2025年3月、資生堂DE&Iラボは初の公開シンポジウムを開催しました。女性活躍を含むDE&I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)について、知見を提供するだけでなく、多角的な視点で共に考える機会を提供することを目的とし、異なるバックグランドを持つ3名の登壇者によるパネルディスカッションをオンライン配信しました。
登壇者
山口慎太郎さん(東京大学大学院経済学研究科 教授)
林孝裕さん(dentsu DEI innovations 代表)
山本真希さん(資生堂 DE&I戦略推進部 部長)
(左から 山本さん、山口さん、林さん)
当日は、各登壇者が研究や調査に基づく知見を紹介し、ジェンダー平等を進める上での障壁や未来に向けた可能性について、資生堂の実践例を交えた対話が展開されました。
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登壇者からの主なメッセージ
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山口さんは、「そもそもDE&Iは、バックグラウンドに関わらず人は平等に尊重されるべきという人権問題である」という前提に触れ、アメリカの経済成長の研究事例を交えながら、「優れた才能をもつ一人ひとりの能力を活かすことが、企業におけるイノベーションの源泉になり得る」と経済成長の側面からDE&Iの重要性を述べました。
また、ジェンダー平等が進まない要因について、ある製造業企業における男女間賃金格差に関する最新の研究知見を解説しました。出産を経験した女性の賃金格差が時間制約による短期的な影響にとどまらず、労働時間が回復した後にも持続することが明らかとなり、この背景には、入社初期において時間制約のある社員の昇進が遅れがちであるという、人事評価が労働時間に依存している点を指摘しました。
さらに、資生堂DE&Iラボの共同研究者として、社内データの分析結果や取り組みの試行錯誤を広く開示することが、社会や他企業へのヒントにつながる意義も強調しました。
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山本さんは、資生堂にとってDE&Iが企業ミッション“BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD”を実現するための経営戦略であると説明し、具体的な事例を複数紹介しました。ジェンダーバイアスに関する社内調査結果1からは、男女平等意識やジェンダーバイアスの男女差、女性管理職比率との関係について触れました。また、パフォーマンスマネジメントという評価制度の可能性2については、公正性だけでなく、社員が自分の潜在能力を発揮し、自分らしく仕事をできているという実感にもつながる可能性を紹介しました。時間に縛られない評価に関するプロセスやマネジメントスタイルは、「あとから身につけられるポータブルスキルであり、資生堂に限らず重要なものになる」と、マネジメント層にとっての利点も強調しました。
さらに、インポスター症候群のようにチャレンジをしにくいと感じる女性が多い状況に対して、出産・育児期の女性社員には、「あなたの何々が必要だから、戻ってくるのを待っています」といった具体的な期待を言語化して伝える、上司や周囲とのコミュニケーションがやる気を引き出すことにつながるといった事例を挙げました。
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林さんは、ディスカッションの中で、ジェンダー課題チャート 3,4からの知見として、家事分担の不平等さや余暇時間の男女差を挙げ、「家事育児を委ねられがちな女性は複数の時計を見ながら生活しているのに対し、男性は仕事を中心とした一つの時計を見ていることが多い」と喩え、生活全般における具体例を通じた課題を提起しました。また、「転勤を命じられるのは男性の方が多い」といった実態を踏まえ、社会的な慣習の影響に男性自身も悩んでいる側面があることを紹介し、ジェンダー課題は女性だけの問題でも、個人の意識だけの問題でもない、みんなで取り組むべき課題であるとしました。
今回のシンポジウムでは、複数の研究知見や実践例に基づくディスカッションが行われ、結果として「女性活躍」という言葉自体が少なかったことも特徴となり、最終的にさまざまなキーワードが挙がりました。
終盤では、女性活躍という言葉がなくなる未来に向けて、一歩ずつ歩みを進める重要性に通じる以下のようなコメントがありました。
「DE&Iはすぐに結果が出るものではないが、さまざまな社会課題の解決につながる。10年後の会社の成長のため、コストではなく投資として考えてほしい。DE&Iは決して面倒なものではなく、個人の幸福にもつながるだろう。」(山口さん)
「女性活躍の状態を見ることは、健康診断のように、“どこに組織としての課題があるか”“どのような状態なのか”を明らかにする入口になる。」(林さん)
「女性活躍をきっかけとして、DE&Iが定着していくことが社会にとって重要になってくる。」(山本さん)
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編集後記
本シンポジウムに参加くださった方々の事後アンケートでは、「データに基づく事例に対する納得感」「各エピソードに対する共感」「資生堂DE&Iラボがさまざまな知見を公開していることへの驚きや、継続的な知見公開への期待」など、多くのお声が寄せられました。ご参加いただいた方々へ改めて感謝をお伝えするとともに、何らかのヒントを得られる機会となりましたら幸いです。
女性活躍という言葉がなくなる未来へ貢献していくことを目指し、DE&Iラボはこれからもさまざまな取り組みを進めていきます。