RESEARCH
ダイバーシティの先へ、
インクルージョンの処方箋
Case1 | イノベーションにつながる
ミーティングのあり方を考える
ダイバーシティの先へ、
インクルージョンの処方箋
イノベーションの創出には、多様な人財で組織が
構成されているだけでなく、
さまざまな価値観やバックグラウンドにとらわれる
ことなく、自分の意見や考え方を
率直かつ十分に共有できる環境であることが
重要であると考えています。
“ヒーロープロダクト”を次々と世に送り出し、
リブランディングを成功させた
資生堂のマーケティングチームを調べると、
多様なバックグラウンドを持つメンバーの
意見やアイデアを
公平に受け入れる
職場環境のあり方が見えてきました。
この章では、そこからインクルーシブな
環境を創出するヒントを探ります。
INDEX
01
ダイバーシティは
ゴールではない
今回焦点をあてるマーケティング組織「グローバルプレミアムブランド本部」は 中途入社や外国籍のメンバーが多く所属し、 さまざまな考えやバックグラウンドを持つ人たちが集まっています。
中途率 | 外国籍率 | |
---|---|---|
グローバルプレミアムブランド本部 | 47% | 13% |
マーケティング組織全体 | 26% | 5% |
中途入社や外国籍の人が占める割合が高く多様な人財が集まる組織において、エンゲージメントが低い組織は一定数見受けられます。これは、ダイバーシティの実現がすぐさまインクルージョンの達成につながるわけではないことを示唆していると考えられます。
一方、この組織で働くメンバーへのヒアリングによると、多様な人財が同じ部門にいることを認識しているのみならず、インクルーシブな環境を実感している人が多くを占めることがわかりました。具体的な声とデータを見ていきましょう。
02
メンバーの声とデータで探る
インクルーシブな職場環境
働く中で、メンバーがチーム内のインクルーシブな環境を実感していたグローバルプレミアムブランド本部。メンバーにそう感じさせる要素はどこにあるのでしょうか。
実際に働くメンバーに話を聞いてみました。
—— 社内の別のマーケティングチームからグローバルプレミアムブランド本部のエリクシールグローバルブランドユニットに異動されてきたそうですが、チームの働き方に対してどのように感じていますか?
—— 子育て中などで帰宅時間が決まっているメンバーも一定数いることから、多忙なマーケティング組織では限られた時間内にさまざまな業務を完遂する必要があると思います。どのような工夫が採用されているのでしょうか。
—— 確かに、あらかじめ必要な打ち合わせを事前に把握できると、一部のメンバーが会議に参加できなくなることも減る。情報のキャッチアップに差が生まれることも回避できそうです。
さらに働きかたの工夫としてもう1点あると聞いています。教えていただけますか?
—— 「プレリード」のシステムは効率的なあり方である一方、“各メンバーが事前に資料を読み込んでおく”というアクションは、中途社員や外国籍、最近チームに入ったメンバーにとっても同じ前提知識で議論に臨める利点があるわけですね。知識量でとっさに追いつけずに発言できなくなってしまう、ということも防げるかもしれないですね。
この「プレリード」制を定めた冨田さんは、ルールを定めるにあたり以下のように考えていたと述べています。
会議で自分の意見をためらいなく話すための工夫は心理的側面にフォーカスされがちです。しかし、グローバルプレミアムブランド本部は会議運営の仕組み作りにより効率性のみならず、インクルージョンまでも実現していることがメンバーの話から見えてきました。
勤務ログから
メンバーの話から、限られた時間で効率的に業務をこなす工夫がインクルーシブな組織運営に寄与していることが見えてきました。なかでも、さまざまな観点にプラスに働いているように見えたのは「会議の設定」です。
会議の多さが生産性の低下につながる、ということが昨今議論されますが、意外なことにグローバルプレミアムブランド本部の会議時間が特段少ないわけではありませんでした。
一方、チームで開催している会議時間のうち、「定期的に設定された会議時間」が占める割合は41.3%と、他平均と比較しても非常に高いことがわかりました。
あらかじめ定まっている会議が1週間で行われる会議の4割強を占めている事実はありますが、自分自身の仕事スケジュールを自律的に組み立てられるという裁量が、家庭や育児やプライベートの使い方などさまざまなバックグラウンドを許容する結果につながっていました。働き方の効率化は、ときにインクルージョンの推進につながる側面もあるというインスピレーションを提示しているのかもしれません。
03
インクルージョンを、
イノベーションの出発点に
働き方改革が進む一方で、あらためて会議の意義に向き合うことが大切です。今回の事例により、効率的な働き方のための会議の質を高める工夫が、インクルーシブな環境づくりに寄与していることがわかってきたと思います。
アジェンダが決まっている事項は定期的に実施する会議としてあらかじめ定めることで、子育て世代の人でも安心して業務に向き合える状態を作っていました。また、中途入社であれ外国籍のメンバーであれ社歴の長い人であれ、同じ条件で議論に参加するための「プレリード」の導入は、個々の考え方や意見を自信と安心をもってチームに共有できるインクルーシブな空気の醸成につながっていました。
インクルージョンの実現には、ただ多様な人財を集めるだけでは不十分であり、組織全体でその多様性を活かすための具体的な取り組みが必要です。グローバルプレミアムブランド本部の成功事例は、他の組織にとっても貴重なヒントとなるでしょう。