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2022年10月12日

発行元:(株)資生堂

研究・サプライネットワーク

資生堂、毛細血管が表皮再生を促していることを発見

~本柚子果実抽出液が毛細血管と表皮の距離を正常化する~

資生堂は、真皮の毛細血管の外側に接着しているペリサイト※1が毛細血管のループ構造上から表皮側に移動し、表皮幹細胞様に変化することで表皮の再生を促している可能性を世界で初めて発見しました(図1)。また、加齢に伴って表皮に向かって伸びる毛細血管のループ構造の方向にばらつきが生じ、毛細血管と表皮の距離が離れてしまうことを見出しました(図2、4)。このメカニズムを検証した結果、表皮から放出されるネトリン-1(Netrin-1)※2が加齢で異常に増加し、毛細血管ループの頂上に発現するネトリン-1の受容体(UNC5B)と反発をすることにより、表皮と毛細血管の距離を遠ざけていることが明らかとなりました(図5)。これにより、加齢した皮膚では、毛細血管からのペリサイトの移動が阻害され、表皮幹細胞の供給が減少してしまうと考えられます。さらに、我々は、本柚子果実抽出液にネトリン-1の発現を抑制する効果を見出しました。これらの成果の一部は「第47回日本研究皮膚科学会」(2022/12/2-4)、「第30回日本血管生物医学会」(2022/12/16-17)にて発表する予定です。
本研究は、資生堂独自のR&D理念『DYNAMIC HARMONY』のInside/Outsideというアプローチで研究を進めています。今後も生命活動にとって重要な機能を担う血管と、肌の美しさとの関係を精力的に解明することにより、新たな美のアプローチを創出します。
※1毛細血管の血管内皮細胞に接着し、毛細血管の構造を安定化している細胞。周皮細胞とも言う。
※2神経軸索の誘引や反発、神経に関連する細胞の遊走(移動)を制御するたんぱく質として知られているが、皮膚において表皮と毛細血管の距離の調節にネトリン-1が作用することは知られていなかった。

図1. 毛細血管(Cp;緑)ループの頂上付近に存在する表皮幹細胞(赤)とペリサイト(PC;赤)の関係

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図2. 若齢皮膚と老齢皮膚の毛細血管ループの方向性の違い

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皮膚血管網と表皮幹細胞の3D可視化

研究の背景

当社はこれまで20年以上にわたり、皮膚の毛細血管が真皮の恒常性を維持する分子メカニズムについて研究し、健康な毛細血管が肌のシワ、たるみの抑制や肌の弾力維持に寄与する可能性を見出してきました。毛細血管は真皮に存在するため、これまでは肌表面の美しさを担う表皮に対して毛細血管の関与は少ないと考えられてきました。しかし、毛細血管と表皮細胞の位置関係を詳細に観察した結果、表皮側に伸びるように存在している真皮の毛細血管のループ構造が予想以上に表皮の近傍に存在しており(図1)、毛細血管が間接的に表皮の恒常性までもコントロールしている可能性が考えられました。血管には全身の各臓器において幹細胞の居場所(ニッチ)を形成し、組織再生を促す機能が知られていることから、今回我々は真皮の毛細血管には表皮幹細胞を維持する機能があるという仮説をたて、当社独自で最先端の可視化技術および分子生物学的アプローチから検証を行いました。

毛細血管が表皮再生を促すシステムを発見

当社は、皮膚などの組織を透明化し、特定の構造を3次元的に可視化する独自の技術を用いて、皮膚の毛細血管網と表皮幹細胞の位置関係を観察しました。その結果、表皮直下に特徴的に存在する毛細血管のループ構造の最上部付近には、表皮幹細胞がキャップを被せるように存在していることを発見しました。さらに単一の毛細血管ループについて、血管・表皮幹細胞・基底膜を染色し詳細な観察を行ったところ、毛細血管に接着するペリサイトと表皮幹細胞の両方に架橋するように存在する細胞を発見しました(図1;黄矢印)。この現象から、真皮側の毛細血管ループに接着しているペリサイトが剥離し、表皮幹細胞として表皮側に供給されている可能性が考えられました。この現象におけるペリサイトの機能を検証するため、ペリサイトに特異的に発現する細胞表面蛋白質を指標として、FACS(Fluorescence-Activated Cell Sorting)技術※3により、皮膚からペリサイトのみを単離して、表皮細胞を培養する条件下で培養したところ、表皮細胞に特徴的なp63やケラチン5の遺伝子発現がペリサイトで上昇し、ペリサイトが表皮細胞様に分化することを見出しました(図3左、右)。これらの結果から、真皮の毛細血管ループから供給されたペリサイトが表皮幹細胞として機能し、表皮細胞の維持に寄与している可能性を世界で初めて発見しました。
※3 様々な細胞が混合した状態から、特定の細胞種のみを光散乱や蛍光特性に基づき、分離取得する手法

図3 左 ペリサイトの形態変化

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図3 右 表皮細胞の特徴遺伝子発現量の変化

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毛細血管と表皮の距離を適切に保つ本柚子果実抽出液の効果

次に、加齢による毛細血管ループ構造の変化を観察しました。当社の皮膚透明化技術によって3次元的な解析を行った結果、若齢皮膚では毛細血管のループが表皮の方向に向かって整然と並ぶのに対し、老齢皮膚ではその方向性にばらつきが生じ(図2)、表皮と毛細血管の距離が離れてしまうことが分かりました(図4)。老化によってこの現象が起こるメカニズムを分子レベルで解明するため、毛細血管に影響を与えると考えられる因子として、これまでに細胞遊走(移動)を抑制する機能が知られているネトリン-1の発現量を確認した結果、加齢と共に表皮でネトリン-1の発現が増加することが分かりました(図5左)。次に、ネトリン-1の受容体として知られており、互いに反発作用のあるUNC5Bの発現について解析した結果、UNC5Bは毛細血管ループの頂上に発現していることを発見しました(図5右)。
つまり、通常の皮膚では表皮から放出されるネトリン-1が毛細血管ループの頂上に発現しているUNC5Bに作用し、反発することで毛細血管が表皮に侵入しないように働いており、適切な距離を保つことができると考えられます。しかしながら、老化した皮膚ではネトリン-1が異常に産生されることで、毛細血管が表皮から必要以上に遠ざかってしまい、毛細血管から表皮へペリサイトを受け渡す能力が低下した結果、表皮幹細胞が減少すると考えられました。
さらに当社は、ネトリン-1を抑制する成分を探索したところ、本柚子果実抽出液にネトリン-1の発現抑制効果を見出しました(図6)。本柚子果実抽出液によって、ネトリン-1の過剰な発現が適切に抑制され、毛細血管と表皮の距離が維持されることにより、毛細血管からの表皮幹細胞の受け渡しが正常化することが期待されます。

図4. 老齢皮膚では毛細血管と表皮の距離が拡大

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図5. ネトリン-1は加齢した表皮で増加し(左図)、その受容体(青色)は毛細血管ループ(緑色)の頂上に発現する

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図6 本柚子果実抽出液によるネトリン-1の遺伝子発現抑制効果

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今後の展望

これまで、皮膚の毛細血管は栄養や酸素を供給する機能について着目され、真皮での役割を中心に研究が行われてきました。今回、構造上直接接触していない表皮の再生においても重要な役割を担っていることを見出しました。今後も血管を基点として健やかな肌の実現に向けたアプローチを行うなど、当社は様々な視点からスキンビューティーカンパニーの実現に向けて研究を推進していきます。

【関連する主なニュースリリース】
・加齢による皮膚毛細血管の機能低下が皮膚老化に関与していることを解明(2009年)
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001072/1072_s2e08_jp.pdf
・肌の弾力と毛細血管の関係性を解明(2019年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002780
・毛細血管が肌の弾力を生み出すメカニズムを解明(2020年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002911

※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。