2022年05月17日
発行元:(株)資生堂
研究・サプライネットワーク
資生堂、ヒアルロン酸の体積をコントロールする技術を開発
~最先端のShape-Shifting HA技術が肌の水分量を増加~
資生堂は、ヒアルロン酸(以下、HA)の体積をコントロールする「Shape-Shifting HA技術」を開発しました。HAは肌表面で保水膜を形成し、高い保湿効果を発揮する一方、分子が非常に大きいため、肌に塗布しても角層に浸透しにくいという課題がありました。新技術ではマグネシウムイオン(以下Mgイオン)の添加によってHAが収縮し、通常のHAと比べて角層への浸透性が劇的に高まります。さらにこの技術では、キレート剤(※1)の一種であるメタリン酸ナトリウムの添加によって、収縮したHA(以下、コンパクトHA)を再膨潤させることで本来のHAの性質を取り戻し、角層水分量を高めることを可能とします。本研究成果の一部は「日本薬学会第142年会」(2022/3/26)にて発表しました。
本研究は、資生堂独自のR&D理念『DYNAMIC HARMONY』のInside/Outsideというアプローチで研究を進めています。高分子であるHAの体積をコントロールする最新技術「Shape-Shifting HA技術」により、HAの角層浸透性及び角層内での機能を高め、やわらかく、みずみずしい肌の実現を目指します。
※1 周囲に存在する金属イオンを封鎖することで金属イオンが持つ性質を打ち消すことができる成分
図1. ヒアルロン酸の体積をコントロールするShape-Shifting HA技術(イメージ)
Download Small Image[26.8KB] Download Large Image[146KB]研究の背景
HAは保水力に優れた生体高分子であり、肌の保湿に加えて様々な生理活性を示すことが知られています。表皮に含まれるHA量は加齢に伴い減少するため、健康な肌を維持するためにはHAを肌の内部へ供給することが重要です。しかしながら、HAの分子は非常に大きく、また角層が強靭なバリアとして働くために、HAを肌に浸透させることは極めて困難でした。また、皮下組織まで直接注入できる美容医療のHA注射は、侵襲的であり、全顔に適用できないという課題がありました。そこで、高分子のHAを非侵襲的に肌の内部に浸透させるとともに、肌内部に浸透したHAが本来の機能を発揮できる新規技術の開発を進めました。
ヒアルロン酸を収縮し角層浸透を高める技術
HA水溶液に各種の塩を添加し、HAの角層への浸透量を測定した結果、塩化マグネシウム(MgCl2)の添加によりHAの角層浸透量が高まることが明らかとなりました (図2)。次に、緑の蛍光で標識したHAを肌の表面に塗布し、断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、MgCl2を添加した場合には、MgCl2添加のないHA水溶液と比較し、より多くのHAが角層深部まで浸透する様子を可視化することができました(図3)。さらに、HA水溶液にMgCl2を添加し、HAの体積を測定したところ、MgCl2の添加により、体積の減少が認められました(図4)。これらの結果から、MgCl2がHAの体積を収縮させることにより、HAの角層浸透性を高めたと考えられます。
コンパクトHAを再膨潤させる技術と肌への効果
コンパクトHAにキレート剤であるメタリン酸ナトリウム(以下SMP)を添加すると、コンパクトHAが再膨潤して体積が増加し、収縮前のHAと同等の体積に戻ることが分かりました (図4)。次に、肌の表面にコンパクトHAだけを塗布した場合と、コンパクトHA塗布の後にSMP水溶液を塗布した場合の角層水分量の比較を行いました。その結果、コンパクトHAにSMPを加えた場合では角層水分量が顕著に高まることが明らかとなりました (図5)。この結果から、SMPによりHAが再膨潤した結果、保水力が復活し、角層水分量を増加させたと考えられます。高分子であるHAを収縮し、角層に浸透しやすくしたコンパクトHAを、SMP等のキレート剤により再膨潤させ肌の保水力を高める一連の技術を、「Shape-Shifting HA」と呼びます。
今後の展望
当社は肌の保湿成分である「ヒアルロン酸」の研究をさらに深め、その体積をコントロールすることにより、角層への浸透や機能性を高める、未来に向けた革新的な技術を開発することに成功しました。今後も、当社の企業ミッションである「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」の実現に向けて、本技術を未来のビューティーケアを担う当社の重要な技術として、幅広い肌悩みに応えるべく活用していきます。
※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。