SHIFT 2025 and Beyond
2030年に目指す姿
資生堂は「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指し、2030年、そしてその先の未来に向けたビジョンとして「Personal Beauty Wellness Company」を掲げています。
資生堂が実現したい社会は、「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会」です。これは、一人ひとりが尊重され、誰もが活躍できる多様性に富んだ社会であり、それを実現するためには持続的に「美」を楽しめる地球環境が必要です。そのため、資生堂は、生活者一人ひとりのスキンビューティーとウェルネスを融合する企業体になるとともに、サステナビリティ活動を推進することで社会から最も信頼されるビューティー企業になることを目指しています。
生活者の価値観としては、健康や自分らしい美への関心が高まり、これらと密接に関係する「肌の健康」に対する意識が一層高まると予想されます。その中で資生堂は、サイエンスに裏付けられたスキンケアやサンケアをはじめ、クリーン、ナチュラル、ダーマなどの新しいコンセプトにも注力します。同時に、スキンケアの知見・研究開発力を活かし、メイクアップやフレグランス、美容機器などの価値を広げるとともに、インナービューティーやインジェスティブル、ウェルネスといった領域も開拓し、新しい健康美の価値を届けていきます。
また、これらの価値をお客さま一人ひとりの嗜好に合わせたビューティー体験として提供していくべく、多様なデータ・コンテンツを取り込んだデジタルプラットフォームの構築、データドリブンな事業活動も加速していきます。
戦略策定の背景
資生堂は、ビジョン達成に向け、2021年から中期経営戦略「WIN 2023」を推進してきました。スキンビューティー領域への「選択と集中」を進め、事業規模2,000億円を超える構造改革を実行するとともに、長年の懸案事項であった欧米事業の収益性改善を図りました。DXやイノベーション、生産・物流面の強化も進めました。
しかし、売上・利益ともに構成比が大きい日本事業がコロナ禍で苦戦。市場回復が大きく遅れるほか、再生に向けて事業構造を抜本的に見直す必要が生じました。中国事業についても、コロナ影響による経済減速の影響を大きく受けることとなりました。
また、世界的なインフレの進行や原材料費の高騰、地政学リスクなど、急速に高まるグローバルリスクへの対応も重要になります。
こうした状況を踏まえ、資生堂では2023年に新たな中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」を策定しました。
「SHIFT 2025 and Beyond」の概要
「SHIFT 2025 and Beyond」では、これまでの成果・課題を踏まえ、「SHIFT from Defense to Offense for New Growth」をテーマに積極的な投資を実行し、売上成長を果たすことで、2027年までに「WIN 2023」で掲げた営業利益率15%の達成に改めてチャレンジします。
コア営業利益率15%という目標は、世界で戦っていくうえで不可欠な収益性水準と考えており、2027年に当該目標に到達すべく2025年にはコア営業利益率12%の達成を目指します。2025年までの3年間は、当社のグローバルで通用するブランド・イノベーション・サービスという無形の資産をより先鋭化し、他に類を見ないユニークな価値をさらに高めるとともに、高い品質・安全性を維持することで、高粗利益の事業構造とプレミアムな価格を実現する付加価値型経営モデルを確立していきます。
戦略上の重点領域は、ブランド、イノベーション、人財であり、これらへの積極投資による、継続的な安定成長の実現と高収益構造への転換を目指します。
最重要市場となる日本事業では、スキンビューティー領域への積極投資を図り、これまで取り組んできた愛用者基盤確立やコスト構造改革を加速し、2025年には500 億円を超えるコア営業利益の達成と、健全な事業体制確立を目指します。販管費率については、2025年には60%台前半の達成をターゲットとします。
中国事業では、激化する競争を着実に勝ち抜くため、量から質を重視するマーケティング改革を通じて持続的な成長基盤構築を進めるとともに、ブランドポートフォリオの拡充や新領域開発を進めます。また、ブランドミックスの改善、DX強化、拠点・店舗の最適化などを通じて、2025年までに5ポイントのコア営業利益率改善を目指します。
将来の有望市場と捉えるアジアパシフィック事業では、プレステージブランドの強化などを通じて事業基盤を構築、世界最大のビューティー市場であり、次なる成長の柱として位置づける米州事業では、「NARS」、「SHISEIDO」、「Drunk Elephant」をコアブランドとして継続強化するとともに、現地イノベーションを促進し、独自の成長基盤確立を進めます。構造改革を経て収益性が改善した欧州事業では、スキンケアポートフォリオの充実を図るとともに、フレグランス事業の収益貢献を推し進めます。また、サステナビリティへの消費者の関心を捉え、「Ulé」、「Gallinée」に積極的に投資し、将来的にはグローバルブランドへの発展を目指します。トラベルリテール事業では国際的な旅行者数の回復を捉えるとともに、海南島・プレステージブランドへの投資を強化し、旅行者向けの独自価値を訴求していきます。
同時に、将来に向けた新市場として、インナービューティーやインジェスティブルといった新領域の開拓にも取り組んでいきます。
戦略のポイント
DXの継続強化
DXは引き続き、「Global No.1 Data-Driven Personal Skin Beauty & Wellness Company」というデジタルビジョン実現を目指し、取り組みを加速します。2025年のEコマース売上比率は40%、媒体費に占めるデジタル比率は90%を目指し、同時に社員のデジタル能力向上を目標として掲げます。
生活者データの拡大、CRMプログラムによるライフタイムバリューの最大化とパーソナライゼーションの推進を図るとともに、イノベーション面でも、オンライン・オフライン両方で AI を活用した肌診断や新たなビューティーテック体験を提供していきます。これらの活動の原動力となる人財についても、デジタルリテラシーの向上に加え、ブランドと地域に特化したデジタル・データ専門知識の確立・習得を図るほか、最新テクノロジーを活用したマーケティングとブランド構築をサポートしていきます。
統合基幹システムの構築・導入を通じた業務変革プロジェクト「FOCUS」については、米州、アジア、中国ではすでに導入が完了しており、2024年上期までに、すべての地域で導入を完了し、グローバルでのデータ、プロセス、システムを標準化させる予定です。また、第2フェーズでは2025年末までにすべての工場、研究開発拠点で「FOCUS」を導入し、データ標準化によるプロセス効率化を図る計画です。
なお、こうした取り組みを進めるにあたり、組織体制の刷新も図っており、2024年にグローバルOne IT組織を構築し、自社開発力を強化していく予定です。
社会から最も信頼されるビューティー企業へ
世界で最も信頼されるビューティーカンパニーを目指し、「美」を通じたサステナビリティ活動に注力していきます。
まず、環境への取り組みとしては、現在、CO₂排出量や水消費量の削減は順調に進展しており、Scope1・2およびScope3の2030年目標の達成に向けて一層の活動強化を図るほか、サステナブルな容器使用についても2025年の100%達成を目指します。
こうした中、象徴的な事例となるのが、日本独自の取り組みである「つめかえ・つけかえ」容器の拡充です。特に取り組みが進んでいる「エリクシール」の化粧水では、容器の軽量化や「つめかえ・つけかえ」容器への転換により、プラスチック使用量は85%、CO₂排出量は50%以上の削減につながると算出しています。「エリクシール」では「つめかえ」容器の使用比率は日本では50%を超えるなど成果は大きく、こうした慣習・文化を世界に広げていきたいと考えています。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)については、日本社会全体のジェンダー平等実現を目指すリーディングカンパニーとして、自社での取り組みをさらに進化させ、女性活躍のための支援活動に注力していきます。社内の取り組みとしては、2030年までにあらゆる階層で、機会均等の象徴である男女比率50:50を目指します。そして「資生堂D&Iラボ」では、多様な人財が持てる力を発揮することで、異なる価値観や考え方が新たなイノベーションを生むまでのプロセスを検証し、企業成長への因果関係の実証を目指します。また、これらの研究で得られた知見は自社内だけでなく社外にも公表することで、D&Iの実現による日本経済の成長促進へ貢献していきます。