RESEARCH

⼥性活躍推進から
「ジェンダー平等」へ(後編)
~ジェンダーバイアスと
向きあうために~

⼥性活躍推進から
「ジェンダー平等」へ(後編)
~ジェンダーバイアスと
向きあうために~

⼥性活躍につながるさまざまな施策を
推進してきた資⽣堂。
それでも依然として⼥性活躍に遅れをとる組織があるのは事実です。
前編では、部下のスキル評価を⾏う上司にジェンダーバイアスがあるという
仮説を
紹介しました。(前編はこちら)
ジェンダー平等を実現する第⼀歩はジェンダー
バイアスを認め、向き合うこと。
そんな仮説から後編では組織の「バイアス」に
着⽬した検証を⾏いました。

INDEX

  1. 01 組織のバイアスを可視化する
  2. 02 ジェンダー平等の実現に向けたバイアスの検証
  3. 03 組織のバイアスと向きあうために

01

組織のバイアスを可視化する

ジェンダー平等を促し、誰もが公平に才能を発揮できる環境をもたらすのに
バイアスのありかを把握しておくことは⾮常に重要です。
そこでまず、社内組織の“バイアスを可視化”することを試みました。
ジェンダーバイアスの測定には、「SESRA-S(平等主義的性役割態度スケール短縮版)」と
「ジェンダーIAT(性別に関する潜在連合テスト)」を採⽤します。

SESRA-S(平等主義的性役割態度スケール短縮版)

SESRA-Sは、15の質問に答えることで、意識的な男女平等度を評価します。具体的には、性別に基づく固定観念(たとえば、「女性は家事をするべき」「男性は仕事をするべき」といった考え方)に対する態度を測ります。SESRA-Sのスコアが高い場合、性別による固定観念をあまり持っておらず、男女平等の考え方を支持していることを、一方、スコアが低い場合、性別に基づいた伝統的な役割分担を支持していることを示します。

ジェンダーIAT(性別に関する潜在連合テスト)

ジェンダーIATから導かれるDスコアは、対象(例:男性、⼥性)と属性(例:キャリア、家族)の関連性の強さを⽰します。近年よく⽿にする「アンコンシャスバイアス」はこのDスコアに相当します。
テストはコンピューターを使って⾏われ、画⾯に表⽰された「男性」や「⼥性」といった性別に関連する単語や「仕事」や「家族」といった⾔葉を直感的に素早く分類するというものです。無意識のうちにある考え⽅が強いと、それに関連するものを瞬時に認識できます。たとえば、「男性は仕事」という考えが強い⼈は、男性と仕事を関連づける設問には素早く回答しますが、その⼈にとって関連の弱い⾔葉の組み合わせに対しては回答に時間を要します。反応に要する時間の差が⼤きいほど、無意識のバイアスが強いという評価が導かれるわけです。

上記のように、これら2つは異なる⼼的事象を測るスコアであり、組織で起こりうる“バイアスを可視化”するために両者を計測することは⾮常に有効であると考えています。
具体的には、熟考を要する判断においてその⼈のバイアスはSESRA-Sに表れ、とっさのコメントなど瞬間的な判断におけるバイアスの傾向はジェンダーIATの結果に表れやすくなります。

02

ジェンダー平等の実現に向けた
バイアスの検証

検証1:男女にバイアスの差はあるのか?

まずは男女のバイアスの違いに着目しました。

SESRA-Sスコア(意識的な男⼥平等度)、Dスコア(アンコンシャスバイアス)ともに⼥性が統計的に有意に⾼い結果が得られました。

⼥性のSESRA-Sスコア(意識的な男⼥平等度)の⾼さは、⼥性にとってジェンダー平等はより「⾃分ごと」であり、平等を意識できる⼼理的作⽤がより強く働いていると考えることができます。⼀⽅、男性にとっては、ジェンダー平等が「⾃分ごと」になりにくく、ジェンダー平等を意識しづらくなっていると考えることもできます。
また、⼥性のDスコア(アンコンシャスバイアス)が⾼かったのは、⼥性の⽅が男性よりも、知らず知らずのうちに「⼥性はこうあるべき、男性はこうあるべき」という思い込みを強く刷り込まれていると解釈できます。この無意識の刷り込みは、他⼈にかける⽇々の⾔葉にふと表れると同時に⾃分⾃⾝にも影響し、⾃⼰を縛ってしまう可能性もあります。

不思議に感じるかもしれませんが、これら2つの指標は今回のように相反することがあります。⼥性の⽅が男⼥平等意識が⾼く、同時にアンコンシャスバイアスも⾼いという結果は、⼥性は男性に⽐べてジェンダー平等を強く意識している⼀⽅で、内⾯では「⼥性らしさ」「男性らしさ」に縛られやすくなっている、板ばさみの現状を表しているといえるかもしれません。
今回の実証結果は過去に実施された別の研究機関による考察とも⼀致しており、信頼性の⾼い検証になったと考えています。

検証2:組織のジェンダー平等はバイアスとどのように関係する?

組織において「⼥性が活躍できているか」はバイアスとどのような関係があるのでしょうか。
「⼥性管理職⽐率」の⾼い組織を⼥性活躍が進んでいる組織ととらえ、各スコアとの関係を調べました。(図2)

SESRA-Sスコア(意識的な男⼥平等度)は、⼥性管理職⽐率の低い組織では低く、組織の⼥性管理職⽐率が上がるほど⾼い結果が得られました。
Dスコア(アンコンシャスバイアス)が⾼かったのは、⼥性管理職⽐率の低い組織(A)と⾼い組織(D)でした。

SESRA-Sスコア(意識的な男⼥平等度)の傾向から、男女平等の考えの浸透と、組織内で活躍している女性が多いことは一定の関係性があることが示唆されます。女性活躍の推進によりジェンダー平等の価値観が形成されたとも考えられますし、ジェンダー平等の価値観を浸透させることが女性活躍に影響を及ぼす、と捉えることもできます。
⼀⽅、Dスコア(アンコンシャスバイアス)の傾向からは、組織で活躍しているリーダーのジェンダーバランスに偏りがあると、アンコンシャスバイアスが⾼い傾向がみられました。つまり、組織でジェンダー平等を⽬指すには、ただ「⼥性活躍に注⼒」するのではなく、「組織の同質性を解消(男⼥⽐率を均衡に近づけること)」することが重要であると考えられます。

さて、前編で紹介した「⼥性活躍に遅れを取っている組織(=同質性の⾼い組織)」は今回の組織A(意識的な男⼥平等度が低く、アンコンシャスバイアスも⾼い組織)に該当します。他組織と⽐較しても組織Aはバイアスが相対的に強く、ジェンダー平等の考えを形成するためには、組織の同質性を解消することが鍵になると考えられます。

検証3:男女の評価差は上司のバイアスが原因なのか?

前編の研究で、「⼥性活躍に遅れを取っている組織 (=組織A)」では、中級グレード*の社員について「男性の⽅が⾼いスキル評価を得ている」傾向が⾼いことが表れていました。加えて、今回の研究において、組織Aでは男⼥平等的な価値観が他組織より低く、アンコンシャスバイアスは⾼い傾向がみられました。(*資⽣堂の等級グレードには初級・中級・上級があります。)
では、「⼥性活躍に遅れをとっている組織」の「上司のバイアス」はどうなっているのでしょうか。組織Aの各指標を、部下を持ち評価を⾏う「管理職」と、評価される側の「⾮管理職」に分けて検証しました。

SESRA-S(意識的な男⼥平等度)、Dスコア(アンコンシャスバイアス)ともに、部下を持つ管理職と⾮管理職では統計的に有意な差はありませんでした。

組織Aにおいて男⼥のスキル評価に差があることから、この組織の上司については男⼥平等の価値観に乏しい可能性や強いアンコンシャスバイアスを持つ懸念が考えられました。しかし、そうした傾向は今回の分析からは⽀持されませんでした。それよりも、統計上の有意差はないものの、⾮管理職の⽅が男⼥平等の価値観が相対的に低い傾向が⾒られました。これは、組織を構成する個⼈それぞれが持つ「⼥性/男性はかくあるべきだ」という価値観や思い込みによるジェンダーバイアスや、それにより醸成された組織の⽂化や価値観が、男⼥のスキル評価の差を⽣みだす要因になっている可能性も考えられます。したがって、上司のバイアスが問題であると決めつけず、組織全体の課題として捉える必要がありそうです。

03

組織のバイアスと
向きあうために

今回の検証で⾒えてきたことは、組織の同質性とバイアスの関係です。⼥性管理職⽐率が極端に低い、または⾼い組織では、アンコンシャスバイアスが強い傾向が⾒られました。これは、ジェンダーバランスの偏りが組織のバイアスを強める可能性を⽰唆していました。組織のリーダーの多様性を⾼めることが、バイアス軽減につながる重要な⼀歩であると考えられます。
また、当初想定していた「上司が強いジェンダーバイアスをもつ」という仮説が⽀持されなかったことは、バイアスが特定の層や個⼈の問題ではなく、組織全体の課題であることを⽰しています。バイアスに向きあう必要性は、組織のあらゆる層にあるといえるでしょう。

これらの知⾒を踏まえ、たとえば以下のようなアプローチが効果的だと考えられます。
1. 組織のジェンダーバランスの均衡を図る:
ジェンダーバランスの均衡を図り、組織のリーダーの同質性を解消し、多様な視点を取り⼊れる。
2. 全社的なアプローチ:
特定の層だけに向けてではなく、組織の⼀⼈ひとりがバイアスに向き合う機会を得ることで、偏った決めつけや当たり前を疑い、異なる考えに気づき受容できる⽂化を醸成する。
3. 継続的な検証:
定期的に組織のバイアスを測定し、結果に基づく対応策を⾒定める。

これらのアプローチは、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の概念と深く結びついています。多様性を尊重し(ダイバーシティ)、公平な機会を提供し(エクイティ)、異なる視点を受け⼊れる(インクルージョン)ことで、組織は真のジェンダー平等に向け前進できるはずです。
重要なのは、⼀過性の取り組みではなく、組織の⽂化として定着させることです。バイアスと向きあうことは、継続的な取り組みを要すること。常に検証と改善を繰り返す必要があるでしょう。 容易ではありませんが、公平で⽣産的な職場環境を作り出すうえで不可⽋なステップです。真のジェンダー平等は、すべての従業員が⾃分の潜在能⼒を最⼤限に発揮できると信じられる組織の実現につながります。資⽣堂DE&Iラボはこれからも引き続き、組織変⾰につながる調査を続けていきます。

統計分析:⼭⼝慎太郎(東京⼤学)、奥⼭陽⼦(ウプサラ⼤学)、哥丸連太朗(東京⼤学)、津組圭佑(⼀橋⼤学)、⼤島侑真(東京⼤学)