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2023年05月16日

発行元:(株)資生堂

研究・サプライネットワーク

資生堂、皮ふ毛細リンパ管の機能低下による形態変化を世界で初めて3次元で捉えることに成功

~リンパ管の機能低下により真皮コラーゲンが変性することを発見~

資生堂は、独自に開発した皮ふ内部構造の3次元可視化技術を活用し、リンパ管の機能が低下した皮ふの内部では、毛細リンパ管※1が顕著に形態変化を起こしていることを世界で初めて明らかにしました。さらに、リンパ管の機能低下にともない、真皮中のコラーゲンが変性することを発見しました。本研究の内容を含む研究成果は、国際学会を含む複数の学会※2で発表しました。
今回、リンパ管の機能低下とその形態変化との関係性が見いだされたことで、今後、リンパ管の状態を視覚的に評価・診断できる革新的な技術の確立につながると考えます。また、形態変化を伴うリンパ管の機能低下がコラーゲンの性質変化を引き起こすことが明らかとなり、皮ふリンパ管が肌の弾力に影響する新たなメカニズムが示されました。資生堂は、血管やリンパ管、免疫、神経など皮ふの内部の状態と肌との関連について、今後もホリスティックな視点で研究を進め、皮ふ科学研究の新たな世界を切り拓きます。
※1 皮ふを含む末梢組織に存在し、老廃物や余分な水の回収の開始点となる
※2 第46回日本リンパ学会総会 (2022年6月3日~2022年6月4日)、日本研究皮膚科学会第47回年次学術大会・総会 (2022年12月   2日~2022年12月4日)、ISID(国際研究皮膚科学会)(2023年5月10日~2023年5月13日)

図1 リンパ管の機能低下が真皮コラーゲンの変性につながる

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研究の背景

資生堂は、肌本来の美しさを引き出すには体内との関わりが大切であると考え、皮ふと全身との関わりを踏まえたホリスティックな視点で、皮膚科学研究にいち早く取り組んできました。リンパ管は体内の老廃物を排出する役目を担っており、身体の「むくみ」などに関与することが知られています。皮ふに存在する毛細リンパ管に着目した私たちの研究では、リンパ管の機能低下がしわ、たるみにつながることや※3,4、機能低下の根本要因であるリンパ管の老化メカニズムをこれまでに明らかにしてきました※5。しかし、リンパ管の機能低下時の形態的な特徴や、皮ふの弾力を司る真皮コラーゲンへの影響については明らかにされていませんでした。そこで今回、千葉大学医学部附属病院の秋田新介講師、三川信之教授と共同研究を実施し、リンパ管の機能が著しく低下したリンパ浮腫皮ふ※6の毛細リンパ管の形態を解析し、さらに、リンパ管の機能低下が真皮コラーゲンに及ぼす影響について検証しました。
※3 資生堂、リンパ管の機能低下がしわ形成の原因であることを解明(2008)https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000000905/905_a5c92_jp.pdf
※4 資生堂、世界初・リンパ管の機能低下と「たるみ」の関係を解明(2015)https://corp.shiseido.com/jp/releimg/2455-j.pdf
※5 資生堂、世界で初めて皮膚のリンパ管の老化メカニズムを解明(2020)https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002998
※6 リンパ浮腫皮ふ:リンパ浮腫の患者から提供された治療時の余剰皮ふ

機能が低下したリンパ管の形態変化を可視化

形態変化を捉えるため、皮ふ組織を透明化し、特定の構造を3次元で可視化する独自技術を用いました※7。その結果、リンパ管の機能が低下した皮ふの毛細リンパ管を立体的に捉えることに初めて成功し、さらに、正常な皮ふでは、毛細リンパ管の体積が大きく、管が太くてしっかりしているのに対し、リンパ管の機能が低下した皮ふでは、毛細リンパ管の体積が小さく、管が細く脆弱な様子に変化していることが明らかになりました(図2)。
※7 資生堂、リンパ管を立体的に捉える可視化技術を確立(2020)https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002997

図2 リンパ管の機能が正常な皮ふとリンパ管の機能が低下した皮ふにおける毛細リンパ管の様子

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リンパ管の機能低下による真皮コラーゲンの変性

真皮の大部分を占めるコラーゲンは皮ふの構造や弾力を保つ役割を果たしています。今回、リンパ管の機能が低下した皮ふの真皮を解析した結果、コラーゲンが過剰に蓄積していることを確認しました(図3)。さらに、その質を調べたところ、多くが変性していることがわかりました(図4)。このようなコラーゲンの変性は皮ふの構造や弾力に影響を与えることが考えられます。また、リンパ管内皮細胞において、リンパ管の老化の引き金となるTGF-β ※8が、コラーゲン変性の要因の一つであるMMP-2※9の産生を増やすことが確認され(図5)、皮ふのリンパ管の機能低下が真皮コラーゲンの変性に繋がることが明らかになりました。
 当社の先行研究では、桑の根エキスがTGF-βによるリンパ管の老化を抑制することを見出しています※5。このことから、本研究で明らかになったリンパ管の機能低下によるコラーゲンの変性を、桑の根エキスが抑えることが期待されます。
※8 transforming growth factor β (トランスフォーミング増殖因子):リンパ管内皮細胞の老化、形質転換の引き金となる
※9 Matrix metalloproteinase (マトリックスメタロプロテアーゼ):コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリクスの分解因子

図3 リンパ管の機能が低下した皮ふの真皮コラーゲンが過剰に蓄積

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図4リンパ管の機能が低下した皮ふの真皮コラーゲンの多くは変性する

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図5 リンパ管老化因子TGF-βによるコラーゲン分解酵素(MMP-2)の遺伝子発現上昇

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今後の展望

今回、リンパ管の機能が低下した皮ふ内部において毛細リンパ管が顕著に形態変化していることを明らかにしました。さらに、リンパ管の機能が低下した皮ふでは変性したコラーゲンが真皮に蓄積していること、その要因の一つとして、リンパ管の老化因子によりリンパ管内皮細胞におけるコラーゲン分解酵素の産生が高まっていることを確認できました。これらの結果は、全身の老廃物を排出する役割を担うリンパ管の、皮ふにおける変化と影響を明確に示したものであり、リンパ管の機能を保つことが健やかな肌を生み出す上で重要であることを示しています。資生堂は、経営戦略ビジョン「Personal Skin Beauty & Wellness Company」の実現に向けて、従来の化粧品にとどまらず、肌の内外に働きかけるビューティーイノベーションに挑戦し、一人一人の本来の美しさを引き出すことを目指します。





R&D戦略について:
本研究は、R&D戦略3本柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」のもと、血管やリンパ管、免疫、神経など、皮ふ内部の状態と肌との関連を明らかにする「皮ふ基盤」領域の研究として進めました。
・2022年統合レポート(ビューティーイノベーション)
https://corp.shiseido.com/report/jp/2022/value_creation/innovation/
・キーワード
Skin Beauty INNOVATION、皮ふ基盤、リンパ管

※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。