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いい顔に迫る資生堂クロストーク「ONE ON ONE」

プロゴルフ選手 上田 桃子 × 女優 吉岡 里帆

2019年5月号 プロゴルフ選手 上田 桃子 × 女優 吉岡 里帆

【吉岡里帆さん×アスリートのシリーズ対談】
吉岡里帆さんが若きアスリートの「いい顔」に迫る連載企画。今号は、プロゴルフ選手の上田桃子さん。7月に初開催される資生堂アネッサレディスオープンへの意気込みも!

笑われるほど目標は高く

吉岡

2018年はどんなシーズンでしたか?

上田

昨年は一度も優勝できなくて、悔しいシーズンだったんです。でもそれ以上に、自分がどこへ向かいたいのかが見えなくて、充実感を得られないシーズンでした。苦しかったです。

吉岡

2017年は年間2勝を上げられて、大活躍の年でしたよね。

上田

アメリカを主戦場にしていた2008年からの6年間で、自分の長所や短所は把握できていたんですけど、もっと視野を広げたい、もっと向上したいと思って欲張ったら、昨年はちょっと失敗してしまって。2017年は王貞治さんを育てられた荒川博先生との出会いをきっかけに、「これをやって頑張ろう」という、ただそのことだけに一心不乱に集中できたんです。でもそれができた後、「じゃあ次は?」ってなった時に見えなくなってしまって。

吉岡

過去のインタビューなどを拝見して、私は荒川先生との出会いの話がすごく好きなんです。荒川先生から教わったことは今も上田さんのベースになっていますか?

上田

はい、それはゴルフだけでなく、人生においてもベースになっているものだと思います。先生と出会ったのは2016年で、2017年は結果が出たものの、2016年が本当にダメだったんです。姿勢やスイングをガラッと変えて、変えたのに逆に成績が落ちてしまったので、本当に大丈夫かなと疑う気持ちもゼロではなかったんですけど、先生は私のことを信じて「いや、大丈夫だ」って言い続けてくれて。そのころ、86歳だった先生は、本当に情熱的に、命を懸けて教えてくださったんですね。ダメなのは変化している証拠だから、焦らず、やることをやっていけば必ずよくなると何度も言ってくれたので、それは大きなきっかけになったと思います。

吉岡

本当に素敵な関係ですよね。荒川先生にとって、上田さんは最後の教え子ということになりますね。

上田

そうですね、先生もいつもそう言ってくれて。私の可能性をとても信じてくれた方で、「人にできないことをするにはまずホラを吹け」と、先生にはよく言われていたんです。実現できたら「ホラ」が「ほらね」になるからって。

吉岡

わあ、カッコいい!

上田

人から笑われるくらい目標は高く持つべきだということなんですね。でもその言葉を聞いて、可能性は信じた人にしかないんだなって思いました。先生は2016年の終わりに亡くなりましたけど、今も試合中に先生の携帯電話の着信音が聞こえることがあるんです。

吉岡

そんなことがあるんですか?

上田

しかも調子が落ちてる時に必ずその音が鳴って。そういう時に先生はまだいるんだなって感じます。

吉岡

言葉や技術がきちんと受け継がれた証なのかもしれませんね。

上田

そうやって先生から教わったことを自分のゴルフ生活や人生につなげていければ、人とは違うゴルファー像を見せていけるんじゃないかなと思っています。

プロゴルフ選手 上田 桃子 × 女優 吉岡 里帆

常に新しい自分で

上田

ゴルフの一番の魅力は、ゴルフを通していろんな人と出会えるところだなって感じていて、結果だけではないと思ってるんですね。じゃあ結果以外の部分で上田桃子はこうだと思ってもらえるのはどんなところか、昨シーズンずっと考えたなかで出た答えは、この人なら最後まで何が起こるかわからないと思わせるような、よくも悪くも諦めの悪い選手でいたいなということです。だから可能性を感じてもらえる選手に、これからなっていきたいなと。

吉岡

確かに成績だけじゃなく、どんなプレーを見せてくれるかという部分に、みんながワーッと熱くなるんですよね。

上田

カッコつけず泥くさく勝負できるのが自分の持ち味なので、最後まで諦めないために、技術的な点ではシーズンオフにパターをすごく強化しました。体力的にも、年齢を考えたらもう限界なんじゃないかとか、そういうふうなことを感じてもらいたくないので、そうじゃない選手もいるよっていうことを見せていきたいです。特に最近は若い世代に勢いがあるので、いろんな味わいを持つ選手がいるんだって伝えることで、また違うゴルフの魅力を感じてもらえるんじゃないかって。

吉岡

毎年変化して、さらなる高みをめざさなければいけないのは、アスリートの避けて通れない道だと思いますけど、それは大変なプレッシャーですよね。どうやってそのプレッシャーを乗り越えていますか?

上田

先生は亡くなる前、「お前と2つのことを約束するから、それを果たしてから死ぬ」っておっしゃってたんですね。1つは王さんに会わせてくださるということ、もう1つは合気道を教えてくださるということだったんです。それで王さんに会わせていただいて、合気道の教室にも連れていってもらって、その次の日に先生は亡くなったんですけど。

吉岡

そうだったんですか!

上田

その後、王さんにまたお会いした時、去年は去年、今年は今年って、常に新しい自分でいないといけないよと言ってくださって、今年、先生の3回忌でお会いした時も、去年結果が出なかったことより、今年ジャンプアップする気持ちの方が大事だから、前を見ていくしかないよって言ってくださって、それが私からすると先生の言葉のように思えたんですね。だからプレッシャーを感じるというよりも、新しいチャレンジに向かっていくような気持ちです。

吉岡

そういう前向きな姿勢が本当に素晴らしいです。

溜めた力を爆発させたい

吉岡

〝心技体〟が一体になった時に、初めて能力が十分に発揮されるんだと思いますが、その一体感を感じた時はどんな気持ちになりますか?

上田

実は私の今年の目標はその部分で、心技体の〝技〟と〝体〟にはある程度自信があるんですけど、〝心〟にはあまりないんです。

吉岡

本当ですか?

上田

はい、もう隙だらけなんですよ(笑)。

吉岡

全然感じないです(笑)。

上田

いえ、他の選手もそこが私の唯一の弱点だって気づいてるくらい(笑)。でもその分、まだまだ向上できる余白があるので、そこを克服できた時にどういう景色が見えるのかすごく楽しみです。だから今年は、優勝とかそういうことにはあまり興味がなくて。

吉岡

そうなんですか?

上田

興味がないわけではないんですけど(笑)、心技体を1つにできたら絶対に勝てるという自信があるので、その領域に行ってみたいです。

吉岡

心の部分を克服するために、大事だと思うのはどんなことですか?

上田

私はコンプレックスが多くて、自分のことがあまり好きじゃないんですね。なんで頑張れないんだろうとか、なんで我慢できないんだろうとか、自分に対して悔しい気持ちになることが多いので、まずは自分自身を大切にして、いろんなものを楽しめるようになりたいです。そうすれば自分をもっと好きになれるだろうし、メンタルを鍛えるためには、何よりまず我慢強くなることだと思います。

吉岡

我慢強さ…、そうですよね。私も実感があります(笑)。

上田

私は何にでもチャレンジするのが好きで、何かをやるということは得意なんですけど、やらずに我慢するのが難しくて。我慢することに〝耐える〟というネガティブなイメージを持っていたんですね。でももう少しポジティブに考えて、我慢を〝溜める〟というイメージに変えていきたいなと。

吉岡

ああ、力が充満していくイメージですね。

上田

そしていつか必ず爆発させたい。今年初開催となる7月の資生堂アネッサレディスオープンは、プロになって初めてホステスを務める大会です。それも大きなモチベーションの1つになっているので、そこまでじわっと溜めていって、爆発させたいと思います。

資生堂クロストーク「ONE ON ONE」