RESEARCH

昇格審査より早い段階でできること
―女性リーダー候補を育む日常の
マネジメント

2026年3月(日本)

多くの企業で、女性管理職比率の向上に向けた取り組みが進められています。数値目標を設定したり、研修や制度整備を行ったりと、さまざまな施策が検討・実施されています。
それでもなお、「思うように進まない」「手応えがない」という声が依然として聞かれます。
本来、ジェンダーの違いは、一人ひとりの可能性を制限する理由になるものではありません。男女を問わず、同じように力を発揮できている状態が健全な姿だと言えるでしょう。しかし、日本においては男性が管理職を務めることがいまだ多いのが現実です。
本当に問うべきは、その人が積み重ねた経験や求められる期待とそのアウトプットではないかと、資生堂DE&Iラボは考えます。
本稿では、女性管理職が増えにくい背景を、昇格審査や推薦の場面だけでなく、そのもっと前にある日常のマネジメントプロセスから捉え直していきます。

INDEX

  1. 01 「居場所はある」――それでも
    解消されない差
  2. 02 差が生まれていたのは
    「独自性」だった
  3. 03 推薦に至るまでに、上司はどの
    ように関わっているのか
  4. 04 日々のマネジメントでできること

01

「居場所はある」――それでも
解消されない差

DE&Iを考える上で重要なのは、多様性を「存在させること」そのものではなく、それぞれが力を発揮できている状態を目指すことです。ジェンダーにおいても、インクルージョンが進んでいる状態とは、男女を問わず、それぞれが同じように力を発揮できていることだと捉えることができます。

では、職場においてその状態は実現しているでしょうか。
資生堂DE&Iラボでは、前述の考えをもとに、 WGI(Work Group Inclusion)を用いた分析を行ってきました。(WGIについて詳しく解説した記事はこちら)
WGIは、組織のインクルージョンを 「帰属意識」(ここに居てよい/受け入れられていると感じられる)と、「独自性」(自分ならではの視点や判断を発揮できていると感じられる)という二つの感覚で捉える指標です。

このうち、「帰属意識」については、男女でほぼ差が見られませんでした。
女性が職場で疎外されている、居場所を感じられていない、という状況は大きな課題としては表れていなかったのです。
つまり、「居心地の悪さ」だけでは、現在見られるギャップを十分に説明できない可能性が見えてきました。

02

差が生まれていたのは
「独自性」だった

一方で、もう一つの軸である「独自性」では、男女差の傾向が確認されました。
独自性とは、「自分ならではの視点を職場に提供できている」「異なる意見をためらいなく表明できている」といった、組織への参画の実感を指します。このスコアで特に注目すべき点は、男性の方が相対的に高く、女性の方が低い傾向です。

ここで重要なのは、独自性のスコアが測っているのは能力や適性そのものではない、という点です。
あくまで「“独自の視点を発揮できている”という本人の実感」であり、声の大きさや自己主張の強さを示すものでもありません。自分なりの判断や意見を組織の中で表明し、それが受け止められている感覚と言ってもよいかもしれません。この点を踏まえると、任されているか、判断を試す機会があるかといった、環境や経験のあり方が大きく影響すると考えられます。
居場所はある。けれども、自分らしい視点や判断を十分に発揮できていない。排除や孤立とは異なる、もう一つの状態―。
WGIの二軸によって見えてきたこの状態は、女性リーダーが生まれにくい背景を考える上で、重要な示唆を投げかけるものです。

では、独自性はどのように育まれるのでしょうか。
管理職と非管理職を比較すると、男女を問わず、管理職の方が独自性スコアは高い傾向にあります。
管理職経験が独自性を育てるのか、独自性の高い人が管理職に選ばれるのか―その因果関係は一概には言えません。
因果の特定は今後の課題ですが、管理職経験や、管理職候補として期待をかけられるプロセスが、独自性の形成と何らかの形で結びついている可能性は高いと考えられます。
そこで私たちは、推薦に至るまでの日常のマネジメント―上司が部下にどのような機会与え、どのような期待をかけているか―に着目しました。管理職候補の育成において、独自性の差につながる要因になっているのではないか、と考えたからです。

03

推薦に至るまでに、上司はどの
ように
関わっているのか

エンゲージメント調査を詳細に分析すると、独自性の差をもたらす要素として、「経験機会」に関わる項目が浮かび上がってきました。
特に、女性管理職の少ない領域では、以下の三点において男女で顕著な差が確認されました。
• リスクを伴う挑戦の機会が与えられているか
• 将来への明確な期待をかけられているか
• キャリアの具体的な道筋が見えているか

実際に、これら三つのスコアが低い組織の女性ほど、独自性のスコアも低いという関連が見られました。リスクを伴う挑戦、将来への期待、キャリアの道筋といった経験こそが、自分なりの判断や視点を試し、磨いていく土壌になっている―独自性は個人の資質だけでなく、日々の「経験機会」のあり方によって育まれるものだと言えそうです。

では、女性にとって、「経験機会」を得にくくしているものとは何でしょうか。
一因として考えられるのが、日常のマネジメントにおける「善意の保護」です。
たとえば、難易度の高い仕事をアサインする際に、女性部下には「無理していない? 一緒にやろうか」と声をかける一方で、男性部下には「期待しているから任せる」と伝える。
トラブル対応の場面でも、女性部下に対して「代わりに説明しておくよ」と先回りして引きとる一方、男性部下には「自分で説明して乗り越えろ」と任せる。
こうした違いは、多くの場合、女性部下に対する接し方の迷いや配慮から生まれているのかもしれません。
トラブル対応や難易度の高い案件を上司が引きとると、部下はリスクを伴う挑戦の機会を得にくくなります。また、「無理をさせない」という配慮だったにもかかわらず、本人にとっては「期待されていない」と受け取られ、将来への期待やキャリアの見通しが見えにくくなることがあります。
こうして、挑戦の機会、期待、展望という三つの要素が欠けていくと、自分なりの判断を試し、意味づけしながら磨いている実感が得にくくなります。その結果、独自性を培う「経験機会」が少しずつ失われていくこともあるでしょう。

管理職候補の推薦そのものは、公平に行われているはずです。
しかし、その推薦に至るまでのプロセス―どのような仕事を任され、どのような期待をかけられ、どのような対話を重ねてきたか―に差があるとすれば、その結果を「公平な選考の結果」と言い切ることは難しいでしょう。
推薦は、最後の一手にすぎません。差は、そのもっと前に生まれている可能性があります。
日々の業務で生まれる小さな差は、多くの場合、明確な意図ではなく、上司の“先回りの配慮”や無意識の判断から積み重なっていきます。大切なのは、性別で扱いを変えるのでも、全員に同じ対応をするのでもなく、本人の意向や状況、その人らしさを対話で確かめながら判断する姿勢です。
では、そうした日常のマネジメントをどのように見直していけるのでしょうか。

04

日々のマネジメントでできること

ここからは、部下を持つ立場の方に向けて、日々のマネジメントの中でできる工夫を整理します。

アサインや声かけの判断に、無意識の前提が入り込んでいないか振り返る 「女性だから難しいかもしれない」「育児中だから負担をかけられない」。
こうした前提が、気づかぬうちに判断に入り込むことがあります。
性別を起点に判断していないか、一度立ち止まり確認してみることをおすすめします。

配慮する前に、本人の意向を引き出す 周囲が先回りして調整してしまうと、本人の選択肢や経験の機会を奪ってしまうことがあります。まずは「どうしたい?」と聞く対話から始めることが大切です。

期待を明確に言葉にする 期待はプレッシャーではなく、方向性を示す道しるべになります。
「あなたにはここを任せたい」と言葉ではっきり求められることで、本人が未来を描きやすくなります。

挑戦機会を善意で巻き取らない 挑戦やリスクを含む仕事は、独自性を育む貴重な機会です。
ただし、丸投げではなく、伴走しながら話すことが重要です。
「困ったら一緒に考えるから、まずやってみて」という姿勢が、挑戦の勇気を支えます。

キャリアについて定期的に対話する キャリア観や意欲は人によって違い、日々変わっていくでしょう。
「今後どうしていきたい?」という対話を日常に組み込むことで、個人の意思を中心にしたマネジメントが可能になります。

重要なのは、「こうだろう」と決めつけないことです。
性別ではなく、一人ひとりとの対話を通し最適な関わり方を選ぶこと——その積み重ねが将来の推薦につながり、機会の差を縮めていきます。

配慮することと、期待をかけることは矛盾することではありません。
むしろ、挑戦の機会を渡し、判断を任せ、成長に伴走することが、インクルーシブなマネジメントの本質と言えるのかもしれません。
もちろん、本人の意識や行動、制度や仕組みの設計も重要な要素です。
しかし本稿では、これらすべての前段にあり、日々の積み重ねとして差が生まれやすい「マネジメント」に焦点を当ててきました。

今回の分析から得られた重要な示唆は、女性リーダーの少なさが、昇格審査や推薦の瞬間だけの問題ではない、という点です。
その前段階―日常のマネジメント、挑戦機会の与え方、期待の伝え方、キャリア対話の質―において、男女差をもたらす可能性があります。
推薦を公平にするためには、推薦以前を問い直す必要があるでしょう。
日常の声かけ、アサインメントの判断、期待の伝え方―その一つひとつの積み重ねが、一人ひとりの独自性をふくらませ、次世代のリーダーを育む一助になるはずです。

統計分析:山口慎太郎(東京大学)、奥山陽子(ウプサラ大学)、津組圭佑(一橋大学)、大島侑真(東京大学)、山本紗英(東京大学)