これまでの経営計画と2022年実績
VISION 2020とWIN 2023
資生堂は、100年先も輝き続ける企業となるための原型をつくるため、2015年に中長期戦略「VISION 2020」をスタートしました。「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」の実現に向け、ブランド戦略では、「プレステージファースト」戦略として資生堂が強みを持つ高価格帯のスキンケア・メイクアップ・フレグランスに経営資源を投下しました。
また、持続的な成長基盤となる研究開発(R&D)、サプライネットワーク、デジタル、ITの強化を図るとともに、「Think Global, Act Local」の考え方のもと、各地域本社に幅広く責任と権限を委譲する、地域とブランドカテゴリーをかけ合わせたマトリクス型のグローバル経営体制を構築しました。
これらの取り組みにより、「VISION 2020」の2020年目標に対しては、2017年には売上高目標(1兆円超)を3年前倒しで、2018年には営業利益目標(1,000億円)を2年前倒しで達成し、営業利益率目標(10%)は2019年に実現しました。
こうして順調な成長を続けてきた資生堂ですが、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に事業環境が変化し、複数の経営課題が顕在化しました。生活者の価値観や購買行動の変化を踏まえたビジネスモデルの転換が急務となり、高粗利率をベースとした高い固定費の事業損益モデルの見直し、欧米の収益性改善、インバウンド需要への依存度引き下げなどが重点課題となりました。
2021年には、こうした課題と外部環境分析を踏まえ、「Personal Beauty Wellness Company」を目指す2030年のビジョンと、その道筋の第1弾となる中期経営戦略「WIN 2023」(2021~2023年)を策定しました。
「WIN 2023」では、スキンビューティーカンパニーとしての基盤確立に向け、高収益構造への転換を図るべく、営業利益率15%実現に向けた事業構造改革を実行し、事業ポートフォリオの再構築、コスト競争力の強化、生産性・効率性の改善などの課題に取り組みました。
ブランド戦略においては、資生堂が強みを持ち、かつ市場としても発展が期待されるスキンビューティーに経営資源を集中投下し、ブランドの育成とポートフォリオの拡充、新たな事業の開発を図りました。2023年目標として、スキンケア売上高構成比を80%と設定し、2022年には70%を超える水準まで拡大することができました。
また、成長基盤の再構築に向けては、デジタル変革を重点戦略とし、ビューティーテクノロジーによる診断の拡充や、Eコマース・オムニチャネル化の加速、データ分析とデジタルマーケティングを強化するとともに、デジタル人財の獲得・育成、組織体制の強化、パートナー企業との協働などを加速しました。その結果、Eコマース売上比率は2023年目標の35%に対し、2022年には33%まで拡大しました。加えて、研究開発分野では、2021年1月に刷新した研究開発体制のもと、R&D理念「DYNAMIC HARMONY」を制定し、イノベーション創出に向けた戦略に取り組むほか、サプライネットワークでは、国内新3工場(那須・大阪茨木・福岡久留米)の稼働開始など、生産・物流体制の強化に努めました。
こうした取り組みにより、収益性、財務基盤の改善を果たした一方、新型コロナウイルス感染症の影響が続く日本および中国市場の回復の遅れなどにより、2022年の売上高・利益は引き続き厳しい状況が継続しています。
事業基盤の再構築
成長加速の新戦略
スキンビューティー
カンパニーへの基盤構築
投資と構造改革の変遷
「VISION 2020」を開始した2015年以降の改革で、資生堂は選択と集中、および実行スピードを重視した投資と構造改革を進めてきました。
設備投資においては、「プレステージファースト」および「スキンビューティーフォーカス」といった成長戦略を踏まえ、生産・物流体制の強化に向け、「那須工場」(2019年12月稼働)、「大阪茨木工場および西日本物流センター」(2020年12月稼働)、「福岡久留米工場」(2022年5月稼働)を設立しました。いずれもスキンケア製品の生産工場で、供給力拡充、内製化の進展と生産効率向上、環境対応の強化を図りました。
同時に、研究開発においても集中的な強化を図るべく、横浜に「資生堂グローバルイノベーションセンター(呼称「S/PARK エスパーク」)」を(2019年4月)、上海の美容・健康産業特区「東方美谷」には中国イノベーションセンター(2021年10月)を設立しました。
マーケティングやR&Dへの投資は、資生堂が成長するための生命線です。「VISION 2020」および「WIN 2023」では、収益性改善や構造改革に尽力する一方、ブランドの選択と集中を進め、中長期的なブランド価値向上に向けた積極的な投資を続けてきました。店頭カウンターの刷新、お客さまとのタッチポイントの強化、サンプル提供やプロモーション活動に加え、EコマースやSNSを活用したデジタルマーケティング、グローバル基幹システムの構築など、DX投資も加速しました。DX分野では、2021年に日本地域のDXを担う戦略機能子会社、資生堂インタラクティブビューティー(株)をアクセンチュア(株)と合弁で設立したほか、グローバル基幹システム「FOCUS」についても2024年上期までの全地域導入に向け、確実に進捗しています。
R&Dについては、スキンケアブランドを中心とした商品開発と、資生堂が強みとする基礎研究に注力しました。研究開発費も積極的に増加させ、「VISION 2020」前半3カ年では2%台前半程度であった研究開発費率を、「WIN 2023」において中期的に3%程度を目途に拡大する方針を公表しました。
構造改革においては、「VISION 2020」前半3カ年で負の遺産の処理として、健全な成長を実現するための基盤整備に尽力しました。まず、積年の課題であった中国・アジアにおける流通在庫の適正化を推進しました。あわせて、欧米でのバックオフィスの統合やシステム統合などを進めるとともに、コスト構造改革も継続的に進めました。
そして、「WIN 2023」ではプレミアムスキンビューティー領域に経営資源を集中すべく、「事業ポートフォリオ再構築」、「収益性改善」、「デジタル変革」を柱とするグローバルトランスフォーメーションを推進。パーソナルケア事業譲渡をはじめ、「Dolce&Gabbana」のグローバルライセンス契約解消、プレステージメイクアップ3ブランド(「bareMinerals」「BUXOM」「Laura Mercier」)の譲渡など、事業規模2,000億円を超える構造改革を実行しました。これらにより、今後の成長に向けた収益基盤を確立することができました。
2022年の業績概況
前年比
前年比
年間を通じて新型コロナウイルス感染症の感染拡大、ゼロコロナ政策等、不透明な環境により前年比減収となった中国を、好調な欧米・トラベルリテールがカバーしました。日本では、中価格帯の市場が下期から回復基調となったものの、上期の回復遅れの影響もあり、年間では前年並みとなりました。Eコマース売上は、中国最大のEコマースイベント「ダブルイレブン」の市場が鈍化したものの、ハイプレステージブランド・商品ラインを中心に健闘し、全体でプラス成長を実現しました。ブランド別には、「クレ・ド・ポー ボーテ」が効果効能の訴求強化により、主に中国のハイプレステージ市場の堅調さを確実に捉えたほか、「NARS」「narciso rodriguez」は新商品がグローバルで力強い成長を維持し、全体をけん引しました。
この結果、売上高は前年比5.7%増の1兆674億円、為替および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比0.9%の増収となりました。
コア営業利益は、88億円増益の513億円となりました。中長期の持続的な成長に向けた100億円の戦略的追加投資を計画通りに実行し、すでに一部では効果が発現したほか、全社横断での機動的なコストマネジメントの継続推進、構造改革に伴う固定費の低減、円安による為替影響などが主な要因となります。
親会社の所有者に帰属する当期利益は、前年比127億円減益の342億円となりました。2021年はパーソナルケア事業の譲渡益などにより、非経常項目に580億円の利益が計上されていた一方で、2022年はパーソナルケア生産事業譲渡に伴う減損損失を、プロフェッショナル事業の譲渡益などが一部相殺し、非経常項目が48億円の損失となったことが要因です。