2020年12月02日
発行元:(株)資生堂
研究・サプライネットワーク
資生堂、男性ホルモンにより皮膚免疫が低下するメカニズムを解明
椿の花や葉から抽出した複合成分(カメリア複合体)が皮膚免疫低下を回復することを発見
資生堂は、男性ホルモンによりランゲルハンス細胞(以下、LC細胞)※1が担う皮膚免疫が低下するメカニズムを解明しました。男性ホルモンは、LC細胞の重要な機能の一つである刺激応答鎮静化機能を低下させ、さらにはLC前駆細胞※2の誘引因子の発現を減少させることでLC細胞の成長を阻害することを発見しました。また、椿の花や葉から抽出した複合成分(カメリア複合体)が、男性ホルモンによって低下した皮膚免疫を顕著に回復させる効果があることを見出しました。
今回の研究成果を活用して、男性ホルモンと皮膚免疫に着目した、男性の皮膚本来の力を引き出す新たなアプローチを提案していきます。
※1 骨髄で造られる樹状細胞で、表皮で網目状のネットワークを形成するように存在し、皮膚免疫において重要な役割を果たしている。1886年に発見した医学者パウル・ランゲルハンスにちなんで名づけられました。
※2 前駆細胞とは、幹細胞から特定の細胞へ分化する途中段階の細胞のことで、真皮に存在するLC前駆細胞は、表皮に移動して分化すると、正常なランゲルハンス細胞として免疫機能を発現します。
研究背景
皮膚を若々しく、健やかで美しく保つためには、皮膚本来の力を引き出し、皮膚の生命力を高める恒常性(ホメオスタシス)を維持することが重要です。皮膚の恒常性を維持するための機能である皮膚免疫において、重要な役割を果たすのがLC細胞です。資生堂は30年以上にわたり皮膚免疫に関する研究を行い、老化やストレスによりその機能が低下するメカニズムを世界に先駆けて解明してきました。2020年には、LC細胞が加齢によって減少し、その原因の一つが表皮への呼び寄せ因子の減少によることを明らかにしています※3。
男性と女性には免疫応答に違いがあります。例えば、男性は女性よりもワクチンに対する反応性が低いことや免疫が過剰になる自己免疫疾患の罹患率は、女性に比べて極めて低いことが知られています。また、LC細胞は、男性ホルモンの投与によって減少することが報告されていますが、LC細胞の重要な機能である刺激応答鎮静化機能に関する影響については明らかにされていませんでした。
※3 加齢による皮膚免疫力変化のメカニズムの一端を解明(2020年) https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002984
男性ホルモンによる皮膚免疫機能低下のメカニズム
今回、細胞レベルの実験により、男性ホルモンにより①LC細胞の重要な機能の一つである、刺激応答鎮静化機能が低下すること、②さらに、LC細胞の成長に欠かせないLC前駆細胞の誘引因子の発現が低下することを発見しました。つまり、男性ホルモンは、LC細胞の機能と成長を阻害することがわかりました。また、男性ホルモンによる影響を抑制する成分を探索した結果、椿の花や葉から抽出した複合成分(カメリア複合体)に効果があることを見出しました。
①男性ホルモンによるLC細胞の機能低下
LC細胞の免疫応答を担う鎮静化酵素の発現への影響を調べたところ、男性ホルモンにより鎮静化酵素の発現が著しく減少し、LC細胞の機能が低下することがわかりました。また、その減少はカメリア複合体により顕著に改善されました。(図2)
②男性ホルモンによるLC細胞の成長抑制
LC前駆細胞を表皮へと誘引する因子(CXCL14)の発現への影響を調べたところ、男性ホルモンによりCXCL14の発現量が著しく減少し、LC細胞の成長が抑制されていることが分かりました。また、その減少はカメリア複合体により顕著に改善されました。(図3)
男性ホルモンは、男性に豊富に存在する生体に必要なホルモンで、精力的に仕事をするときなどに分泌されます。しかし今回、男性ホルモンが上記メカニズムにより、皮膚の免疫細胞の刺激応答鎮静化機能にとってはネガティブに働くことが明らかになりました。皮膚免疫は、肌を健やかに保つために重要な役割を担っているため、男性には、皮膚の防御機能を高めるようなケアが必要であることが示唆されます。
今後、本技術を応用した男性の皮膚本来の力を引き出す新たなアプローチを提案していきます。
参考:関連する主なニュースリリース
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