パラ陸上短距離/パラアルペンスキー選手 村岡桃佳 × 女優 吉岡 里帆
負けないために1番になる
小学生のころ、お父さまにスポーツイベントに連れ出してもらったのをきっかけに車椅子スポーツの楽しさに目覚めたそうですね。
はい。車椅子で生活していると、どうしても家にこもりがちになってしまって、学校で健常者の友だちと運動をしていても、どこか引け目を感じてしまっていたんです。でも障害者スポーツの世界ではみんなが対等で、普段は味わえない爽快感や非日常感を得ることができる。そこにすごく惹かれました。
陸上に挑戦される前は、アルペンスキーで大活躍されていて、きっと陸上とは違う感覚があったんじゃないでしょうか?
常に怖さとの闘いでした。スピードがすごく出るスポーツなので、ちょっとしたミスが大怪我につながるんですね。しかもあんなにスピードが出るのに、自分は身ひとつみたいな心細さがあって。でも恐怖と闘いながら、ここで守りに入って減速したら負ける、絶対に負けたくないという気持ちで滑っていました。
強いなぁ。村岡さんはインタビューでよく「私はスポーツを楽しんでるだけ」という発言をされてるんですけど、やっぱり正真正銘のアスリートだなって思います。
アスリートなんですかね?(笑) 人と比べても怖がりだし、あがり症だし。だけど誰よりも負けず嫌いではあると思います。アスリートにはありますよね、勝ちたいとか、1番になりたいとか、そういう気持ちが。私にはそれがないんです。でも誰にも負けたくないんですよ。誰にも負けないためには、結局1番になるしかないっていう、それだけなんですよね。
自分は負けず嫌いだなって、明確に意識した瞬間はありますか?
昔から負けず嫌いだって言われてましたし、自分でもそう思います。車椅子に乗った友だち同士で鬼ごっこをしていても、捕まるのが悔しくて仕方なかったりとか(笑)。自分が鬼になると、死ぬ気になって追いかけて。ただそれを表に出すのはイヤなんですよね。だからカッコつけたがりなんです。カッコつけたがりというか、見栄っ張りというか、そういうところは昔からあると思います。
国際大会で断トツの成績を残していたスキーから、陸上に挑戦する時は勇気がいりましたか?
そうですね。いろいろやりたがりな方なんですけど、内にこもりがちな性格だし、新しく何かをはじめるのが苦手なので、陸上にチャレンジする時はすごく悩みました。中学までやっていた陸上に、もう1回挑戦したいという気持ちはずっとあったんですけど、1歩を踏み出すことがなかなかできなくて。とりあえずやってみようという気持ちでスタートしたものの、陸上をはじめてみたら思った以上に辛かったです。
そうだったんですね。具体的にはどんなことがいちばん辛かったですか?
スキーは山を下るので、その外力を受けて自動的にスピードが出るんですよね。スピードをどうやってコントロールするのかがスキーでは大切なんです。でも陸上では、自分の力で0からスピードを生み出さないといけない。その違いを甘く考えていた部分があって、こんなに大変だったのかと。
でもそこで負けず嫌いな一面が発揮されて。
そうなんですよね。だからどこがゴールなのかわからないですけど、やりたいと思ったことを全力でやり続ける人生になったら素敵だなって。そんな人生を目標にしてがんばりたいと思います。
やりたいことをやるって、シンプルだけどとても難しいことですよね。すごくカッコいいです。
自分で決めたらやり通す
陸上への挑戦をスタートされた後、すぐに日本記録を樹立されましたよね。その驚異的な強さはどこから来るんでしょうか?
何でしょうね? 自分でやると決めたことは、やり通さないと気が済まないところはあると思います。それもたぶん負けず嫌いだからなんですけど。いろんな方にアドバイスをもらったり、選択肢を示してもらったりして、それを自分で選択したからには、最後までやり通したいんです。あとは環境に恵まれていることも大きな要因かなと。
スキーなどを通じて鍛えてきた体力的な要因は大きいですか?
体力面に関しては、陸上競技をするにはまだまだ足りないよって今も言われています。
そうなんですね。
自分でもよくわからないんですよね。たとえば、女子100メートル車椅子(T54クラス)で日本記録を出した時は、雨が降っていて、気温も低かったですし、コンディションがあまりよくなかったんです。雨が降ると、車椅子の漕ぐ部分が濡れて滑ってしまうので、記録を出すにはあまりいい条件ではなくて。
ああ、なるほど。
ところがその日は、ちょっとアスリートっぽくカッコよく言うと、ゾーンに入ったみたいな状況になって、全然緊張しなかったんですね。緊張してないのに、気分はすごく高揚して、体もよく動いて。だからあの時は、スキーでもあまり経験したことのないような感覚にスッと入っていって、記録を樹立することができました。
本当に特別な瞬間だったんですね。
自分でもびっくりしました。まさかあのタイミングで記録が出せるとは思ってなかったので、今度は逆に自分自身に対してプレッシャーがかかってしまうなと思って。
そういうものかもしれませんね。何かが成功して、よかったと言われると、それがプレッシャーになる。それで緊張するっていう気持ちはよくわかります。
何よりスポーツがすごく好き
日本記録を出した時、きっと最高の気分だったと思うのですが、これまでの競技生活を通じて、いちばん気持ちいいと思えたのはどんな瞬間ですか?
スキーならやっぱり国際大会で優勝した瞬間です。ゴールして、1位だったことを確認した瞬間は、この上なく幸せな気分を味わいました。陸上は何だろう? 練習が終わる最後の1本を走り終えた時に、「ああ、終わった」という解放感を感じます。昨年、10キロのロードレースに出場して、それが激しいアップダウンのコースだったんですね。スタートから3、4キロほどずっと上りで、一瞬下ったと思ったらまた上りっていう。
そのレースを走り終わった後にも「終わったー!」という感覚になりました。日々、達成感がありますね。
お話をうかがっていると、陸上の体力的なキツさには相当のものがあるのだと感じますが、それでも陸上に力をすべて注ぎ込める理由を教えてください。
まずスキーで結果を出すに従って、応援してくれる方が少しずつ増えていったんですね。そういった方々が、私が陸上をやると決めた後、さらに陸上においても応援してくれた。応援してくれる方が増えて、今は味方がたくさんいるみたいな感じがしています。最初は私と父の2人だけではじめたのに、どんどん人が増えていって、みんなが応援してくれるのはすごくうれしいことだなって。応援してもらうぶん、私もがんばらなきゃいけないし、がんばりたいと思います。何より今、陸上をやっていて楽しいんですよね。あんなにキツい練習をなぜ続けられるかと言えば、陸上がすごく好きで、スポーツがすごく好きだから。やはりそこが原点なのかなと改めて思います。
素敵な言葉をうかがえてうれしいです。ありがとうございました!
資生堂クロストーク「ONE ON ONE」