資生堂の人事戦略
資生堂は、人が価値創造の源泉であるという「PEOPLE FIRST」の思想のもと、人への積極的な投資を続けてきました。働きやすい風土やジェンダー・キャリア等のダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)面では、日本企業でトップクラスの外部評価をいただいています。また、英語公用語化に加え、人事制度面においても、ここ10年で評価制度、グレード・報酬制度、育成制度をグローバルで共通化し、グローバル企業としての基盤も整えてきました。
そして、さらなる飛躍に向けて、私たちの企業使命である「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」を実現するために、美の感性を磨き、強い意志と情熱で未来を創造する社員で会社を埋め尽くすことが重要と考えています。ここで言う「美」とは、見た目の美しさという単純な話ではなく、自然や音楽から感じられる音の「美」、人のしあわせを願って行動するおもてなしの「美」、使命感や情熱を持ってものごとに取り組むエクセレンスの「美」など、さまざまな「美」の可能性のことを指しています。150年を超える歴史の中で受け継いできた資生堂の資産として美の感性を軸に据えながら、経営戦略を実行するための人事戦略を進めています。そこで、当社では理想的な価値創造の場と組織文化の姿を全社員と共有するため、「パッション、コラボレーション、エクセレンスのエネルギーで満たされたBeauty Innovation Atelier(ビューティー・イノベーション・アトリエ)」と英語で定義し、グローバル全社員と共有しました。
社員一人ひとりの仕事上の専門知識や経験だけでなく、大切にする価値観や想い、感性、そして情熱なども含めたありのままの個人として持ちあわせる可能性と良さをすべて発揮できるようにすることが、人事部門の重要な役割の1つだと考えています。社員が内発的動機に基づくパッションを発揮していくことで、持続可能な状態でエネルギーレベルが上がり、変革や飛躍を実現できると強く信じています。そのため、社員のエネルギーにつながる8つの要素を「パッションドライバー」として定義し、これらを重要な指標に位置づけた上で、各種の取り組みを推進しています。
2024年の重点施策と手応え
2024年は、こうした人と組織に関する基本的な考え方を整理した上で、各種施策に取り組みました。現状を脱却し変革を起こすため、特に注力したのは「多様な人の知と能力の融合で美の変革を起こす組織文化の開発」と「美の感性と、変革をリードするマインド・能力を兼ね備えたリーダーの採用と育成」です。
組織文化の開発については、木が美しく育つためには森が豊かであるべきという思想を前提にしています。具体的には、グローバル本社において、経営陣との直接対話を行うHQ ALL HANDSミーティングの開催を皮切りに、広報・マーケティング部門等とともに社員向けのブランド・新商品イベント「ブランドデー」の開催など、社員同士のつながりを生むような取り組みを開始しました。また、多様な知と能力の融合によって価値が生まれるとの考えのもと、プライド月間にあわせた「Diversity Week for LGBTQ+」や国際障がい者デーにあわせた「Diversity Week for People with Disabilities」といった、社員の関心や理解を深めるイベントを実施しました。
リーダーの採用と育成については、リーダーシップモデルを新しく「Futurists, Leading Change(未来を創造する変革リーダー)」と定義し、グローバル本社でワークショップを開催しました。今後はさらにグローバルでの展開や、定義したリーダーの役割、能力や行動特性をもとに、育成や評価などで活用していきます。さらに、社員が自律的に学ぶ文化を強化するために、2023年に創設した、未来を創る人の自己成長の場「Shiseido Future University」において、リーダーを対象とした各種プログラムの展開や、社員が学びを体感できる「資生堂ラーニングフェスティバル」を実施しました。最先端でグローバル水準のビジネススクールの学びと、美の感性や心の豊かさを創業以来追求してきた資生堂のヘリテージへの学びを掛け合わせた独自カリキュラムで社員の成長を支援しています。さらに、働き方の変革による生産性向上や社員体験の充実に向けて、IT部門とともに、AIやデジタルツールを活用した「SHISEIDO Work Smart」の取り組みを開始。生成AIをベースにした「Shiseido AI コンシェルジュ」を導入したほか、社員への人事サポートを飛躍的に変えるサービスプラットフォーム「PASS(People Assistance Solutions Salon)」を構築しました。これらの取り組みにより、コロナ禍以降停滞していた社員同士の交流機会が増え、社内に活気が感じられるようになりました。「Beauty Innovation Atelier」への歩みが着実に進んでいるという、確かな手応えを得ています。

(未来を創造する変革リーダー)


社員エンゲージメント調査とKPI
2024年5月に実施したグローバルエンゲージメント調査は、当社の社員の価値観を理解する上で有効な情報になりました。グローバル全体でのエンゲージメント肯定的回答率は68%と、前回(2022年)から3ポイント改善しました。全体のスコアとしては、まだまだ改善が必要な水準ではありますが、中でも社員の「貢献意欲」が上昇し、グローバルベンチマークとの比較でも高水準であると分かったことは、当社の変革期において心強いことと捉えています。また、スコアが改善した組織の要因分析を行ったところ、「組織内ベクトル」と「個人の強み」が高い傾向にあることが分かり、現在の人事戦略の方向性と一致していると考えます。
今後は、さまざまな社内施策に関する社員の受け止めを測るKPIとして、「パッションドライバー」に関連する指標を設定し、課題の認識と改善に活用していきます。
今後の取り組みとCPOコミットメント
今後は、「アクションプラン 2025-2026」の実現と中長期の事業成長を見据え、人事戦略を推進します。「アクションプラン 2025-2026」の中では、持続的なブランド育成をかなえるグローバルワンチームの構築を掲げており、全社員が結束し戦略実行力を高めていきます。優秀なグローバル社員については、戦略実行上必要であれば、居住地に関係なく、重要なポジションや役割への登用を積極的に増やしていきます。そのために、グローバルでのタレントの可視化を再徹底し、タレントレビューやサクセッションプランニング
の実施を通じて、豊富な学習機会や、現場での実践につなげていきます。また、厳しい事業環境の中でも社員がパッションを高く保てるように、会社のビジョンや方向性についての透明性のある情報共有および社員との丁寧な対話を継続していきます。
これまで述べてきた2024年から始めた取り組みを、2025年はさらにグローバルレベルで確実に進化・発展させていきます。「Beauty Innovation Atelier」を通じて、多様な社員一人ひとりのパッションがぶつかり合い、ビューティーイノベーションを創出する組織文化へのシフトに根気強く取り組んでいきます。
これまでの主な取り組み
(2024年実績)
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【人材・組織開発】
- 新リーダーシップモデルの導入ワークショップ開催 (約1,000名参加)
- 「資生堂ラーニングフェスティバル」の開催(約700名参加)
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「Shiseido Future University」
- -来場者数(延べ5,855名)
- -選抜リーダーシッププログラム参加者数(165名)
- 上司以外の管理職と対話するキャリアメンタリングプログラム実践(113組・226名受講)
- 自律的学習プラットフォームLinkedIn Learningの継続展開(グローバル合計 約14,000名受講)
- デジタルアカデミー受講者数(グローバル合計 約10,300名)
- 経営陣との対話型イベントHQ ALL HANDSミーティングの開催(約1,350名参加)
- 「ブランドデー」の開催(4回)
- グローバルエンゲージメント調査の実施(肯定的回答率 68%)
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【DE&I】
- 「Diversity Week for LGBTQ+」「Diversity Week for People with Disabilities」イベント(延べ約1,800名参加)
- 女性リーダー育成の研修「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」を実施(8年累計 334名参加)
- 女性役員と女性社員のメンタリングプログラム「Speak Jam」を実施(5年累計 213名受講)