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2023年06月14日

発行元:(株)資生堂

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資生堂、CBRCとの共同研究で、表皮幹細胞の老化制御の可能性を明らかに

~皮ふの幹細胞研究は「量」に加えて「質」へとさらなる進化~

資生堂は、マサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所(CBRC)※1との5年来の共同研究により、表皮幹細胞の老化を抑制するRNA※2結合タンパク質YBX1※3がリン酸化※4により機能低下し、細胞老化を引き起こすことを明らかにしました。さらに、YBX1のリン酸化を抑制することで表皮幹細胞が増加することを明らかにし、表皮幹細胞の量を維持するためには、表皮幹細胞の「質」も重要であることを示しました。本研究成果を応用し、表皮幹細胞の老化抑制を介したさまざまな肌のエイジング悩みへのアプローチを目指します。
本研究の成果の一部は、2023年5月10日~13日に東京にて開催した国際研究皮膚科学会(International Societies of Investigative Dermatology: ISID)にて、CBRCと資生堂の双方から発表しました。
※1 CBRC (Cutaneous Biology Research Center)。1989 年に資生堂のサポートにより、ハーバード医科大学とマサチューセッツ総合病院が設立した皮膚科学領域の先進的な研究開発をする総合研究所。資生堂からも研究員を派遣し、世界的な研究者とともに共同研究を行っている。
※2 リボ核酸: DNA(デオキシリボ核酸)に保持された遺伝情報は、RNAに転写され、その情報をもとにタンパク質が合成される。
※3 YBX1 (Y-box binding protein-1)。DNAやRNAに結合することでタンパク質の合成を転写および翻訳過程で制御し、細胞機能を調整することが知られている。
※4 タンパク質の翻訳後修飾の一つで、リン酸基がつくことでタンパク質の構造が変化、活性の変化が起こる。

図1 YBX1がリン酸化されることで表皮幹細胞の老化が引き起こされる

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研究の背景

皮ふのターンオーバーは、表皮の細胞が絶えず増殖・分化することで起こり、健やかな肌の維持に役立っています。その細胞の供給源となるのが、表皮の最も深い部位である基底層に存在する表皮幹細胞※5です。資生堂はこれまで、表皮幹細胞を健やかに保つことが若々しい肌の実現にとって非常に重要であると考え、10年にわたって表皮幹細胞研究に取り組んできました。その結果、表皮の基底層の下に存在する基底膜を介して表皮幹細胞の維持をサポートすることで、肌の保湿やバリア機能、さらに真皮のコラーゲン産生にも寄与することを発見してきました。
本研究の共同研究先であるCBRCのAnna Mandinova助教授のチームは、これまでの研究で、YBX1というRNAに結合するタンパク質の減少が、表皮幹細胞を老化させ、また、周囲の細胞を老化させる物質の分泌をも促してしまうことを明らかにしています。本研究では、表皮幹細胞の量だけではなく、質の変化にも着目し、さらなる幹細胞研究の進化に挑みました。
※5 表皮幹細胞:本研究では、MCSP(Melanoma-associated Chondroitin Sulfate Proteoglycan)を細胞表面に発現している細胞を表皮幹細胞としている。

YBX1がリン酸化されることで表皮幹細胞の老化が引き起こされる

本研究において、CBRCのMandinova助教授のチームと資生堂は、様々な年齢のヒトから採取した表皮幹細胞の多くで、YBX1がリン酸化し機能低下していることを明らかにしました。また、YBX1のリン酸化を抑制する薬剤を表皮幹細胞を含む培養細胞に加え、細胞老化の指標であるベータガラクトシダーゼ(beta-Gal)を染色し(図2左、青)、その量を比較した結果(図2右)、細胞老化を抑制する効果が見られました。

図2 YBX1リン酸化を抑制する効果をもつ薬剤は表皮幹細胞を含む培養細胞の細胞老化を抑制する。

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光老化によりYBX1のリン酸化が起きている

実際のヒトの皮ふでは加齢や日光の影響による表皮幹細胞の減少に伴ってYBX1陽性細胞が減少していました。その一方で、日光の当たらない部位(非露光部)の皮膚に比べて日光の当たる部位(露光部)の皮膚において、リン酸化したYBX1が著しく増加していることが明らかになりました(図3)。長年日光を浴び続けることにより引き起こされる皮ふの変化、光老化が、YBX1のリン酸化の要因になっている可能性が示されました。


YBX1リン酸化の抑制により表皮幹細胞が増加する

ヒト皮ふの切片に、YBX1のリン酸化を抑制する薬剤を加えて培養すると、表皮幹細胞が増加することが明らかとなりました(図4)。

図3 表皮層の細胞(矢印の範囲)のリン酸化YBX1(赤)が光老化により増加する

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図4 YBX1のリン酸化を抑制すると表皮幹細胞(緑色や赤色で示される部分:表皮幹細胞性を示すタンパク質)が増加する

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以上の発見により、表皮幹細胞の老化抑制のカギであるタンパク質YBX1が、リン酸化により機能低下し、表皮幹細胞の老化を促すことが明らかになりました。当社は、今後も若々しい肌を実現する皮ふのターンオーバーの源でもある、表皮幹細胞を健やかに保つことが重要であると考え、表皮幹細胞研究を進化させ、エイジングによるさまざまな肌悩みへのアプローチを目指します。




R&D戦略について:
本研究は、R&D戦略3本柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」のもと、世界有数の研究機関である米国のCBRCとの10年来の共同研究成果として生み出されました。
・2022年統合レポート(ビューティーイノベーション)
https://corp.shiseido.com/report/jp/2022/value_creation/innovation/
・キーワード
Skin Beauty INNOVATION、幹細胞



参考:CBRCと資生堂との表皮基底膜・幹細胞に関する共同研究の歩み
 ハーバード医科大学付属皮膚科学研究所と米国マサチューセッツ州ボストンにあるマサチューセッツ総合病院が設立した皮膚科学研究所(CBRC)は皮膚科学の領域では世界トップクラスの研究所として知られています。資生堂は、CBRCが設立された1989年から表皮基底膜に関する共同研究をスタートし、老化の初期段階で表皮基底膜の構造が損傷し変化していることを明らかにしてきました。その成果は2000年のIFSCC(国際化粧品技術者会連盟)ベルリン大会にて、基盤部門での最優秀賞を受賞しています※6。その後も資生堂にて表皮基底膜の研究を継続し、老化による表皮基底膜損傷が表皮幹細胞減少にかかわっていることを発見しました※7。さらに表皮幹細胞に関しては共同研究を2015年から開始し、本研究知見を導き出しており、CBRCと資生堂との30年以上の共同研究によって得られた皮膚科学研究の一大成果が、本研究知見と言えます。
※6: 肌内部からじわじわ進む老化を、初期段階でケアできる!? https://corp.shiseido.com/jp/rd/ifscc/09.html
※7: 資生堂の入山俊介研究員が、日本結合組織学会 大高賞を受賞 https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003230


【関連するニュースリリース】
資生堂、世界初・表皮幹細胞が肌のうるおいを左右することを発見(2015年)
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001832/1832_p2i83_jp.pdf
資生堂、あらゆるお客さまが“肌の若返り”に近づく、新規有用成分を開発(2018年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002573
資生堂、皮膚科学の共同研究で30周年(2019年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002755
資生堂、表皮幹細胞の維持が真皮コラーゲン線維の再生に寄与することを確認(2021年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003159


※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。