日本事業の挑戦と進化
エグゼクティブオフィサー
常務
日本地域CEO
成長軌道への復活、資生堂の価値創造をリードする事業として
アジリティ(変化への対応力とスピード)を重視した改革を
続けていきます。
Q1.
新型コロナウイルス感染症の影響が長引き、苦境にあるとはいえ、日本事業の本来的な役割は、これまでも、これからも大きくは変わりません。
財務面と価値創造面、この2つの側面で説明すると、財務面では、日本事業は高い収益性によって利益、キャッシュを生み出す役割があります。100年以上の事業の積み重ねにより、強固なブランド力やお得意先さまとの信頼関係を持ち、資生堂全体の利益の中でも多くの割合を占めてきました。コロナ以前の10年間を見ても、営業利益率は1桁後半~20%の間で推移してきました。日本市場が成熟市場であることを踏まえると、日本事業では高い売上成長以上に、安定的な利益を確保し続けることが重要です。
価値創造面では、資生堂が日本発の企業であり、世界のお客さまも日本の高い品質や日本発の価値を期待していることから、日本事業は価値の源泉であり続け、新たな価値を創造し世界に発信していく責任があります。投資家・アナリストの方々と対話をすると、特にこの側面における期待度が高いと感じます。
資生堂の価値創造は、厳格な社内基準に裏打ちされた高い品質、そして資生堂創業以来の思想である、東洋と西洋、アートとサイエンスなど、異なる価値を融合して新たな価値を生み出す力が根源です。これは、古くから研究開発、品質検査、デザイン・広告制作などの機能を社内で磨いてきたからこその価値であり、これらを外部の知見・技術と組み合わせることで、さらなる進化を遂げられるはずです。
Q2.
コンシューマービジネスにおいては、先行き不透明な状況の中でも、環境の変化に合わせたお客さまの需要変化や期待をいかに迅速に捉え、柔軟な商品開発・価値提供をしていくかが重要です。
例えば、商品企画提案から約4カ月後に発売し、大ヒット商品となった「マキアージュ」のマスクにつきにくい日中用色つき美容液。私は商品企画提案時にチーフサプライネットワークオフィサー、2020年11月の発売時は日本地域COOでした。資生堂は通常、商品企画からはじまり、原材料検証から品質検査、生産設計など発売まで約13カ月の精緻なステップを組んでモノづくりをしていました。しかしながら、マスクにつきにくい化粧品は、すぐにお客さまが求めているもの。そのため、お客さまが必要とするものを迅速にお届けすることを目指し、プロジェクトを組成し、商品開発チーム、研究所、生産・購買、クリエイティブなど各部門が並走することで開発リードタイムを短縮しました。蓄積された技術や知見、スピーディーに開発できる体制は、資生堂の強みであり、「やればできる」ということを社員が実感できたのは、大きな意義があったと思います。
Q3.
収益性改善、愛用者基盤拡大に向けて、日本事業では継続的な改革に取り組んでいます。
2019年以前の最大の反省は、インバウンド需要への対応に追われる中で、ローカルのお客さま、愛用者への対応が手薄になっていた点です。愛用者、すなわちリピート購入いただけるお客さまは、ブランドを支えてくださる大切な存在です。日本事業は、全体の6ー7割が継続愛用者で、そこに新規のお客さまが加わる構造です。私は新型コロナウイルス感染症の拡大影響で市場が大きく縮小した中で、まず愛用者基盤の再構築が日本事業の最大の課題であると捉え、2020年以降、適切な経営判断を行うため、ローカルとインバウンドとを分けた管理手法の確立にも、最優先で取り組みました。
その後、課題の優先順位を定め、迅速かつ機動的に手を打ち、重要なKPIとしている愛用者数と継続来店率は増加傾向にあります。2022年7月を底に、新規顧客数が離脱顧客数を上回り、愛用者基盤は増加サイクルに転じました。
また、過去から日本事業は、ブランド数とSKU数が多く、投資が分散するという課題を抱えていました。しかし、コロナ禍の数年で、事業の選択と集中を進め、スキンビューティー領域における世界No.1企業を目指し、プレステージ・プレミアムのスキンビューティー領域への積極投資と同時に、イノベーションの価値発信を強化することで愛用者の拡大を通じて、売上・シェアの拡大を目指しています。
収益性の改善については、着実に取り組み、確実に成果につなげていきます。2025年に「販管費率60%台前半」というターゲットを設けていますが、このロードマップは設計済みです。
スキンビューティー売上比率拡大によるミックスの改善に加えて、返品・偏在在庫の縮減、生産リードタイム短縮による在庫削減・保管費低減、配送効率改善など、物流費の見直しを進め、コスト削減とともに、サステナブルな社会への貢献を目指します。人件費については、人的資本最大化に向けて、日本の拠点オフィスの再編、社員の働き方・業務プロセスの改革などにより、生産性向上を進めます。
Q4.
ニューノーマルと言われる社会において、お客さまの価値観、ライフスタイルは急速に変化しており、購買行動や情報収集の在り方についても多様化が進んでいます。
日本事業では、テレビや新聞広告などのトラディショナルメディアによる一律的な情報発信(マスコミュニケーション)から、SNSなどを活用した一人ひとりのお客さまに対応したデジタルコミュニケーションへのシフト、CRM強化を進めていますが、これらはあくまでも手段の一つであり、重要なのはリアルとデジタルを同時に活用してお客さま一人ひとりと新たな関係性を構築していくことです。
2022年9月、複数の会員サービスを一つに集約した新会員サービス「Beauty Key」を導入しました。私たちがお客さま一人ひとりに最適なビューティー体験を提供していくためには、各店舗やEコマースなどの販売チャネルやブランドごとに点在していたお客さま情報を一つに集約していく必要があります。デジタルCRMは店頭とつながってこそ意味があります。One IDで小売店を横断して把握することは非常に困難な取り組みでしたが、お得意先さまにとっても、お客さまの肌診断データや嗜好などの情報整備に向けて、「Beauty Key」がきわめて有用であることをご理解いただき、実現につながりました。
現在では、各種情報を一元化し、その情報を適切に活かしたCRMの展開を進めているほか、デジタルコミュニケーションに特化したパーソナルビューティーパートナー(以下、PBP)の育成、店頭ツールのデジタル化などが進んでいます。特に当社の肌診断の技術は次々と進化を遂げており、ブランドごとの肌診断ツールを確立し、デジタル化したお客さま個人のビューティープランをリアルタイムで発行できるようになっています。2022年3月には、独自のアルゴリズムを活用したDNA検査法と、その結果をもとにした個人最適なケア方法を、PBPがオンラインで提案するサービス「Beauty DNA Program」を開発しました。
引き続き、デジタルを通じ、一人ひとりに最適な新たなビューティー体験を提供し、お客さまが求める「自分ならではの美」を実現することで、愛用者基盤の拡充に努めていきます。
Q5.
日本市場の回復が想定よりも遅れたことから、2021ー2022年の業績は苦戦しましたが、改革の成果は着実に表れています。市場の回復が確かなものとなってきている2023年は、攻めのマーケティングへ転換し、飛躍的成長につなげていきます。
今後の日本事業では、こうした成長モメンタムにさらに拍車をかけるべく、マーケティングや研究開発、DXの進化を加速させていきます。
この成功に向けた鍵はやはり人財です。また、変化に対して機動的な対応を図るためには、多様性が重要になります。過去には、社員に対して資生堂の文化を熱心に共有していましたが、今は違います。一人ひとりのお客さまに合う、多様な「美」を追求するからには、私たちも一人ひとりの価値観を活かし合う必要があります。これは社内に限ったことではなく、外部の知見・価値観を活かし合い、協働を進めることにもつながります。
そして、個を尊重し、活かし合うためには対話が不可欠で、私たち経営陣と現場、現場同士のコミュニケーションをより活発化させていきたいと考えています。お客さまの自分らしい「美」や笑顔のために、日本事業が改革を進めていることの重要性を社員は理解しています。収益性向上を伴う持続的な成長は簡単なことではありません。そのため、社員の多様な考えを引き出しながら率直に議論し、必要となるアクションプランを一つひとつ明確に設定した上で、日本事業の全社員がイチガンとなって取り組むことで成果に結び付けていきます。
資生堂は、お客さま一人ひとりが生涯にわたって自分らしく生きてほしいと願っており、そういった美しい社会を実現していくことが我々の使命です。そのために日本事業は、デジタルとリアルを融合しながら一人ひとりに最適な体験価値を創り続けることで、資生堂の価値創造を象徴する事業として再生し、成長への道を歩んでまいります。ご期待ください。
2023年4月