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いい顔に迫る資生堂クロストーク「ONE ON ONE」

陸上競技選手 大迫 傑 × 女優 吉岡 里帆

陸上競技選手 大迫 傑 × 女優 吉岡 里帆

【吉岡里帆さん×アスリートのシリーズ対談】
吉岡里帆さんが若きアスリートの「いい顔」に迫る連載企画。今号は、陸上競技選手の大迫傑さん。自分とレースに冷静沈着に向き合う新時代のランナー像は必見!

地味できつい作業を積み重ねる

吉岡

東京マラソンを終えて、結果をどのようにとらえていらっしゃいますか?

大迫

途中棄権という結果は、もちろん直後は悔しかったですけど、今はポジティブにとらえています。準備期間の中でしっかり練習を積むことができて、そこに後悔はなかったので。早く次に向かっていきたいという気持ちです。

吉岡

次に向けて新しく身につけたいと思っていることはありますか?

大迫

僕にとって、マラソンを走るうえで一番大事なのは、準備期間が5ヵ月なら5ヵ月間、地道な作業を妥協なくくり返すことなんですね。だから新しく何かを身につけるというより、次のレースに向けて、同じことを地道にくり返していきたいと思っています。

吉岡

毎日欠かさずに行っている練習メニューを教えてもらうことはできますか? マル秘でなければ……(笑)

大迫

いえ(笑)。毎日走ってますけど、欠かさずにやっていることは特になくて、お風呂上がりのストレッチもそんなにしないんです。意外と普通だと思います。

吉岡

普通でいることが、むしろ大事なのかもしれませんね。

大迫

そうですね。みんな特別なことをしたがるんですけど、特別なことってそんなになくて。自負があるとすれば、地味できつい作業を積み重ねていく、その大切さを人より少し意識できているところかなと思います。1日数ミリでも、その積み重ねが2年、3年で大きな差になっていくので。

吉岡

長い時間、そうやって自分と対峙して来られたんでしょうね。

陸上競技選手 大迫 傑 × 女優 吉岡 里帆

先に進む道しかない

吉岡

大迫さんがマラソンを走るようになったきっかけを教えてください。

大迫

前は5000mとか10000mとか、もっと短い距離を走ってたんです。でもマラソンは、元をたどれば瀬古利彦さんのころから日本のお家芸ですし、みなさんの注目度も高いので、挑戦してみたいなって。ワクワクするような気持ちがありました。

吉岡

走る距離が変わって、心がけること、考えなければならないことは変わりましたか?

大迫

準備期間が長くなって、レースで走る距離も、時間も長くなったので、短い距離をやっていたころより、プロセスに目が行くようになったのは間違いないと思います。

吉岡

マラソンに対して、練習も本番も過酷なイメージがあるんですけど、それでも楽しいと思う瞬間はありますか?

大迫

正直なところ、そのプロセスの中ではある程度自分を機械化して過ごしているので、すごく楽しいことがあるかというとそうでもないんです。試合が終わって、好きなものを食べに行ったり、友だちに会ったり、そういうことを楽しみにして頑張ってるような感じです。

吉岡

意外です! 勝手なイメージですがサイボーグのようにストイックな方かと……(笑)。走っている最中の心のあり方が知りたいです。どんなことを考えていますか?

大迫

初めの60分くらいは雑念がありますね。でも後半は頭の中が空っぽになって、わりと無に近い気がします。

吉岡

長い距離の中で心の浮き沈みもありますか?

大迫

はい。中盤で1回きつくなったり、終盤2kmできつくなったり、同じレースの中でもアップダウンがあるので、そのすごくきつい時にどれだけ冷静に自分を見ることができるか、身体をコントロールできるかが大事だと思います。それは普段のトレーニングから意識してますね。

吉岡

他の選手との駆け引きもありますよね。

大迫

他の選手との駆け引きというより、自分との駆け引きかもしれません。誰かがスパートしたとき、いっしょに付いていったほうがいいのか、それとも落ち着いて徐々に詰めていったほうがいいのか、自分自身と相談するみたいな感じです。

吉岡

自分を客観的に見つめないといけない競技なんですね。先ほど、練習や本番での走りについて、楽しいかというとそうでもないとおっしゃってましたけど、走ることを志した時は純粋に楽しいという気持ちもあったんじゃないですか?

大迫

楽しさなんですかね? どうなんだろう? それ以上に、人より速く走れる状態をキープしていたいっていう。一種の自尊心かもしれないですけど、その要素のほうが大きかったような気がします。

吉岡

これまでのキャリアを振り返って、悔しいことや苦しいこともいろいろあったでしょうね。

大迫

もちろん東京マラソンの結果も悔しかったですけど、そこにいつまでもこだわることは無意味なことかなと思うんです。1本の線として考えれば、挫折して、その線から外れて、またそこに戻って進むというより、苦しんで、スピードが緩んだとしても、ずっと1本の線の上を走っているようなイメージがあって。だから先に進むしかないんですよね。すごく漠然としたイメージですけど。

吉岡

いえ、ひとつひとつの試合を大事にしながら、人生の長い距離も見据えているということですよね。

大迫

そうですね。気持ちの浮き沈みって疲れるんです。そういう経験はこれまでにもたくさんあって、悪い言い方かもしれませんけど、いちいちそれに反応することに疲れてしまったのかもしれないです。

吉岡

お話を聞いていると、歯を食いしばって耐え抜くアスリート像とは違う、ネクストステージのハイブリッドなアスリート像が思い浮かびます。

大迫

確かに考え方はすごくドライかもしれません。今回の東京マラソンも、もうこれ以上走り続けても何も残らないな、じゃあ棄権しようって。試合の結果はトレーニングの延長線上にあるものでしかないんですよね。でもトレーニングの段階では僕も感情的になることはあるし、耐える経験もしてきているので、トータルで見れば、他のアスリートとあまり変わらないんじゃないかなと思います。

初心をどこまで持ち続けられるか

吉岡

大迫さんにとって、いい走りとはどんな走りですか?

大迫

シーズンによってフォームも違って、それがいい変化なのか悪い変化なのかということは、その結果を見てみないとわからないんですよね。前回がよかったから、その時のフォームに今回も寄せていくというようなこともないですし。トレーニングの中で、この感じのほうが前回より上に行けそうだなって、自然につかんでいく感じです。

吉岡

じゃあ大迫さんにとって、走るという行為はどんな行為ですか?

大迫

原始的で単純な行為ですよね。でも毎回走るたびに気づくことがあって、シンプルであるがゆえに奥深さを感じます。

吉岡

将来、マラソン選手になりたいと思っている子どもたちにどんなことを伝えたいですか?

大迫

これもすごく単純なことで、「速くなりたい」とか「日本代表になりたい」とか、その初心をどこまで純粋なまま持ち続けられるかが大事だと思います。特にアスリートはずっと子どものままでいるべきだと思うので、子どもたちには「今の気持ちを持ち続けてね」って伝えたいです。具体的なトレーニングメニューより、もっと根本的な、メンタル面のアドバイスができたらいいなと思います。

吉岡

アスリートにとって必要なものは何ですか?

大迫

アスリートでも普通の人と同じじゃないですかね。それだけだとパンクしてしまうので、別の楽しみが絶対に必要かなと思います。

吉岡

やっぱりそうですよね。大迫さんにとって一番のご褒美とは(笑)?

大迫

食べることですかね。練習拠点のアメリカに戻るとできないことがいろいろあるので、今は友だちとご飯に行ったり、もちろん家族と過ごしたり、日本でしかできないことを楽しんでいます(笑)。

資生堂クロストーク「ONE ON ONE」