MESSAGE

R&D戦略

研究員全員のDNAとして、
「DYNAMIC HARMONY」を創出し、
未来に紡いでいきます。

エグゼクティブオフィサー
常務
チーフブランドイノベーションオフィサー
チーフテクノロジーオフィサー

岡部 義昭

ビューティーイノベーション

エグゼクティブオフィサーメッセージ

価値創造の戦略
BEAUTY
INNOVATION

ブランドイノベーション改革の方向性

R&D(研究開発)は資生堂のイノベーション創出の基盤であり、価値創造ドライバーです。
100年以上の研究開発の歴史の中で、安全・安心を第一義としながら、肌を健やかに若々しく保ち、美しく彩るためのビューティーケアを追求してきました。2014年以降は研究開発への投資をさらに拡充してきており、2020年までの中長期戦略「VISION 2020」の早期達成にも貢献できたと考えています。
一方で、資生堂は研究開発の成果を十分にブランド成長に結び付けることができていないという課題がありました。こうした中で2021年1月にチーフブランドイノベーションオフィサー(CBIO)に就任した私の役割は、お客さまに感動や驚きを提供し、世の中にイノベーションを起こし続け、お客さま視点でブランドに貢献するR&Dを創り上げていくことです。資生堂の優れた研究成果を商品に活かし、お客さまに届けること。そして、研究所をイノベーションを起こし続けることができる体制にしていくこと。この2つが私の注力事項です。

ブランドイノベーション改革に向けて、私はまず、資生堂のR&Dの強みや競合との差別化要因を導き出し、それを研究員全員の共通言語とすることで、R&Dが目指すべき方向性の一本化を目指しました。歴史を徹底的に学び、研究員だけでなく、営業、ビューティーコンサルタント、そして外部の方々にもヒアリングを行いました。こうした分析・検証から導き出されたコンセプトが「DYNAMIC HARMONY」です。
資生堂R&Dが有する独自のアプローチは、1つの価値では決して定義できません。東洋と西洋、根本治癒と対症療法、漢方と施術、心と体――。一見、相反するように見える価値や両立するのが難しい価値を巧みに融合し、ダイナミックなハーモニーを生み出すことこそ、資生堂ならではの唯一無二の考え方でした。

この理念のもと、今後のR&Dは、5つの研究アプローチを柱に据え、強みの可視化と外部との共有を図りながら、経営資源を集中して投下することでイノベーション創出を加速させていきます。また、これら5つの研究アプローチはこれまでの資生堂が積み上げてきた資産の1つであり、「DYNAMIC HARMONY」の考えに終わりはありません。研究員全員のDNAとして、さらなる「DYNAMIC HARMONY」を創出し、資生堂の未来へと紡いでいきます。

WIN 2023 and BeyondにおけるR&D戦略

「WIN 2023 and Beyond」では、「スキンビューティーカンパニー」実現に向けた研究活動を加速していきます。
化粧品を中心とするスキンケア関連カテゴリーを盤石なものとしながら、サプリメント等の食品をはじめとするインナービューティーカテゴリーによって多面的に価値を創出していくことを目指しています。
R&Dでは、こうしたカテゴリーの価値創造を果たすべく、「不変の肌悩み追求」、「Game Change(既存技術に取って代わる大型イノベーション)」、「新領域への挑戦」などといった6つの研究指針と、それらを支える基盤研究という研究アプローチを設定しました。研究全体を支える基盤研究のさらなる強化が生命線になるものと捉えています。

さらに、「DYNAMIC HARMONY」を定義したことで、外部との融合も加速できると考えています。2021年11月、慶應義塾大学の冨田勝教授と、脳科学者の中野信子先生とアドバイザリー契約を締結しました。すでに推進している、オープンイノベーションプログラム「fibona」や30年以上にわたるアメリカCBRCとの共同研究をはじめ、国内外の研究機関との共同研究も強化します。

慶應義塾大学 冨田勝 教授
脳科学者 中野信子 先生

主な進捗:3つのイノベーション事例

「DYNAMIC HARMONY」の理念に基づき、続々と研究プロジェクトが進展しています。
ここでは、未来の「美」創出に向けて、環境との共生、新規カテゴリー、新規技術といった3つの視点でイノベーション事例を紹介します。

サンデュアルケア技術 ~逆転の発想で、豊かな共生を~

1つ目は、「Premium/Sustainability」の事例となる、環境との共生技術です。
自然環境の変化に伴い私たちの肌がさらされる環境も大きく変化してきています。資生堂は、紫外線、温度、湿度など、さまざまな環境要素から肌を守るだけでなく、ポジティブに調和・共生し、それらの力を美に変えていく「環境共生技術」の開発に取り組むこととしました。
こうした考えのもと開発に成功したのが、これまで肌に対するダメージから、「美に対する脅威」とされてきた紫外線をカットするとともに、太陽の光を美容効果のある光に変換する「サンデュアルケア技術」です。光合成に着想を得た本研究は、藻類由来のスピルリナプラテンシスエキスと天然鉱物由来の蛍光酸化亜鉛が効率よく紫外線を可視光(美肌光)に変換する効果を発見。輝きを増すなど、美肌を維持することに成功しました。この技術を応用することで、太陽光のもと、お客さまがより一層アクティブで自由に日々の生活を楽しむことができる未来を目指します。

「サンデュアルケア技術」を採用した商品を、2022年2月「アネッサ」、5月「SHISEIDO」から発売します。

たるみ・しわ研究の進化

2つ目は、肌の内外からアプローチする「Inside/Outside」の事例として、「たるみ・しわ」研究の進化です。
資生堂は、多くの人々を悩ませる、顔の老化現象を解き明かすべく、たるみの定義や評価方法を確立するとともに、皮膚を超高精細に解析するデジタル3Dスキン™技術の開発や、肌をつなぎとめる構造「アンカー™」、加齢に伴う肌の空洞化現象、細胞のネットワークと、続々と新たな発見をしました。これらはIFSCC受賞が示すように世界的にも優れた発見であり、「たるみ」という新たな化粧領域の創出と、本研究における資生堂の絶対的な地位の確立につながりました。そして、2021年には、たるみの本質にさらに迫るため、内部構造を含めた皮膚変形の過程を、超高精細にコンピューター上に再現する皮膚解析技術「4Dデジタルスキン™」を開発しました。資生堂はこの技術を用いて、たるみやしわの根源的な原因を解明し、対応手段の開発を加速させていきます。

電子皮膚「4Dデジタルスキン™」
皮膚の構造とその動きを、コンピューター上にデジタル的に再構築した電子皮膚™。
ここでは皮膚を変形した際に、各種構造がどの程度変形したかをカラーで表示

「Second Skin」技術の進化

3つ目は、「Functionality/Japan Quality」の事例、Second Skinです。
私たちがこの技術で実現したい夢は「肌の可能性、美のポテンシャルを広げ、皆が幸せに生きられる世界」を創ることです。2018年にOlivo Laboratories社のSecond Skin事業買収以降、圧倒的な効果はもちろん、誰でも簡単に使えるユーザビリティや使い心地などの品質にもこだわり、挑戦を続けてきました。
目袋の補正、ほうれい線の補正、全顔への使用、全身への応用といった将来のロードマップを描く中、2021年10月には目袋の補正にフォーカスした商品を日本で先行発売し、多くのお客さまから高い効果を実感できるとの声を頂戴するなど、大変好評を得ています。今回新たに「頬のたるみ(ほうれい線・マリオネットライン)の即時形状補正効果」を実現したことに加え、「連用によるたるみ・しわ改善効果」、「薬剤浸透促進効果」など、メイクアップ効果にとどまらない価値を創出しました。今後も、肌悩みの即時カバー機能や紫外線防御機能の付与、使用部位の拡大など、肌への効果の進化に加え、コンタクトレンズのように日常的に気軽に使える使いやすさとの両立を目指して、これまでにない新たな価値の追求を続けていきます。

今後の展望

「WIN 2023 and Beyond」の実現に向け、R&Dでは戦略、人財、業務プロセスにおいて、それぞれアクションを定めています。
戦略アクションとしては、資生堂R&Dの理念である「DYNAMIC HARMONY」のもと、新たな研究成果の創出、新領域の開拓、革新的商品の開発を加速させ、イノベーションを創出し続けていきます。それに加え、資生堂の優れた研究成果を商品に活かし、お客さまにお届けするために、技術PRも積極的に行っていきます。そのために、研究全体を支える基盤研究の強化、体内と肌の関係の理解を深める外部アライアンスの強化、市場・生活者動向を把握する活動の強化、さらには近年重要となってきている循環型モノづくりの実現に向けた活動を強化していきます。

人財アクションとしては、研究員の意識改革と育成を進めます。イノベーションを起こし、変革をもたらすのは人の力です。「PEOPLE FIRST」という考えのもと、多様なバックグラウンドを持つ人財の一人ひとりが、個の力を発揮できる環境を構築していきます。2021年1月のR&D体制刷新以降、「DYNAMIC HARMONY」の浸透に向けた研究員との直接対話の機会創出や定期的なアンケートの実施により、研究員のイノベーション創出に向けた意識の高まりを感じ始めています。今後も研究員の意識を継続的に把握するとともに、研究員との直接対話の機会を大切にしながら、楽しく前向きで努力が報われる組織風土を醸成していきます。

業務プロセスアクションとしては、ブランドホルダー、工場、物流、外部パートナーと連携した業務プロセスの再構築に取り組んでいます。各業務の棚卸しと、注力領域への選択と集中を進める中、処方開発でのAI活用により、延べ時間年間約7,000時間分の業務削減をKPIとして設定しています。また、業務フローや会議システムも見直し、省人化やリモートワーク下での業務効率化を実現する活動も推進しています。現在は効率化・生産性向上が主な活動となっていますが、今後はその時間をイノベーション創出に振り向け、価値を生み出していくことが重要です。すべての業務スピードを高め、R&D活動の効率性とブランドホルダーへの貢献度を向上させていきます。

今後の社会が多様性・複雑性を増すからこそ、お客さまの期待を超え、ワクワクするような付加価値をもつ商品やサービスを提供し続けていく必要があります。資生堂のR&Dには、そのためのイノベーションを生み出す力があります。
中長期視点でブランドイノベーション改革を続け、サイエンスの力やイノベーションを通じて、世の中に “WOW” を創出し続けるチームをつくりあげていきます。

2022年4月

2021年11月17日資生堂R&D戦略発表会

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