2025年10月27日
発行元:(株)資生堂
研究・サプライネットワーク
資生堂、日本におけるダーマ市場の成長に向け、皮膚科医等の専門医と協力した研究開発の強化を加速
~東北大学病院との共同研究から、早期に乳幼児のアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症を予測できる方法を発見~
資生堂は東北大学病院 皮膚科・周産母子センター(以下、東北大学病院 皮膚科)との共同研究により、生後2ヵ月時点で角層に含まれる特定のタンパク質が多い乳幼児は、3歳時点でアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを発症する確率が高いことを発見しました。本発見により、乳幼児期におけるアレルギーの発症リスクを早期予測できる診断法の確立につながることが期待されます。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーで悩む方が増えている中、早期予測に基づいた適切なケアにより発症リスクが低減できることで、お子さんとご家族の生活の質の向上に寄与できると考えられます。本発見は着想から10年以上の歳月をかけて、東北大学病院 皮膚科との協働を通じて見出されました。
本研究の共同研究者である東北大学病院 皮膚科 小澤麻紀先生の論文は、2025年度サノフィ優秀論文賞「一般部門」を受賞しました。また本成果は、2025年10月24日~26日に開催された日本アレルギー学会にて発表されました。
資生堂は35年以上にわたり、東北大学病院 皮膚科と共同研究を行ってきた実績を踏まえ、今後も国内の皮膚科医等の専門医と協力した研究開発を通じ、「敏感肌サイエンス」を強化していきます。そして化粧品やサービスなどの価値開発に応用し、一人ひとりの生涯を通じた健やかな美の実現を目指します(図1)。
研究の背景
資生堂は、幅広い年代において「美しく健やかな肌」のために長年にわたって皮膚科学研究に取り組み、化粧品などの研究開発を進めてきました。角層中に存在するSCCA1(別名:セルピンb3)は皮膚におけるバリア機能の恒常性を維持する役割を担う重要なタンパク質のひとつで、資生堂は2006年にタンパク質(SCCA1)が、肌のバリア機能を低下させる原因因子であることを見出しました。本知見は化粧品技術に関する世界最大の権威ある研究発表会“IFSCC※”において優秀賞を受賞しています。2009年~2010年にかけては、タンパク質(SCCA1)が、乳幼児のアトピー性皮膚炎において、皮膚局所の重症度指標となることを見出す等、これまでに多くの研究成果を出してきました。
2014年には乳幼児期からのスキンケアにより保湿をしっかりすることで、アトピー性皮膚炎の発症率が約3割抑制される研究論文が発表され、乳幼児期におけるスキンケアの重要性が注目されました。
近年、様々なアレルギーの出発点として、皮膚からアレルギーの原因物質が、からだの中に入り込むことが要因の一つと考えられています。そのため、アトピー性皮膚炎等の疾患予防に加え、早期診断や早期予測ができる「皮膚診断法」が求められてきました。そこで、乳幼児にも利用可能な非侵襲性の皮膚診断法の確立を目指し、2016年から東北大学病院と更なる共同研究に着手しました。
※: IFSCC: The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists
角層中の皮膚タンパク質の定量により、アトピー性皮膚炎・食物アレルギーの発症リスクを予測
両親のうち少なくともひとりにアトピー性皮膚炎の既往がある117名の乳児(生後2ヵ月、男児62名、女児55名)を被験者として、3歳になるまでの間に定期的に、数回にわたり皮膚科専門医による診察とテープストリッピング法を用いて採取した角層中に含まれるSCCA1量を測定しました。アトピー性皮膚炎・食物アレルギーの発症とSCCA1量の関係性を統計的解析により調べたところ、生後2ヵ月時の頬の角層中のSCCA1の量は、アトピー性皮膚炎を発症していないお子さんと比較して、発症したお子さんにおいては著しく高い結果となりました(図2)。
また、生後2ヵ月時の口周りの皮膚の角層中のSCCA1の量が、食物アレルギーを発症していないお子さんと比較をして、発症したお子さんにおいては著しく高い結果となりました(図3)。
乳児のアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを生後数ヵ月で診断するのは非常に難しいとされています。今回のように生後2ヵ月でアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを早期発見、ないし早期予測ができれば、より早い段階から適切なケアによる予防が可能となります。
図3. 口周囲におけるSCCA1量(3歳までに発症したお子さんの生後2ヵ月時点の量)
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今後の展望
資生堂は、共同研究から得られた先進知見とテクノロジーを掛け合わせ、敏感肌や美容皮膚科領域まで幅広く見据え、新たな化粧品やサービスなどの価値開発に応用し、一人ひとりの生涯を通じた健やかな美の実現を目指します。
また皮膚科医等の専門医と協力した研究開発を通じて「敏感肌サイエンス」を強化し、多様な敏感肌の症状の根本原因を追求することで、生活者のストレスや不安を和らげ、理想の肌を実現することを目指し、日本におけるダーマ市場の成長を加速していきます。
R&D戦略について
資生堂は、イノベーションを加速させるためのアプローチとしてR&D理念「DYNAMIC HARMONY」のもと、「Skin Beauty Innovation:ブランドの価値向上」「Sustainability Innovation:循環型の価値づくり」「Future Beauty Innovation:新領域への挑戦」の3つの柱を立てています。また、オープンイノベーションを推進し、さまざまな外部機関との研究アライアンスを通じて、新しい価値創造を進めています。資生堂の先進サイエンスと世界トップレベルの研究機関の知と技術の融合から創出された革新的な研究成果は、化粧品技術に関する世界最大の権威ある研究発表会IFSCCなどグローバルにおいて学術的にも高く評価されています。
※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。