気候関連リスクと機会の評価

気候関連リスクと機会の評価

2021年には、気候に関する最新の科学的知見をまとめたIPCC第6次評価報告書(第一作業部会)が発行され、10月から11月にかけて開催されたCOP26では、産業革命以前と比べた地球の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えることを合意したグラスゴー気候パクトが採択されました。今や、気候変動は環境問題であるだけではなく、自然災害の激甚化やCO₂排出に関わる規制の強化、消費者の環境意識の高まりなどさまざまな側面において中長期にわたり経営戦略や財務計画に影響を与える現実的なリスクと捉えられています。
このような背景から2020年に資生堂は気候変動緩和に向けて、Scope 1およびScope 2のCO₂排出量について2026年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を開示し、気候関連のリスクと機会について分析するとともに、全社対応アクションへの組み込みを進めています。

ガバナンス

資生堂は、サステナビリティに関連する課題について経営陣が集中的に議論し意思決定を行う「Sustainability Committee」を設置しています。同コミッティは代表取締役 社長 CEOを含む、経営戦略、R&D、サプライネットワーク、広報、およびブランドホルダーなど各領域のエグゼクティブオフィサーで構成され、グループ全体のサステナビリティに関する戦略や方針に加え、TCFD開示や人権対応アクションなど具体的活動計画に関する意思決定や、中長期目標の進捗をモニタリングしています。
また、業務執行における重要案件に関する決裁が必要な場合は「Global Strategy Committee」や取締役会にも諮り、重ねて審議しています。2021年度に開催した取締役会では、気候変動問題の重要性に鑑みて、ステークホルダー(社員、お客さま、取引先、株主、社会・地球)からの期待を反映した取り組みの重要性が指摘されました。

戦略(シナリオ分析)

1.5/2℃および4℃の気温上昇を想定し、IPCCが示したRCPとSSPシナリオに沿ってリスクと機会について分析を実施しました。移行リスクについては、脱炭素社会への移行に伴う政策、規制、技術、市場、消費者意識の変化による要因を、物理的リスクについては、気温上昇に伴う洪水の発生や気象条件など急性/慢性的な変化による物理的影響について、1.5/2℃および4℃シナリオにおける影響を分析しました。なお、2030年時点においては、炭素税によるコスト増のリスクがもっとも事業への影響が大きいと考えられ、導入される国や地域の数により約100万~720万USドル規模の財務影響が発生する可能性を予測しています。
一方、機会に関しては、1.5/2℃シナリオにおいて、消費者の環境意識の高まりに伴い、サステナビリティに対応したブランドや製品への支持が高まると予想されます。4℃シナリオにおいては、気温上昇に対応した製品の販売機会が拡大すると予想されます。イノベーションによる新たなソリューションの開発により、サステナブルな製品を提供していくことで、リスクの緩和と新たな機会の創出を目指しています。

リスクマネジメント

資生堂は2021年に、中長期の事業戦略の実現に影響を及ぼす可能性のあるリスクを総合的・多面的な手法を用いて抽出し、特定しました。その中には、「環境・気候変動」「自然災害・人的災害」といったサステナビリティ領域のリスクも含まれています。気候関連リスクも、事業継続や戦略に影響を及ぼす要因の1つとして科学的または社会経済的なデータに基づいて分析され、気候変動や自然災害に関わるリスクとして全社のリスクマネジメントに統合されます。 特定されたリスクは、重要度に応じて、「Global Risk Management & Compliance Committee」や「Global Strategy Committee」、取締役会にて対応策などが審議される体制となっています。

指標と目標

資生堂は、CO₂排出量削減を目標として設定し、また定期的に気候変動に伴う状況をモニタリングし、対応策を講じることで、リスクの緩和に貢献しています。特にScope 1およびScope 2のCO₂排出量については2026年までにカーボンニュートラルを達成することを目標として設定しました。
また、化粧品容器に関してはサーキュラーエコノミーに賛同し、2025年までに100%サステナブルな容器への切替えを達成するという目標を掲げてシングルユースプラスチックとCO₂排出量の削減に取り組むことで、1.5/2℃シナリオにおける消費者意識と関心の変化にともなう市場リスクの緩和と機会創出を目指しています。
一方、4℃シナリオにおける渇水リスクの管理を目的として、当社事業所における水消費量を指標として選定し、2026年までに2014年比で40%削減することを目標として設定しました。その他の物理的リスクについても、長期的なリスクマネジメントの視点から適切な管理指標を検討していきます。

気候関連の情報開示

資生堂は、気候変動問題が事業成長や社会の持続性に与える影響の重大性からTCFDへの賛同を表明し、TCFDフレームワークに沿った情報開示を行っています。来るべき低炭素、そして脱炭素社会に向け、資生堂の気候関連の目標、領域、取り組みを移行計画としてまとめました。気候関連の情報に関しては、資生堂企業情報サイト、統合レポート、サステナビリティレポートとともに、CDPへの回答を通じて開示しています。資生堂の開示するCO₂排出量(Scope 1・Scope 2・Scope 3)については、独立した第三者認証機関であるSGSジャパンによる検証を受け、透明性ある開示に努めています。また、私たちの気候変動に関する目標はSBTiにて認証を受け、そして、再生可能電力の導入に関してはRE100へ加盟しています。

リスクと機会のシナリオ分析

リスク
機会
移行リスク
(主に1.5/2℃)
・炭素税によるコスト増●
・燃料価格の高騰
・シングルユースプラスチック使用製品の販売機会喪失●
・エネルギー効率の向上
・クリーンビューティーなどのエシカルな製品の販売機会拡大
物理的リスク
(主に4℃)
急性
・自然災害による生産活動の停止●
・自然災害による物流機能の断絶
・環境にやさしい製品
・気候対応型ソリューションの開発の販売機会拡大
慢性
・降雨や気象の変化による、原材料の調達コストの増加●
・水不足による生産活動の停止●

●のついている要因は定量分析も実施