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2022年10月19日

発行元:(株)資生堂

研究・サプライネットワーク

資生堂、ヒト皮膚組織におけるメルケル細胞反応のリアルタイム評価に成功

~化粧品成分や肌へのタッチが及ぼす影響を詳細に理解することが可能に~

資生堂は、ヒト皮膚組織を用いて、触覚を担うメルケル細胞の化学的・機械的な刺激に対する反応をリアルタイムに評価することに成功しました。従来は細胞を用いた実験系が一般的でしたが、本技術を用いることで、生きたヒトの皮膚により近い状態の反応を観察することが可能になりました。当社はこれまでに、メルケル細胞が末梢神経を通じてハリやたるみなどに関与すること、メルケル細胞が加齢により減少すること、香り成分によってメルケル細胞が活性化し美しく健やかな肌へ導く可能性などを見出しています。今回の発見により、化粧品成分や肌へのタッチがメルケル細胞にもたらす影響やそのメカニズムをより詳細に検討することが可能となります。今後、美容法なども組み合わせた多様なビューティーケアのアプローチの提案を目指し、研究を進めていきます。
本研究の成果の一部は「日本神経科学大会(NEURO2022)」(2022/6/30-7/3)で発表しました。

図1皮膚に与えられた刺激に対するメルケル細胞の反応をFFN206によってリアルタイムで評価することに成功(動画あり)

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皮膚に与えられた刺激に対するメルケル細胞の反応をFFN206によってリアルタイムで評価することに成功|資生堂

研究背景

資生堂はこれまでにも神経と肌の関係性について研究を進めてきました。2019年には、肌に存在する神経線維が加齢と共に減少すること、そして感覚神経細胞から放出される成分が、肌の弾力に関わる線維芽細胞のコラーゲン産生を促すことを明らかにしました。また、2021年には、肌由来オキシトシンが表皮の再生を促すことを発見しました。そして同年のIFSCC※1では、香り成分によるメルケル細胞の活性化の知見を発表し、口頭部門で最優秀賞を受賞しています。今回、新たに健やかな肌の実現に関与することが明らかになったメルケル細胞について、生体内でのメルケル細胞の反応をさらに詳しく理解するため、一般的によく研究に使用される凍結処理をした皮膚ではなく、扱いの難しい、細胞が活動を続けている状態の新鮮なヒト皮膚組織を用いて、リアルタイムでのメルケル細胞の評価方法を開発することにしました。
※1 IFSCC: The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists

化学刺激に対するメルケル細胞の反応を評価する方法を開発

生きているヒトの皮膚内に近い状態で細胞の反応を評価するために、新鮮なヒト皮膚組織を用いて、実験を行いました。メルケル細胞は活性化すると、接続している神経線維に情報を伝えるために神経伝達物質を放出することが知られています。資生堂はこの機構に着目し、蛍光物質で標識をしたメルケル細胞特異的な神経伝達物質FFN206を用いて、ヒト皮膚内部でメルケル細胞をほかの細胞と区別して可視化することに成功しました。さらに、刺激に対する反応をメルケル細胞が生きたまま観察することに挑戦し、その結果皮膚内部へ化学刺激を与えることでメルケル細胞が取り込んだFFN206を放出する反応が確認できました(図2)。これらの手法の確立により、ヒト皮膚内に存在するメルケル細胞が、細胞に与えられた刺激を感じ取り反応している様子を、リアルタイムで確認することに成功しました(特許出願済み)。この実験系は2021年のIFSCCにて発表した、香り成分によるメルケル細胞の活性化の可視化にも応用されています※2。
※2 触感を司るメルケル細胞が香り成分で活性化することを発見 (2022年) https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003498

図2 皮膚に与えられた化学刺激に対するメルケル細胞の反応をFFN206によってリアルタイムで評価することに成功

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機械刺激に対するメルケル細胞の反応を評価する方法も開発

メルケル細胞は、皮膚が触れられることで生じる皮膚のわずかな変形(機械刺激)を感じて、脳へ触れられた情報を伝えているといわれています。しかし、実際に生きているヒトの皮膚内で働くメルケル細胞の機能に関する詳細はこれまで明らかにされていませんでした。そこで、生体内に近い状態で皮膚に機械刺激が与えられたときのメルケル細胞の反応を調べるため、東北大学大学院情報科学研究科・昆陽雅司准教授との共同研究により、顕微鏡に搭載できる機械刺激提示デバイスを開発しました。これにより、皮膚に機械刺激を与えながら顕微鏡で細胞の反応をリアルタイムに観察するという非常に難易度の高い実験系の構築に成功しました。皮膚変形量が小さな機械刺激(1kPa)では確認できなかったメルケル細胞の反応が、皮膚変形量が大きかった機械刺激(5kPa)に対しては確認でき、生体内に近い状態で、メルケル細胞が皮膚を通して機械刺激を感じ取り反応している様子をリアルタイムで評価することに成功しました(図3,4)。

図3 異なる機械刺激強度を与えたときの皮膚変形量をリアルタイムで測定

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図4 皮膚に与えられた機械刺激に対するメルケル細胞の反応をリアルタイムで評価することに成功

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今後の展望

従来、メルケル細胞は細胞を人工的に培養しその様子を観察することが一般的でしたが、今回評価手法の進化に成功したことで、生きたヒトの皮膚により近い状態で、化学刺激や機械刺激に対するメルケル細胞の反応を詳細に観察することが可能になりました。今後は、健やかな肌を実現していくために、適切なメルケル細胞や感覚神経への刺激について研究を深めていくとともに、肌の状態を良くすることや、触覚を始めとする感覚や心理状態がもたらす日々の生活の質との関連などについても理解を深め、2030年に向けた経営ビジョン「PERSONAL BEAUTY WELLNESS COMPANY」の実現を目指します。

※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。