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オンライン版 統合レポート2023

COO 藤原 憲太郎

COO
MESSAGE

COOメッセージ

資生堂が持続的に成長するためには、勝つべき領域で
勝つための選択と集中、核となる部分のさらなる強化が不可欠です。

そのために、まずは高収益体質の確立に向けた事業構造改革を完遂します。

そして、高い付加価値を生み、
新しい美の価値の発見・創出を続ける企業へと進化していきます。

取締役 代表執行役 社長 COO藤原 憲太郎

COOのサイン

資生堂が持続的に成長するためには、
勝つべき領域で勝つための選択と集中、核となる部分のさらなる強化が不可欠です。

そのために、まずは高収益体質の確立に向けた事業構造改革を完遂します。

そして、高い付加価値を生み、新しい美の価値の発見・創出を続ける企業へと進化していきます。

厳しい業績を変革への機会とする

資生堂の社長COOに就任し、1年が経ちました。

事業環境の変化の速さと、その影響の大きさを実感すると同時に、不安定な外部環境を生き抜き、そして勝ち抜くために、企業の核となる部分を強くすることの重要性を改めて意識した1年でもありました。

2023年は、コア営業利益が期初計画から大幅減少の398億円(前年比22%減)となるなど、厳しい業績となりました。処理水放出後の日本製品への逆風は、中国および中国人旅行客の多いトラベルリテール事業を直撃し、大きな売上影響をもたらしました。以前より経営課題としてあがっていた、中国偏重の売上構成の脆弱性と、他地域の成長加速による地域ポートフォリオ見直しの必要性を再確認しました。結果として、会社全体が高い危機感を共有し、ありたい姿への進化の方向性を認識することができた、ともいえます。私たち経営陣は、こうした状況を今後の成長に向けた変革の機会にしなければならないと、決意を強くしています。

一方、米州・欧州・アジアパシフィック事業では力強い成長を果たし、また日本事業では実行中の戦略により着実な成果を生んでいる点は心強く感じています。

日本事業の再生は、収益力の観点のみならず、全社の価値創出の面でも極めて重要です。グループ全体の改革と一体化させながら、過去のしがらみに縛られない抜本的な事業構造改革が不可欠であることから、2023年9月より私が資生堂ジャパン会長として改革を自ら主導する体制としました。資生堂ジャパンの社員には、オペレーションの複雑性やリソースの分散により、組織の努力が効率的に結果につながっていない実態や、収益構造上の課題を余すところなく共有しています。このようなコミュニケーションを繰り返し、組織全体で改革に向けて邁進しています。結果、2023年は成長が加速し、注力領域でシェア拡大を実現、収益性も前年から大幅に改善、黒字転換することができました。米州・欧州事業は、長らく厳しい業績が続いていましたが、事業譲渡などを経て黒字に転換、ここからは成長を加速し利益を拡大していく段階に入りました。投資のメリハリが効き、伸ばすべきブランドが成長した結果、2023年の売上高は両事業ともに前年比で2桁成長となり、成長モメンタムが加速しています。

事業構造改革と持続的成長の取り組みに注力

2023年から開始した中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」は、戦略の骨子は維持しながらも、事業環境の変化を踏まえ、目標を再設定しました。資生堂の持続的成長には、核となる領域への選択と集中が鍵となります。そして、その核への投資・効果的な事業運営を機動的に実践するには、組織構造の最適化、固定費の削減による高収益体質への転換が不可欠で、今こそ事業構造改革を断行すべきだと判断しました。

これらを通じて目指すのは「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーへ」の体現です。その1つの指標であるコア営業利益率15%という目標を達成するためには、投資と成長のサイクルを回し続けられる高い収益構造の確立が喫緊の課題です。目標達成に向けたマイルストーンとして、2025年に9%を目指します。事業構造改革を完遂し、持続的成長と利益拡大を果たす事業基盤を構築します。そのために最優先で実行するのが400億円超のグローバルコスト削減です。各地域で緻密な計画を策定・実行しており、2024年上期中には主要なアクションを完遂する計画です。

そして、不透明かつ不安定な事業環境下でも安定的に利益を上げられるオペレーション体制、すなわち、数量増のみならず、ブランド・商品ミックスの改善や価格戦略も含めたグロスプロフィット最大化を追求する体制への進化を急ぎます。資生堂の中核領域は中・高価格帯であり、付加価値を上げることで成長する事業でもあります。そのためには、研究開発とブランド、そして人財への投資は欠かせません。構造的に付加価値を上げ続け、収益成長を図る事業体質となるには、効率的にグロスプロフィットを拡大し、これらの価値創造ドライバーへの投資を強化することが極めて重要です。

こうした考えのもと、他に類を見ないユニークな、資生堂ならではの価値創造を目指した「付加価値型経営モデル」の確立に取り組んでいます。このモデル構築にあたっては、改めて「付加価値」を因数分解することが必要だと考えており、各領域・ブランドのリーダーたちと価値の構成要素を議論し、持続的な成長に資するKPI、いわゆる非財務(プレ財務)指標を検証しています。私は150年以上資生堂が支持され続けてきた根源的理由は「新価値創造力」にあると考えています。生活者理解に立脚したアイデア創出、研究開発、人財育成などを可視化することを目指し、資生堂の価値づくりをモデル化していきたいと考えています。

各地域が勝つべき領域で勝つ
事業ポートフォリオ

今後の事業ポートフォリオについては、事業環境変化に強く、バランスの取れた地域構成を構築していくことが重要です。まず日本事業では、収益基盤を再構築すべく、事業構造改革「ミライシフト NIPPON 2025」を実行しています。大きなテーマとなるのは、私が強いこだわりを持つ「自己革新」です。「持続的な成長」「稼げる基盤構築」、そして「生活者起点」を実現すべく、「ブランド成長戦略」「タッチポイント戦略」の強化と「人財変革」を戦略の柱として掲げています。「人財変革」では、社員一人ひとりのキャリア志向に合わせた「ミライキャリアプラン」を設計しており、積極的な投資を通じた能力向上と、次のキャリアへの挑戦を支える早期退職支援プランを実施します。何としてもこの改革を完遂し、世界に価値を発信していく事業に転換していきます。

2030年に向けて変革を続け、世界で飛躍する
日本事業の改革説明会

中国・トラベルリテール事業は引き続き重要市場であることには変わりません。処理水放出後の日本製品買い控えはあくまで短期的なものと捉えている一方、消費動向の変化、市場の多様化・複雑化の傾向は構造的な潮流となっています。「ザ・ギンザ」や「クレ・ド・ポー ボーテ」に代表されるハイプレステージや、「NARS」「Drunk Elephant」など当社の多様なブランドポートフォリオを活用し、勝つべき領域で勝ち抜き、事業構造も高収益体質に転換していきます。

米州事業では、「NARS」「Drunk Elephant」に加え、ホワイトスペースだったダーマ領域を補完するブランドとして「Dr. Dennis Gross Skincare」を買収し、ブランドポートフォリオを一段と強化しました。欧州事業についても、フレグランスブランドが収益化したことで、スキンケアブランドへの投資強化という好循環を確立できました。アジアパシフィック事業は、各国・地域の市場規模は大きくないものの成長余力は大きく、その中で確たるシェアとデジタル基盤を築いてきました。これら3地域は、積極的な経営資源投下により、さらに成長を加速させていきます。

2030年に向けて変革を続け、
世界で飛躍する

こうした改革を通じ、新しい美の価値の発見・創出に挑戦し続ける企業へと進化を図り、「Personal Beauty Wellness Company」の実現を目指します。一方、この姿を実現し世界で飛躍し続けるためには、「SHIFT 2025 and Beyond」以降も変革を続ける必要があります。コア営業利益率15%という目標は2028~2029年に達成できると見込んでいますが、早期達成に向け、全社の知恵と実行力を総動員していきます。

まず、既存事業の成長加速として2026年以降の売上高CAGR+5%超を目指します。次に、競争力のある企業体質をさらに強化するため、恒常的にコストの最適化を継続します。さらに、M&Aや他社との協業などによる事業展開を進め、新領域での収益拡大を目指します。また、資生堂が世界に誇る技術と知見のもと、新領域・カテゴリーを自ら創造することに挑戦し続けます。具体的には、IFSCC注釈受賞技術を活用した「たるみ」市場の創出や、肌の可能性・美のポテンシャルを広げる「第二の皮ふ」セカンドスキン、ファンデ美容液などの取り組みを進めています。加えて、本格始動したインナービューティー事業では、美の独自知見をもとに新しい健康美習慣で新市場を創造します。

2030年に向けて変革を続け、世界で飛躍する

サステナブルな社会の実現に向けた、
資生堂ならではの取り組み

能登半島地震でのビューティー支援活動
能登半島地震での
ビューティー支援活動

2030年に、資生堂が目指す提供価値は「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」です。その実現に向け、各地域・事業でも事業戦略とサステナビリティ戦略とを一体化させた活動を推進しています。社会からの期待や要請が高い環境領域では、地球環境の負荷軽減、サステナブルな製品の開発、サステナブルで責任ある調達が重要になりますが、特に私が重視しているのはバリューチェーン全体での取り組みです。気候変動ではScope 3が今後の注力課題になりますし、他企業との連携の必要性や、業界をけん引していく責務も感じています。また、私たちはビューティーカンパニーとして、インクルーシブな(包摂性豊かな)社会づくりへの貢献を大切にしており、ジェンダー平等や人権、そして美の力によるエンパワーメントに注力しています。2024年1月に起きた能登半島地震では、被災された方々に少しでも元気になっていただくため、ビューティー支援活動を実施し、ハンドケアやタッチケアに加え、スキンケア商品などの提供を行いました。また、私自身も中国を担当していた際に、コロナ禍におけるロックダウン中に外出できずストレスを感じる社員やその家族に向けて、親子で自宅で楽しめるヘアアレンジ動画などがビューティークリエーション部門から配信され、非常に助けられた経験があります。「美の力」による、資生堂ならではのサステナビリティ活動で社会に貢献できる企業でありたいと考えます。

私のコミットメント

私のCOOとしての主たる役割は、「SHIFT 2025 and Beyond」の事業構造改革を完遂し、資生堂を成長軌道に回帰させることです。

また今後に向けては、現状からの改善だけではなく、大胆に将来をデザインし、社会の視点を経営に取り入れ抜本的な変革を果たしていくことが不可欠です。そのため、ビジョンや戦略の方向について、株主・投資家の皆さまとの対話を充実させるほか、スピードと実行力を有する経営チーム体制の整備を進めていく構えです。

改革、成長、そして価値創造の面でも、皆さまからの期待に応え、超えていく企業となっていく所存です。今後とも一層のご理解・ご支援をお願いいたします。

2024年4月

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