ビューティーイノベーション
重要なアプローチ戦略のもとブランドイノベーション改革
を進め、2030 R&D VISION
「We are the engine of BEAUTY
INNOVATIONS」を実現してまいります。
常務
チーフイノベーションオフィサー(CIO)
チーフブランドイノベーションオフィサー(CBIO)
私がR&D(研究開発)責任者に就任した2021年から、資生堂では、生活者視点でブランドに貢献するR&Dを創り上げるため、ブランドイノベーション改革に取り組んでいます。2022年には、 グローバルR&D会議の開催や、「リージョンイノベーションセンター(RIC)」が主体となり、その地域の生活者の最先端トレンドに寄り添うイノベーション創出活動をスタート、さらには原料規制対応や研究成果の活用といったグローバルで連携すべき活動を横断で推進するプロジェクトなどに注力し、日本の「グローバルイノベーションセンター(GIC)」と世界5カ所の「リージョンイノベーションセンター(RIC)」との連携強化を進めました。その結果、具体的な成果として「NARS」のライトリフレクティングファンデーションというグローバルヒット商品を生み出せたことは、R&Dチームにとって一つの大きな成功体験となりました。
しかし、あるべき姿と現状のギャップは未だ大きく、改革は道半ばです。改めて、私がやり遂げたいことを申し上げると、次の4つにまとめられます。
- 生活者の期待を上回り、競合優位性の高いイノベーションを継続して生み出すR&Dに生まれ変わる
- 循環型の価値づくりでサステナブルな社会実現に向け業界をリードする
- 化粧品に次ぐ新領域・新カテゴリーに挑戦し、新たなビジネスを創出する
- グローバルの最高の人財が集まるR&Dチームを創る
この考えのもと、2030 R&D VISIONとして「We are the engine of BEAUTY INNOVATIONS」を掲げ、「Skin Beauty INNOVATION」、「Sustainability INNOVATION」、「Future Beauty INNOVATION」という3つのイノベーションの柱と、「脱資生堂カルチャー」という重要なアプローチを戦略として策定しました。今後のR&Dは、この戦略のもと課題を一つひとつ解決し、ビューティーイノベーションを実現してまいります。ご期待ください。
2023年4月
基礎研究力、価値創出力を磨き上げ、
スキンビューティーNo.1、さらには
「Personal Beauty Wellness Company」を
実現していきます。
チーフテクノロジーオフィサー(CTO)
資生堂の研究は100年を超える歴史を有し、マテリアルサイエンスや皮膚科学の研究実績、世界に先駆けた安全性専門部門など、イノベーション創出と安全性の原動力となってきました。技術と情報が溢れる現代社会において「信頼・本物」が求められていますが、まさに資生堂が培ってきた「科学的根拠に基づき本物を作る力」が改めて重要になっていると感じています。
そのため私はCTOとして、より高い生産性を実現するための最適なリソース配分や、機会獲得のための研究設定・戦略的連携先選定を加速することで基礎研究・シーズ開発研究の強化を図ります。同時に、新領域価値開発の強化に向け、インナービューティー、美容機器、肌・身体・こころの関係性の解明といった新ビジネスに寄与する研究成果や知見の創出と開発ケイパビリティ確立を確実に実行していきます。また、これらの基盤として、知的財産、研究成果や知見の創出・活用実績といった非財務指標の可視化による研究開発投資効果の最大化や、「ブランド価値開発研究所」との一気通貫体制を構築します。そして、価値創造と競争優位の源泉である人財にはこれまで以上に焦点を当てます。特に基盤研究領域は人財育成に時間を要するため、専門の研修システム構築、キャリア設計の支援を行っていきます。
こうした取り組みを通じ、スキンビューティー領域における世界No.1、さらには「Personal Beauty Wellness Company」を目指す資生堂として、「本物」を提供し続けるための基礎研究力、価値創出力を磨き、新たな価値提供を実現していきます。
2023年4月
R&Dと価値創造
R&Dは資生堂のイノベーション創出の基盤であり、価値創造ドライバーです。
長い歴史の中で、高い機能性と安全性の両立を通じ、強力な研究基盤を構築してきました。そして、皮膚科学、マテリアルサイエンス、感性研究といった強みに加えて、エイジングへのアプローチや紫外線対策など、常に新しいカテゴリーや市場を創造してきました。
一方、資生堂は業界屈指の研究開発力を十分にブランド成長に結び付けられていないという大きな課題を直視し、2021年からブランドイノベーション改革を進めています。チーフブランドオフィサー(CBO)を担っていた岡部のR&D責任者就任をはじめ、R&D全体の機能を統合・整理しました。基礎研究の成果・知見の可視化、独自の研究開発理念「DYNAMIC HARMONY」の制定、R&Dとブランドとの一気通貫体制の構築、R&D成果の積極的な対外発信などに取り組んでいます。
2022年までの2年間では、「DYNAMIC HARMONY」のもと、最大の強みである皮膚基礎研究の再強化をはじめ、グローバルブランド「SHISEIDO」や「アネッサ」に「サンデュアルケア技術」などの最新の研究成果を導入、インナービューティーなどの新領域への挑戦、大学や他業種との連携や、「グローバルイノベーションセンター(GIC)」と「リージョンイノベーションセンター(RIC)」の連携強化などが進みました。
引き続き手を緩めず改革を実行すべく、2023年には「Skin Beauty INNOVATION」、「Sustainability INNOVATION」、「Future Beauty INNOVATION」という3つのイノベーションの柱と、「脱資生堂カルチャー」という重要なアプローチを戦略として策定し、2030年のビジョンである「Personal Beauty Wellness Company」の実現を目指しています。
研究開発体制
資生堂は、より質の高い価値の提供に向けた研究成果や知見の創出を強化するべく、2021年にR&D機能全体を整理・統合しました。ブランドと一体となってスピーディーな商品開発を担う「ブランド価値開発研究所」と、中長期のシーズを積極的に生み出すとともに新領域における価値創造・事業開発を行う「みらい開発研究所」に再編しています。2023年からは、エグゼクティブオフィサーの役割責任も再整理し、CIO岡部が全体統括とCBIOを兼務し「ブランド価値開発研究所」を、2023年にCTOに就任した東條を「みらい開発研究所」の責任者とする体制としました。
グローバルにおいては、世界各地の研究開発拠点がそれぞれで異なる現地市場のニーズを収集・把握しながら、地域特性を活かした商品・サービスの研究開発を実施していく「マルチハブ体制」を敷き、「グローバルイノベーションセンター(GIC)」と5カ所(中国(2拠点)、アメリカ、フランス、シンガポール)の研究拠点「リージョンイノベーションセンター(RIC)」を構え、それぞれの地域ビジネスへ貢献するイノベーションを生み出し、かつそれを他の地域でも活用し合えるようにしています。
グローバルのマルチハブ体制
DYNAMIC HARMONY
資生堂では、多様な分析や社内外のヒアリングを通じてR&Dの強みや競合との差別化要因を導き出し、「DYNAMIC HARMONY」という研究開発理念を導き出しました。
資生堂R&Dが有する独自のアプローチは、一つの価値では決して定義できません。東洋と西洋、根本治癒と対症療法、漢方と施術、心と体――。一見、相反するように見える価値や両立するのが難しい価値を巧みに融合し、ダイナミックなハーモニーを生み出すことこそ、資生堂ならではの唯一無二の考え方です。この理念のもと、今後のR&Dは、「DYNAMIC HARMONY」に基づく研究アプローチを柱に据え、強みの可視化と外部との共有を図りながら、経営資源を集中して投下することでイノベーション創出を加速させていきます。また、これらの研究アプローチはこれまでの資生堂が積み上げてきた資産の一つであり、「DYNAMIC HARMONY」の歩みに終わりはありません。研究員全員のDNAとして、さらなる「DYNAMIC HARMONY」を創出し、資生堂の未来へと紡いでいきます。
今後の戦略
資生堂は、「Personal Beauty Wellness Company」の実現に向けて、強みである皮膚科学、マテリアルサイエンス、感性科学を基盤に、さらにサステナビリティ、デジタルテクノロジー、インナービューティー、美容機器の領域に注力していきます。こうしたR&Dの方向性について、改めて以下の3つのイノベーションの柱と、重要なアプローチを戦略として策定しました。また、この戦略推進に向け、コアテクノロジーを設定し、2030年に向けたロードマップを描いています。
Skin Beauty INNOVATION
最も重要なイノベーションの柱であり、経営基盤の盤石化を図ることを目的としています。このイノベーションでは、まず資生堂の強みと市場規模を踏まえた競争優位のある、スキンケア、サンケア、ベースメイクを筆頭とする化粧品領域があります。さらにスキンケアの中でもトレンドとなっている新たなセグメントである欧米でニーズの高いダーマ領域や、新たな強み技術であるセカンドスキン技術の発展などで展開させていきます。さらに、化粧品以外のスキンビューティーのセグメントとして美容機器、インジェスティブルビューティー(食品等)などに、強みの応用を拡大します。社会や生活者の購買行動を先読みし、当社の最先端テクノロジーを活用することで、新美容習慣を創出していきます。
コアテクノロジー:化粧品処方技術、皮膚基盤研究、感性研究、マテリアル研究、などSustainability INNOVATION
サステナブルな社会の実現に向け、経済価値と社会価値を融合した、循環型の価値づくりで業界をリードすることを目的としたイノベーションの柱です。
資生堂の社名の由来である「万物資生」に基づき、原料・処方・パッケージをより一層サステナブルなものにするとともに、他社との協業による新たな循環型の価値づくりを実現していきます。2022年には積水化学工業(株)、住友化学(株)との協業により、プラスチック製化粧品容器における新たな循環モデル構築に向けた取り組みをスタートしました。また、2023年には、プラスチック製容器を収集・再生する循環型プロジェクト「BeauRing」を立ち上げ、(株)ポーラ・オルビスホールディングスとともに、実証試験を開始しました。こうした取り組みを加速すると同時に、化粧品として欧米を中心にトレンドとなっているカテゴリーである、クリーン処方技術など、関連する領域を拡大します。
Future Beauty INNOVATION
データサイエンスと測定による新たなスキンビューティー体験など、生活者の期待を大きく超える、化粧品に次ぐ新領域・新カテゴリーを創出するイノベーションの柱です。中長期的な企業成長を目的としています。
例えば、新たな診断領域では、肌・身体・こころの関係性を解き明かすことで、化粧品だけではない幅広いソリューションの提供を目指しています。そのための研究基盤として、2022年には弘前大学と新講座を開設したほか、(株)DeNAライフサイエンスとデータ解析に関する連携を開始するなど、ビッグデータの取得と解析に取り組んでいます。
リージョンイノベーションセンター(RIC)との連携、および脱資生堂カルチャー
こうした戦略アプローチを実現するためには、従来の日本中心の価値開発から脱却し、ダイバーシティに富んだR&Dチームをつくり上げ、イノベーションを加速していくことが重要です。
資生堂が強みとしてきた化粧品領域をこれまで以上に磨き上げるとともに、各地域の知見と強みを活かした「リージョンイノベーションセンター」発のイノベーションを創出していきます。例えば、米国ではクリーン処方、欧州ではサステナビリティやマイクロバイオーム、中国ではメディカルビューティーなどがキーワードとして挙げられます。そして、大学等研究機関・異業種・スタートアップとの共創もこれまで以上に力を注ぎ、連携先の価値創出のプロセス・知見なども学び、取り入れていきます。2022年の慶應義塾大学先端生命科学研究所との包括連携協定はその一例で、イノベーション創出だけでなく人財育成も目的とした本協定により、従来の枠にとらわれない新たなR&Dリーダー人財を輩出していく考えです。
また、研究開発費については、今後も売上高比率で3%程度を投資していきます。「DYNAMIC HARMONY」のもと、ブランドコンセプトとサイエンスを組み合わせ、重点分野へ資源を集中して投下し、製品化プロセスのスピードを向上させるほか、研究成果の幅広い活用によるROIの最大化を図っていきます。
研究開発事例
「DYNAMIC HARMONY」の理念に基づき、続々と研究プロジェクトが進展しています。
2022年に発表した主要な研究開発事例を紹介します。
顔の見た目の老化を肌内部から明らかに「Inside/Outside」
- 資生堂が研究成果を積み上げてきた「抗重力サイエンスV」(アンカー構造、真皮の空洞化現象、線維芽細胞ネットワークの発見など)の最新知見
- 本研究成果を含む、「抗重力サイエンスV」の知見は、IFSCC大会にて4大会連続で最優秀賞を受賞
- 重力による肌の変形に抵抗するシステムとして、立毛筋の流れ「ダイナミックベルト™」に着目
- 加齢による立毛筋の衰えが原因で「ダイナミックベルト™」が消失することで肌の「たるみ」が生じることを発見
皮膚内部で働く免疫細胞から皮膚老化へアプローチする「Inside/Outside」
- 資生堂40年のコラーゲン研究と免疫研究の融合による発見
- M1/M2という2つのタイプのマクロファージバランスと皮膚老化の関係性を解明(2022年 日本抗加齢医学会総会で発表し、最優秀演題賞を受賞)
- コラーゲンの「産生」から「代謝」アプローチにシフトし、変性コラーゲンを消化するM2マクロファージに着目
- IL-34因子のコントロールによりマクロファージバランスを整え新たなビューティーケアを提案する
サステナブルでありながら、化粧品の高級感もあきらめない「Premium/Sustainability」
- 容器包装分野の2025年目標「サステナブルパッケージ100%」の主要アクションとして、充填時に中味となる液体で容器を成型する「LiquiFormⓇ」技術を採用し、サステナブルな化粧品つけかえ容器を開発
- 充填前の空容器の運搬が不要、かつ運搬時の破損・変形の懸念がないため容器を薄く設計でき、CO₂排出量やプラスチックの量を削減
- 「LiquiFormⓇ」技術を駆使したリサイクル可能なつけかえ容器と、向上した耐久性と美しさを持つ本体容器にて、サステナブルな化粧体験を提供
- サプライチェーン全体で、当社の標準的な従来のつけかえ容器(同容量)に対して約70%のCO₂排出量削減を実現
- 世界で初めて化粧品に採用した商品を「SHISEIDO」から2023年3月に発売
サイエンスの力で機能性成分を肌へ浸透させる「Inside/Outside」
- ヒアルロン酸研究の長い歴史を活かし、高分子量ヒアルロン酸を、その機能を損なうことなく肌に浸透させる方法を開発
- ヒアルロン酸分子が大きく広がる原因である電荷を化粧品成分でコントロールすることで、ヒアルロン酸のサイズを縮小化し浸透を高めることに成功
- 再度ヒアルロン酸のサイズを大きくし、保水力を復活させ、ヒアルロン酸本来の機能を発揮させることにも成功
- ヒアルロン酸分子のサイズを調節する「モレキュシフトテクノロジー」を2022年10月「SHISEIDO」から発売の商品に搭載(欧州では2022年9月に先行発売)