお化粧し、
お化粧していない大人の女性はマナー違反や不道徳と言われたのです。
人それぞれのキレイがある
自分らしく生きる、自分の個性をいかす、
そういう世の中に生きることができたらどんなにすばらしいことでしょう。
そのために欠かせないのは「価値の多様性」。
多様性とは、さまざまなものがあるということ。
美しさの価値の多様化とは、さまざまな美しさの表現が
きちんと美しさとして受け入れられるということです。
でも実際には、男女の性別に関係なく、
美しいと言われるためには若くてからだもスラリとしていなくてはならないなどと、
美しさの基準のようなものがあってしまうのです。
また、流行や人気タレントにあわせようとして、
みんなが同じような外見になり個性がなくなってしまったりしています。
もっといろんな自分の表現ができるようになるにはどうしたらよいのでしょう。
いちばん大切なことは、
世界中には「いろんなキレイ、いろんな美しさ、かっこよさがあること」をみんなが自覚すること。
それと、美しさやかっこよさを自分とは違うところに見ている人をみとめること。
自分がいちばんかがやくキレイを、人それぞれの美しさを、いつも大事にしていきたいですね。