2021年2月3日
当社は、本日当社がグローバルに展開するパーソナルケア事業を、プライベートエクイティファンドであるCVC社へ譲渡すること、そして新会社の立ち上げ及び当社が35%出資株主としてその新事業に参画し発展を目指すことを決定しました。この件について、その重要性および私の想いを説明させていただきます。
まず、日頃当社パーソナルケアブランドをご愛用頂いているお客さまに厚くお礼申し上げますとともに、今後も変わらぬご愛顧のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
今回の目的は、ビューティーコンサルタントによるカウンセリングを伴う化粧品事業とは全く異なる、いわゆるマスマーケティングという事業構造を持つパーソナルケア事業を、資生堂の枠組みから分離・独立させ、新しい組織を合弁事業化しさらに発展させることです。
この事業には、ドラッグストアやGMS等で販売され、数多くのお客さまにご愛用いただいている、TSUBAKI、SENKA、uno、Ag DEO24、SUPER MiLD、SEA BREEZE、MACHÉRIE、fino、AQUAIR、KUYURAといった有力なブランドが含まれております。
その歴史を振り返ると、本事業の原点である日用品分野への進出は1921年発売の「資生堂石鹸」にさかのぼります。1959年には、日用品部門を切り離し「資生堂商事株式会社」を設立し、その後変遷を経て、現在の株式会社エフティ資生堂に至ります。1988年に発売されたスーパーマイルドなど数々のヒット商品とともに、本事業のブランドは日本をはじめ中国、アジアの国と地域で展開され、多くのお客さまから支持されてきました。
私自身も、会社は違えど、パーソナルケア事業の会社で新入社員として自分の社会人のキャリアをスタートさせ、資生堂の本事業にまつわる多くのストーリーを見聞きし、当社の中でいかにこれらのブランドが重要な役割を担ってきたかを理解しています。
このように長年にわたり、世界中のお客さまからの支持をいただいているブランドを持つ事業を譲渡することは、当社の社員やこれまで当事業を作り上げてきた先人にとってもつらいことであり、私自身にとっても非常に難しい決断でした。
しかし、現在当社は、日本はもちろん、グローバルでの成長を目指し「プレステージファースト戦略」を掲げています。2015年以来全社売り上げの70%以上を占める中高価格帯の化粧品事業に優先順位を置くこの戦略で、より大きく事業を成長させ、創業以来初めて売上1兆円、営業利益1千億円を超える業績を達成しました。まさに、この戦略を着実に実行することが、150年近く続いてきた化粧品会社資生堂の、生き残りをかけた次の150年に向かって発展するための基盤であると考えています。
私が2014年に社長に就任して以降、パーソナルケア事業本部の創設、マーケティング人材の増員、TSUBAKIの全面リニューアルと広告投資強化、さらに中国・アジアでの地域に密着したマーケティングの強化など、当事業の再成長を図るべくさまざまな取り組みを行いました。社員の努力もあり、一定の成果は出ましたが、本事業を取り巻く環境は、グローバル企業との競争でさらに厳しくなっています。この状況下では、パーソナルケア事業は当社内での優先順位を高めることができず、限られた経営資源の中残念ながら商品開発、広告宣伝などに十分な投資ができないという現実があります。
経営者として、この厳しい現実を直視する一方で、社員に未来に向けて夢を持たせることができないのは、非常につらく、申し訳なく思います。経営陣の間でも、様々な局面で今回の様な事業モデルの抜本的な転換を含めて、どの選択肢が最適なのかを常に議論してきました。
そこで、ブランドのポテンシャルを高く評価し、当社が十分にできないマーケティング投資や、社員の働きがいと成長機会の創造ができ、かつその思いをともに実現できるパートナーに託すことが、将来の成長のためにはベストであると決断をしました。候補先の選定にあたっては、この観点から慎重に検討・協議を重ねてきました。
CVC社は、世界23拠点に展開し、投資先企業の事業成長および企業価値向上に豊富な実績を有する世界でも有数の投資会社であり、これまで多くの企業を発展させた実績を持っています。また日本でも熱い想いを持つ日本人リーダーが活躍し、様々な活動実績があります。CVC社では、この新会社を必ず成功させ、更に発展させることにコミットメントをしており、私はベストなパートナーに出会えたと信じています。
もちろんこれらの大切なブランドは今後も継続します。さらに、この決断を実行することで、新会社ではブランドを今後育成するための商品イノベーションを加速させ、デジタルを含むマーケティングや販売、人材組織への投資を最大化します。そして、これからも当社の工場での生産を継続し、高い品質を保持していきます。同時に、販売店店頭で活動をしている当社グループ会社の株式会社ジャパンリテールイノベーション (JRI社)は今後も当事業に関わってまいります。またこの新会社をプラットフォームとしてM&A機会の探索も行い、事業拡大を目指します。これらを通じて日本のパーソナルケア業界の変革と発展に寄与できる会社を目指します。お得意先様・お取引先様には継続して当事業のさらなる成長にご支援、ご協力のほどをお願い申し上げます。
そのうえで、当事業に携わる社員に関しては、雇用を守り、これまでの報酬などの処遇を継続するだけでなく、新会社においてさらなる活躍と成長の機会を得ることになります。パーソナルケア事業の専門的なスキルを高め、有能な人材が育つ環境や活気ある風土の新会社へ、社員が積極的に参画して築いて行くことを期待します。そして何よりも私が願うのは、全社員が自らの会社の未来を自分たちの手で作り、自分の夢を実現することです。私自身も新会社を成功させるために惜しみないサポートをすることをお約束します。
今回のような、大きな改革を行うときは必ず困難が伴います。しかし、現実を直視し、この難局を乗り越えなければ、事業の持続的成長という未来を実現することはできません。資生堂は、スキンケアを中心とする化粧品事業に、より一層専念していきます。初代社長福原信三が残した当社のDNAである、商品をして全てを語らしめよ、すべてのものはリッチな感性を持たねばならない、世界を目指そうなどの意志をこれからも大切に守りながら、日本独自の技術、品質、ブランド、企業組織文化に磨きをかけ、さらなる高みを目指してまいります。世界市場での競争力と存在感を強め、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を実現します。そして、その道のりを、私自身が先頭に立ち、社員一丸となって、誠実に確実に歩んでいくことを誓います。
今回の発表に関して、皆様のご理解とご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。
株式会社 資生堂
代表取締役 社長 兼 CEO
魚谷 雅彦