リスクマネジメント
リスクマネジメント体制と運用の仕組み
当社では、「あらゆるステークホルダーとの信頼関係を築き、経営戦略の実現を一層確実なものとすること」を主眼に置いてリスクマネジメントを推進しています。そのため、リスクを戦略実現に影響を与える「不確実性」と捉え、脅威だけでなく、機会も含めた概念として定義し、必要な体制を構築するとともに、積極的かつ迅速に対応策を講じています。
全社的に重要なリスク(重要リスク)の特定・評価の手法としては、下図で示すような総合的・多面的な手法(ホリスティックアプローチ)を用いています。具体的には、当社エグゼクティブオフィサー、各地域CEOおよび社外取締役のリスク認識を把握するインタビュー、また、各地域で実施した地域ごとのリスク評価、当社関連機能部門との情報交換などをもとに、リスクマネジメント部門による分析や外部有識者の知見を加えて、中期経営戦略である「SHIFT 2025 and Beyond」の達成に影響を及ぼす可能性のある重要リスクを特定しています。
こうして包括的に特定したリスクについては、リスクマネジメント部門によって、下表のように「ビジネスへの影響度」、「顕在化の可能性」、「脆弱性」を評価軸として分析するとともに、当社CEOを委員長とし、当社エグゼクティブオフィサーや各地域CEOなどをメンバーとする「Global Risk Management & Compliance Committee」や「Global Strategy Committee」にて、定期的に当社グループのリスクの評価と対応策などの審議を行います。また、リスクごとにリスクオーナーを設定し、対策の責任を明確化し、推進状況を定期的に上記Committeeおよび取締役会にてモニタリングする仕組みを構築・運用しています。
リスクの評価軸
リスク特定
エグゼクティブオフィサー、地域CEOや社外取締役等を対象にインタビューを実施し、外部有識者からの知見も得てリスクを洗い出し・分類
リスク評価
「ビジネスへの影響度」、「顕在化の可能性」、「脆弱性」の評価軸で分析しリスクレベルを算出
リスクコントロール
リスクマネジメントの計画と実行(回避・軽減・移転・保有)
リスクモニタリング
振り返りと対応策の策定・進捗状況をモニタリング
重要リスクの抽出結果
2022年のリスク特定・評価の結果、抽出された重要リスクは、「生活者・社会にかかわるリスク」、「事業基盤にかかわるリスク」、そして「その他のリスク」の3つのリスクカテゴリーに分類し対応しています。
また、特筆すべき点として、各リスクの結びつきがますます強固となり、それに伴い各リスクの対応策の相互関係は強まりつつあることが挙げられます。加えて、当社では「生活者の価値観変化」、「地政学的問題」、「優秀な人財の獲得・維持と組織風土」、「品質保証」、「情報セキュリティ・プライバシー」の5つのリスクについて、2021年と比較しリスクレベルが急上昇しているリスクとして評価し、対応を強化しています。さらに、独自の価値を有するブランドの育成や、美容機器・インナービューティーカテゴリーなどの新たな事業開発に伴い、重要度が増している「規制対応」を新たな重要リスクとして追加しています。
以下は重要リスクの分析結果と対応策の概要です。
2021年から2022年でリスクレベルが急上昇したリスク
戦略実現に向けた主要な取り組み
- プレミアムスキンビューティー領域への注力
- 自社開発・オープンイノベーション・戦略的M&Aを組み合わせた事業ポートフォリオの強化
- インナービューティー事業の開発
- クロスボーダーマーケティングの強化
取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)
- 生活者の「美」に関する価値観や化粧品・インナービューティーに対するニーズ、価格の受容性、購買タッチポイントを含む購買行動の多様化への対応が遅延する、あるいは不十分で競合に機会を奪われる可能性(脅威)
- 生活者の価値観変化に対応したマーケティング戦略により、計画以上の売上・利益につながる可能性(機会)
対応策
- お客さまを中心にオンラインだけでなく、オフライン(店頭)での魅力的なパーソナライズされた体験の提供を強化
- 生活者の価値観の多様化に対応するブランドポートフォリオ強化
- 本社を中心とした人財の多様性加速
- 他社とのオープンイノベーションによる価値・事業開発
- 市場情報に関する専門部署を設置し、生活者情報を適宜適切に入手
戦略実現に向けた主要な取り組み
- 成長ドライバーとなる地域・事業への重点投資
- 収益性向上のための事業基盤再構築
取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)
- 当社進出国において対日感情が悪化した場合に、当社商品がボイコットされる可能性(脅威)
- 当社進出国における政治的不安に起因し、事業環境が悪化する可能性(脅威)
- 世界的な物価上昇による原材料の価格高騰を商品やサービスの価格に転嫁した結果、当社の商品に対する生活者の購買意欲が減退し、収益性が悪化する可能性(脅威)
- 当社進出国の政治状況の不安定化、各国間の外交関係の緊迫化、紛争の発生により、事業環境が悪化した結果、当社グループの商品の生産、供給および販売体制に悪影響を及ぼす可能性(脅威)
対応策
- プレミアムスキンビューティー領域の成長加速
- 各地域の売上バランスの適正化
- 危機発生時においても柔軟かつ継続的な供給を可能とするグローバルサプライネットワークの強化
- 有事を想定した全社的対応事項の洗い出し・検討
戦略実現に向けた主要な取り組み
- 「PEOPLE FIRST」の経営理念のもと、イノベーションを起こし、新たな価値を創造する人財を育成・獲得
- 「OUR PRINCIPLES(TRUST 8)」として、全社員が持つべき8つの心構えを設定
取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)
- 優秀な人財の獲得・維持が計画どおり進捗せず経営計画を実現する人財が不足する可能性(脅威)
- 優秀な人財の獲得・維持により、グローバル市場での競争優位を確保できる可能性(機会)
- 業務特性に合わせた働き方改革の推進により、組織の生産性が更に高まる可能性(機会)
対応策
- 社員とのコミュニケーションや対話を通じた、透明性の高いリーダーシップとガバナンスが根付いた組織風土の継続的な醸成
- 「リモートワーク」と「オフィスワーク」を組み合わせた、最大の成果を出すための働き方(資生堂ハイブリッドワークスタイル)や、副業許可など、柔軟性・多様性を認める職場の整備と社員の健康管理の推進
- グローバル人事データベースの導入、パフォーマンスマネジメントの統一化を通じ、適材適所で優秀な人財を登用
- 「ジョブ型人事制度」など、貢献度に対応した職務等級制度・処遇報酬制度の導入による人事評価の透明性確保と社員のモチベーション向上
- 資生堂インタラクティブビューティー(株)を通じ、デジタル事業モデルへの転換・構築、IT・デジタルの能力強化を加速
- グローバルリーダーシッププログラムや女性リーダー育成プログラム等の開催、競争力を持つ報酬水準の設定やグローバルモビリティなど、トータルリワードの提供により人財のリテンションを強化
戦略実現に向けた主要な取り組み
- 安心・安全な商品の提供は、全戦略の基盤となる当社の重要な価値であり、競争優位の源泉であるとの認識のもと、商品の設計から生産、販売まで高レベルで品質保証・管理を徹底
取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)
- 全社的に品質保証・管理に対する当社の高い基準の適用が不十分となり、商品のライフサイクル全般にわたり、安心かつ安全な商品を生活者へ提供し続けることができない可能性(脅威)
- 日本の高い品質水準と同等の商品を日本国外でも生産し、世界中で高品質な商品を生活者へ提供することで、特に日本国外でのブランドイメージが高まり、より多くの生活者の支持を得ることができる可能性(機会)
対応策
- 「品質保証の基本指針」、「グローバル品質ポリシー・ガイダンス」を定めて独自の厳しい品質基準やさまざまな安全性保証の基準を設定し、新商品の設計、開発、原材料の管理、生産、出荷それぞれの段階で、これら基準に適合していることを確認
- 品質保証におけるガバナンス・リスクアセスメント・業務手順の強化を目的とするプロジェクトを設置し、品質体制を強化
- お客さま相談窓口に寄せられたお客さまからのお申し出に関する情報を集約し、全世界で共有・活用できるシステムの導入
- お客さま相談窓口や、万が一品質リスクが発生した場合の社内対応体制を整備し、定期的にシミュレーション訓練を実施
戦略実現に向けた主要な取り組み
- 生活者ニーズや競争環境の激化に対応するため、情報データの活用やEコマースの強化など、デジタルマーケティングのグローバルでの強化
- お客さまへの斬新な体験価値やサービスの提供および共創に向け、機微情報を含むよりパーソナルなデータをお客さまの同意を得て取得および利活用の実施
- 場所や時間問わず生産性高く業務を行う働き方「資生堂ハイブリッドワークスタイル」への移行
- イノベーションを生み出すために、外部機関やスタートアップ等の外部パートナーとのより一層の連携や共創推進
取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)
- サイバー攻撃によるシステム停止やお客さま情報の漏洩により、生産・販売等の業務の停滞、お客さまやお取引先さまへの損害賠償責任や当社への信頼低下が発生する可能性(脅威)
- 場所や時間を問わない働き方やより一層の外部パートナーとの連携、共創において、重要な情報データへのアクセスポイントが増えていく中、その管理・運用が不十分な場合の情報データ漏洩リスクが高まってしまう可能性(脅威)
- 各国・地域のデータプライバシー関連法令への対応が遅れ、または不適切な対応をしてしまうことにより、法令違反が生じ、罰金支払や当社への信頼低下が発生する可能性(脅威)
- データプライバシーに関する社会の感度を把握せず、データプライバシーに関するお客さま等の懸念や期待に適切に対応できないことにより、当社への信頼低下やビジネス機会を逸失する可能性(脅威)
- 上記脅威に対して適切に対応することで、お客さま等が安心して個人データを当社に預けることができることを通じて、ビジネス目標の達成に貢献する可能性(機会)
対応策
- 情報セキュリティに関する専門部署を中心とするグローバルでの連携体制とガバナンスを強化
- データプライバシーに関する責任者を配置し、グローバルの連携体制を再整備および強化
- データプライバシーの保護に関する情報開示・通知を推進。関連する当局とのコミュニケーションを推進
- 内外の環境変化を踏まえた情報セキュリティ/データプライバシー関連規程の改訂を継続的に実施
- 保有する個人データを特定し、安全管理を推進。社員に対しては、情報セキュリティ啓発を継続的に実施
- 日々高度化・多様化する外部からのサイバー攻撃に対する中長期的視点での対応体制強化(防御・検知・対応・復旧)、具体的にはフィルタリングやPC端末、クラウド利用に関するセキュリティ強化などを実施
- 増大する重要な情報データと多様化するデータアクセスポイントをより一層しっかりと管理・運用するために、外部の専門家も含めグローバルでのセキュリティオペレーションセンター(SOC)の構築と監視の強化
新たに追加したリスク
戦略実現に向けた主要な取り組み
- 本社が中心となり、新しい環境に関する法規制や社会動向について情報収集・リスク分析を実施し、海外を含む関連部門と情報を共有化し、イノベーティブな商品やサービスを円滑に発売する体制を強化
取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)
- さまざまな国・地域における規制強化に準拠した商品開発を適切に行うことができなければ、当社の技術や化粧品が規制の対象となり、研究開発が停滞する、もしくは製造・販売が禁止され、事業計画に多大な影響がおよび、また社会や生活者からの信頼を失う可能性(脅威)
対応策
- 本社内に各国の薬事などの規制動向のモニタリングや戦略を策定する部門を設置
- ISO14001に基づいて環境法規制などの遵守評価を実施し、法令遵守を徹底