2024年03月14日
発行元:(株)資生堂
研究・サプライネットワーク
資生堂、皮ふのリンパ管の機能低下に女性ホルモンの減少が関与していることを解明
~ショウガ科の宇金エキスに皮ふのリンパ管の機能回復効果を発見~
資生堂は、皮ふの恒常性維持に重要である皮ふのリンパ管※1に女性ホルモンが直接的に作用し、リンパ管の安定化に寄与することを発見しました。当社が独自に開発した皮ふ内部構造の3次元可視化技術※2を活用し、女性ホルモンが急激に低下し始める更年期以降の女性において、皮ふのリンパ管の形態が顕著に変化し、機能低下を起こしていることも確認しています。また、大阪大学の高倉伸幸教授の研究協力により、加齢によって減少する女性ホルモンと相乗的に働き、リンパ管の安定化を誘導する因子としてアペリン※3を見出しました。さらに、アペリンの産生を促進することで衰えたリンパ管の機能を高める成分として「ショウガ科の宇金エキス」を発見しました(図1)。資生堂は、血管やリンパ管、免疫、神経など皮ふの内部の状態と肌との関連について、今後もホリスティックな視点で研究を進め、皮ふ科学研究の新たな世界を切り拓きます。本研究成果の一部については、論文誌「Journal of Dermatological Science」へ投稿し、「ISID(国際研究皮膚科学会)」(2023/5/10-5/13)、 「第47回日本リンパ学会総会」(2023/6/9-6/10)にて発表しました。
※1皮ふを含む末梢組織に存在し、老廃物や余分な水の回収の開始点となる
※2資生堂、リンパ管を立体的に捉える可視化技術を確立(2020年) https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002997
※3アペリンは既知の生体内成分で、13 個あるいは 36 個のアミノ酸で構成されるペプチド
資生堂、世界初・リンパ管の機能低下と「たるみ」の関係を解明(2015年)
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001834/1834_a4z87_jp.pdf
研究の背景
資生堂は、肌本来の美しさを引き出すには体内との関わりが大切であると考え、血管やリンパ管、免疫、神経など全身との関わりを踏まえたホリスティックな視点での皮ふ科学研究にいち早く取り組み、その知見を商品に応用してきました。リンパ管は体内の老廃物を排出する役目を担っており、身体の「むくみ」などに関与することが知られています。私たちは皮ふの恒常性維持に重要であるリンパ管に着目した研究を長年にわたり進めています。これまでに、リンパ管の機能低下がしわ、たるみにつながることや※3,4、機能低下の根本要因であるリンパ管の老化メカニズムを解明し、さらにリンパ管の機能低下時の形態変化を3次元的に捉えることに成功しました※5,6。今回は、全身状態の変化がリンパ管の機能に与える影響を視覚的に捉えることを目的とし、女性ホルモンとリンパ管の関係性について検証しました。
※4資生堂、リンパ管の機能低下がしわ形成の原因であることを解明
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000000905/905_a5c92_jp.pdf
※5資生堂、世界で初めて皮膚のリンパ管の老化メカニズムを解明(2020年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002998
※6資生堂、皮ふ毛細リンパ管の機能低下による形態変化を世界で初めて3次元で捉えることに成功(2023年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003620
更年期前後における皮ふのリンパ管の形態変化
これまでに、女性ホルモンが急激に減少する更年期以降にリンパの流れが滞り、むくみやすくなることは知られていましたが、その関係性については明らかにされていませんでした。今回、更年期前後における皮ふのリンパ管の形態変化を捉えるため、独自の3次元可視化技術を用いて各年代の女性の皮ふを解析した結果、更年期以降から皮ふのリンパ管の体積が小さく、管が細く脆弱になっていることが確認できました。これより、形態変化を伴う皮ふのリンパ管の機能低下の要因の一つが、女性ホルモンの減少である可能性が示唆されました(図2)。
アペリンは女性ホルモンと相乗的に働き、リンパ管の安定化に寄与する
女性ホルモンは、リンパ管内皮細胞に発現する受容体を介して、細胞の増殖及び安定化を誘導します(図3)。このようにリンパ管の機能に対して保護効果を示す女性ホルモンは年代とともに分泌量が低下するため、低濃度の女性ホルモンと相乗的に働き、その効果を亢進できる因子を探索しました。その結果、大阪大学の高倉伸幸教授の研究協力により、血管構造を安定化する因子としてよく知られているアペリンを見出しました。
アペリンのリンパ管に対する機能については当社の先行研究ですでに明らかになっていますが、今回、更年期以降に減少する女性ホルモンをアペリンがどのように補助しうるのかを検証しました。それぞれで単独刺激した場合と比べて、両物質で同時に刺激すると細胞の接着がより強くなることが分かりました(図4)。これより、アペリンが女性ホルモンと相乗的に働き、リンパ管の安定化を誘導することが明らかになりました。
ショウガ科の宇金エキスがアペリンの産生を促進し、リンパ管を安定化する
女性ホルモンと相乗的に働くアペリンの産生を促進する有用成分の探索を行った結果、「ショウガ科の宇金エキス」を見出しました。「ショウガ科の宇金エキス」はアペリンの産生を促進することで、リンパ管の細胞間接着を強くし、リンパ管を安定化する効果が確認されました(図5)。
今後の展望
今回、全身の恒常性維持に重要である女性ホルモンの変化が皮ふのリンパ管の機能に影響していることを明らかにし、皮ふのリンパ管の機能低下が更年期以降で増えるしわやたるみなどの肌悩みにつながる可能性を見出しました。このように、老廃物を排出する役割を担うリンパ管の、全身とのつながりを明らかにしていくことで、リンパ管の機能を保つことが健やかな肌を生み出す上で重要であることを示していきます。資生堂は、経営戦略ビジョン「Personal Beauty Wellness Company」の実現に向けて、肌表面だけではなく、肌の内外に働きかけるビューティーイノベーションに挑戦し、一人一人の本来の美しさを引き出すことを目指します。
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