2023年06月22日
発行元:(株)資生堂
研究・サプライネットワーク
サステナビリティ
資生堂 女性研究者サイエンスグラント 第16回受賞者決定
~女性活躍推進企業として、次世代の指導的役割を担う女性研究者を多様な視点でサポート~
資生堂は、「資生堂 女性研究者サイエンスグラント」の第16回受賞者10名を選出し、2023 年7 月6日(木) 「サステナブルな社会の実現を目指した女性研究者同士のネットワーク構築」をテーマにした授賞式を、資生堂グローバルイノベーションセンターにて開催します。
本グラントは、「次世代の指導的役割を担う女性研究者を支援することは科学技術の発展につながる」という考えのもと、自然科学分野の幅広い研究テーマ(理工科学系・生命科学系全般)を対象に、2007年の設立以来、毎年最大10名の女性研究者へ研究助成を実施しています。受賞者に贈られる各100万円の助成金は、出産・育児等のライフイベントと研究活動を両立するための環境整備(学会参加の際の託児費用や研究補助員の雇用等)にも柔軟に活用できることが特長として挙げられます。また、グラントを通じた受賞者同士の交流や共同研究は、受賞者の研究活動そしてキャリア形成のサポートにもなっています。
当社は、「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」を企業使命に掲げ、多様なバックグラウンドを持つ人々が持てる力を発揮し、イノベーションを生み続ける組織文化づくりのため、ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)を重要な経営戦略として位置付けています。日本のSTEM※1領域におけるジェンダー・ギャップ解消への課題認識が高まる中、当社は女性活躍推進を積極的に推進する企業として、女性研究者の支援を通じた科学技術の発展による、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。
※1 Science, Technology, Engineering and Mathematics
女性研究者の現状と本グラントの役割・今後の展望
女性研究者の現状について、過去の受賞者を対象にアンケート調査を実施した※2ところ、8割以上の研究者が「女性ゆえに困っていることがある」と回答しました。その理由として最も多く挙げられたのは、「家庭と仕事の両立が困難である」、そして「女性研究者が少なく立場が理解されにくい」、「周囲に相談・情報交換できる人がいない」と続きました(図1)。 日本社会に根付く性別役割分担意識※3を背景とした家庭と仕事の両立の困難、孤立しやすい、キャリア形成に不安といった悩みを抱えている女性研究者の実態が浮彫りになりました。
一方、本グラントを受賞して良かったことについては、「助成金が得られた」、「優秀な他の受賞者との交流が次の発想につながった」、「受賞そのものが心の支えになった」、「資生堂の研究員と交流がもてた」、「周囲から認められるようになった」などが挙げられました(図2)。これらの結果から、助成金という有形の支援に加え、ネットワーク形成をはじめとする無形の支援もまた、厳しい環境下にある女性研究者には有意義であると考えられます。
※2 調査期間:2022/11/16~30、資生堂 女性研究者サイエンスグラント受賞者のうち回答者数:74名(送付者数:119名)
※3 「男性は働くべき、女性は家庭を守るべき」といった、社会的・文化的に男女の役割を分担すること
今後の展望
次世代の指導的役割を担う女性研究者の育成を趣旨とする本グラントは、設立から16年が経過し、これまでの受賞者は延べ149名となりました。過去の受賞者からは、教授や研究室を主宰する研究リーダーなどが多く輩出されています。研究者が発想を膨らませ、研究成果を生み、社会に還元する上で、研究者同士のネットワーク構築が不可欠です。資生堂は、本グラント受賞者を中心とした女性研究者同士のネットワーク構築をサポートし、専門分野や領域を超えた多様な人と知の交流機会を提供します。
第16回資生堂 女性研究者サイエンスグラント 授賞式概要
日時:2023年7月6日(木)13時~16時
会場:資生堂グローバルイノベーションセンター 1F (神奈川県横浜市西区高島1-2-11)
開催テーマ:サステナブルな社会を目指した女性研究者ネットワーク構築
式次第:
・挨拶
鈴木 ゆかり(株式会社資生堂 取締役 常務 チーフD&Iオフィサー)
・記念盾贈呈
岡部 義昭(株式会社資生堂 常務 チーフイノベーションオフィサー チーフブランドイノベーションオフィサー)
・受賞者代表挨拶
・審査講評
東條 洋介(審査委員長、株式会社資生堂 エグゼクティブオフィサー チーフテクノロジーオフィサー)
・調査報告:女性アカデミアの現状とグラント受賞の意義 ー第1~15回受賞者を対象にしたアンケート結果よりー
サイエンスグラント事務局
・基調講演
天野 麻穂(北海道大学大学院医学研究院特任准教授兼HILO株式会社代表、本グラント第6回受賞者)
・交流会
【第16回受賞者一覧】
助成期間:2023年6月~2024年5月
氏名(敬称略、五十音順)
所属・職位
研究分野・受賞研究テーマ(研究の概要)
郭 暁麗(カク ギョウレイ)
東京都医学総合研究所 視覚病態プロジェクト 主席研究員
【基礎医学/神経科学/眼科】
遺伝子治療の光制御による眼疾患の治療研究(光を見ると遺伝子治療が実行されて、目の病気の治療ができるという、新しいシステムの構築を目指します)
シーボーン ケイティー
東京工業大学 工学部 准教授
【人間工学/ヒューマンコンピュータインタラクション】
ロボットとの芳香的な関わり合い: 嗅覚による人間とロボットの相互作用の探索的研究(ロボットは香りで人を引きつけることができるのか?ロボットのアロマがどのように人を惹きつけるかを探ります)
永澤 明佳(ナガサワ サヤカ)
千葉大学大学院医学研究院附属教育研究センター 千葉大学大学院薬学研究院法中毒学(兼任) 講師
【法中毒学/法医学】
死体環境別における死臭成分の網羅的解析(様々な死体状況における死臭の成分を特定し、成分分解の促進につなげる研究)
萩原 明(ハギワラ アカリ)
東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科 准教授
【脳神経科学/神経回路の伝達様式と脳機能】
育児経験によって変化する養育行動の神経プロファイリング解析(養育行動の制御にかかわる神経機構を明らかにするため、神経細胞の伝達様式や発現する遺伝子の解析を行う)
橋本 恵(ハシモト ケイ)
お茶の水女子大学 お茶大アカデミック・プロダクション 特任助教
【神経科学/分子生物学】
脂質代謝異常が認知症を誘発するメカニズムの解明(認知症の脳の中で脂質の貯め込みが起きてしまう根源を理解する研究)
松本 咲(マツモト サキ)
甲南大学 先端生命工学研究所 特任助教
【核酸化学/生体機能関連化学】
老化に伴う核酸構造の変化が転写反応に及ぼす影響の解明(DNAのかたちが老化に及ぼす役割を明らかにする)
三木 春香(ミキ ハルカ)
筑波大学医学医療系 膠原病リウマチアレルギー内科学 助教
【臨床免疫学/アレルギー学】
アレルゲン免疫療法新規アジュバンド開発(アレルゲン免疫療法の有効性を高め、より安全で短期間に治療効果を得られるアジュバンドの開発)
矢田 詩歩(ヤダ シホ)
東京理科大学 工学部工業化学科 助教
【コロイド/界面化学】
泡のナノ・オペランド計測技術の開発と泡の構造解明(時々刻々と変化する泡のナノレベルの構造を可視化する測定技術の開発)
吉田 さちね(ヨシダ サチネ)
東邦大学 医学部 講師
【神経科学/発達心理学】
子どもの安心感醸成メカニズムの解明に向けた親子の触れ合いの定量解析(親子の触れ合い解析から探る子どもの安心感が育まれる仕組み)
渡辺 寛子(ワタナベ ヒロコ)
東北大学ニュートリノ科学研究センター 助教
【素粒子物理学/ニュートリノ実験】
海洋底地球ニュートリノ観測による地球理解の新展開(海底での地球内放射性物質起源のニュートリノ観測を目指し地球内放射性熱量の理解を革新する)
審査方法について
社外の審査員(弘前大学准教授 柿崎育子先生、日本女子大学名誉教授 小舘香椎子先生、東京大学副所長・教授 近藤高志先生、福井工業大学学部長・学科主任・教授 矢部希見子先生)と当社審査員が以下の観点について厳正に審査し、将来指導的立場を目指す女性研究者として支援するに相応しいと判断した方を受賞者として決定しました。
(1) 申請研究について
・研究の背景、目的、社会的意義
・研究計画の妥当性(目的に対する計画の具体性・論理性、および達成の可能性)
・研究のユニーク性(新規性・独創性)
(2) 研究者について
・研究実績、積極性、ご自身の研究者としてのビジョンや後進育成に対する考え方と熱意、ご自身の研究の社会的インパクトや活用のビジョン
参考:資生堂のD&Iの取り組み
資生堂は、法整備に先駆け女性のキャリア成長のための取り組みを進めてきましたが、さらに女性活躍を推進するには多様で柔軟な働き方が不可欠であるとし、2021年にはコアタイムのないフレックスタイム制度を改定、オフィスワークとリモートワークのシナジーを最大化させる「資生堂ハイブリッドワークスタイル」を導入しました。その他、誰しもがイキイキと働きやすいインクルーシブな組織風土の醸成を目指して、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)に関する調査やワークショップ・E-Learningを広く展開しています。また。男性育休取得率100%を目指し、社内の保育事業のノウハウを活かして現役保育スタッフ(保育士・看護師)による“体験型”育児トレーニング「KODOMOLOGY イクトレ」をスタートさせているほか、ロールモデルによる育児体験談の発信、管理者向けのワークショップなどを行っています。
また、2017年から女性特有の悩みや課題に焦点を当てた研修として女性リーダー育成塾を開始し、2020年からロールモデルとのタッチポイント・キャリア支援として女性役員と女性社員によるメンタリングプログラムを実施しています。これらの取り組みを加速させた結果、国内資生堂グループの女性管理職比率は37.6%※4となっています。2030年までに、あらゆる階層において機会平等の象徴である男女比率50:50を目指し、各領域の役員が女性リーダー比率50%達成に向けたアクションプランを策定しています。
社会に向けた取り組みも行っています。2023年に発足した社内研究機関「資生堂D&Iラボ」では得られた知見の社内外への発信を目指します。また、ブランド「SHISEIDO」では、無意識の偏見や思い込みから解放され、個々の美しさに共鳴できる世界の実現に向け「Unconscious Beauty Bias (UBB)」に注目し、新たな取り組みとして、多様性の視点を学ぶ中学生に向けた、UBBを主体的に考える無料教材「誰もが自分らしく美しくいられる世界へ」の開発・提供を開始しました。グローバルラグジュアリーブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」 では、2019年よりユニセフとグローバルパートナーシップを結び、世界中の少女たちと社会全体へより良い未来をもたらすために、教育を通じて少女たちのエンパワーメントを支援しています。
※4 2023年1月1日時点
※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。