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2022年06月17日

発行元:(株)資生堂

研究・サプライネットワーク

資生堂、世界で初めて表在性筋膜の加齢変化を定量化

~肌最深部の筋膜に着目した、たるみ改善のための独自ソリューション~

資生堂は、山梨大学医学部 玉田大輝特任助教との共同研究により、顔の肌の最深部にある表在性筋膜(SMAS)※1の加齢に伴う形態変化を、世界で初めて定量的に計測することに成功しました。今回、脳や肝臓の診断にも用いられる高性能MRI※2を応用し、SMASの水分量を指標にして菲薄化※3を推定することで、加齢に伴うSMASの形態変化を非侵襲的に定量しました。また、たるみの重要な因子である年齢やBMIの指標が同等であっても、SMASの老化が進んでいる対象者群ではたるみの程度が大きく、ハリも低下していることから、顔のたるみは、これまで当社が明らかにしてきた真皮や皮下脂肪の要因に加え、それらよりさらに深い部分にあるSMASの形態変化も一因であることがわかりました。さらに、SMASに着目して新たに開発した手技と基剤を組み合わせた美容ソリューションを8週間連用した対象者に対して、高精度なたるみ評価法を用いて測定したところ、持続的なたるみ改善効果が認められました。
本研究は、資生堂独自のR&D理念『DYNAMIC HARMONY』のInside/Outsideというアプローチで研究を進めています。肌の深部の状態が顔の見た目に与える影響を、最先端の技術を用いて解き明かし、三次元的な顔形状の老化に迫る革新的なテクノロジーを創出します。
※1 Superficial musculoaponeurotic systemの略称。筋細胞やコラーゲン線維、エラスチン線維から構成されるスポンジ様の解剖学的構造体で、顔面の肌の最深部に存在する(図1)。
※2 核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)は、磁性体としての性質を利用し、放射線被爆なく非侵襲的に対象物の内部を画像化できる。今回用いたMRIは汎用的な技術である画像化に加えて、組織中の水分量を水分子シグナル強度から算出できる高度な技術も同時に利用している。
※3 加齢などにより本来の性質が失われ、もともとあった状態より薄くなること。

図1. SMASは肌の最も深い部分に位置している(青染色はコラーゲン、赤染色は筋繊維など)

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研究の背景

当社は2000年頃から他社に先駆けて“顔のたるみ”に着目して研究開発を進めてきました。たるみは重力により肌が引き下がる老化現象であり、加齢に伴い顕在化する代表的な肌悩みの一つです。これまでに、顔の形状を支える肌構造や真皮空洞化の発見などの皮膚科学的な側面だけでなく、極めて高精度なたるみ評価法の開発など、エイジングによる悩みに対する新たな価値開発を積極的に行ってきました。
今回着目した、顔面に特有の構造体であるSMASは、美容外科的な「引っ張る」手術によってたるみを軽減できることが知られており、解剖による直接観察から加齢に伴ってSMASが菲薄化することが示唆されていました。一方で、SMASはあまりに肌の深い場所に位置するため、これまでは非侵襲的に観察することが難しく、SMASの菲薄化がたるみの原因となっているか、加齢を共通の原因とする相関現象なのか、十分には分かっていませんでした。そこで、当社は今回、加齢に伴うSMASの形態変化がたるみの発生にどのように関わるのかを定量的に明らかにするため、体内を非侵襲的に観察できる手法を開発し、加齢に伴うSMASの変化とたるみの関係について解明するべく、検討を行いました。さらに、SMASの形態変化が原因となって生じたたるみに対して効果的と考えられる手技とそれに組み合わせる最適な製剤を開発し、たるみに対する連用効果の検証も行いました。

高性能MRIを活用し加齢に伴うSMASの形態変化を解明

SMASはスポンジ様の組織で、線維のすき間は間質液で満たされています。しかし、加齢とともにSMASが菲薄化することで間質液が抜け線維比率が高くなることから、今回、山梨大学医学部との共同研究により、高性能MRIを顔面に適用してSMASに存在する水分子シグナルの画像化を行いました。その結果、加齢に伴うSMASの形態変化を世界で初めて定量的に計測することに成功しました。20代のMRI画像ではSMASにおいて水分子シグナルが強く水分量が多いのに対し、60代のMRI画像では水分子シグナルが弱く水分量が少ないことが分かります(図2)。また、菲薄化の程度を示すSMASの水分量と対象者の年齢との関係を見ると、加齢に伴い水分量が減少していることから、SMASの形態変化を定量的に測定できていることが分かります(図3)。さらに、年齢やBMIは同程度で、SMASの水分量が多い群(SMASの老化が進んでいないA群)と水分量が少ない群(SMASの老化が進んでいるB群)を比較すると、B群では有意にたるみの程度が大きく、肌のハリもありませんでした(図4)。今回の結果から、たるみは、真皮や皮下脂肪に加え、それらよりさらに深い位置に存在するSMASも原因の一つであることがわかりました。

図2. 仰向け状態の顔部を鼻・頬を通るように輪切りにしたMRI画像。(真皮とSMASは水分量が多く明るく見えるが、間に存在する皮下脂肪は水分量が少なく黒く見える)

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図3. SMASにおける水分子のシグナル強度と年齢の関係

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図4. 年齢やBMIは同程度だがSMASの老化が進んでいない群(A)と進んでいる群(B)における“顔のたるみ”の比較

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SMAS知見に発想を得た独自の美容ソリューションによる持続的なたるみ改善効果

SMASは顔面に特有の構造体ですが、筋膜自体は全身に存在し、筋膜の癒着は肩こりや腰痛の原因になることが知られており、その解消法の一つに、整体院などで行われている吸引施術(一時的・物理的な引きはがし)があります。この施術には、筋膜の癒着を解消し、肩こりや腰痛を改善する効果があります。この施術に着想を得て、加齢によって変化したSMASを物理的に引きはがすように、両手で肌の奥をつまみ刺激を与え、頬全体をひきあげる独自の手技と、その手技を効果的に行えるようにした製剤※4を組み合わせた美容ソリューションを新たに開発しました。この美容ソリューションを8週間継続したところ、連用後には「たるみ指数※5」が有意に減少し(図5)、今回開発した美容手技にたるみ改善効果があることがわかりました(図6)。この効果は、施術による一時的なリフトアップではなく、日々のケアによる持続的な改善効果と考えられます。
※4 顔全体に塗り広げやすく、手技を行う際には手が肌表面で滑り過ぎず手技の効果を肌の奥に届けられるよう工夫をした製剤
※5 座位と仰臥位(あおむけ)の顔形状から算出した体積差分を変換した値。「たるみ」スコア(視感評価値)と非常によく相関することから、客観的かつ定量的に「たるみ」を評価できる。

図5. 連用テストによるたるみ指標の変化

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図6. 連用テストにより改善した「たるみ」 (左右45度の角度から見た「たるみ」の様子)

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今後の展望

たるみは、重力を受けて顔の形状が大きく変形する現象であり、見た目年齢への寄与が非常に大きく、美容に関心のあるお客さまにとって大きな悩みとなっています。また、コロナ禍において日常的にマスクを着用することで、表情が変わらず、顔が凝っていると感じる人が増えていると言われています。本研究成果により、たるみが肌の深部のSMASも関与する、非常に複雑な現象であるとともに、SMASを刺激し「顔のこわばり」や「顔のコリ」を解消することで、たるみの改善が期待できることが明らかになりました。
当社はエイジング研究に関する横断的な領域において、老化とともに肌の内部で起こる現象を一つずつ解き明かすことで、化粧品では対応できないと思われていた“たるみ”という新たな分野を開拓してきました。IFSCC(国際化粧品技術者会連盟)において4大会連続最優秀賞を受賞した、当社江連智暢フェローの研究成果をはじめとして、たるみに悩む世界中のお客さまの期待に応えるべく、さらなる研究開発を加速させていきます。

【関連するニュースリリース】
資生堂、世界で初めて極めて高精度な「たるみ」評価法を開発 (2021年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003235

※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。