CEOメッセージ
さらなる飛躍へ準備は整いました。
「Personal Beauty Wellness Company」という
ビジョンに向けた力強い成長を実現すべく、
ブランド、イノベーション、そして人財に重点投資を行い、
さらなる飛躍へ準備は整いました。
「Personal Beauty Wellness Company」という
ビジョンに向けた力強い成長を実現すべく、
ブランド、イノベーション、そして人財に重点投資を行い、
「WIN 2023」の改革
構造改革を完遂し、力強い成長に向かう体制・基盤が整いました。
「Build Back Better」
コロナ危機に直面し、3年前に掲げた、単にコロナ前に戻るのではなく、これまでよりも収益力・成長力が高く、資生堂のさらなる発展を実現するという、このスローガンは間違いなかったと思います。
資生堂は、2021年に「Personal Beauty Wellness Company」という2030年のビジョンを策定し、その実現に向けた中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」をスタートしました。新型コロナウイルス感染症拡大によって、会社の存続自体にも危機感を持たざるを得ない厳しい状況の中、コロナ前よりも強い企業になるための抜本的な事業改革が必要でした。
まず、スキンビューティー領域への「選択と集中」を基軸に、米州・欧州事業の収益構造改革、2,000億円を超える規模の事業ポートフォリオ再構築を確実に遂行しました。事業譲渡においては、当社にとって、またその事業・ブランドにとっての最善の道を見極め、さらに、私自身の経営の原点にある「PEOPLE FIRST」の考え方に基づき、それら事業・ブランドにかかわる人々のさらなる働きがいや成長機会を実現することを徹底的に議論しました。
一方、「Build Back Better」を実現するために、不透明な環境下でも、中長期的な成長に向けた投資の手は緩めませんでした。具体的には、生産・物流施設への合計1,550億円の設備投資、DXを活用した業務変革プロジェクト「FOCUS」、売上高比率で3%程度の研究開発費などが主な投資です。しかしながら、同時に、損益を守るため、売上減少に連動したマーケティングなどの費用削減や、コストコントロールを進めました。私は、このことが長期にわたり継続することは、縮小均衡に陥るのではないかという非常に強い危機感を持ち、2022年下期には、事業と組織を活性化させるべく、ブランド価値に50億円、人財資本に50億円の計100億円の戦略的追加投資を実行しました。
これらの改革の結果、スキンケアブランドの売上比率は70%を超えるとともに、長年の懸案であった米州・欧州事業の収益性が格段に改善したほか、IT・生産などの事業インフラも強化され、力強い成長に向かう体制・基盤が整いました。
手ごたえと積み残し課題
社内の変化に大きな期待を寄せています。課題は、何よりも日本事業の再生です。
こうした中、社内の変化として大きな手ごたえを感じているのが、「スキンビューティー領域への集中」に対する各ブランド・事業のオーナーシップです。例えば、「NARS」では、メイクアップを主としたブランドでありながらも、資生堂が長年蓄積してきたスキンケアの知見・技術を活用し、スキンビューティーの価値をメイクアップにも適用したライトリフレクティングファンデーションが世界中で大ヒットしました。米国では2022年のプレステージ市場におけるNo.1の新商品となり、「NARS」ブランド自体のプレゼンスも大きく拡大することができました。
(NARS、Drunk Elephant)
バーバラ カルカーニ
150周年を機に始動した、全世界の社員が参加する「Project Phoenix」においても、私自身が感心する14,000件以上のアイデアが生み出され、誇りに思う議論が重ねられており、すでに多くの施策が実行に移っています。こうした胎動を資生堂の強みにしていきたいと思っています。
一方で、「WIN 2023 and Beyond」策定時の計画との大きな乖離の主な理由は、日本・中国の回復の遅れです。特に本来の事業規模、ホームマーケットという位置づけに鑑みれば、日本事業の成長モメンタムの回復・収益基盤の再構築は最優先で取り組むべき課題です。欧米よりもコロナ禍の影響が長引き、マスク着用が一般化したこと、インバウンド需要が大きく減少したことなどの状況変化はあります。しかし、日本事業の不採算が3年も続く中では、これらを低迷の要因として持ち出すことは、もはや言い訳になってしまうことを強く認識しています。ブランド、チャネル戦略、コスト構造、組織カルチャーなどを抜本的に見直し、なんとしても成長軌道へと返り咲かせていきます。
2030年のビジョン
ビジョン実現に向け、世界中からすばらしい人財が集まる企業にしたい。
2023年、新たな中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」を策定しましたが、目指す姿として設定した2030年のビジョンは変わりません。
2030年には「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」を目指し、一人ひとりが尊重され、誰もが活躍できる多様性に富んだ社会、美を心から楽しめる豊かな地球環境への貢献を目指します。
また、当社の強みであり、かつ市場そのものが多様化・拡大を続けているスキンケアのさまざまなセグメントへの展開強化、サンケアで世界No.1になること、スキンビューティーの価値によるメイクアップやフレグランスなどの周辺領域の拡大、インナービューティー事業の展開などを進めます。スキンビューティー市場を拡充し、社会の中でスキンケアとウェルネスとが融合した価値を定着させる。資生堂はそういった役割を担っているとも捉えています。
その実現に向け、私が強く思うことは、世界中からすばらしい人財が集まる企業にしたい、ということです。
私は社員すなわち人財が企業価値を高めるための最も重要な経営資源であると考えています。人財を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すための人的資本に投資を確実に行うことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営を目指しています。
今後も変化の大きい時代において、人財獲得競争が激化することは自明です。現在では、グローバルマネジメント戦略の進展を背景に、世界中の有能な人財をひきつける企業になってきましたが、もう一段の進化を図ります。異なる価値観・バックグラウンドや多様な個性を持つ人財が集い、学び合い、挑戦し続ける組織にしていきます。そのためには、当社の成し遂げたいビジョンやイノベーション価値を世界に発信していくことにも注力します。
SHIFT 2025 and Beyond
ブランド、イノベーション、人財に重点投資を行い、成長軌道に回帰します。
「WIN 2023」を経て、機は熟しました。新たな中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」では、「守りから攻め」、すなわち、積極的な投資による売上成長を果たしていきます。集中的な投資を行うのは、価値創造のドライバーである「ブランド」「イノベーション」「人財」の3領域です。
ブランドについては、グローバル、地域、戦略性の観点で、明確なポートフォリオを確立します。ブランドの育成、愛用者の拡充は、将来の成長の基盤であり、2023年から2025年の3カ年累計で1,000億円超のマーケティング追加投資を実行します。
ブランド・商品開発において重視するのは、「価値創造の現地化」です。お客さま一人ひとりの「美」を追求する上では、文化や風土が異なる、世界の地域ごとのイノベーションは不可欠だと考えています。欧州発のサステナビリティを体現するブランド「Ulé」の自社開発などの成功事例を踏まえ、2023年以降も、日本での基礎研究を中心としながらも、世界各国・地域の研究開発を強化し、グローバルな開発体制を一層推進します。
イノベーションという言葉は、研究開発における技術を意味するだけではありません。従来の工場に加えて、最先端のロボットやIoT技術を活用する3つの新工場が本格的に稼働し、日本の高い品質にさらに磨きをかけるとともに、生産性とコスト効率を高めていきます。
そして、先に述べたように、世界中から価値創造に最適な人財が集まる企業にすべく、今後も、人的資本への投資は継続・加速していきます。これまで取り組んできた、多様な働き方を可能とする仕組みの構築、ジョブ型人事制度を起点とした処遇・報酬制度への転換や、これを適切に運用するためのマネジメント改革などを通じて、人財採用・配置・育成のプラットフォームは充実しており、次のステップとして強化するのは、資生堂ならではの価値創造や、地域発イノベーションをけん引するリーダー人財の輩出です。2023年秋に、グローバル人財開発施設「Shiseido Future University」を、創業の地である銀座にオープンする予定です。ここは、最先端でグローバルレベルのビジネススクールの学びと、資生堂のヘリテージ、美やアートの感性を掛け合わせ、新たな時代のリーダーシップなどを身につけるユニークな施設とする計画で、今後の資生堂の発展を担う重要拠点と位置づけています。私自身が学長となり、資生堂の経営理念「PEOPLE FIRST」を推進していきます。
定量的な目標としては、まず「WIN 2023」でなしえなかった「コア営業利益率15%」を再び目指します。なぜコア営業利益率なのか、なぜ15%なのか。取締役会でも何度も議論を重ねましたが、グローバル優良企業として必要な収益性、投資と成長のサイクルを回す収益水準として、15%は重要なマイルストーンと位置づけました。経営陣全員が不退転の覚悟で目指す目標です。
達成時期は、足元の現実を直視し2027年と設定しました。2025年までの3年間で積極的な競争投資と構造転換により同12%を達成し、この道筋をつけていきます。
同時に、2030年のビジョンの実現に向け、サステナビリティの取り組みも加速します。
資生堂は、スキンケアとウェルネス領域のけん引者としてお客さまや社会から期待され、優秀な人財をひきつけるため、「社会から最も信頼されるビューティーカンパニー」を目指しています。気候変動や水資源対策、人権といった社会・環境課題に対し、中長期的なロードマップを設定して戦略的な活動を推進することはもとより、循環モデルやダイバーシティ&インクルージョン(D&I)については、ビューティー業界や日本社会の旗振り役として、役割を全うしていきます。ジェンダー・ギャップ指数で世界116位という不名誉な位置にいる日本にとっては、D&Iの推進は、極めて重要な国家課題です。「30% Club Japan」の会長および経団連ダイバーシティ推進委員長の企業として、ベストプラクティスを共有・活動促進を図るとともに、多様性と企業価値の因果関係を研究する「資生堂D&Iラボ」を発足しました。実態を伴う具体的で納得度の高いエビデンスを実証することで、日本社会全体でD&Iをより優先度の高い取り組みにしていきます。
新経営体制
新経営体制で次の150年に向けた、新たな成長への道を歩みます。
2023年1月からは、藤原憲太郎が社長 COOに就任し、私が会長 CEOとなる新経営体制がスタートしました。
経営トップのサクセッションについては、当社の最重要経営課題として、長年、指名・報酬諮問委員会にて審議してきました。具体的なサクセッションプランが始動したのは、2019年、私のCEO任期延長(2024年まで)が決定した際です。当時の役員指名諮問委員会からCEO継続の打診を受けた際、極めて客観的に最適な経営体制について議論を行い、3年間かけて検討を行い決定し、後半2年間は引継ぎ期間とすることを決めました。今回の体制変更は、このタイムラインに沿ったものです。
藤原を社長 COOに選んだ理由は、中国事業をはじめとするグローバル経営の経験と、求心力を持ち、厳しい判断も行えるリーダーとしての素養などがあげられますが、何よりも、8年にわたり直接一緒に仕事をし、資生堂の未来を託すに足る、信頼できる人財だと実感していることが最大の理由です。
今後、藤原社長 COOと並走しながら、「執行」面に責任を持つ藤原の役割範囲も2年をかけて広げていきますが、まずは短・中期の戦略、特に事業モデルの進化、そして何よりも着実な年度事業目標の達成に軸足を置いてもらうこととしています。
私は、2014年に資生堂の社長に就任する際、100年先も輝く企業の原型をつくると宣言しました。
そして今、資生堂は、昨年150周年を迎え、次の150年に向けて新たな成長への道を歩んでいます。多様な人財とステークホルダーの皆さまとともに、企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」実現に向けて挑戦を続けます。今後とも、皆さまの一層のご理解・ご支援をお願いいたします。