オンライン版 統合レポート2023
2025年の目標達成に向けた構造改革の完遂により
筋肉質な経営体制を確立、成長と再投資の好循環を促進し、
企業価値向上を目指します。
執行役
エグゼクティブオフィサー
チーフファイナンシャルオフィサー(最高財務責任者) 横田 貴之
2025年の目標達成に向けた構造改革の完遂により筋肉質な経営体制を確立、
成長と再投資の好循環を促進し、企業価値向上を目指します。
2023年は「SHIFT 2025 and Beyond」の初年度として、持続的成長と高収益構造への転換に取り組みました。しかし、第3四半期に入り、処理水放出後の日本製品買い控えの影響を大きく受け、中国・トラベルリテール事業の売上が減速。結果として、2023年のコア営業利益は前期比115億円減益の398億円となりました。一方、日本事業は、市場全体を低価格帯の成長がけん引する中、当社は注力領域である中・高価格帯で愛用者基盤の盤石化とともに力強く成長、全体でもシェアを拡大し、黒字化を果たしました。中国事業では、日本製品に対する強い逆風の中でも、投資の選別を行い注力領域では伸長することができ、利益も大幅に改善しました。アジアパシフィック事業は2桁の力強い成長を実現、インドで展開を開始した「NARS」も好調に推移。米州・欧州事業もともに2桁成長と、地域ポートフォリオの適正化に向け前進。トラベルリテール事業も、規制強化の影響により大きな減収ではある中、流通在庫適正化の取り組みが計画通り進捗しました。
グローバル全体では、環境変化にあわせた緻密なコストマネジメントを実行し、成長領域への投資は継続しながらも、これまで以上に徹底した費用精査を進めました。事業譲渡影響や減損損失影響等を除く実質原価率も、生産性向上等により前年比で約1ポイント改善の23.1%となりました。
2023年からスタートした「SHIFT 2025 and Beyond」は、事業環境変化を踏まえ、目標を再設定しました。
持続的な利益成長と環境変化に強い事業構造の構築を目指し、成長戦略と構造改革を両輪としたビジネストランスフォーメーションを完遂します。成長戦略において、中国・トラベルリテール事業は市場が高成長から安定成長にシフトする中、強いブランド価値に根差した質の高い成長を目指す一方、米州・欧州・アジアパシフィック事業の成長を加速させ、地域ポートフォリオの適正化を図ります。構造改革では、グローバルで400億円超のコスト削減施策を断行するとともに、原価低減だけでなく、ブランド・商品・チャネルミックスの最適化などによりグロスプロフィットの拡大を追求します。「FOCUS」導入による生産性・効率性の向上、在庫管理精度の向上を通じた返品や在庫償却の縮減も大きく寄与する見込みです。これらの施策を通じ、売上高は2023年から2025年までCAGR8%増、2025年のコア営業利益は9%、EBITDAマージンは15%を目標とします。
2024年計画の詳細としては、売上高は実質前年比8%増となる1兆円を見込みます。日本・米州・欧州・アジアパシフィック事業は成長モメンタムを維持し市場を上回る2桁成長、中国・トラベルリテール事業も市場環境はボトムアウトしており着実に回復・成長させていきます。コア営業利益は152億円(+38%)増益の550億円、コア営業利益率は5.5%の想定です。先述した収益性改善の取り組みを実行しながら、持続的な安定成長に向けたブランドへの投資や、「FOCUS」などの戦略投資は確実に実行していきます。構造改革費用を中心に非経常項目として△300億円の計上を予定していることから、親会社の所有者に帰属する当期利益は220億円と前年並みとなりますが、2025年以降の収益性改善に向け、遅滞なく構造改革を進めていきます。配当金については、安定的な株主還元を重視し、2023年同様に1株当たり60円を維持としています。
財務目標として掲げるのは、「資本効率の向上」「キャッシュ創出力の向上」「健全な財務体質」の3つです。
資本効率については、2023年、2024年ともに当社が資本効率を測る指標として最重要視しているROICが加重平均資本コストを下回る状態となっており、早期の改善に向けて高い危機感を持って取り組んでいます。最大のドライバーとなるのは収益性の改善であり、前述のコスト構造改革と成長戦略の両輪で着実に引き上げを図ります。これらを通じ、ROICは2025年に9%を、またROEは11%を達成します。フリーキャッシュフローについては、利益の改善に加え、大型投資の一巡、運転資本効率の改善、遊休資産売却などを通じて1,000億円を確保します。資金効率を測る指標として重視しているDSI(在庫回転日数)については、今後の市場環境の回復に備え、200日を設定しています。財務安全性の面では、成長投資に必要な資金を低コストでタイムリーに調達できるよう、A格付を維持する方針は変わりません。KPIとしては2025年にネットデット・エクイティ・レシオ、ネットデット・EBITDA・レシオをそれぞれ0.2倍以下、0.5倍以下を目安に考えていますが、今後も市場環境や資本効率を注視しながら、適切なレバレッジとなるようコントロールしていきます。
2023年実績 | 2024年見通し | 2025年目標 | ||
---|---|---|---|---|
資本効率の向上 | ROIC | 4.0% | 5% | 9% |
ROE | 3.6% | 4% | 11% | |
キャッシュ創出力 の向上 |
フリーキャッシュフロー | 535億円 | 700億円 | 1,000億円 |
DSI(在庫回転日数) | 197日 (実質235日) |
230日 | 200日 | |
健全な財務体質 | ネットデット・エクイティ・レシオ | 0.06倍 | 0.1倍 | 0.2倍以下 |
ネットデット・EBITDA・レシオ | 0.39倍 | 0.6倍 | 0.5倍以下 |
積極的な成長投資により力強い売上成長を実現、結果として収益性、資本効率を向上させ、さらなる成長への原資を創出するという成長・再投資サイクルが、企業価値向上に向けた基本的な考え方です。資本政策において、過度なレバレッジによりROEを高めるのではなく、本質的な収益力とキャッシュ創出力の向上を重視する方針に変更はありません。
ROICについては、中長期視点の投資効率を重視するという意味で、各地域・部門の戦略・業務内容に即した評価指標に落とし込み、それぞれ向上に向けて取り組んでいます。こうした評価指標を「SHIFT 2025 and Beyond」の戦略のもと、ROIC向上のための戦略ツリーとして表したものが下図です。売上成長における数量・ミックス・価格で分類した各項目は、成長戦略の進捗を測るモニタリング項目となっており、原価率、販管費率のその他経費の項目は、構造改革・コスト削減施策の実行力が表れます。一方、ブランド、イノベーション、人財の3つは売上成長に寄与する価値創造のキードライバーです。これらへの投資は価値創造の源泉として適切な管理を行いつつ、優先して実行していきます。
フリーキャッシュフローの向上については、前述の通りに取り組みます。ここでも今後「FOCUS」稼働の成果が現れると期待できます。なお、設備投資についての投資採択基準は、投資の回収期間に加えて、NPV(正味現在価値)もあわせて検討することでROI向上に取り組んでいます。
また、企業価値向上に向けては、ESG活動の強化、ステークホルダーとの対話にも注力しています。当社のESGに関する取り組みは、DJSI、MSCIやCDPなどの外部機関からも高評価を得ており、引き続き社会からの期待・要望を的確に把握しながら、成長戦略と一体化したESG活動を推進していきます。なお、ESG項目については、役員報酬における長期インセンティブ型報酬に社会価値指標として取り入れており、株主の皆さまとの持続的な利益意識の共有を目指しています。
2024年4月