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2023年05月15日

発行元:(株)資生堂

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資生堂、ミトコンドリア代謝を抑えることで表皮幹細胞が活性化することを解明

~幹細胞を内側からコントロールする美肌への新しいアプローチ~

資生堂は、細胞のエネルギーを作り出す働きをしているミトコンドリア※1のATP※2産生を制御するMPC1※3を抑制することによって、ヒトの表皮幹細胞が増加することを明らかにしました。さらに、タモギタケエキスが表皮細胞のMPC1発現を抑制し、表皮幹細胞の活性化に働くことを発見しました。これらの結果は、幹細胞に一時的にエネルギー産生が低い休息状態を与えることで活性を促し、表皮細胞全体が良好な状態になるという、幹細胞を介した新たな美肌へのアプローチの可能性を示しています。
本研究は、R&D戦略3本柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」のもと、10年に渡る当社幹細胞研究の最新知見として生み出されました。肌を根本的に生まれ変わらせることができるようになる未来に向けて、当社は幹細胞の研究を今後も進化させます。
※1 ミトコンドリア:細胞内小器官で食物から体内に取り入れられた糖や脂質の代謝物を取り込んでATPを産生する。
※2 ATP:アデノシン三リン酸。様々な細胞活性のためのエネルギーとして使われる。
※3 ミトコンドリアピルビン酸キャリア1(MPC1):ATP合成に必要なピルビン酸をミトコンドリア内へ輸送するタンパク質。

図1 MPC1を抑制することで表皮幹細胞が活性化される

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研究の背景

皮ふのターンオーバーは、表皮の細胞が絶えず増殖・分化することで起こり、健やかな肌の維持に役立っています。その細胞の供給源となるのが、表皮の最も深い部位である基底層に存在する表皮幹細胞です。資生堂はこれまで、表皮幹細胞を健やかに保つことが若々しい肌の実現にとって非常に重要であると考え、10年にわたって表皮幹細胞研究に取り組んできました。その結果、表皮の基底層の下に存在する基底膜を介して表皮幹細胞の維持をサポートすることで、肌の保湿やバリア機能、さらに真皮のコラーゲン産生にも寄与することを発見してきました。
 一方で、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞したiPS細胞技術など、表皮幹細胞に限らず生体内の幹細胞は健康や医療の分野で重要な対象であることから研究が進んでいます。昨今、生体内の幹細胞では、細胞のエネルギーを作り出す器官であるミトコンドリアの活性が低いことが明らかになり、低エネルギー状態になることで幹細胞が活性化されることが科学的に証明され話題となっています。そこで、我々は、表皮幹細胞においても、低エネルギー状態を作り出すことで細胞を活性化できるのではないかと考え、研究に取り組みました。

ミトコンドリア活性の抑制により表皮幹細胞を活性化

ミトコンドリアにエネルギー産生の材料となるピルビン酸を供給するタンパク質、MPC1に着目し、表皮幹細胞への影響を解析しました。培養細胞にMPC1の阻害剤を加えてミトコンドリアの活性を抑制すると、表皮幹細胞マーカーであるMCSP※4の遺伝子発現が増加すること(図2)、加えて遺伝子だけではなく表皮幹細胞そのものが増加することを明らかにしました(図3)。また、培養皮ふ組織にMPC1阻害剤を塗布することで、皮ふ中の表皮幹細胞が増加することも明らかになりました(図4)。このことから、ミトコンドリア活性を一時的に抑制することで表皮幹細胞を活性化できると考えられます。
※4 MCSP(Melanoma-associated Chondroitin Sulfate Proteoglycan):本研究ではMCSPを細胞表面に発現している細胞を表皮幹細胞としている

図2 培養細胞における表皮幹細胞マーカー(MCSP) 遺伝子の発現

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図3培養細胞における表皮幹細胞マーカータンパク質の染色像(MCSP, Integrin β1:どちらも緑色で、表皮幹細胞の存在を示している)

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図4培養皮ふにおけるMPC1阻害剤の効果(MCSPを緑色で染色)

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タモギタケエキスにMPC1抑制効果があることを発見

MPC1の抑制によって表皮幹細胞が活性化されたことから、MPC1遺伝子発現を指標に薬剤の探索を行い、124品の候補薬剤の中からタモギタケエキスにMPC1発現を抑制する効果を見出しました(図5)。

図5タモギタケエキスによるMPC1遺伝子発現抑制効果

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今後の展望

本研究成果により、表皮幹細胞においても、細胞のエネルギー産生を一時的に抑えて、いわば「休息」状態を与えることで細胞が活性化し、結果として表皮細胞全体が良好な状態になる可能性が示されました。このことは細胞の内側(ミトコンドリア)から幹細胞をコントロールするという新しい美肌へのアプローチです。当社は、今後も表皮幹細胞研究を進化させ、エイジングによるさまざまな肌悩みへの対応を実現します。





R&D戦略について:
本研究は、R&D戦略3本柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」のもと、10年に渡る当社幹細胞研究の最新知見として生み出されました。
・2022年統合レポート(ビューティーイノベーション)
https://corp.shiseido.com/report/jp/2022/value_creation/innovation/
・キーワード
Skin Beauty INNOVATION、幹細胞

【関連するニュースリリース】
資生堂、世界初・表皮幹細胞が肌のうるおいを左右することを発見(2015年)
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001832/1832_p2i83_jp.pdf
資生堂、あらゆるお客さまが“肌の若返り”に近づく、新規有用成分を開発(2018年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002573
資生堂、表皮幹細胞の維持が真皮コラーゲン線維の再生に寄与することを確認(2021年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003159

※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。